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あずきとおはぎと月の女王  作者: 皇 瑠奈
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第22話 魔法庁と土の試練

【登場人物】

野咲(のざき)あずき……12歳。小学6年生。日本とイギリスのハーフ。

おはぎ……黒猫。あずきの飼い猫。

姉小路(あねこうじ)……魔法庁の役人。三十路(みそじ)のダンディ。

西園寺祥子(さいおんじしょうこ)……ルナリア魔法学校中等部2年生。

「いや~、ハッハッハ。随分待っちゃったよ。エアリアル先生にも困ったものだ。

 後日、説教だな」


 ダンディな声で、スーツ姿の長身男性が笑った。

 あずきは横目でチラっと周囲を見回した。


 円形闘技場(コロッセウム)だ。

 直径200メートル程度の広さのフィールドを中心に、階段状の観客席が

 並んでいる。

 ただし、空にも地面がある。

 つまりここは、巨大洞窟の中に作られた、地下闘技場というわけだ。

 

 思った以上に観客がいた。

 バインダーやタブレットを持ったスーツ姿の人たちは、おそらく魔法庁の

 役人だろう。

 あずきと同じ制服を着た子たちもいる。

 でもあれは、先輩たちだろうな。

  

 予想通り、客席には、おじいちゃんたち酔っ払い三人組と、お目付け役を

 兼ねているのか、祥子先輩もいる。

 こちらが気付いたことに気付いたようで、老人たちが三人揃って、

 手を振っている。

 見学って言ってたから、どこかで見に来るとは想定してたけど、ここでなんだ。

 

「あなたがこのステージの担当官なんですか?姉小路(あねこうじ)さん」

「そう。ここが、初心者の試練における、最終ステージだ。

 初心者魔法使いは、この試練を通じて、各属性の力を入手する。

 担当官は属性毎に何人かいるんだが、魔法庁が新人のレベルに応じた担当官を

 決める。

 でも、キミは期待のルーキーだ。

 なにせ、賢者をも輩出した、バロウズの血族だからね。

 ボクもキミがどれだけ使えるのか興味あったから、今回、無理を言って

 ねじ込ませて貰ったんだ」


「ってことは、このステージの内容は『戦闘』ということですね」

「そう。ガチバトルってやつだ。それでキミの実力を確認する。

 あ~、でも、ボク個人が戦うわけでは無いんだよ」

「どういうことです?」

「こういうことさ!!」


 姉小路が両手のひらを地面に付けた。

 そこで初めて、姉小路が見覚えのある石の付いたペンダントを首に

 掛けていることに気付いた。

 姉小路の呪文詠唱に反応し、石が光を発する。 

 青色の宝石?まさか、ゴーレムの(コア)


 ゴゴゴゴゴゴゴゴゴ!!!!!!


 姉小路が手を当てた場所を起点とし、地面に光が走った。

 それまで何も無かった地面に、あっという間に巨大な魔法陣が描かれる。

 あずきは慌てて飛び退いた。 

 

 魔法陣を通して、土で出来た巨大な頭がせり上がってくる。

 そして、そのまま、腕、胴、腰、足と、全身が現れる。

 全てが現れたとき、それの頭は、あずきの遥か頭上にあった。

 川で見たものと同じくらいのサイズだ。

 それは5メートルもの身長を持つ、ゴーレムだった。


 あずきに恐怖が蘇った。

 魔法世界に来たばかりのとき、河原で襲ってきたゴーレム。

 あまりの恐ろしさに、身動き一つ出来なかった。

 助けが入らなかったら、あそこで死んでいたかもしれない。

 その恐怖は、今なお、あずきの心の奥底に(くすぶ)っている。 


 落ち着け、わたし。

 今のわたしは、あのときのわたしじゃないでしょ。

 それなりに場数も踏んだ。

 パワーアップも果たした。


 何より、一人じゃない。

 精霊が助けてくれる。

 だから。 

 今、わたしは、あのときの弱かったわたしを超える!!


 そんなあずきの葛藤を知ってか知らずか、姉小路が説明を続ける。


「これは、ボクが仕事が終わって帰宅してから、あるいは休日とか、

 暇を見つけては、コツコツ丹念に丹念に作り、練り上げたゴーレムだ。

 10年ものだよ?

 

 ボクは学生時代から土属性の成績が良くってね。

 これが通算、12体目のゴーレムになる。

 自信作だよ。名付けて『デク12号』だ。

 これを相手に戦ってもらう。

 

 なに、10分間()ってくれればいいだけさ。

 養護スタッフもいるし、周りは魔法使いだらけだから、怪我をしても、

 あっという間に治る。

 ただ、失望だけは、させないでくれよ?」

 

 よほど自信があるのだろう。

 姉小路が不敵に笑う。


「観客席にゴーレムの破片が飛び込んだら?」


 あずきは、姉小路の余裕ぶった大人な態度が(しゃく)(さわ)った。

 実際、子供なのは間違い無いのだけれど、上から目線で、あからさまな

 子供扱いをされるのは嫌なのだ。


「ほ。ボクのゴーレムを砕くつもりかい?それはまた、随分自信があるようだが、

 まぁいいだろう。魔法バリアが施してあるから、物理的な攻撃も魔法攻撃も、

 一切観客席には届かない。安心したかい?」

「はい、安心しました。これで全力を出せます」

「では。スタートだ!!」


 姉小路が飛び退く。

 ゴーレムがゆっくり右手を振りかぶった。

 この後、あずきに向かって、全身のバネを使った渾身のストレートを

 放ってくるだろう。

 当たれば大怪我、間違い無い。

 だが、あずきはその場から動かなかった。

 一瞬で杖との対話に入る。


 あずきは、暗闇の中、フヨフヨ浮いている土の精霊の前に立った。


 祥子先輩には悪いけど、わたし、あぁいう大人ぶった人って嫌いなの。

 同じ目線で真摯に話してくれる人が好き。

『大人でござい。胸を貸してあげるから、かかっておいで』な~んて偉そうに

 ふんぞり返る人の鼻っ柱を、ベッキベキに、へし折ってあげたいのよ。 

 力を貸してくれる?


 あずきは暗闇の中、両手を開いた。

 土の精霊が一際大きな光を発し、胸元に飛び込んでくる。

 一緒にやっつけちゃおう!!

 

 精霊との一瞬の対話を終え、現実に戻ったあずきは、右手に持った短杖(ウォンド)で、

 目の前に素早く魔法陣を描いた。

 そのまま杖を頭上に向ける。

 ゴーレムの真上。

 天井にあずきの描いた魔法陣が、そっくりそのまま投影される。


 ゴォォォォォ!!!!!


 ゴーレムのパンチが迫る。


「テッラ アウディボーチェム(大地よ、我が声を聞け)」


 天井の魔法陣が光る。

 あずきは天井の魔法陣の発動を確認し、再び、短杖(ウォンド)をゴーレムに向けた。


「ジガス マヌス(巨人の手)!!」


 ドッカーーーーーーン!!!!!!!!


 土煙が、もうもうと立ち上がる。

 姉小路が身を乗り出すのが見える。

 観客たちも、何が起こったか確認しようと身を乗り出す。


 監視官の誰かが、風の魔法を使ったのだろう。

 土煙がすぐ消え去る。

 土煙が消え去ったあと、そこにあったのは……。


 右腕を前に、腹ばいで倒れている身長5メートルのゴーレムと、

 天井から生えた、岩で作られたと思しき、巨大な拳だった。


 拳は、差し渡し5メートルはありそうだ。


 メガトンパンチの途中で、上空から攻撃を受けた為だろう。

 ゴーレムの右腕は、無残にも押し潰されていた。

   

 シーーーーーーン


 観客も監視人も、姉小路さえも、口をあんぐり開けている。

 だが、あずきはこんな程度で止めるつもりは無い。


「ジガンテス ペデス(巨人の足!!)」

 

 巨大な拳があっという間に天井に吸い込まれ、代わって猛スピードで

 降りてきたのは、こちらも岩で出来た、巨大な右足だった。

 つま先からかかとまで、パッと見、拳の3倍。15メートルはありそうだ。

 

 ドッカーーーーーーン!!!!!


 腹ばいに突っ伏したゴーレムの体が、天井からの圧倒的な質量によって、

 地面にめり込む。


 巨人の足が、ゆっくり上がる。

 衝撃でゴーレムの胴体が真っ二つになっていた。

 姉小路の顔が真っ青になるのが見える。


「ジガンテス ペデス エレペティティオ(巨人の足、連打!!!!)」


 あずきの呪文詠唱により、巨人の足が再び猛スピードで降りてきた。


 ガンガンガンガンガンガンガンガン!!!!!!!!!!!


 踏み潰し攻撃が止まらない。

 天井から生えた巨人の足は、高速でその場足踏みをした。

 

 横たわったゴーレムの体を、圧倒的質量を持った巨大な足が、

 容赦なく踏み潰す。 

 そして1分後、ようやく、その場足踏みが終わった。


 監視人の風魔法が連続して吹いているせいで、視界が良好な為、

 闘技場にいる全員が何が起こったか、今回は、はっきり見ることが

 出来たようだ。 

 

 姉小路の作ったゴーレム『でく12号』は、粉々のバラバラになっていた。

 そこにあったのは、原型を全く留めていない、ただの土塊(つちくれ)だった。


 闘技場にいる誰も彼もが、口をあんぐり開けたまま、棒立ちしている。

 誰が想像したろうか。

 数日前に魔法に覚醒したばかりの初心者魔法使いが、

 魔法庁のベテラン魔法使いを完膚なきまでに叩き潰すなどと。 


 信じられないレベルのジャイアントキリングを見た観客が、

 ザワザワし始める中、姉小路だけは違う反応を見せていた。 

 

 さめざめと、静かに泣いていた。

 時間を見つけ、10年掛けてコツコツと作り上げた自信作が、たった5分で

 粉々にされたのだ。

 泣きたくもなるだろう。

 

「……やりすぎじゃない?あずきちゃん。泣いちゃったよ?姉小路さん」


 おはぎがあずきの隣で羽ばたきながら言う。


 と、近くにいたタブレットを持った女性監視人の一人が、ツカツカとあずきに

 歩み寄り、その手を取って、頭上に挙げた。


「ウィナー!!野咲あずき!!!!」


 その声で皆、正気に戻ったか、大歓声が湧いた。

 あずきは、手を挙げられたまま、そっと安堵のため息をついた。 

 これでようやく、初心者の試練が終わった。

 旅が終わったのだ。



はい。4つの試練が終わりました。

次回、いよいよ月の女王とご対面です。

何が起きるのか。

次回も乞うご期待♪

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