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あずきとおはぎと月の女王  作者: 皇 瑠奈
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第11話 下水道追跡劇

【登場人物】

野咲(のざき)あずき……12歳。小学6年生。日本と英国のハーフ。

おはぎ……黒猫。あずきの飼い猫。

月宮奈々(つきみやなな)……22歳。東京タウンの婦人警官。エピソード0の主人公。

「ルクス(光よ!!)」


 あずきは前方に光を生み出した。

 下水道の中が光で照らし出される。


 思ってたよりも綺麗だ。

 しかも、通路の一本一本が、意外と広い。

 あずきがまだ小さいということもあるのだろうが、これなら頭をぶつける

 危険も少なそうだ。


 光のネズミとの接続はまだ繋がっている。

 目を閉じれば、光のネズミの見ている景色を共有出来るのだが、さすがに

 下水管の中を目を閉じて移動することは出来ない。

 ソナーだけ共有して、目はしっかり開けておく。 

 幸い、そんなに遠くない。


「複数の気配がするよ」


 おはぎがあずきの肩に乗ったまま、暗闇を睨みつける。 

 あずきはそれに頷き、ゆっくり歩きだした。




 近くまで来ている。

 光のネズミの反応が強くなる。

 あずきは灯していた光を消した。

 これ以上光らせておくと、相手に見つかる。


 目を閉じ、光のネズミと感覚を共有する。

 まぶたの裏に浮かんだ映像は、モコモコの毛皮に包まれたぬいぐるみのような

 容姿をした、身長30センチほどの生き物だった。


 ブラウニーだ……。 

 サマンサの授業で習った、森の隠れ里に住む種族、ブラウニー。

 木工細工や鍛冶が得意で、基本的に大人しい生活を送っている。

 でも、なんでこんなところに?


 ブラウニーは成人でも身長50センチ程度にしかならないが、このブラウニーは

 30センチ程だ。

 推察する限り、かなり若い。

 あずきと大差ないかもしれない。


 迷っていてもしょうがない。

 このブラウニーが老婦人のネックレスを盗んだことに変わりない。

 よし、やるか!!


 光度を限りなく落としていた光のネズミを一気に明るくさせる。

 ブラウニーの周囲が一瞬で昼間並みの明るさになる。

 

 あずきが駆け寄る。

 二匹いる??

 窃盗犯の後ろに、より小さなブラウニーがいる。

 窃盗犯にしがみついている。

 

「誰だ!!」


 左腕で光を遮った手前のブラウニーが、誰何の叫びと共に、あずきに向かって

 何かを投げた。

 ヤバい!!


「アクア パリエース!!(水の壁)」


 その場に急いで伏せたあずきの前に、下水が飛び出し、分厚い壁を作る。

 あずきに届く前に勢いを殺された投擲武器が、ゴトンと音を立ててその場に

 落ちる。

 鈍く光る刃。

 斧だ。

 あっぶな~~。

 

「ルクス カルチェレ(光の牢屋)」


 辺りを煌々と照らしていた光のネズミが弾けて、ブラウニーを一瞬で床に

 縛り付ける。

 苦鳴の声があがる。

 小さな方のブラウニーが駆け寄り、光の網を解こうと必死に引っ張るも、

 変化は無い。


 小さい方のブラウニーの顔が光に照らされる。

 その顔はかなり幼い。

 

 光の拘束が解けないと分かって、今度はあずきに向かって泣きながら懇願する。


「ごめんなさい。ごめんなさい!!お願い、お兄ちゃんを離して。もうしません。

 許してください」


「……この子たち、兄妹みたいだよ」

「兄妹?」


 あずきとおはぎの目が合う。


「……どうする?これ」




 あずきが警察署に戻ると、ちょうど老婦人が奈々から事情聴取を受けている

 ところだった。

「あ、ちょっと待っててね、あずきちゃん。今この方からの被害届を書いている

 ところだから」

 あの時の老婦人がこちらを見て、軽く頭を下げる。 

 あずきは一瞬逡巡した後、思い切って老婦人に頭を下げた。


「おばあさん、ごめんなさい!!」


 署内の視線が一斉にあずきに集まる。


「お探しものは、これ・・・ですよね」


 あずきは老婦人に向かって右手を差し出した。

 握りしめていた拳をゆっくり開く。

 その手に乗っているのは、緑色のネックレスだった。


「それ!!あなたが取り戻してくれたのね?」

「あずきちゃん、あなた……」


 老婦人と奈々が同時に声を挙げる。


 あずきからネックレスを受け取った老婦人が、それを胸に抱きしめる。

 涙が一筋、その頬を伝う。

「亡くなった主人がくれた大切なネックレスだったの。ありがとう、お嬢ちゃん」


 老婦人があずきの手を握る。

 温かい手。

 感謝の感情が伝わってくる。


「出ておいで」


 あずきは背後に向かって声を掛けた。

 柱の陰に隠れていたブラウニーが二匹、おずおずと出てくる。

 何が起きたかと、署員が集まってくる。

 ブラウニーが慌ててあずきの足にしがみつく。


「この子たち、半年前の交易で置いてけぼりになってしまったらしいんです。

 そして、戻ることも出来ず、ここの下水道に住み着いていました。

 以来、いけないことと分かりつつ、生きる為、窃盗を繰り返していた

 みたいです。

 ごめんなさい。この子たちに変わって、わたしが謝ります」

「あずきちゃんが謝ることじゃないでしょ?

 ブラウニーちゃんたち、反省してる?」


 しゃがんで目線の高さを合わせた奈々の問いかけに、ブラウニーが二匹揃って

 激しく首を縦に振る。


「細かな被害はまだしも、今回はこちらの奥様が被害届と懸賞金を

 出されているわ。

 何もしないというわけにもいかないの。奥様、どうされます?」

「情状酌量の余地ありですし、ネックレスが帰ってきた段階で、

 被害届は撤回させていただくとして……」


 老婦人が視線を奈々からあずきに移す。


「わたしは、西園寺響子(さいおんじきょうこ)。京都で呉服屋をやっている

 のよ。お嬢ちゃん、あなたのお名前教えてくださる?」

野咲(のざき)あずきです」

「野咲あずき……どこかで聞いた気がするのよね、その名前。

 それにあなたのお顔、どこかで……」


 西園寺婦人が考え込む。

 この人、うちのおばあちゃんと同じくらいの歳に見える。ひょっとして……。


「うちのおばあちゃん、オリヴィア=バロウズのお知り合いだったり

 しますか?」

「オリヴィア?あなた、オリヴィアのお孫さん?」


 途端に反応がある。

 やっぱりだ。


「どうりで見た覚えがあるはずだわ。オリヴィアが見せてくれた写真に写ってた

 お孫ちゃん、あの時の赤ちゃんがもう初心者の試練に挑む年齢になったのね。

 いやぁねぇ。歳をとるはずだわ」


 西園寺婦人が笑う。

 あずきも照れて笑う。


「わたしのところも魔法使いの家系でね。

 ルナリアタウンの魔法学校にいたときに、オリヴィアとクラスメイト

 だったのよ。ほんと懐かしいわ~。

 今でもたまに手紙や電話でやり取りをしているの。あなたが生まれたときも、

 帰国前にうちに寄って、写真を見せてくれたのよ」

「そうだったんですか~~」


 笑顔で語らう二人の様子を見た奈々が、婦人に何か耳打ちする。

 婦人が頷く。


「あずきちゃん、わたしね、懸賞金を懸けていたの。10万ルーン。その半分を

 あなたにお礼として差し上げます。これで汽車に乗れるはず。

 そして残りの半分で、あなたに一つ、依頼をしたいの。いいかしら?」

「なんでしょう。わたしに出来ることなら」

「このブラウニーちゃんたちを、故郷に届けてくださる?」

「え?」


 奈々が目を白黒させるブラウニーたちを、ヒョイっと抱え上げ、テーブルの端に

 乗せる。

 そのまま、テーブルに地図を広げる。


「半年前に交易に来たブラウニーなら、居住地は『ヴェルビアの森』のはず。

 ここからルナリアタウンに行く途中、『キライリ渓谷』で降りて進んだ先に

 あるわ。ここ。行ける?あずきちゃん」


 奈々が地図に当てた人差し指を東京タウンから滑らせて、ちょうど中間くらいで

 止める。


「はい!!」


「それと……無茶だけは絶対しないこと。今度無茶したら、お姉ちゃん本気で

 怒るからね!!」


 奈々が両手の平で、あずきのほっぺを優しく、でも容赦なく挟む。

 奈々の手の圧力で、あずきの口が蛸のように尖る。


「ふわ~い……お姉ちゃん。えへへ」




 翌朝。

 あずきは奈々に連れられて、駅に来ていた。

 目の前には汽車が停まっている。

 煙突から大量の煙が出ている。

 

「これが汽車なんだ」


 あずきは実は、汽車に乗るのは初めてだった。

 観光地の汽車もまだ乗ったことは無かった。

 

 ホームで棒立ちするあずきとブラウニーたちを避けるように、人々が汽車に

 乗り込んでいく。

 乗る人は意外に多いようだ。


「あずきちゃん、これ、お弁当。汽車の中で食べてね」


 奈々が買ってきた駅弁の包みを受け取る。


「ブラウニーちゃんたちの分もあるからね」


 奈々がブラウニーに向かって、小さく手を振る。 

 ブラウニーの兄妹が興奮顔でうんうん頷く。

 

「さ、そろそろ時間よ。乗って」

「は、はい」


 奈々に促されたあずきが、乗車扉を通り、汽車の中に入る。

 あずきは無事、乗り口のすぐ近くの四人掛け席を確保出来たようだ。

 奈々があずきが開けた車窓まで近寄る。


「あの、お姉ちゃん……」


 優しくて、でも時には厳しく叱ってくれ、愛情をたっぷり注いでくれる

 お姉ちゃん。

 昨夜、あずきは奈々のアパートに泊まらせてもらい、布団の中で一晩中話した。

 一人っ子のあずきにとって、奈々は理想の姉だった。


「何?」


 奈々が微笑む。


「……わたし、飛べたよ、自分の力で」

「……あずきちゃん、あなた覚えて……」

「昨夜寝る前に思い出したの。前にも助けてくれたんだね。

 ありがと、お姉ちゃん」

「ふふっ。お姉ちゃんは妹を助けるものよ?当然でしょ?」


 奈々が汽車の窓枠越しに、人差し指であずきのおでこを優しくつつく。


 汽笛が鳴る。 

 汽車がゆっくり動き出す。

 

「行ってらっしゃい、あずきちゃん」

「行ってきます、お姉ちゃん」


 あずきと奈々は互いに大きく手を振った。

 お互いの姿が見えなくなるまで、二人とも、ずっと手を振っていた。




「お、行ったかい?」

「はい」


 署に戻ってきた奈々を署長が出迎えた。

 でっぷりと太ったお腹が目立つ。

 制服がはち切れそうだ。 

 いつか制服のボタンが弾け飛ぶ。

 奈々は署長のお腹を見る度に思う。


「……あずきちゃん、あの時のこと、思い出したみたいです」

「おぉ。そうかね。まぁバロウズの血族だしね。そっかそっか」

「わたし、警察官になって本当に良かった……」

「そうか。それは良かった。またいつか、妹分が尋ねてくる日の為に、

 引き続き頑張ってくれたまえ」

「はい!!」


 また会いましょう、わたしの大切な妹。

 奈々は心の中であずきの旅の無事を、そっと祈った。




書いててウルっと来ました。

こういうの弱いんです、わたし。

とりあえず、設計図通り、話がまとまってちょっとホっとしています。

さて、次回はブラウニーの隠れ里です。

ぬいぐるみの森が待ってます。

乞うご期待♪


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