第28話 魔法使いは空を飛ぶ
野咲あずき……12歳。小学6年生。日本とイギリスのハーフ。
おはぎ……黒猫。あずきの飼い猫。
ルーナ=リーア……白の月の女王。地球人名:月乃美琴
セレスティア=リーア……黒の月の女王。ルーナの双子の姉。
エディオン=バロウズ……900年前に亡くなっている賢者の霊。あずきの先祖。
リチャード=バロウズ……あずきの祖父。
オリヴィア=バロウズ……あずきの祖母。
野咲エミリー……あずきの母。
「これ、美味しい。セレス姉さま、パティシエ、引き抜いていい?」
「あんたバカなの?いいわけないでしょ!!」
「あ、でも、ホント美味しい。パティシエさんに、あずきが喜んでいたと
お伝え下さい」
「あずきちゃんは、お上品よね~。ご両親の育て方が良かったのね。
それに比べてルーナときたら。
あんた、今の人生に引っ張られ過ぎよ。
あずきちゃんの爪の垢でも煎じて飲ませたいわ。
ほら、あずきちゃん、こっちのケーキも美味しいわよ。食べてみて」
「は~い」
「わしの分は無いのかのぅ」
「あなた食べられないでしょ?エディオン。女子会に男性が来るのは
マナー違反よ。さっさと引っ込んで」
「冷たいのぅ……」
あずきは二人の女王と共に、黒の女王の居城の周囲をグルリと巡らした
お堀に浮かんだゴンドラ船に乗っていた。
あずきの乗ったのは黒の女王専用の船だけあって、周囲に浮かんでいる
10隻あまりのメイド船や護衛船より一回り大きく、内装もとても豪華だ。
お堀の周囲も、さすが女王の居城だけあって、たくさんの木々や花々が
咲き誇り、見事な景色を作り出している。
実際、お堀の外側は広大な庭園となっており、一般人でも入場出来るように
なっているらしい。
お城を中心に、様々な公官庁や、企業のビルが建ち並んでいるので、
お昼時など、近隣のビジネスマンたちの憩いの場となっているようだ。
「さて、そろそろかしらね」
黒の女王がポツリと言う。
その言葉を合図のように、メイド船や護衛船がスっと寄ってくる。
皆、神妙な表情だ。
無理も無い。
自分たちの主人、黒の女王は、しばらく王城を留守にする。
10年か、20年か。
戻りも、どのくらい先になるのか分からない。
不安にもなろう。
女王がゴンドラ船の上に立つ。
「皆、見送りご苦労。
事前に話したように、妾は、しばらくこの黒曜宮を
留守にすることになる。
とはいえ、それほど長い期間では無い。
せいぜい1、2年といったところじゃ。
そのくらいの期間、問題無かろう?」
「え?」
白の女王ルーナリーアとあずきが同時に声をあげる。
「ん?」
黒の女王が振り返る。
「え?だって、セレス姉さま、転生するんじゃないの?」
「そうだよ、わたしの中で眠るって言ってたじゃん」
二人の困惑の表情を見て、黒の女王がクスっと笑う。
「今、転生したら、ルーナと見た目の年齢が離れちゃうでしょ?
だから、転生はもうちょっと先ね。
でも、二人の言う通り、わたしの魂が極度に疲弊していることも
確かだから、あずきちゃんの中で、しばらく魂の休養をさせて貰おう
って言ったのよ」
「あ、そういうことなんだ……。な~んだ」
「ルーナ。わたしはしばらく眠るけど、しっかりしなさいよ。
次、起きた時に甘ったれが治ってなかったらおしおきだからね」
「はいはい」
「あずきちゃん。大切な大切な、わたしの末の妹。
あなたの成長を楽しみにしているわ」
「はい」
黒の女王が再び、城の皆の方に向き直った。
「じゃ、みんな元気で!!また会えるのを楽しみにしているわ!!」
そう言って、黒の女王はモヤに変わり、あずきの胸の辺りに
吸い込まれていった。
あずきは、自分の胸の、モヤの入った辺りを、そっと撫でた。
「黒の女王さまがわたしの中で眠ってるって言われても、
何も感じないよ。もっとこう、何かあるかと思ったけど」
「そんなものよ。だからあずきちゃんは特に意識する必要は無いわ。
普通に日常生活を送ればいい。
さ、帰りましょう、地球へ。
リチャードさんとオリヴィアさんが、ヤキモキしてる頃よ」
「美琴姉ちゃんも帰る?」
「そうね。バロウズ家に、お詫びのお寿司、持っていかなくっちゃね」
「やった!!今夜はお寿司だ!!」
あずきは自分の胸を見た。
感じることは出来ないけど、確かに黒の女王は、わたしの中で眠っている。
ゆっくり眠って、わたしの大切なお姉ちゃん。
いつかまた、美琴姉ちゃんと三人でティーパーティをしましょ。
楽しみにしてるね。
こうして、あずきの魔法世界での旅は、終わりを告げた……。
「おっかしいなぁ……。えい!!えい!!」
あずきは桟橋の上で、短杖を振っていた。
あずきの旅立ちの始まりとなった、ゲートに通じる桟橋だ。
今日は朝から祖父と祖母が出掛けている。
2時間ほどで戻ると言っていたが、はて、どこへ行ったのか。
ともあれ、魔法世界から戻ってきて、しばらく魔法を使う機会が
無かったので、ちょうどいいと思って短杖を握ってみたらこれだ。
短杖からは、魔法弾一つ出ない。
「何で~?」
桟橋の先端で、じっと観察していたおはぎが口を開く。
「やっぱり何か変だね。どっかこう、うまく噛み合ってない感じがするよ」
「分かる?そうなのよ、魔法核を制御するギアが何か所か欠けちゃってる
感じがするの。
何が原因だと思う?」
「う〜ん。やっぱりここは、他の土地に比べて魔素がふんだんにあるとはいえ、
しょせんは地球だからね。
魔法世界と違って、魔法が使いづらいってのはあるとは思うよ。
でも一番の原因はやっぱり……」
「やっぱり、何?」
「あずき、あなたどうしたの、それ。
魔力回路が、ぐちゃぐちゃじゃない」
「ママ!!」
半月ぶりの再会で、あずきは思わず母に抱きついた。
「こらこら。うちのお姫さまは、そんなに甘えん坊だったっけ?
ママにお顔を良く見せて。あら、ちょっと日焼けしたかしらね」
「今来たの?」
「そうよ。お祖父ちゃんたち、何も言ってなかった?」
「何も。パパは?」
「もちろん、一緒に来てるわよ。
今、お祖父ちゃんと、向こうで荷物を運んでいるわ」
「そっか。あ、そうだ、ママ、さっきのどういうこと?」
「ん?あぁ、魔力回路のこと?ん~、ちょっとひどいわね。
魔法が上手く使えなくなってるんじゃない?」
「そうなの!!どうすればいい?」
「どうすればいいって言っても……。
魔力回路は、治癒魔法でどうにかなるものじゃないから、
気長に自然治癒するのを待つしかないわ。
限界を越えて魔力を行使したとか、あとは、そうね。
無理やり魔力を吸われたときとかも、そんな感じになるわね」
あずきとおはぎが、思わず顔を見合わせた。
「ピーちゃんだ」
「ピーちゃんだ」
綺麗にハモったのを見て、エミリーが笑う。
「魔法使いと使い魔として、息ピッタリね。でも、おはぎ、
パパの前では絶対喋っちゃダメだからね。くれぐれも忘れないように。
それと、あずきのそれは、1年もあれば完治するでしょ。
それまでは無理しちゃダメよ」
「1年!?嘘でしょ~~」
「ちょうどいいじゃない。基礎をすっ飛ばして大魔法をバカスカ使ってた
ようだから、ここらでみっちり基礎を学んでおくのもありよ。
ということで、これ」
エミリーがA4サイズの、分厚い封筒をあずきに手渡した。
表に『野咲あずき様』とある。
そして、あずきの名前の隣に『特待生用』とハンコが押してある。
あずきは封筒下部の印刷文字を見て、目を見張った。
そこには、『ルナリア魔法学校入学案内』と印刷されていた。
「ママ、これ!!」
「凄いじゃない、特待生なんて。なかなか、なれないのよ?」
「場所、月だよ?どうやって通うの?」
「ルナリアタウンの寄宿舎に入るか、あ、でも、ここからなら
お祖父ちゃんのゲートカードを使って通学出来ると思うわよ。
家からはさすがに無理だろうけど」
「どっちにしても、家を離れることになるじゃない」
「……魔法、学びたくないの?」
あずきは考え込んだ。
家の近くの中学校に通うか。
親元から離れて、魔法学校に通うか。
エミリーが迷っているあずきの肩をポンっと叩く。
「まだ時間はあるから、ゆっくり考えればいいわ。
どういう結論を出すにせよ、ママは応援するから。
でも、もし魔法学校に行くのなら、パパにはちゃんと話しなさい。
あなたの口からね」
「喋っちゃっていいの?」
「パパを何だと思ってるの。全部受け入れてくれるわよ」
そう言って、母、エミリーは家に戻っていった。
「……もう、心は決まってるんでしょ?」
おはぎがあずきを見上げる。
「分かる?」
「そりゃだって、ボクはあずきちゃんの使い魔だからね。以心伝心さ」
あずきがニヤっと笑う。
「だって、セレスお姉ちゃんが起きたとき、田舎の学校のジャージ姿で、
白いヘルメット冠って自転車漕いでるなんて、カッコ悪いもんね。
そこは一つ、魔法学校で華々しく活躍してないと」
「活躍、するんだ」
「するわよ?何てったって、特待生ですから」
「言ってら」
おはぎのしかめ面に、あずきがドヤ顔で返す。
「パパにはどうやって説明するの?」
「この二週間の冒険を最初っから話すわ。
愛娘が、いかにして、美少女魔法使いになったか。今夜は徹夜ね」
「うへぇ」
月夜の晩。
辺りの住人が全て寝静まった深夜。
あずきはそっと、部屋の窓を開け、お供の黒猫と一緒に箒に跨る。
新人美少女魔法使いに、呆けている時間は無いのだ。
まだ見ぬ世界へ。
冒険の旅へ。
わくわくが止まらない。
そして今日も、あずきは空を飛ぶ。
END
2021年11月末から書き始めた、『野咲あずき』の物語は
これにて完結となります。
さすがに専業作家さんとはいかないので、夜とかお休みの日
とかに、ちょこちょこ書き進めていたのですが、完結までに
4ヶ月も掛かっちゃいました。
ともあれ、無事完結しました。
感慨深いものがありますね。
なにせ、わたしの初長編作品だったのですから。
でも、無事終わらせることが出来ました。
続編に関しては未定で。
一応、構想はあるのですが、その気になったら、かな?
ともあれ、あずきの物語にお付き合いくださり、
ありがとうございました!!
また別の作品でお会いしましょう。
皇 瑠奈でした♪




