第26話 黒の女王と秘密のティーパーティ
野咲あずき……12歳。小学6年生。日本とイギリスのハーフ。
おはぎ……黒猫。あずきの飼い猫。
ルーナ=リーア……白の月の女王。地球人名:月乃美琴
セレスティア=リーア……黒の月の女王。ルーナの双子の姉。
エディオン=バロウズ……900年前に亡くなっている賢者の霊。あずきの先祖。
あずきは、辺りを見回した。
暖かい日差し。
頬を心地よく撫でる風。
遠くで鳴く鳥の声。
敷き詰められたオレンジ色のレンガ。
花壇の中の、たくさんの木や花たち。
そして置かれた鋳物製のガーデンテーブルセット。
イングリッシュガーデンだ。
ママ、こういうの好きだろうな……。
「いらっしゃい。よく来たわね。まぁ座って」
いつの間にか、置かれたガーデンチェアに、女性が座っていた。
光沢のある黒いドレス。
美琴そっくりの美しい顔が微笑んでいる。
黒の女王、セレスティア=リーアだ。
あずきは促されるまま、座った。
女王が指をパチンと鳴らす。
すると、テーブルの真ん中に、アフタヌーンティーのセットが現れた。
ティースタンドには、お菓子が満載だ。
そして、あずきの前には、湯気を立てる紅茶が置いてある。
あずきは黙ったまま、上目遣いで黒の女王を見る。
「ふふっ。心配はいらないわ。毒は入っていません。
まぁ、ここは精神の部屋だから、食べても、お腹には残らないけどね。
でも、味はちゃんとあるわよ。さぁ、遠慮せずに、どうぞ」
あずきはそっとスコーンを手に取り、口に運んだ。
「美味しい!!」
「でしょう?ここは1000年前の黒曜宮での内緒のティーパーティーを
モチーフに作られた空間なのよ。味もしっかり再現されているわ。
わたしのお気に入りの空間の一つなの」
「妾って言わないんですね」
「あれは対外用。普段からあんな言葉遣いしてられないわ」
「なるほど」
意外にざっくばらんな喋り方だ。
そういうとこ、やっぱり美琴姉ちゃんに似ている。
「ってことは、あなたは今現在、美琴姉ちゃんと戦っている黒の女王さま
そのものなんですね?」
「意識は直結しているわね。戦っているのもわたしだし、
ここにこうしているのもわたし」
「わたしを囚えようとは思わないんですか?」
「なぜ?あなたは、ルーナにとって妹なんでしょ?ならわたしにとっても
妹だわ。妹を囚えようとは思わないわよ」
「だって、捜索してたじゃないですか」
「そりゃだって、知らない場所で迷子になったら大変だし。
ま、直接話したかったってのもあるけどね」
「な~んだ、じゃ、隠れること無かったな」
黒の女王がクスっと笑う。
あずきが紅茶をテーブルに置いた。
「黒の女王さまは、地球人のこと、嫌い?」
「……それは、難しい質問ね。
好き嫌いの問題では無く、我々『フォルトゥーナ』の民が、
地球人と交わることで、無くなってしまうことを懸念しているの」
「フォルトゥーナ?」
「あなたたち地球人は、我々のことを月兎族と呼ぶけど、
それは地球人が学術的名称として付けた呼び名なの。
我々には、古代から伝わる「フォルトゥーナ」という名称がある。
だけど、月兎族という呼び名がメジャーになってしまって、今では、
ルナリアの民は、『フォルトゥーナ』という自らを表す言葉さえ
忘れてしまった。
そうやって、文化が消えていくのが嫌なのよ。分かる?」
「何となく分かるかも……」
月の女王が紅茶を一口飲む。
「でもね、時代の変化というものは理解しているのよ。
形あるものはいつか壊れ、流行も過ぎ去り、今あるものも、やがて
跡形もなく消え去る。
その中で、残しておくべきもの、消えても構わないものを取捨選択する。
時の流れってそういうものでしょ。
だから、ルーナが地球人を救うことを選択したときこそ反対したけど、
今はもう、何とも思ってないわ。
フォルトゥーナと地球人が同化し、そして消え去るのが運命であるなら、
それを受け入れましょう。だから心配しなくていい」
あずきはトングでティースタンドからケーキを一つ取った。
どうせ幻なら、食べなきゃ損よね。
「ご先祖様と白の女王さまが交わした盟約、知ってる?」
「さぁ。何となく想像はつくけどね」
あずきは黒の女王を見つめた。
黒の女王が優しく微笑む。
美琴とそっくりの顔。
悪い人には見えない。
「美琴姉ちゃんは、黒の女王さまと争いたくないんだって。
だから、仲裁をして欲しいって」
「あっはっは。あの子らしいわ、人に仲裁を頼むなんて。
あの子は、やることは大胆なのに、すぐ、くよくよ悩むのよ。
わたしに怒られる、っていつもビクビクしてる。
今言い争っているのだって、ただの姉妹喧嘩に過ぎないというのに。
ほんと、チキンなんだから」
これは放っておいても良さそう。
兵隊さんたちが言ってたように、ある程度暴れたら元に戻るかな。
あぁでもダメだ。このまま暴れてるうちに、地球側の観測機械に
察知されちゃうかもしれない。
やっぱり姉妹喧嘩、止めないと。
「もう一つ。黒の女王さまは、転生、しないの?」
ティースタンドに伸ばした黒の女王の手が止まる。
「……うん、それは言われるとは思っていたわ」
「美琴姉ちゃんが言ってた。千年分の記憶は、キャパオーバーなんだって。
黒の女王さま、限界が来てない?魂の眠りが必要なんじゃないの?」
黒の女王があずきを見て微笑む。
「あなたは優しいのね。そうね。その通りよ。
でもね、怖いのよ、記憶を失うのが。
そしてわたしがいない間、この国が大丈夫なのだろうかってね」
「大丈夫じゃ。心配はいらん」
「エディオン!!あなた、いつの間に!!」
いつの間にか、あずきの後ろに賢者エディオンが立っていた。
賢者は平然と、空いていたガーデンチェアに座った。
ティースタンドから、勝手にサンドイッチをつまむ。
「わしの分の紅茶は無いんかの」
「あなた、相変わらずね。呼んだ覚えは無いわよ?」
「そこはほれ、わし、賢者じゃから」
黒の女王が呆れ顔で指を鳴らす。
賢者の前に、ティーカップが現れる。
「どうせ幻なのに。変なとここだわるのね、あなた」
賢者が嬉しそうに紅茶に口を付ける。
「ルナリア王国は、女王不在期間を大過なく過ごしておる。
セレスティアリア王国だって、最初こそ混乱するかもしれんが、
すぐ慣れるじゃろ。自分とこの民を信頼せい」
「それはそうだけど……」
「記憶がこぼれ落ちるのは、どうにもならんな。
そういうものだと割り切るしかない。
どっちにしても、普通の人は転生しても記憶の持ち越しなど出来ん。
それに比べれば、記憶が多少こぼれる程度で済むなら全然マシじゃろ。
その点、ルーナは思い切りがよいの。お主は、すぐ、うじうじする」
「あの子は楽天家だから。そういうとこ羨ましいと思うわ、ほんと」
意外に仲がいいのかしら、この二人。
あずきは二人のやり取りを見て思った。
「……心配なら、あずきの中で眠りにつくというのはどうじゃ?」
「は?ご先祖さま、何言ってんの??」
「なるほど、それもアリね」
「え?アリなの??」
黒の女王があずきを見つめる。
あずきも黒の女王を見つめる。
「あずき。わたしの末の妹。あなたを信じて転生するわ。
あなたの中で眠らせて」
「は、はい」
「ありがとう。でもその前に、元の姿に戻らなくっちゃね。
一度、龍に变化しちゃうと、力を使い果たすまで
元に戻れないのよ。
だから、例のペンダントの力を使うしかないわね。指を出して」
「指?」
黒の女王が右手の人差し指を立てる。
あずきも真似して、右手の人差し指を立てた。
黒の女王の指に漆黒の玉が出現する。
「それ……」
「闇の精霊、シェイドじゃ。あずき、受け取れ」
「うん」
黒の女王の指先から離れた闇の精霊は、そのまま、ふよふよ漂い、
あずきの指に吸い込まれた。
「これで多分、あの子も目覚めてくれるはずよ」
「助かる、セレスティアよ。さ、あずき、戻るぞ」
「うん。黒の女王さま、また後で!!」
黒の女王がガーデンチェアに座ったまま、そっと手を振る。
あずきは手を振り返し、薄れて消えた。
現世に戻ってすぐ、今度はペンダントの中にダイブした。
慌ただしいったらありゃしない。
あずきは再び、タマゴの前に立った。
今度こそ、起きてよね。
手をタマゴに当てる。
火、水、風、土、光の5属性の力を注ぎ込む。
中で何かが動く気配がする。
ここまでは、さっきと一緒。
じゃ、これで、どう?
あずきは続けて、闇属性の力を注ぎ込んだ。
タマゴの中のモノが起きる気配がした。
殻を通して、中のモノの動きが分かる。
お願い、この殻を破って出てきて。
あずきは、丹田にある魔法核を全力で稼働させる。
あずきから湧き出した6属性の力が、一気にタマゴに流れ込む。
まだ?これでもまだダメなの?
食いしん坊もいい加減にしなさい!!
そのとき。
タマゴにヒビが入った。
ヒビが、どんどん広がっていく。
そして。
ピィ!!ピィ!!ピィ!!ピィ!!!!
「何これ……」
「何……じゃろうのぅ……」
割れたタマゴから出てきたもの。
それは、黄色くて、毛がふわふわで、小さなクチバシがあって……。
「ヒヨコ?」
「にしては、サイズ感が……」
それは、あえて言うなら、全長1メートルのヒヨコだった。
インプリンティングされたのか、全身黄色の巨大ヒヨコが、
つぶらな瞳であずきを見る。
「どうするよ、これ」
「どうするったってのぅ……」
「ねねねね、ちょっと待って、ご先祖さま。
……ホワイトファングって、美琴ちゃんが教えてくれた名前?」
「いや、それはわしの命名」
「ホワイト?」
「黄色いのぅ」
「ファング?」
「クチバシじゃのぅ」
「誰の命名ですって?」
「わし。だって、白の女王が、とてつもないモノだって言うから、
さぞかし強い召喚モンスターかと思って」
「とりあえず、名前負けするから、ホワイトファングは却下で。
ピーちゃんでいいや。封印されてたくらいだから、
見た目に反して凄く強いのかもしれないしね」
親愛の情なのか、ヒヨコがあずきに体を擦り付ける。
もこもこの、ふわっふわだ。
肌触りが尋常で無く良い。
「ね、ご先祖さま、乗っていい?乗っていい?」
「いいんじゃないか?多分、それが正解じゃと思うぞ」
「重くないといいんだけど」
あずきは、ヒョイっとヒヨコに飛び乗る。
ヒヨコが勢いよく走り出す。
ピィ!!ピィ!!ピィ!!ピィ!!!!
嫌がってはいないようだ。
むしろ、楽しんでいる。
賢者エディオンが、滑空状態で、走るヒヨコに並走する。
「では、行こうかの、あずきよ」
「うん!!」
ヒヨコに乗ったあずきの姿が、徐々に薄れて消えた。
賢者のペンダントに埋め込まれた召喚モンスター『ホワイトファング』が
いよいよ姿を現しました!!
事態の収束が出来るかどうか。
次回も乞うご期待♪




