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あずきとおはぎと月の女王  作者: 皇 瑠奈
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第17話 過去からの呼び声

【登場人物】

野咲(のざき)あずき……12歳。小学6年生。日本とイギリスのハーフ。

おはぎ……黒猫。あずきの飼い猫。

 ふと誰かに呼ばれた気がした。


 あずきは身を起こした。

 部屋の時計を見る。

 深夜1時。

 

 ベッドから起き上がり、窓際に行く。

 遠くの街明かりが見える。 

 どこの街でも、宵っ張りは居るのだろう。

 繁華街の方は、まだ煌々と灯りがついている。

 おはぎがそっと近寄る。


「あんたも気付いてた?」

「そりゃあね。ボクはあずきちゃんの使い魔だもの。そういった感覚は

 繋がってるよ」

「そっか。じゃ、行こう」

「うん」


 あずきは魔法学校の制服に着替え、ベランダに出た。

 風が暖かい。

 あずきの部屋は三階だ。


 地上からは、だいぶ高さがあるが、あずきは意にも介さず、箒を片手に

 飛び降りた。

 地上に着く前にヒラリと箒に跨り、一気に上昇する。

 

 10分程飛んで、目的地に着く。

 さすがにこの時間だと、人っ子一人いない。

 だが、ありがたいことに、等間隔に設置された街灯が、ある程度の明るさを

 提供してくれている。

 わざわざ魔法で灯りを灯さずに済む。 

 

 あずきは歩み寄り、見上げた。

 美しい女性と老人の像を。

 そう。ここはヴェンティーマ・ゲート記念広場。

 月の女王ルーナリーアと賢者エディオンの像が設置された噴水前だ。


 あずきは黙って、噴水の周りを一周した。

 反応無し。 

 あずきは少し考え、意を決し、足元が濡れるのも構わず、ズカズカと噴水に

 足を踏み入れた。

 水の深さは30センチ程しかないが、当然、靴はビショビショだ。

 おはぎもあずきの肩から飛び降り、噴水の縁で精神を集中させ、何かを

 探っている。

 

 あずきの足元、噴水の底面には、何も変わったところは見受けられない。

 様々な色や形をしたルーン硬貨がたくさん底に沈んではいるが、底面自体は、

 何の変哲もない普通のコンクリート施工だ。

 それっぽい切れ目も見受けられない。 

 

 だが、そこまでは織り込み済みだ。

 見て分かるようなものなら、今までに誰かが見つけている。

 それっぽい魔法の気配も感じない。

 だからこれは、あずきにだけ伝わった、波長のようなものだ。


「来たよ。呼んだでしょ?呼んどいて無視って無くない?入れてよ」


 あずきは虚空に向かって呼びかけた。

 夜、誰もいない広場で独り言を呟く少女。

 シュールこの上ない。

 

 次の瞬間、あずきの足元、噴水の底面がボゥっと光り輝いた。

 何の変哲もないはずのコンクリートの底面に緑色の光が走り、見る見るうちに、

 模様が出来上がっていく。

 噴水の縁を歩いていたおはぎが、すかさずあずきの肩に飛び乗る。

 模様が完成した瞬間、あずきの足元が消えた。

 

 ゆっくりとした落下感がある。

 が、あずきは心配していなかった。

 あずきを呼んだ主は、どんな意図を持っているか知らないが、自分との会話を

 望んでいる。

 であるならば、危害を加えるようなことは、しないはずだ。


 30秒程して、あずきの足は、ゆっくり床面に着いた。

 そのまましばらく周りの反応を待ったが、とりあえず目的地に着いたと判断し、

 あずきは懐から杖を取り出した。


「ルクス(光よ)」


 短杖(ウォンド)の先端から飛び出した光が、ゆっくりあずきの頭上に上り、

 辺りを照らし出した。


 そこは、教室三個分くらいの広さの部屋だった。

 床は石畳が綺麗に敷き詰められ、部屋の周囲は、紫紺(しこん)のゴシック調カーテンに

 覆われている。

 あずきの後ろの大きな扉がこの部屋の本来の入り口なのだろう。


 あずきは軽く部屋の周囲をサーチした。

 扉の外に、圧倒的な土の質量を感じる。

 壁の外側も同様。

 存在しているのはこの部屋だけのようだ。


 あずきの前方、突き当たりに三段だけの階段があり、そこにアンティーク調の、

 背もたれの高い椅子が一脚置いてある。

 どう見ても玉座だ。 

 あずきの足元から玉座に向かって、臙脂色(えんじいろ)のカーペットが伸びている。


 あずきは玉座の前の階段に座っている何者かの姿を見つけた。

 灰色のローブを纏っている。

 フードを目深に被っているせいもあって、あずきの位置からは、年齢も性別も

 判別不能だ。

 

 あずきは肩に乗ったおはぎと目を合わせる。

 二人してうなずき、それから、ゆっくり歩き出した。

 程なく、ローブを纏った人物の前に着く。

 

 ローブの人物を透かして、カーペットが見える。

 これは亡霊だ。

 生きている人間ではない。

 だが敵意は感じない。

 幽霊(ファントム)のような、こちらを攻撃する意思は感じられない。


「来たよ。わたしに何の用?」


 思い切ってあずきは声を掛けた。


 ローブの人物が、その場で立ち上がり、シワの濃く入った手でフードを払った。

 現れたのは、髪も顎ひげも見事なくらい真っ白な、老人だ。 

 背が高く、西洋風の顔立ちをしている。


「我が求めに応じし者よ、我れこそは……」

「賢者エディオン。エディオン・・・バロウズ」

「ほ。なぜ分かった?」


 老人が意外そうな顔をする。


「噴水の像の製作者を褒めてあげて。あなたそっくり。そしてその賢者の顔が、

 うちのおじいちゃん、『リチャード=バロウズ』にもそっくりだった。

 あれを見ちゃうとね」

「驚かんのか?」

「まぁ、ここに呼ばれたときから、何となくそんな気がしてたし」

「冷めとるのぅ。『え!?わたしがあの大賢者の子孫だったの!?』くらいの

 反応が欲しかったんじゃが」

「自分で言うかな」


 あずきが思わず苦笑する。


「それに、この地下への転移魔法。通常の魔法による仕掛けなら今までに誰かに

 見つけられてたし、そうじゃない仕掛けでわたしが呼ばれるとしたら、

 『バロウズ』の血に反応するタイプのものとしか思えない。それが決定打かな」


「なるほど、頭は悪くないようじゃの」


 老人がニヤリと笑う。


「む?学校の成績はあまり良くないのか?ふむ。我が(すえ)ともあろう者が、

 情けない」

「余計なお世話よ!!っていうか、幽霊のくせに、何でそんなことが分かるのよ!!」

「わしは大賢者『エディオン=バロウズ』じゃぞ?魂魄(こんぱく)だけの存在になったとて、

 そのくらい分かるわい」


 賢者が胸を張る。

 

「でも疑問が一つ。この街には今、おじいちゃんとおばあちゃんが来てるわ。

 バロウズ家の嫁に入ったおばあちゃんはともかく、直系のおじいちゃんになら

 反応してもいいはず。何で反応しないの?」

「ふむ。であるならば、魔法感知力(アンテナ)の差じゃの。初心者か熟練者か、という話

 では無くな。お主は初心者か。それでこの仕掛けに反応出来るなら、将来

 わし並みに強力な魔法使いになれる素養を秘めているということじゃな」

 

「なるほどね。で?本題。何の用よ、ご先祖様」

「あぁ、それじゃそれじゃ。お主に渡したいものがあっての。えっと……」


 賢者エディオンがローブの中に手を入れ、何かを取り出そうとまさぐる。

 まさぐる。

 まさぐる……。

 

 両手でパタパタ、ローブ中を(せわ)しなくまさぐっていた賢者の動きが不意に

 止まり、あずきを見る。

 引きつった笑みを浮かべている。


「……どこやったかのう、あれ」

「知るわけないでしょ!!」


 思わずツッコむ。

 幽霊にツッコミを入れる小学生など前代未聞だ。


「探しものは何?」

「ブルームーンストーンのペンダント、その名も、『ホワイトファング』じゃ」

「……なんか、中二病くさい・・・」

「何を言うか、小娘が!!このセンスが分からんか!!!!」


 賢者エディオンが口角泡を飛ばし、その場で地団駄を踏む。

 うわぁ……。


「あれは月の女王『ルーナリーア』から貰った貴重な石で、凄まじい力を

 秘めておるのじゃぞ!!」

「はいはい、分かった分かった、落ち着いて、おじいちゃん」

「全くもう。女子はこれじゃから!!」


「それでの?せっかく貰ったのにすぐ死んじゃったじゃろ?わし」

「らしいね」

「先々のことを見据えての譲渡じゃったのに、死んじゃったから計画は全て

 白紙じゃ。申し訳ないから返そうかと思って」

 

 先々のこと?賢者と月の女王との間に結ばれた盟約の部分のことだろうか。

 サマンサも、公にされていない部分があるって言ってた。

 何があったんだろう。


「え?何?子供のおつかいしろって?」

「だって子供じゃろ?」

「そうだけど」

「女王に会いに行くとこなんじゃろ?ならちょうどいいわな」

「別に引き受けてあげてもいいけど、肝心のペンダントが無いんじゃね」


 エディオンがしょんぼりする。

 大人なのに。

 賢者なのに。

 そういうとこ、わたしにウザがられたときのおじいちゃんに似てる。

 祖父を思い出して、あずきは思わず苦笑する。

 いいよ、探すの手伝ってあげる。


「ディプレーンショ(探知)」


 あずきが探知魔法で周囲の魔法反応を探る。

 特別な石なら、魔法の痕跡が残るはず。

 ここで反応が出るとしたら、あずきとおはぎと賢者とペンダント、4つだ。

 だが。


「別の場所に置いてきた可能性は?」


 反応は、あずきとおはぎと賢者の分、3つしか出なかった。


「それじゃと、もうお手上げじゃな」


 賢者が泣きそうな顔をする。

 もしこの部屋にあるという情報が確かなら、あと考えられる可能性

 としては……。


 あずきは持ってた杖で、賢者を指した。

 賢者がキョトンとした顔をする。


「そこ、どいて」


 杖の先をひょいひょいと、左に動かす。

 賢者が横に動くと……足元にペンダントがあった。


「おぉ、これじゃ、これじゃ。良く分かったのぅ」


 賢者がその場で小躍りする。


「ポケットに穴でも開いてるんじゃない?早めに繕っといたほうがいいよ」


 言ってから気付く。

 幽霊の服ってどうなってるんだろ。


「おほ~、ホントだ。穴が開いとった。指が出るぞい」


 探し物が見つかってテンションが上がっているのか、賢者がローブの

 ポケットの穴から指を出してみせる。

 

 ひとしきり喜んだ後、賢者はあずきを真っ直ぐ見た。

 まるで、心の奥底まで見透かすような瞳だ。

 さっきまでのギャグモードはどこ吹く風といった具合だ。


「わしはな、あえて乗ってみようと思ったのじゃよ」

「何の話?」

「おぬしは見事、ここまでたどり着いた。目ではなく血によってな。

 であれば、真贋を見抜くことも出来るじゃろう」

「ちょっと、ご先祖様?何言ってるかさっぱり分かんないよ?」

「向こうにとって千載一遇のチャンスでもあろうが、それは裏返すと、

 我々にとっても千載一遇のチャンスになるのじゃ」

「……ご先祖様?」


 賢者エディオンがあずきの手にペンダントをそっと握らせた。

 優しい目だ。


「自分の感覚を信じるんじゃぞ」

「は、はい……」


 あずきには一連の賢者の言葉の意味が、さっぱり分からなかった。

 だが、分からないように言うってことは、今は分からなくていい、

 いずれ分かるから、ってことなんだろうなと、自分に言い聞かせた。


「さて、では用件も済んだことだし、地上まで送ろう。良いかの?」

「あの……ご先祖様は、ここにいるの?」

「ん?今のわしは魂魄(こんぱく)じゃ。この場に縛られることなく、どこにでも行ける。

 誰かがわしを必要とするなら、それこそ、いつでもな。心配ない。

 ……優しいの、我が子孫は」


 賢者があずきの頭を撫でる。

 否、魂だけの存在なので、手を触れることは出来ないが、あずきはその手の

 温かみを感じた。


 あずきの足元に魔法陣が現れ、発光する。


「さ、行くがよい。お主の旅が無事に終わることを祈っておる。

 それと、ペンダント、頼んだぞ」

「さよなら、ご……」


「先祖様……」


 あずきは噴水の中に立っていた。

 既に、足元の魔法陣も消えている。

 別れの挨拶も最後までさせてくれないなんて。

 空気の読めなさは、バロウズの血筋ね。

 あずきはフっと笑って箒に跨った。


 

はい。賢者、出てきました。

そして、あずきとの関連性。

書いてていきなりその部分が頭に浮かんできて、こういう関係になりました。

でも、ある意味納得かなと。

さて、いよいよ次回、あずきが月宮殿の試練に挑みます。

どんな展開が待っているのか。

乞うご期待♪

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