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あずきとおはぎと月の女王  作者: 皇 瑠奈
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第3話 旅立ちはいつだって突然に

【登場人物】

野咲(のざき)あずき……12歳。小学6年生。日本の英国のハーフ。

おはぎ……黒猫。あずきの飼い猫。

 ちょうど日が切り替わる直前、深夜0時まであとほんのわずかといった時間。

 あずきはなぜか目が覚めた。

 レースのカーテン越しではあるが、窓から月明りが差し込んでいるので、

 電気が点いていなくても部屋の中は十分明るい。


 ここどこだっけ……。

 あずきは寝たまま、ゆっくりと天井から周囲に視線を移した。


 優雅な曲線を持つ脚が特徴の白のローテーブルと皮のソファ。

 あずきの寝ていたベッドの隣には、更に三床、ベッドが置いてある。

 フレームは白で、曲線が特徴的な意匠を持ち、その上に低反発マットレスが、

 更にその上にバラ柄の羽布団が乗っている。家具調度は全て英国から取り寄せた

 ものだそうだ。


 そう、ここは山梨の祖父母の家で、あずきたち一家が泊りにきたときにいつも

 使用させてもらっている客間だ。


 普段、小学校含め、自宅の周囲、せいぜい10キロメートル圏内でしか

 行動することのないあずきにとって、祖父母の家までの一人旅はかなり

 疲れる行為だった。

 祖父母に会うまで緊張の塊だった。


 疲れのせいで八時には寝たけど、かえって睡眠のサイクルが崩れてしまって、

 こんな変な時間に起きてしまったのかもしれない。


 階下の音に耳を澄ます。

 何も聞こえてこない。

 さしもの祖父母もこの時間となると、すっかり寝入っているようだ。


 あずきはベッドの上で上半身を起こし、窓を見た。

 観音開きの小洒落た窓だ。

 そこに取り付けられたレースのカーテンが微かに揺れている。


 あずきは寝起きのぼんやりとした頭で考えた。

 何でカーテンが揺れてるんだろう。


 そっと立ち上がり窓に近寄った。

 窓はほんの10センチ程開いていた。


 あれ?わたし、窓開けて寝たっけ……。

 あずきは窓を閉めながら外を見た。


 家からほんの100メートル程離れた位置にある湖に月が写っている。

 綺麗な満月だ。

 湖と満月。何かの絵みたいだ。


 しばし月を見て、再びベッドに潜り込もうとしたとき、ふと視線の端に

 何かが引っ掛かった。


 桟橋の先端。

 湖に掛かった桟橋の先に何かの影がある。

 小さな影。人ではない。

 黒くて小さくて丸くって・・・何かに似て・・・おはぎ!?


 慌てて、さっきまで寝ていたベッドを見る。

 寝るとき、確かにベッドに潜り込んできたはずのおはぎが居ない。

 ベッドの下を覗き込む。


「おはぎ?おはぎ、いないの??」

 

 祖父母に聞こえぬよう静かに呼んでみるが返事は無い。

 血が逆流し、心臓が早鐘のように打つ。

 一気に眠気が吹っ飛んだ。


 とにかく確認しに行かなくっちゃ。

 今までおはぎが泳いでいるところなんて見たことがない。

 もしあれがおはぎだったとして、場合によっては、溺れることだってあり得る。


 着ていたピンクのパジャマの上に、自宅から持ってきた白のカーディガンを

 羽織る。

 高原の夜は、夏でも少し冷える。


 祖父母の寝室は1階の一番奥の部屋だ。

 祖父母を起こさぬよう、そっと階段を下り、裸足に靴を履いて、静かに玄関の

 鍵を開ける。

 音がしないよう、ゆっくり丁寧に扉を閉める。


「おはぎ?おはぎなの?そこに居るのは」


 あずきは、桟橋の先端まで一気に駆け、月明りに照らされた黒い塊に

 声を掛ける。

 黒い塊が振り返る。

 目鼻立ち、体つき、間違いなくおはぎだ。

 あずきの口から安堵の息が漏れる。


「びっくりしたよぉ、おはぎ。いつの間にか居なくなってるんだもの。さ、戻ろ」


 おはぎを抱き抱えようとあずきが近寄ったとき、思いもよらぬ声が聞こえた。


「待ってたよ、あずきちゃん」


 一瞬であずきの動きが止まる。

 自分たちの他に誰かいる??

 周囲を確認しなくちゃいけないのに、恐怖で体が動かない。


「ぼくだよ、ぼく。おはぎだよ」


 声がクスっと笑う。

 あずきの視線がゆっくり、真っ直ぐおはぎに向かう。

 有り得ない。猫は人語を喋らない。


「まぁ、ビックリするのも無理は無い。ぼくも喋れることに気付いたのはつい

 さっきさ。

 多分、土地によるところが大きいんだろうね。ここはマナがふんだんに湧き

 出てるもの。

 かなり特殊な土地だよ、ここ。東京じゃ無理さ。

 あそこはマナがとぼしいからね。

 おじいちゃんたちがここに居を構えたのは偶然とは思えない。

 多分、いや、まず間違いなく何か知ってるよ、二人とも。

 ……あ~~、あずきちゃん?……聞いてる?」


 おはぎが小首をかしげる。確かに猫がしゃべってる。


「おはぎ、あんたいったい……」

 認識が追い付かない。


「あずきちゃん、カードの隠されたメッセージ読んだろ?あのカード、微かに

 魔力が込められていた。

 ボクは猫だからね。魔法使いの眷属の資格を持つボクら猫族は、魔力に敏感

 なんだ。

 そしてあずきちゃんは、猫と会話が出来るくらい、体の隅々まで魔力が行き渡り

 始めている。

 おそらくこれは、あずきちゃんに流れるバロウズ家の、魔法使いの血が覚醒した

 って証さ。それはイコール、旅立ちの時が来たってことなんだ」 


「魔法使い?旅立ちの時??あんた、何言ってるの?」


「お?家の明かりが点いた。おじいちゃんとおばあちゃんが来るよ。

 おじいちゃんたち、あずきちゃんの変化に気付いたみたいだね。

 そら後ろ、振り返ってごらん」


 あずきは振り返った。

 家の明かりが煌々と点き、月明りの中、祖父母が家からゆっくり歩いてくる。


 祖父母とも、ニットキルトのパジャマを着ている。色違いだ。

 金髪老夫婦が着るには少し野暮ったい印象がある。

 ここはシルクのパジャマに長めのガウンでしょ。


 祖父母は、あずきの前に立つと、そろってため息をついた。

 夜間の外出をとがめられると思って、あずきは首を竦めた。

 だっておはぎが外に出ちゃったんだもん。

 無事連れ帰るのは飼い主の務めでしょ?

 ところが、祖母の口から出たのは、予想だにしていない言葉であった。


「あなた達の会話、テレパシーで聞こえていたわ。そう。おはぎの言ってたことは

 概ね合っているわ。

 ねぇ、あずきちゃん。

 お祖母ちゃんが毎年カードを送ってたの、気付いていた?」

 

 言われて何となく思い出す。

 確かにお盆に年末年始、ゴールデンウィークと、連休がある前に、必ずといって

 いいほど、お祖母ちゃんから手紙が届いていた。

 そして確かにそこに、カードが入っていた気がする。

 でも特に変わったことは書いてなかったと思う。


 隣に立つ祖父が神妙な顔つきであずきを見る。

 祖母が話を続ける。


「おばあちゃんね、毎年、通常のメッセージに隠して、裏のメッセージを何種類か

 書いてたの。

 あのカード、魔力に応じて読める内容が変わるの。

 『月の女王~』のメッセージは、その一番深いメッセージ。

 あれが読めたってことは、バロウズの血が覚醒した証。

 ううん、覚醒しつつある、かしらね。

 このまま一生覚醒しなければいいと思ってたけど、

 そうもいかなかったみたいね」

 

 祖母が悲しそうに目を伏せる。


「あなたのママ、エミリーも同じ年齢で覚醒したわ。

 話さなかったでしょうけれど。

 ともあれ、覚醒した魔法使いは、能力が暴走しないよう、目覚めてすぐ

 魔法世界に力の使い方を学びに行かなくちゃならない。

 そして今夜は満月。地球と魔法世界を繋ぐゲートが開くとき。

 ゲートは世界中にあるけど、まさにここが、日本に於けるゲートのある場所

 なのよ」


「黙っていてすまんかった、あずきちゃん」


 祖父が辛そうに言う。


「あなた、あずきちゃんが生まれたときに、覚悟は決めたはずでしょ?」


 祖母が続ける。


「何にせよ、時間が足りないわ。色々説明してあげたいけど時間が無い。

 でも向こうには案内人がいるから、そこで詳しい説明を受けられるでしょう」


 祖母がそっとあずきを抱き締める。


「あずきちゃん、あれ見て!!道が出現するよ!!」


 足元でおはぎが叫ぶ。

 桟橋の先端から湖の中央目掛けて光の橋が伸びていく。

 その先の湖面。湖の中央の湖面が丸く光っている。

 光は湖の中から出てるようだ。

 あれがゲートなのだろう。


 距離としてはここから200メートルといったところか。

 あれに飛び込めっていうの?

 祖父が月を見上げ、目を細める。


「10分でゲートは消える。急がんと」

「何が何やらよく分かんないけど……行けばいいのね?」


 あずきの問いに祖父がうなずく。


「服は向こうに用意してあるはずだから心配無いわ。それと……」


 お祖母ちゃんが懐から長さ30センチ程の棒、短杖を取り出し、あずきの手に

 握らせる。


「これを持って行きなさい。いつかこの時の為にと、あずきちゃんが生まれた

 記念に英国の実家に植えたオリーブの記念樹から作っておいた杖よ。

 あずきちゃんにすぐ馴染んで、旅の強力な支えになってくれるでしょう。

 使い方は、あずきちゃんに流れるバロウズの血が教えてくれるわ」


 お祖母ちゃんが再びあずきをぎゅっと抱き締める。


「魔法使いなら誰しもが通る道。何も心配はいらないわ。さ、行ってらっしゃい」

「……うん」


「おはぎ、行こう!!」


 あずきは、無言でうなずくおはぎをともない、光の橋を駆ける。

 振り返ると、通り過ぎた部分の橋がゆっくり消えつつあり、湖畔に佇む祖父母の

 姿も霞んで見える。

 立ち止まったら橋が消えて湖にドボンだ。


 湖面の光が急速に薄れつつある。

 光が消え切る前に、あのゲートに飛び込まなくてはならない。

 間に合わなかったら?

 湖にドボンだろう。

 いくら夏とはいえ風邪をひくのは間違いない。

 最悪溺れ死ぬ可能性だってある。


 走る。走る。走る。

 もはや短距離走だ。

 あずきは、右肩に飛び乗るおはぎを右手で押さえ、左手に持った、

 お祖母ちゃんから貰った杖を力いっぱい握り締めた。


 落ち着け。幅跳びの要領だ。学校の体育の授業で散々やったでしょ?

 光の橋の先端に歩幅を合わせる。

 ジャンプ!!

 あずきは息を止め、橋から一気に湖面の光、ゲートに飛び込んだ。


 瞬間、視界が真っ暗になり、あずきの意識は飛んだ。





ようやくあずきが旅立ちました。

次話からステージが変わります。

そこでどんな冒険が待っているのか。

お楽しみに♪

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