第19話 翼猫おはぎ
【登場人物】
野咲あずき……12歳。小学6年生。日本とイギリスのハーフ。
おはぎ……黒猫。あずきの飼い猫。
イフリート……炎の魔神。
「おはぎ~~~~!!!!!!!!!」
高速で飛ばしている箒は急に止まれない。
力技で箒の進路を変えて振り返ったあずきの目に入ったものは。
溶岩の海に落ちることなく、背中に生えた羽根で羽ばたいている、
おはぎだった。
「あんた……それ、羽根?」
「うん、なんか生えた……」
少し赤みがかった黒の毛並みに、コウモリのような漆黒の羽根が
一対生えている。
『よそ見をしている場合か!!』
次の瞬間、またイフリートの火炎弾が雨あられと飛んできた。
あずきは火炎弾を避けつつ、その場で羽ばたいているおはぎの
首根っこを掴んで、箒の柄に乗せた。
高速でその場を離脱する。
「なんで?いつから??」
「ん~~、さっき?いや、ちょっと前から背中がムズムズしていた
んだけどね?
多分これ、あれだ。あずきちゃんのパワーアップに応じて、
使い魔のボクもパワーアップしたんだと思う。
あずきちゃんの魔力も流れ込んで、色んなことが出来るようになってるし」
「例えば?」
「あずきちゃんの魔法を中継出来る」
「……それ、使えそうね」
「……だね」
あずきとおはぎが揃って、悪巧みの表情をする。
『さて、そろそろ5分経つが、手詰まりか?現在の力量を測るのが
目的だから、降参してもいいんだぞ?』
「冗談!!降参なんか絶対するもんか。最後まで全力でいくよ!!」
あずきの表情は死んでいない。
まだまだ戦える。
『よかろう。どんな策を思いついたか知らないが、やってみせるがいい』
イフリートはニヤリと笑って、両手をあずきに向ける。
『フレイム バレット(火炎弾)!!』
今度は両方の手から火炎弾が飛ぶ。
片手のときの倍、火炎弾が飛んでくる。
まさに、弾幕と呼ぶにふさわしい。
あずきは慌てて、箒のスピードを上げた。
おはぎが箒の上で何ごとか、ぶつぶつ呟く。
呟く度に、広間のあちこちに直径1メートルくらいの白い雲が浮かぶ。
10個はあるだろうか。
様子を見ていたイフリートが火炎弾を放ちながら、怪訝そうな表情を
浮かべる。
あずきは短杖を強く握った。
一瞬で杖の内面に接続する。
暗闇の中に、杖に封じられた四種の精霊が見える。
すなわち、火の精霊、水の精霊、風の精霊、土の精霊が、プカプカ
浮かんでいる。
あずきはその中の一つ、水の精霊に手を伸ばした。
ちょっと強い力を使うよ。手を貸してくれる?
水の精霊がうなずく。
あずきは魔法陣を描いた。
水の精霊が力を貸してくれているからだろうか。
心なしか、魔法陣が強く脈動している感じがする。
「準備完了!!」
「準備完了!!」
あずきとおはぎの声がハモる。
「グラシス テンペスタス デュエット(氷の嵐 連弾)!!」
あずきの詠唱に応じ、魔法陣から、氷雪で出来た猛烈な嵐が飛び出す。
ところが。
氷の嵐は、いつの間にか、あずきの前に配置された白雲に吸い込まれた。
次の瞬間。
氷の嵐が、イフリートの頭上から襲いかかった。
『何だと!!!!!!』
イフリートが慌てて頭上に手を向け、氷の嵐の無効化を図る。
ところが、次の瞬間、今度はイフリートの左から氷の嵐が飛んできた。
頭上からの氷の嵐がまだ消えきってないのに、別の角度から攻撃が
飛んできたのだ。
避けれるわけもない。
イフリートの左半身に直撃する。
『馬鹿な!!そんなはずが!!』
イフリートは愕然として、あずきを見る。
あずきは呪文詠唱を止めていない。
何発、氷の嵐を放ったのか。
と、今度は後ろから氷の嵐の攻撃を受けた。
次は下からだ。
いつの間にか、イフリートは白雲に囲まれていた。
そう。あずきの放った氷の嵐は、おはぎの作った白雲に転移し、
ランダムな方角からイフリートを襲っていたのだ。
しかも、イフリートを襲った氷の嵐は、そのまま直線上の白雲に当たると、
今度は別の場所にある白雲から出て再度、イフリートを攻撃した。
『全方位攻撃だと!?』
あらゆる方向から同時に氷の嵐が向かってくるのだ。
いかに魔神とて、避けれるレベルを越えている。
イフリートは、あずきの放った氷の嵐をモロに食らった。
食らい続けた。
やがて攻撃が止んだ。
あずきの息が荒い。
箒に突っ伏しそうなのを、気力で姿勢を維持する。
箒のスピードもガクンと落ちている。
『参った。降参だ』
イフリートが両手を挙げる。
あずきはその声を聞き、ゆっくり通路に着地した。
『どれ、わたしを打ち負かした魔法使いに褒美を取らせよう。
受け取るがよい』
イフリートが右手の人差指をあずきに向かって伸ばした。
そこから小さな火の玉が、ゆっくりあずきに向かってくる。
あずきは短杖をイフリートに向けた。
なぜか、そうするのが正しい行いだと思ったのだ。
火の玉は、スっと杖に吸い込まれた。
杖の柄の部分にハマった青い宝石、ゴーレムの核が脈動する。
『お前の抱える火の精霊は、更なるパワーアップを果たした。
我が火の試練はこれにて終了だ。次の試練に向かうがよい』
見る間にイフリートの姿は薄れ、空気に溶けた。
火の精霊界に戻ったのだろう。
あずきはそれを見届け、通路を歩いて転移陣に向かった。
おはぎも一緒に通路を歩く。
「……ね、おはぎ。あんたのその羽根、生えっぱなし?」
「ううん。自由に出し入れ出来るみたい。日本に戻っても問題無いよ」
「そか。なら良かった」
あずきとおはぎは転移陣に乗った。
次の瞬間、転移陣は光を放ち、あずきとおはぎを別の空間へと転移させた。
「寒っ!!」
転移した途端、あずきは猛烈な寒さを感じた。
思わずキョロキョロ辺りを見回す。
転移先は、雪山だった。
晴れてはいるが、そもそもの気温が低いのだろう。
慌てて杖を出す。
「アグニ(火よ)」
あずきは体内に火を巡らした。
途端に寒さを感じなくなる。
見ると、おはぎも防寒対策をしたのだろう。
雪の上でも平気で歩いている。
あずきがレベルアップしたお陰で、おはぎも単体で色々やれるようになった。
便利便利。
あずきはふと、自分の気力が全快しているのを感じた。
「おはぎ、なんか、体力、魔力がフル回復してるんだけど、あんたはどう?」
「ボクも。転移ごとに回復してくれるんだね。お優しいことで」
「だから全力で戦えってことでしょ。楽はさせて貰えないでしょうね」
『そう構えなくていいよ。リラックス、リラックス』
不意に後ろから聞こえた声に慌てて振り返ると、そこには一人の女性が
立っていた。
大人ではない。
と言って子供でもない。
高校生くらいだろうか。
Gジャンにスキニーパンツで、シンプルにカッコいい装いだ。
見た目の年齢に対し高身長で、髪はショートボブ。
愛嬌のある美人タイプで、男性よりも、女性にもモテそうだ。
女性が手を振ると、その場にあっという間にガーデンテーブル一脚と
ガーデンチェアが二脚出来た。
あずきは駆け寄り、確認した。
雪で作られている。
『まぁ座んなよ。お茶でも飲もう』
女性はとっとと座り、肩に掛けていた保温ポットをテーブルに置く。
『こればっかりは雪から作れない。中身は紅茶だ。熱いから気をつけるんだよ。
甘くしてあるからね』
紅茶を注いだポット付属のコップを、あずきの方に押す。
『温まるよ』
あずきは素直にコップを手にする。
ふぅふぅしながら紅茶を飲む。
熱い。でも美味しい。
『あたしはここの試験官のヒルダ。みんなからは氷姫って呼ばれてる。
見ての通り、次のステージはこの雪山だ。
普通はここで、それぞれの属性の力を入手するんだが、あんたは既に持ってる
から、あんたの場合、手持ちの水の精霊がパワーアップすることになる』
「戦えないよ……」
『なぜ?』
「だって、人じゃないですか。下手したら大怪我しちゃいます」
『あっはっは。優しいね、あんた。
でも心配はいらない。あたしがこんなナリしてるのは、普段から街に行って
遊ぶのが好きだからさ。内実としては、イフリート同様、精霊の類に入る。
人間じゃない。極端な話、首を落としたって死にはしない。
ちょっとやそっとのことじゃ、怪我一つ負わないよ。
イフリートだってそうだったろ?』
「……分かりました。やります」
『そうこなくっちゃ』
あずきが立ち上がった瞬間、ガーデンテーブルとガーデンチェアが崩れて
雪に戻った。
ヒルダが右手の人差指を立て、その場でクルっと回す。
その動きに合わせて、あずきとヒルダを中心に、直径200メートル程の
円が描かれる。
雪上に魔法で描かれた青い円。
その先から真上に、薄青の結界が敷かれる。
結界を通して、向こうが透けて見える。
まるでオーロラだ。
『これがあたしの試練における設定範囲。そして今回の課題は……。
あたしを倒すことではありませ~~ん!!驚いた~??』
「……は??じゃ、何をしろって言うんです??」
『他の人は、どれだけダメージを与えられるかって内容になるんだけど、
あんたの今回の課題は、威力と正確さの制御。
この先、対人戦闘もあるでしょ。でも殺しちゃダメな場合もあるよね?
だから……』
ヒルダはふところから紙風船を出した。
それをその場で膨らませ、額に貼り付ける。
『可愛いっしょ、これ。街の雑貨屋で見つけたんだ~~』
ボーイッシュでカッコいいJKが額に紙風船を付けて胸を張っている。
シュールだ。
『この紙風船だけを壊すこと。
あんたはあたしを普通の人と思って、怪我させない威力でこの紙風船だけを
的確に攻撃する。要は、気絶させて相手の戦力を無効化するってイメージで
戦えばいい。
さっきも言ったけど、あたしは頭を吹っ飛ばされても死なない。
すぐに再生する。だから制限時間内に何度でもやり直しが出来る。
その間に相手に応じた、的確な威力と正確性を持った攻撃力を身につけるんだ。
制限時間は30分。
さぁ、行くよ!!』
ヒルダがその場で浮遊する。
箒を使うわけでもない。
何か別の魔法を使うわけでもない。
そうやって浮遊することが、さも当然のごとく、5メートルほどの高さに
浮いた。
「フォルティス ベントゥス(強風)!!」
あずきも箒に跨り、飛んだ。
月宮殿の試練、初戦は火のイフリートでした。
次は氷姫ヒルダです。
さぁ、あずきとおはぎはどうやって攻略するのでしょうか。
次回も乞うご期待♪




