第27話 怪獣大決戦
野咲あずき……12歳。小学6年生。日本とイギリスのハーフ。
おはぎ……黒猫。あずきの飼い猫。
ルーナ=リーア……白の月の女王。地球人名:月乃美琴
セレスティア=リーア……黒の月の女王。ルーナの双子の姉。
エディオン=バロウズ……900年前に亡くなっている賢者の霊。あずきの先祖。
「……箒で飛んだ方が早くない?」
おはぎが呆れ顔で言う。
「うん、わたしもそう思う」
あずきは、ヒヨコの背中を優しく撫でてやりながら答えた。
ヒヨコは健気なほど一生懸命、羽ばたいていた。
体の大きさに対して、羽が小さいので、あずきから流れ込む魔力を
消費して飛んでいるのだろう。
物理より魔力というわけだ。
にしても遅い。
結構上空まで来たようだが、稲光が走る暗雲は、まだ先だ。
この雲の中で二匹の龍が争っている。
早いとこ止めないと、地球の監視装置に引っ掛かってしまう。
「ね、あずきちゃん、顔色、悪くない?大丈夫??」
おはぎがヒヨコの背から、あずきを見上げる。
さすが使い魔、わたしの異変にすぐ気付けるんだ。
「……この子、とんだ食いしん坊だわ」
「どういうこと?」
「自分の中の魔力だけじゃ足りないから、自然界から全力で魔力を
取り込んでるんだけど、取り込んだ魔力の99%をこの子が持ってくの。
わたし自身は魔力切れ寸前。
エンプティマークが真っ赤に点滅してるわ」
「うへぇ。そんなんで、どうやって二人の女王の喧嘩を止めるのさ」
「それこそこの子に聞いて。今のわたしでは、何発、魔法弾を放てるやら」
ピィ!!ピィ!!ピィ!!ピィ!!!!
暗雲に突入した途端、あずきは猛烈な雨風に襲われた。
超大型台風の真っ只中にいる気分になる。
ピィィィィィィィィィィィィ!!!!!!!
一瞬で、あずきを乗せたまま、ヒヨコが吹き飛ばされた。
あずきはヒヨコにしがみついたまま、懐から短杖を出した。
「ベントゥス パリエース(風の壁)」
ヒヨコを中心に、球形に張った風防壁が出現する。
「落ち着いて、ピーちゃん。もう大丈夫、雨風は防いだから」
と、次の瞬間、巨大な白い物体が、真横を猛スピードで通り過ぎる。
あずきたちは、更に吹っ飛ばされた。
だが、上下左右、視界が目まぐるしく入れ替わる中、あずきは見た。
白く光る鱗。
長大な姿。
あまりの速さに全身を確認することは出来なかったが、
龍体に变化した白の女王ルーナリーアに間違いない。
近くまで来た!!
ヒヨコが姿勢を取り戻し、再び飛び始める。
「ディプレーンショ(探知)」
あずきはヒヨコの背の上で、知覚を最大限にまで広げた。
既に周囲は暗雲だ。
ここまで雲が厚いと、視覚より魔法感覚を利用した方が周囲の状況を
掴みやすい。
見つけた!!
二匹の龍が空を縦横無尽に飛び回っている。
だが、どうやって二人を正気に戻すか。
「ご先祖さま、目的の場所に着いたよ!!どうすればいい?」
あずきがペンダントに向かって声を掛ける。
スっとヒヨコの隣に賢者が現れる。
明らかに、あずきの張った風防壁の外にいるのだが、
魂魄だけあって、これだけの雨風に全く影響しない。
幽霊ってずるい。
「分からん!!」
「……は?」
「いや、分からんのよ。白の女王からは、このヒヨコについての
詳しい使いみちを聞いておらんかった。
というか、タマゴの中身が何かすら、白の女王は知らんかったと思うぞ。
黒の女王もあの感じだと、多分知らんじゃろう。
タマゴを割れば、何かが起こるって程度じゃろうな。
じゃから、ここからは出たとこ勝負じゃ。
とにかく、二人の近くまで行って、何が起こるか確かめるしかない」
「どうして取扱説明書を貰っておかないかなぁ、ご先祖さまったら」
って言ったって、もう十分、二人の戦闘圏内に入ってると思うけど……。
さて、どうするかな。
腕を組み、考えをまとめようとしたとき、あずきはヒヨコの変化に
気付いた。
その毛が、黄色どころか金色に光っている。
ヒヨコが発光している?
しかも、段々、光量が増していく。
既に、眩しいくらいだ。
ピィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィ!!!!!!!!!!
突如、ヒヨコが鳴いた。
遥か遠くまで届きそうな大音量の鳴き声に、思わず、あずきは耳を塞いだ。
「ピーちゃん?」
次の瞬間。
強烈な魔法乱流が発生した。
あずきは反射的に、ヒヨコの背に身を伏せた。
あずきの施した魔力探知のレーダーが、異常な魔力の流れを感知する。
あずきが、否、ヒヨコが魔法乱流の中心だった。
そして、渦のように形成された魔法乱流が、周囲の全ての魔力を
吸い上げている。
食いしん坊の面目躍如だ。
「こりゃいかん!!」
賢者が慌てて、あずきが首から下げたペンダントに引っ込む。
おはぎも、あずき同様、しっかりヒヨコの背に掴まる。
どうやら、召喚主だけあって、あずきは魔力吸い上げの対象から
外れているらしい。
女王たちの魔力が生み出したものだったのか、見る見るうちに、
周囲を覆っていた暗雲が吹き散らかされ、青空に代わっていく。
「いた!!」
すぐ近くの空に龍が二匹、留まっていた。
暗雲のせいで見えなかったが、思った以上に近くにいたらしい。
魔法乱流のせいで、身動きが出来なくなっているようだ。
龍の姿が薄れていく。
魔法で纏っていた龍体を無理やり引き剥がされている、
といった形容が正しいだろう。
徐々にその姿が、人間の形に戻っていく。
白いドレスを着た人影と、黒いドレスを着た人影。
白の女王と黒の女王に間違いない。
だが、よく見ると、二人とも、気を失っているようだ。
そのまま二人共、落下していく。
「まずい!!」
あずきは、ヒヨコから飛び降りた。
「ディミティス(解放)!!」
あずきは自由落下しながら、魔法陣から箒を取り出し、飛び乗った。
ヒヨコに吸われたお陰で魔力は枯渇しかけているが、弱音を
吐いては、いられない。
いくら月の女王とはいえ、意識を失ったまま、こんな高高度から
落下したら即死だろう。
不意にあずきは、魔力で繋がっていたヒヨコの気配が
フっと消えるのを感じた。
そっか。召喚主との距離が離れたから、引っ込んだんだ。
よし!!
あずきは高速で、落下していく女王たちを追い掛けた。
先に白の女王に追いついた。
ぐったりしている白の女王を箒の背に乗せる。
重量オーバーなのか、途端に箒のコントロールが難しくなる。
だが、そんなことを言っている余裕は無い。
自由落下に更に魔力を乗せ、そのまま高速で黒の女王を追う。
地上の建物がかなりハッキリ見えてきたとき、ようやく落下中の
黒の女王に追いついた。
「ぐあぁぁぁぁぁぁぁあぁ!!!!」
思わず叫び声が出る。
あずきは全身の力を使って、箒の上に黒の女王を引き上げた。
ミシミシッ。
箒が嫌な音を立て、しなる。
あずきは丹田にある魔法核をフル稼働させた。
既にヒヨコに吸われたお陰でかなり消耗しているが、
出し惜しみしていられる状況ではない。
命が掛かっている。
「ベントゥス(風よ)!!」
あずきは姿勢を立て直しながら、下方に向かって全力で風を送り込んだ。
「わしも力を貸すぞ!!」
「ボクも!!」
下方に向かう風の流れに強い力が加わった。
賢者とおはぎだ。
だがそれでも、落下速度は、わずかに緩んだ程度だ。
地上が迫ってくる。
このままでは地面に激突してしまう。
ダメか……。
あずきの顔に諦めの表情が浮かびかけたそのとき。
不意に、さっきまで乗っていたヒヨコの姿が思い浮かんだ。
「ピーちゃん?」
ボフっ。
次の瞬間、あずきは、もふもふの毛に包まれていた。
衝撃は、ほとんど感じなかった。
せいぜい、家で、ふわふわの布団にダイブした程度のものだ。
あずきは慌てて立ち上がり、周りを見た。
地面が金色に光り輝いている。
まるで、足首まで埋まる、ふかふかの絨毯に立っているみたいだ。
あずきのすぐ近くに、白の女王と黒の女王が倒れていた。
近寄ってみたが、呼吸は正常だ。
二人とも怪我をした様子は無い。
ただ気を失っているだけのようだ。
あずきは安堵のため息をつき、再度、周囲を見回した。
「何これ……」
ピィ!!
「え?まさか……。えぇぇぇぇぇぇぇぇぇ??????」
あずきは、ようやく気付いた。
あずきが立っていたのは、二人の女王の膨大な魔力を吸って、
全長50メートルの巨大な姿になった、ヒヨコのピーちゃんの
背中の上だった。
あずきは見事、二人の女王を救出することが出来ました。
長かったあずきの旅も終わりました。
これで、ようやく家に帰ることが出来ます。
そして次回。
……最終回?
次回も乞うご期待。




