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あずきとおはぎと月の女王  作者: 皇 瑠奈
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第8話 初めてのキャンプ

【登場人物】

野咲(のざき)あずき……12歳。小学6年生。日本と英国のハーフ。

おはぎ……黒猫。あずきの飼い猫。

リリィ……シムラクルムの森の案内人。

 ラクの背中に揺られ走ること数時間、途中何度か休憩を挟み、空が赤く色づき

 始めた頃、森の中を走っていた渓流(けいりゅう)にぶつかり、そこでようやく本日の行程が

 終了となった。


 この川は、ゴーレムのいた川の上流になるのだろうか。

 あずきはお尻を撫でながらラクから降りた。

 お尻の下に空気のクッションを敷いたとはいえ、長時間揺られると、さすがに

 お尻が痛い。

 おはぎもラクから飛び降りて、伸びをする。


「今日はここでキャンプだ。ゴーレムの(コア)は高価だからね。

 森を抜けるまでの食事や宿泊費もサービスとしといてあげるよ」


 リリィは、口は悪いが、仕事はキチンとこなすタイプらしい。


 リリィは平らな土地を選んで、そこにテキパキとテントを組み立てていった。

 渓流を前に火が焚かれ、煙が立ち昇る。


 簡易炉に鍋がセットされ、そこで煮込まれる肉や野菜。

 同時にご飯が炊かれる。

 あっという間に、食欲を誘ういい匂いがしてくる。

 ……カレー??


「さ、(うつわ)を出しな」


 返ってきた皿には、予想通り、カレーが盛ってあった。


「ネコちゃん、あんたにはコレだ」


 皿の上にササミが乗っている。


 お腹が空いていたあずきとおはぎは、一斉に食べ始める。

 美味しい。一心不乱に食べる。

 それぞれがお代わりをして、お腹がいっぱいになった頃、あずきは思い切って

 聞いてみた。


「この料理、何ですか?」

「あんた、カレーも食べたことないのかい?」


 リリィが呆れたように眼を見張る。


「あ、そうじゃなくって……ん~~、なんていうのかな。

 ここは月なのに、地球と変わらないものがあるっていうのが不思議で」

「あぁなるほど。確かに地球から来たばかりのあんたには不思議に思うことかも

 しれないが、地球と月の交流が始まって既に800年だ。

 その間に持ち込まれたものは数多(あまた)あるし、現在も持ち込まれて続けている。

 魔法使いの中には地球と月の貿易で財を成した者もいるし、逆に、月兎族(げっとぞく)

 人間に化けてシレっと地球で暮らしていたりもするんだ。

 地球の食材なんざ、普通にこっちで売ってるし、多少型遅れではあるが、

 車や列車だって走ってる。

 地球にあるもので月に無いものなんか、ほとんど無いさ」


 あずきはビックリした。

 こんなこと地球でしゃべったら、大混乱に陥るだろう。

 あ、でも、そこまでいくと、さすがに誰も信じないのかも。


 リリィはとっとと話を切り上げ、川に近付いた。


「サクスム モーベレ(岩よ、動け)」


 川べりの砂利や石が続々と宙に浮かび、そこに、人が2、3人は横たわれそうな

 大穴が開いた。

 川から水が流れ込む。


「アグニ(火よ)」


 続いて呪文を唱えると、湯気が立ち始める。

 風呂だ。

 露天風呂が出来ちゃった。


「疲れたろ。入んな」


 リリィはそれだけ言って、ラクの世話をしに行ってしまった。


 あずきは周りを見回した。

 おはぎとリリィ以外、誰もいない。

 いい加減、汗をかいて気持ち悪くなっていたし、旅の恥は搔き捨てだ。

 えい、入っちゃえ。

 服をポンポンっとその場に脱いで、露天風呂にそっと片足を入れる。

 温かい。

 ザボン。

 一気に肩まで湯に浸かる。

 生き返る。


「おはぎ、おいで」

「ぼく、お風呂きら~い」


 寄ってこない。むぅ。


 あずきは川をながめた。

 真っ暗闇の中、川に焚火の光が写っている。

 遠くで何か、動物の鳴き声が聞こえる。


 焚火の炎の揺れと川の流れが不思議に合って、幻想的な夜景を作り出している。

 いい眺めだ。

 湯に浸かったまま、体を撫でる。

 石鹸は無いけど、体をこするだけで十分綺麗になれる気がする。


「温まってるかい?」

「きゃあ!!!!!!」


 後ろから急に声を掛けられて思わず悲鳴を出す。


「女同士で悲鳴をあげるってなんだい、失礼しちゃうね」


 リリィが顔をしかめている。


「だって、いきなり声を掛けるんだもん」


 あずきは顔だけ風呂から出して抗議する。


「まぁ何だっていいやね。ちょっと失礼するよ」


 リリィがあずきの脱ぎ散らかした服に杖を向ける。


「あんた、女の子なんだから、もうちょっとしっかりしな」


 杖の動きに合わせて服が宙を舞う。


「ちょ、何してるんですか!!」


 あずきは抗議の声を挙げるが、恥ずかしくて湯から出られない。


「カリダーアクア サルタティオ(湯よ、踊れ)」


 いつの間にか宙に浮いていた水球に放り込まれたあずきの服は、

 水球の中で激しく動き回っている。

 ……もしかしてわたしの服、洗濯されてる??

 

 あずきは落ち着きを取り戻し、じっと服の動きを観察する。

 恥ずかしさより、知識欲が勝った。

 高度な魔法だ。

 わざと、水にランダムな動きをさせている。

 どうやってるんだろう。


「ベントゥス カリドゥマエイレム(風よ、温かくなれ)」


 宙に浮いていた水球は消え失せ、見る見る間に服が乾いていく。

 乾燥機能付きの洗濯機ですか??

 あずきは心の中で突っ込んだ。


 乾燥を終えた衣類があずきの前にゆっくり降りてくる。

 あずきは湯の中からリリィを見上げた。


「あんたみたいな幼い女の子が、着の身着のままでいるんじゃないよ」


 そう言ってまたリリィはテントの方に去って行った。

 あずきはそっと湯から出た。ご丁寧にパジャマまで洗濯済みだ。

 ぶっきらぼうで当たりはキツめだが、意外と世話好きな、いい人なのかも

 しれない。

 パジャマに袖を通し、テントのところまで戻る。

 おはぎがついてくる。


「あの!!」


 焚火に火をくべていたリリィの前に立つ。

 リリィが顔を上げる。


「洗濯、ありがとうございました」


 頭を下げるあずきを見て、リリィは口の端でフっと笑った。


「料金の内さ。気にしなさんな」


 リリィはすぐ火に向き直り、焚火(たきび)の世話に戻った。


「おやすみなさい!!」


 あずきは、あてがわれたテントに入った。

 一人用ではあるが、十分に足を伸ばせる。

 あずきはバッグから寝袋を取り出した。

 サマンサから貰ったものだ。

 素早く寝袋に潜り込む。

 おはぎが来るが、寝袋に入り込むのはさすがに無理だと思ったのか、

 隣で丸くなった。


 あずきは寝袋の中で考えた。

 ここに来てもう二日経った。

 普段出歩くのが市内くらいしかなかったあずきには、どのくらい距離が

 稼げたのか分からない。

 月宮殿まで何日掛かるだろう。

 考えるも、疲れのせいでまぶたが重くなる。

 起きていられない。おやすみなさい……。




 いい匂いがする。

 何かが焼ける匂い。

 あずきはモソモソと起き出し、テントから出た。

 既に日が昇っている。

 今日もいい天気だ。

 匂いのする方を見る。

 焚火の前でリリィがフライパンを動かしている。


「起きたかい。そこに座んな」


 うながされ座ったあずきの前に皿が出される。

 きつね色に焼けたトーストの上に分厚いハムが。

 その上に半熟タマゴの目玉焼きが。

 更にその上にとろっとろのチーズが乗っている。

 ほんわか湯気まで立ち、見るからに美味しそうだ。


「わぁ♪いただきま~~す!!」


 あずきはトーストにかぶりついた。

 半熟タマゴが舌の上でとろける。


「うっま!!」


 あずきのひざ元で、おはぎも何か夢中になって食べている。


「慌てなくっていい。落ち着いて食べな」


 さすがのリリィも苦笑する。


「食べたら出発するよ。昼前には森を抜けられる。今のうちにしっかり

 食べておくんだよ」

「はい!!」

「はい!!」


 あずきとおはぎは、揃って返事した。


魔法描写は書いててとっても楽しいです。

組み合わせは無限大。

イメージ次第でどんなことでも出来るのが、この世界の魔法です。

リリィの魔法を見て、あずきの魔法が複雑化していきます。

どんな魔法少女が出来上がるか。

次回もお楽しみに♪

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