第24話 黒の女王 セレスティア=リーア
【登場人物】
野咲あずき……12歳。小学6年生。日本とイギリスのハーフ。
おはぎ……黒猫。あずきの飼い猫。
ルーナ=リーア……白の月の女王。地球人名:月乃美琴
エディオン=バロウズ……900年前に亡くなっている賢者の霊。あずきの先祖。
黒い鎧を着た集団が、ガッシャガッシャ鎧が擦れる音を立てながら、
あずきの目の前を走っていく。
黒の女王の軍隊だろう。
探しているのは、間違いなくあずきだ。
あずきはベンチに座ったまま、息を飲んだ。
だが、兵士の誰一人、あずきに気付かず、走り去っていった。
思わず、安堵のため息が出る。
「ほらの、ほらの。わしの認識阻害魔法は、軸をずらすから一般の認識阻害
以上に見つかりにくいんじゃ。
女王レベルならともかく、一般兵ごときじゃ欠片すらも痕跡を掴めんわい」
あずきの隣に座っていた賢者がハシャぐ。
よくよく見ると、幽霊だけあって透けているが、あずきはいい加減
見慣れてしまったので、全く気にならない。
賢者エディオン=バロウズは、本来、900年前の人物だ。
彼はあずきにとって、先祖という立ち位置になる。
当然のことながら、既に亡くなっている。
ここにいるのは魂魄、いわゆる幽霊だ。
「幽霊が魔法を使うって、意味分かんない」
「そりゃ、わし、天才じゃから」
賢者がドヤ顔で、胸をそらす。
「兵隊さんも居なくなったわけだし、そろそろ話してよ。何がどうなってるの?」
「うむ。何から話せばよいか。そうさの。まずは地政学的観点からかの」
「地政学?」
あずきの反応をよそに、賢者が遠い目をする。
「月は地球に対し、一定の面を向けておる。知っておるか?」
「学校の授業でやった。変な星だよね、月って」
「仮に、地球に向いている側を表、反対側を裏と呼ぼう。
表側にある国、ルナリア王国を治めておるのが、
白の女王『ルーナ=リーア』じゃ。
そして、裏側にある国、セレスティアリア王国を治めておるのが、
黒の女王『セレスティア=リーア』じゃ。
この二人の女王によって、月は統治されておる」
「つまり、月の女王は二人いるってこと?」
賢者が頷く。
「この二人は双子の姉妹での。ちなみに、セレスの方が姉になる。
白虹宮で見たじゃろ?」
「白虹宮?月宮殿じゃないの?」
「月宮殿は月の宮殿の総称じゃ。正しくは、白の女王の宮殿を白虹宮、
黒の女王の宮殿を黒曜宮と呼ぶ」
「なるほど」
「白の女王の特徴を一言で言うと、温厚で慈悲深い。
反面、楽観主義でお調子者の面もある。
黒の女王は思慮深く、何事も慎重じゃ。真面目が過ぎて頑固でもある。
そして厄介なことに、黒の女王は純潔主義者じゃ。
わしが助けを求めたとき、ルーナリーアは、一も二もなく受け入れを了承した。
これによって、地球の魔法使いは生きながらえることが出来たが、反面、
地球人と月兎族の混血化が進んでしまった。
思慮深いセレスティアは最後まで、受け入れ反対を唱えておった。
案の定、純潔主義者のセレスティアにとって受け入れ難い結果を
招いてしまったわけじゃが、はて、どちらが正しかったのかの」
「地球人の『正しい』が月の住人にとって『正しい』とは限らないってことね」
「そういうことじゃ。
わしは虐殺されていく同胞たちを助けたかった。
じゃから、月と地球を結ぶゲートを開いた。
それは今でも正しかったと思っておるよ。
じゃが、安寧を乱された月の住人にとっては、どうじゃったのかの」
あずきは思わず黙り込んだ。
「そしてもう一つ、厄介なことがある」
「厄介なこと?」
「あずきは、月の女王の転生システムのこと、知っとるか?」
「うん」
「月の女王は血脈の中を移動し、転生する。そうやって長いこと生きてきた。
じゃが、転生システムには欠陥があって、記憶の取りこぼしが起きてしまう。
それも知っておるな?」
「うん」
「黒の女王はそれを嫌い、転生しない。千年間、ずっとあの姿のままじゃ」
「そんなことしたら、記憶のキャパオーバーで心が壊れちゃうよ」
「そうじゃな。実際、もう限界じゃろう。魂が疲弊し切っとる。
そんな折、今代の白の女王が地球に生まれた。
黒の女王にとっては最も恐れていた結末じゃ」
「わたしのこと、『人間風情』って言ってた。怒ってたんだね、きっと」
「悪いのはわしじゃ。あずきでは無い。
とばっちりを受けさせてしまってすまんの」
「そういえば、白虹宮で黒の女王様が出現したけど、あれ、当人?」
「あれは黒の女王が自身の分魂を使って仕掛けたブービートラップじゃ。
ペンダントが白の女王の近くに来ると、自動的に攻撃する。
わしが死んだときに仕掛けられたものじゃ。
黒の女王は、わしがあのペンダントを白の女王に渡すであろうことを
見抜いておったんじゃろうな。
よりによって、わしの姿で出現するよう仕掛けてあった。
わしは今、ペンダントの中に魂魄を移しておるが、トラップ発動時は、
ペンダントの支配権を奪われてしまうんじゃ。
じゃが、上手くいったようじゃの」
「上手く?どこが??美琴姉ちゃんは殺されかけたし、わたしは
セリスティアリア王国に来ちゃったし、いいこと何も無いよ?」
「黒の女王と白の女王は姉妹じゃ。本気で殺すつもりは無い。
それは心配いらん。
それより、今、セレスティアリア王国に地球人が入ることを嫌う
女王によって、地球人は締め出されておる。
そんな中、あずきをセレスティアリアに送り込むには、トラップを
利用するしか無い。まさに、千載一遇のチャンスじゃった」
「……わたしに何をさせたいの?」
「二人の女王を和解させる。それこそが、白の女王との盟約なのじゃ」
「だけじゃないでしょ?
黒の女王に地球人のこと認めさせるのと、黒の女王を無事転生させる
こともでしょ?」
「そこまで出来たら満額回答じゃが……」
「さてと」
あずきが立ち上がる。
「目標は見えたとして、ご先祖さま、わたしは今、何をしたらいい?」
「そうさのぅ。とりあえずは黒曜宮にでも潜入してみるか。
黒の女王と直接対談するんじゃ」
「だったら、捕まっちゃったほうが早くない?」
「それじゃと、牢屋一直線じゃの。二人きりで話せる場が欲しいからのぅ」
賢者の姿は煙に変わり、あずきが首から下げたペンダントに
吸い込まれた。
一方その頃、黒曜宮。
「少女一人見つけるのに、何を手こずっておるのか!!お前たちの目は節穴か!!」
黒の女王、セレスティア=リーアが目の前に居並んだ重臣たちを叱咤する。
「しかし女王陛下、アクバラ地区、ベルファット地区、カプリシオ地区、
全てくまなく探しましたが、地球人の姿はおろか、地球人特有の
魔法反応さえ確認出来ませんでした。
本当に、セレスティアリアに来ているのでしょうか」
大隊長と思しき、房の付いたカブトを被った黒鎧の兵隊が問いかける。
「妾を疑うか!!!!
我が分魂にくっついてきおったから、間違いなくこちらに来ている。
やはり、賢者が邪魔しておるのじゃな。いまいましい。
とにかく、草の根分けても探し出し、我が前に連れて……何じゃ、これは」
ゴゴゴゴゴゴゴゴ…………。
雷のような音がする。
重臣たちもそれに気付き、慌てだす。
それを尻目に、黒の女王が執務室を走って出た。
そのまま回廊に出て、外を見る。
空が赤く光っている。
赤黒く厚い雲の中を、雷光が激しく行き交っている。
「時空振じゃ。誰かが大規模転移してくるぞ。大至急兵を集めよ!!」
ドカーーーーーーーーーーン!!!!!!
稲光と大量の煙を纏って黒曜宮の中庭に現れたのは、白い鎧を着た軍隊だった。
100人くらいはいるだろうか。
そしてその軍隊を率いて仁王立ちした人物は……。
「ルーナ……あの子ったら!!」
黒の女王の顔が歪む。
軍隊を率いて中庭に転移した人物は、地球人名、月乃美琴。
またの名を、ルーナ=リーア。
白の女王、その人だった。
黒の女王は、怒りの表情を浮かべ、ドレス姿のまま、回廊から無造作に
飛び降りた。
回廊の高さは30メートルはある。
一般人が魔法も使わずにそんな落下をしたらまず死ぬ。
だが、着地直前、急速にスピードが落ち、女王は足から音も立てずに降りた。
漆黒のドレスが翻ることすら無かった。
歩いて白の女王の前に行く。
5メートルの距離で二人の女王がにらみ合った。
黒の鎧を着た、黒の女王の軍隊が200人ほど、すかさず後ろに回り込む。
両軍の兵隊たちの緊張が高まる。
口火を切ったのは、白の女王、ルーナ=リーアだった。
「あずきちゃんを返して」
「あずき?……あぁ、あの少女か。なぜあんな少女にこだわる」
「あの子はわたしの妹も同様の子なの。無事に家に帰してあげる義務があるの。
さぁ。帰して!!」
「ふむ。お前の妹なら、妾の妹でもあるわけだな。
ならお前の元に帰す必要はあるまい?
長姉たる妾が可愛がっておくゆえな」
「セレス姉さま~~!!!!」
白の女王、ルーナの体を白い雷が走る。
黒の女王、セレスティアの体を黒い雷が走る。
「対人戦闘用C装備にて抜剣!!」
緊張に耐えかねたのか、白の女王の軍隊の隊長が叫ぶ。
白の女王の軍隊が一斉に剣を構える。
黒の女王の軍勢が目を見合わせる。
「対人戦闘用C装備にて抜剣!!」
黒の女王の軍隊の隊長が叫んだ。
両軍の隊長の目が絡み合う。
緊張が一気に高まる。
「突撃!!」
「突撃!!」
そして、戦闘が始まった。
初心者の試練が終わったのに、あずきはまだ家に帰れません。
もうちょっとだけ、お付き合いしてもらいます。
さてさて、あずきは、両軍の戦闘を止められるか。
次回も乞うご期待♪




