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あずきとおはぎと月の女王  作者: 皇 瑠奈
22/29

第21話 風精エアリアル

【登場人物】

野咲(のざき)あずき……12歳。小学6年生。日本とイギリスのハーフ。

おはぎ……黒猫。あずきの飼い猫。

「何これ?」


 転移したあずきのすぐ目の前に、扉があった。 

 どう見ても玄関ドアだ。

 郵便受けまで付いている。 


 振り返ると、そこには道路があった。

 住宅街のようで、車の通りは少ないが、人は普通に歩いている。

 え?何これ。アパート?

 わたし、誰かの住んでるアパートの前に転移しちゃったの?

 接続ミス?? 

 あずきが軽く混乱しているそのとき。


『きゃ~~~~~~!!!!』


 悲鳴だ。

 目の前の部屋の中から女性の叫び声が聞こえた。

 あずきは反射的に、ドアノブを握った。

 ドアが開いた。

 鍵が掛かっていなかった。


「ごめんなさい、お邪魔します!!」

 

 三和土(たたき)で靴を脱ぎ、ガラス製の引き戸を開けると、そこは8畳程の

 真っ暗な部屋だった。

 唯一の明かり、テレビの前に置かれた座椅子に、赤いジャージの上下を着た

 髪の長い女性があぐらをかいて座っている。


 あずきは、用心しつつ、部屋に入った。

 冷気でヒンヤリする。

 女性は、あずきの存在に全く気付いていないようだ。


 女性は悲鳴を上げながら、ゲーム用コントローラーを振り回している。

 あずきは画面を見た。

 あずきもやったことのあるレーシングゲームだ。


 と、女性の操る車が、NPC車の妨害攻撃で吹っ飛ばされた。


『いや~~~~!!やめて~~~~~~~~!!!!!!』

 

 ゲーム? 

 あずきは思わず、おはぎと顔を見合わせた。


 女性の操る車が大ジャンプに失敗して、水に突っ込んだ。


『あぁ、もぅ!!追いつけない!!』


 そのステージは、あずきが得意としているところだ。

 隅から隅まで知り尽くしている。


「あ、そのまま進んで、右に出てくるワカメの群生地に突っ込んでください」


 あずきが思わず口を出す。

 女性がギョっとして振り返る。


『え?あなた誰?いつからそこに……』

「そこ!!ハンドル右に切って!!」

『あ、はい!!』


 ワカメの裏には岩盤をくり抜いて作られた通路があった。

 しばらく走って、通路を抜けると、いつの間にか先頭集団を追い抜いていた。

 シークレットのショートカット用通路だったらしい。

 車はそのまま、1位でゴールした。


『凄い!!凄い!!初めて1位取った!!!!!』


 女性がコントローラーを放り投げて、あずきに抱きついた。


「え、いや、あの、はい。おめでとうございます。

 えっと、それでこれはどういう……」

『え?……あぁ、ごめんなさい。初クリアが嬉しくってつい。

 ……ところで、あなたどなた?』


 あずきは思わず、おはぎと顔を見合わせた。


「わたし、初心者の試練に来たんですけど、なんか間違って繋がっちゃった

 みたいで」

『初心者の試練?あちゃ〜、すっかり忘れてた。確か、野咲あずきさんよね?

 うん、ここで合ってるよ。ごめんなさい、お出迎えもせずに』

「いえ、それはいいんですけど……。とりあえず、電気点けてもらって

 いいですか?」


 女性が慌てて立ち上がり、部屋の中央上部に付いているライトのヒモを

 引っ張った。

 格子の入った、どことなく古臭さを感じさせる和柄のライトだ。

 室内がようやく明るくなる。


『わたしは風精エアリアル。ようこそ我が家へ』


 エアリアルが8畳部屋の真ん中で、胸を張る。

 その頭上で、ライトのヒモがプラプラ揺れている。

 威厳もへったくれもない。

 風の精霊?普通のお姉さんにしか見えないけど。


 あずきはエアリアルの格好を頭から爪先まで、しげしげと眺めた。

 

 髪はボサボサ。

 掛けているメガネは、べっ甲のような赤っぽいフレームで、レンズはまるで

 牛乳瓶の底だ。

 着ている赤いジャージの胸には校章が付いている。

 どうやら、中学校のジャージを室内着として再利用しているようだ。

 その校章のすぐ脇に、カピカピのご飯粒が付いている。  

 そんな格好でドヤ顔をされても……。

 

 あずきは失礼とは思いながらも、室内を見回した。

 男性の気配は毛ほども感じなかったので、基本、女性の一人暮らしで間違いは

 無いのだろうが、これが女性の部屋なら、住人はとてつもなく

 ズボラなのだろう。

 積み上げられたコミック本や、脱ぎ散らかした服がそこかしこに

 散らばっている。

 あんまり、頓着しない人なんだな、この人。

 あずきは、そんなことを考えた。


『えっと、この辺りに座布団があったはず……。あ、あった、あった。

 まぁ座って楽にしてよ』


 エアリアルが脱ぎ散らかした服の下から座布団を発掘し、あずきの前に置く。

 だが、臙脂色(えんじいろ)の座布団は、何かスープでもこぼしたのか、茶色い染みが

 比較的広範囲に渡って付いている。

 普段、母親からガサツだと叱られることの多いあずきではあるが、さすがに

 この座布団にそのまま座るのは躊躇(ためら)われたので、微妙に染みを避けて座った。

 

『ちょっと待ってね。お茶持ってくるから』


 バコン。


 エアリアルは台所に行って、隅に置いてあった箱を開け、

 そこからペットボトルを2本出し、あずきの前に1本を置いた。

 500mlのペットボトルだ。

 箱買いしてあったらしい。

 

 あずきの戸惑いを他所に、エアリアルは自分の分のペットボトルを開け、

 そのまま無造作に口を付ける。


「あの、エアリアル……さん?」

『エア、でいいわよ』

「は、はい。じゃ、エアさん。あの、わたし、試練を受けに来たんですけど、

 何をすればいいですか?」

『あぁ、試練ね。うんうんうん、大丈夫、ちゃんと考えてあるから』


「訓練ステージはこの近くなんですか?まさか、この部屋の中ってことは

 無いですよね?」

『ん~、まぁそうなんだけど。……外、暑かった?』


 エアが明後日(あさって)の方を向きながら聞く。


「そりゃまぁ、夏ですし」

『だよね~。……外、出たくないな~』

「は?」

『クーラーの効いた部屋でグデグデしていたい』


 エアリアルが部屋の隅に置いてあったベッドにダイブする。


「え?ちょっと」

『むしろ、働きたくない』

「わたしの試練はどうなるんですか」

『あ、いい、いい、そんなの。はい、あげる~」


 風精エアリアルが、ベッドに突っ伏したまま、右手の指をあずきの方に向けた。

 その指から、そよ風が流れてくる。

 あずきは、慌てて、懐から短杖(ウォンド)を出し、エアリアルの方に向けた。

 風の力が無事入ったようで、短杖に付いている青い宝石、ゴーレムの(コア)

 光を放ちつつ、脈動する。


 あずきの口があんぐり開く。

 あまりに簡単に、パワーアップしてしまった。


「エアさん、ひょっとして……引きこもりさんなんですか?」


 ベッドで、グデグデしているエアリアルの体がビクっと震える。


『……ヤダナァ。ソンナコトナイデスヨ?』

「今、お昼ですよ?窓のシャッターも開けず、ゲームですか?不健康ですよ」

『だって今日、お休みだもん。休みの日は休むんだもん』

「わたしの訓練は、お仕事じゃないんですか?月の女王様から報酬

 貰ってるんじゃないんですか?」

『貰ってる……』

「じゃ、ちゃんとやりましょうよ」

『だって、外、暑いんだもん』


 堂々巡りだ。

 これでは、どっちが子供だか分からない。

 あずきは無言で窓に近寄った。

 カギを開け、シャッターを押し上げる。

 外の光が入って、一気に部屋が明るくなった。


『眩しい!!体が溶ける!!』

「溶~け~ま~せ~ん!!」


 あずきは仁王立ちして、周囲を()めつけた。

 まっすぐ台所に向かう。

 シンクは、使用済みの食器が山となっていた。

 次にあずきは、冷蔵庫を開けた。

 中を確認し、うなずく。


『あの~~、何をしているんです?』


 あずきの雰囲気から、ただならぬものを感じたのか、エアリアルがベッドから

 身を起こす。

 あずきが、キっと振り返る。


「わたしは台所を掃除します。掃除が終わったら何か作ってあげます。

 お腹減ってるでしょ?」

『減ってる。あぁでも、台所に箱買いしたカップ麺がまだあったはず。食べる?』

「たまに食べるならいいけど、そればっかりだと栄養が偏ります。

 何か食べたいものありますか?」

『あ、じゃ、冷やし中華!!』

「では、材料を買ってきてください」

『え?スーパー行くの?暑いよ?』

「買ってきて下さい!!」

『……は~~い。で、何買えばいいの?』


 あずきが思わずため息をつく。


「麺、キュウリ、卵、トマト、ハムがあれば」

『あれ?卵無かった?』

「振るとカラカラ音がする卵ですか?何ヶ月前のものですか、あれ。

 あんなの食べたら、お腹壊しますよ」

『あやや。ダメだったか。えへへ』


「ついでに好きなオヤツ買っていいですから、さっさと行ってきてください」


 エアリアルがサンダルを履いて、慌てて出ていった。

 赤いジャージのままだ。

 おはぎがそれを見送る。


「あれ、風精さんでしょ?顎で使っていいの?」

「いいの。さ、台所、綺麗にするよ」


 あずきは台所のゴミの片付けから始めた。




『ただいま~~。ひぃ~~~。』


 30分後、汗をカキカキ帰ってきたエアリアルから買い物袋を受け取る。

 予想通り、アイスが入っている。

 苦笑いを浮かべるエアリアルを他所に、冷やし中華の材料を取り出す。


『すっごい。シンク、ピカピカじゃん』

「ゴミは、分別しておきました。後日、忘れずに出してくださいね。

 では、料理に取り掛かります。20分もあれば出来るので、

 テーブルの上を開けてください」

『オッケー。』


 リビングをエアリアルに任せ、あずきは料理に取り掛かった。




『あ~美味しかった。あずきちゃん、料理上手いねぇ』


 エアリアルが膨らんだお腹をポンポンと叩く。


「母に仕込まれましたから。それより、お腹が落ち着いたら、リビングの

 片付けやりますからね」

『リビング?……片付いてるよ?』


 あずきが、部屋の隅でこんもりと山になっている衣類を指差す。


「これは、洗濯済みですよね?畳んでタンスにしまいましょうよ」

『あはは。でも、しまうの面倒くさくって』

「こっちの山積みになっている本。本棚が所々(ところどころ)開いてるってことは、

 読んだ後、戻してないってことですよね?戻しましょうよ」

『読みたいとき、手を伸ばしたところにあったら便利じゃない?』

「じゃ、何のために本棚があるんですか。使い終わったら片付ける。

 基本でしょ?」

『えへへ』

「わたしが来たからには、徹底的にやりますからね。覚悟してください」

『は~~い』




 それからたっぷり二時間掛けて、ようやく部屋が片付いた。


『おぉ、わたしの部屋ってこんなに広かったのね。知らなかった~~』


 あずきがため息をつく。


「わたしは初心者の試練を受けに来たはずなんですけど、なんで掃除

 やってるんだか。この部屋の状態、少しでも長くキープしてくださいね」

『が、頑張る。それよりさ、あずきちゃん』

「はい?」

『お嫁さんになって!!』

「はぁ????」


 エアリアルがあずきに抱きつく。

 おはぎが思わず目を白黒させる。


「ちょっと!!エアさん、お手伝いさんが欲しいだけじゃないですか。

 ちゃんと自分でやってください!!」

『あはは』

「さてと……」


 あずきは三和土(たたき)で靴を履いた。

 おはぎがすかさず、あずきの肩に飛び乗る。


「思ったより時間取っちゃいました。では転送をお願いします」

『また来てね。いつでも待ってるから』


 エアリアルが右手で指をパチンと鳴らした。

 エアリアルの姿が、一瞬で変わった。

 深みのあるグリーンのドレスは、マーメイドラインがエレガントさを

 際立たせている。

 髪は、さっきまでのボサボサがどこへやら、高めのシニヨンで、

 ティアラまで付けている。

 コンタクトに変わったのか、赤渕の瓶底メガネも付けていない。

 貴族のお姫様といった出で立ちだ。


「……やれば出来るじゃないですか」


 エアリアルがフフっと微笑む。


「これが、8畳一間じゃ無ければ、もうちょっと良かったんですけど」

『それは言いっこ無しで』


 あずきとエアリアルは揃って笑った。


『旅の無事を祈っています。また会いましょう』

「はい。ではまた!!」


 あずきの姿が空に消えた。



ノリノリで書いてます。

え?風の試練、こんなんでいいの?って思われるかもしれませんが、

いいんです!!

ちなみに、『あずき』に出てきた名前付きの登場人物は、

基本、一回の出番で終わる人は、いません。

使い捨てはしません。

なので、エアさんとも、どこかでまた出会えると思ってください。

そのときの為の伏線とでも思って頂けたら。


次回、土の試練では、ガチバトルします。

それが終われば付きの女王に会えます。

ということで、次回も乞うご期待♪

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