第4話 初心者の館での説明は飛ばしちゃダメ
【登場人物】
野咲あずき……12歳。小学6年生。日本と英国のハーフ。
おはぎ……黒猫。あずきの飼い猫。
「いい加減起きなってば。いつまで寝てるんだよ」
ほっぺをペシペシ叩く黒い塊。
柔らかくて、滑らかで、長くて、黒い……尻尾。
あずきはガバっと起き上がった。
見知らぬ部屋。
カントリー風の内装の部屋だ。
映画で見た西部開拓時代の部屋っぽい。
昨夜何があったっけと考えながら、一人用のベッドで上半身だけ起こした
あずきの前に、黒猫が鎮座する。
「おはよう」
黒猫がすまし顔で挨拶する。
「夢じゃなかった」
思わず頭を抱える。
「夢?まだ寝惚けてんの?もう朝だよ。急いで着替えて」
枕元に服が置いてある。
開いてみる。
薄い格子の入った白のブラウス。
茶色の縦縞ベストに縦縞ロングスカート。
リボンタイとベレーにコート。
貴族の紋章のようなエンブレムの入ったショルダーバッグも置いてある。
昨夜お祖母ちゃんが言ってた通り。至れり尽くせりだ。
全体に茶味掛かっているが悪くはない。
私立のお嬢様学校の制服という感じだ。
これを着ろってことよね、多分……。
改めて周囲を見回す。
壁掛け時計の針は七時を指している。
窓から射す光の明るさから察するに、朝の七時ということで間違いないだろう。
急いで服を着替え、部屋の隅に置いてあった姿見の前に立つ。
スカートをつまんでクルっと一周。よし。
おばあちゃんに渡された杖をショルダーバッグに入れ、しっかり背負う。
ドアを開けると目の前に、階下へと下りる階段があった。
意を決して階段を下りる。
下に着いてみると、そこは十畳程の広さの部屋だった。
中央に四人がけの小さなテーブルが一つ。
それを囲むように椅子が四脚。
テーブルには、朝ごはんの乗ったお皿が何枚か置いてある。
さすがに夏だからか、暖炉に火は入ってなかったが、内装はオシャレな
ペンションといった感じで居心地は良さげだ。
朝御飯の用意をしていた女性がこちらに気付き、手招きする。
「いらっしゃい。まずは腹ごしらえなさい」
ママと同年代だろうか。
女性はベージュのエプロンワンピースを着て頭には紺のバンダナキャップを
被っていた。
その、いかにもカントリー風な着こなしが部屋の様子とマッチしていた。
あずきは誘われるまま、椅子に腰掛けた。
クロワッサンにオムレツ、カリカリベーコンに生野菜サラダ、バジルを散らした
コーンスープ。ヨーグルトにミルク。
作りたてなのか、料理からは湯気が立ち上っている。
さながらホテルの朝食だ。
「いただきます」
早速食べ始める。
美味しい。
「足りなかったらおかわりもあるから、慌てなくていいわよ」
女性が微笑む。
30分後、あずきが朝食を食べ終わり、テーブルの上の食器を片付け終わって
一息ついたのを見計らって、女性はあずきの向かい側の席に座った。
「何が起こってるのか正確に把握出来てないと思うので、今から説明するわね。
あぁでもまずは自己紹介が必要だわね。わたしはサマンサ。
ここ、初心者の館の管理人。あなたみたいな魔法使い見習いに、これからの
旅の流れを説明するのがお仕事なの」
「じゃ、あなたの名前を教えてくれる?」
サマンサが続ける。
「わたしは野咲あずきです。日本人。12歳。一応日本と英国のハーフです」
「ハーフ?ご両親のお名前、教えて貰えるかな?」
「えっと、野咲圭介に野咲エミリーです」
「野咲……ママの名前がエミリーなのね?ママの旧姓、知ってる?」
「勿論。エミリー=バロウスです」
「バロウズ?そっか、バロウズ家の人だったのね、あずきちゃんは」
「ご存じなんですか?母の実家のこと」
「まぁね。いくつかある名門魔法使いの家の一つよ」
あずきは全く知らなかった。
でも仕方ない。
自分に魔法使いの血がながれていると知ったのも、つい昨日のことだもの。
「じゃ、そろそろ本題に入りましょうか。まずはこれを見て貰える?」
サマンサがバンダナを取ると、そこに現れたのは、耳だった。
頭頂部あたりから直上に伸びる二本の長い耳。
見た目、ウサギの耳そっくり。
あずきは唖然となった。
「ウサギの耳っぽい?でもこれは耳じゃないのよ。耳はあなた同様、顔の両脇に
付いてるわ」
サマンサはそう言って髪を掻き上げた。
本当だ。確かに普通の耳が付いている。
じゃ、その、いかにもなウサギ耳は?
東京ワンダーランド的なコスプレ??
「これは月の魔力を受信する感覚器官。いわゆる、魔力器官ってやつ。
ここ、月の原住民、月兎族には、みんなこのような感覚器官が
付いているの」
今、重要なことをサラッと言われた気がするんですけど。
あずきはしっかり理解しようと、先ほどの言葉を必死に頭の中で反芻する。
あずきはそっと手を挙げた。
「えっと。ごめんなさい、わたしは昨夜、祖父母の家の近くの湖に開いたゲートに
飛び込んでここに来たんです。ロケットに乗った覚えはないんですけど……。
それに今、普通にわたし、呼吸出来てるし」
「はいはいはい、みんな同じような反応するのよね。慣れちゃったわよ。
でも現実を把握しないと先には進めません」
サマンサは学校の先生のようにあずきをいなし、続ける。
「歴史の話をしましょう。地球の暦で12世紀頃、地球で魔女狩りが起こったわ。
魔女狩り、知ってるでしょ?」
「聞いたことは」
あずきの回答にサマンサがうなずく。
「いわゆる、教会主導の異端迫害よね。いつだって揉め事の種は、宗教が
引き起こすわ。
迫害は苛烈を極めたわ。何の罪も無い人たちが、時には、魔法使いですらない
一般の人々が、宗教の名の下、沢山殺された。
それを憂いた地球の、とある強大な魔法使いがゲートを作り月と地球を結んだ。
そうして月に辿り着いた彼は、月兎族の女王に謁見し、
虐殺されつつある魔法使いたちを助けてくれるよう懇願したの。
かの魔法使いと女王との間にどんな盟約が結ばれたのか、詳しい内容は
わたしたち一般の月兎族には知らされてないけれど、女王はそれを了承し、
ゲートが閉じるまでの半年間に、魔法使いたちを何万人と月に移住させたわ。
殺された人数に比べ、助かった人数は微々たるものかもしれないけれど、
それでもわずかに生き残った人々は、ここ月で月兎族に混じって生き延びた。
そして18世紀。
魔女狩りも風化し、地上全体で文明開化の一大ムーブメントが起きた頃、
地球で能力を隠し生き延びた魔法使いたちと、月に移住して生き延びた
魔法使いたちによって再びゲートが開かれ、そこからまた地球と月の交流が
再開し今に至った、というわけ。
さて、かの大魔法使い、『賢者エディオン』は、あぁ、もう亡くなってるわよ、
流石に。
その賢者があなたたちに関する盟約を交わしていたの。
この辺りはわたしたち一般の月兎族にも知らされているポピュラーな話。
曰く『地上にはこれから産業の波が押し寄せる。自然との共存から機械との
共存へと生活はシフトしていくだろう。
その結果、地球の魔法使いの魔力器官が退化していくと想定される。
それは時代の流れというもので仕方のないことだが、魔法を満足に制御出来ない
者が魔力を暴走させてしまう危険性が出てくる。
そこで、新人魔法使いを月の女王の下に行かせ、目覚めたばかりの魔力器官を
調整してもらうこととする』ですって。
さて。ここまで聞いて、自分がこれから何をすべきなのか理解出来た?」
サマンサが尋ねる。
「……月の女王に会いに行く、ですか?」
「ザッツライト!!そう、女王の居城、ここから500キロ先にある月宮殿が
あなたのゴール!!」
「500キロぉ??」
思わずあずきは天を仰いだ。
次の更新は年内か年明けか。
とりあえず、楽しみにお待ちください♪




