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あずきとおはぎと月の女王  作者: 皇 瑠奈
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第9話 森の中は危険がいっぱい

【登場人物】

野咲(のざき)あずき……12歳。小学6年生。日本と英国のハーフ。

おはぎ……黒猫。あずきの飼い猫。

リリィ……シムラクルムの森の案内人。

 前方に沼が見えてきた。

 沼の上には、木製の橋が掛かっている。

 ずいぶんと年季の入ってそうな橋だが、リリィは構わずラクを走らせる。


 思いのほか、ひづめの音が響く。

 どれくらいの長さの橋なのか。

 モヤが出ているせいもあって、向こう岸が見えない。 

 と、音に反応し、沼から何かが浮かび上がる。


「頭!?」

「見るんじゃないよ」


 リリィの言が飛ぶ。

 ラクの走りに合わせて、いくつも頭が浮かび上がる。

 魚の頭。濁った目。だが、確実にこちらの姿を捉えている。


「泥妖『サムヒギン』だ。好んで人間を食べるが、今はあたしが持ってる護符に

 遮られて寄って来れない。しっかり手綱を握り、落ちないようにしな。

 落ちたら、奴らに食われるよ」


 あずきは、しっかり手綱を掴んだ。

 あずきの前で、おはぎも身を固くする。


 100メートルも走ったろうか。

 いきなり下からの強い衝撃があずきを襲った。

 下から?

 そう、橋の下からだ。

 ラクはたまらず横転し、あずきは橋の上に投げ出された。

 好機と見てか、泥妖(サムヒギン)が次々と橋に上がってくる。


「ルクス パリエース(光の壁)」


 ラクを繰りながら、急いであずきに近寄ってきたリリィの魔法によって、

 あずきとリリィを囲むように光の壁が出現した。

 防御壁の内側で、あずきも急いでラクに飛び乗る。

 泥妖は光の壁を越えられないようだ。


「今の衝撃は?」

「水蛇『ストーシー』だ。あたしたちを沼に落として食おうとしてるよ。

 用心しな」


「ディプレーンショ(探知)」


 あずきは周囲の気配を探る。

 大きい。

 全長20メートル越えの巨大な生き物が沼の中を何体も泳いでいるのが分かる。

 血の気が凍る。


「あたしが衝撃を和らげる。あんたが防御壁を作るんだ。次の衝撃と同時に

 飛び出すよ」

「はい!」

 

 リリィが詠唱を始める。

 あずきも魔法核(コア)に一気に火を点けた。

 あずきの中の魔力が瞬時に臨界まで達する。

 相手は泥妖(サムヒギン)水蛇(ストーシー)だ。

 あずきは考える。

 火や水であの分厚そうなウロコを突破することは出来ないだろう。

 なら……雷だ。

 イメージが固まる。


 あずきが詠唱を始める。

 

 ドォン!!!!!!

 

 橋の下からの再度の衝撃。

 が、思ったほどの衝撃は無い。

 リリィが足元に作った空気の塊が、衝撃を吸収してくれたようだ。

 リリィの唱えた光の壁が霧散する。


「あずきちゃん、来るよ!!」


 おはぎが悲鳴をあげる。

 間髪入れず、あずきの魔法が発動する。


「トニトゥルス テンペスタス(雷の嵐)!!」


 あずきとリリィを囲うように、雷の防御壁が出現する。

 違う。

 上から下に、じゃない。

 無数の雷の精霊が、何重にも自身の周りを飛び回るイメージを作るんだ。 

 回せ、回せ!!

 発生した雷が一瞬で嵐となる。


 視界の隅で、リリィがラクにムチをやるのが見えた。

 あずきも、ラクにムチをやる。

 リリィとあずきのラクが弾丸のように走り出す。

 走りながら、あずきの作った雷の嵐が、近寄ろうとする泥妖を弾き飛ばす。

 

 頭上から殺気が走る。

 あずきは意識を集中し、雷の嵐を鋭く研ぎ澄ませる。

 円筒から円錐へ。 


 ガガガガッ!!!!

 

 あずきの頭上で何かが激しく当たる音がした。

 あずきの前に何かが落ちてくる。

 牙の欠片だ。水蛇のものだろう。 

 頭上の気配も既に消えている。


 あずきはちょっと考えた。

 何がどう必要になるか分からない状況なら、捨てずに取っておくのも手だ。


「レポーノ(収納)」


 ラクを走らせながら、あずきは目の前に小さく魔法陣を描いた。

 光を放つ魔法陣に、ヒョイっと水蛇の牙を投げ込む。


 次の瞬間、あずきはいきなりラクの上で突っ伏した。

 力が入らない。

 視界が安定しない。

 息が整わない。

 

 なにこれ。

 自分の体に起こった異変に動揺する心を抑え、体内の魔法核(コア)を探った。

 魔法核が起動しない。

 雷の魔法で魔力を使い果たしたのだ。

 

 力が入らないなりに、手綱を掴む。

 まだ危険は去っていないのだ。 

 弱音を吐く余裕は無い。

 今のうちに距離を稼がなきゃ。

 こき使っちゃってごめんね、ドゥエ。

 全速力で走るラクの背を優しく撫でる。


 10分ほど走って、ようやく沼地を抜けた。


「もぅいいよ」


 リリィの声に、あずきも手綱を緩める。

 ラクの歩みがゆっくりになる。 

 ふぅ。 

 ため息とともに、あずきの緊張が解ける。  

 あずきの前で必死に鞍にしがみついていたおはぎも、ふぅっとため息をつく。


 安心した瞬間、あずきは宙に吹っ飛ばされた。

 

 何が起こったのか分からなかった。

 強い衝撃と共に視界が反転する。

 ところが。

 あずきの体がまさに地面に叩きつけられようとするそのとき、落下の速度が

 極端に遅くなり、上下が正常に戻り、あずきは足からそっと地面に降りた。


 ?????


 理解が及ばない。

 ハっと正気に戻ると周囲を確認する。

 目の前にラクのドゥエが倒れている。

 そっと近寄った。


 額のツノを強打したのだろう。

 根本からポッキリ折れている。

 顔は鮮血で真っ赤だ。


 あずきは折れたツノを拾った。

 自分の魔法なら無理でも、リリィの魔法なら付けられるかもしれない。

 そこで気付いた。

 おはぎは??


「た~すけて~~~」


 上空からおはぎの声が降ってくる。

 あずきのすぐ近くの木の枝の上で、おはぎがぶるぶる震えている。

 今助ける!!あずきはおはぎに杖を向けた。


「ベントゥス(風よ)」


 風に包まれて、おはぎがゆっくり降りてきた。


「おはぎ、何が起こったか分かる?」


 おはぎを抱き締め、たずねる。


「あずきちゃん、見てなかったの?何か大きな動物が体当たりしてきたんだよ」

「それ、どこ行った?」

「リリィさんを追って行っちゃった。急ごう、あずきちゃん」


 あずきは、ドゥエに近寄った。

 杖をドゥエに向け、集中する。


「サニターテム(治癒)」


 杖の先から、薄っすら癒しの波動が出る。

 相手は全長4メートルの巨大生物だ。

 人間の傷を治すのとはわけが違う。

 それに今は、あずきの疲弊が激しく、なかなか効果が出ない。

 だが、しばらくしてドゥエはゆっくり立ち上がった。


「ごめんね」


 そう言ってあずきはドゥエにまたがった。

 ドゥエも飼い主の危機を感じているのだろう。

 痛みを堪えているのか、少しいびつな動きになってはいるが、

 それでも走り出す。

 あずきはドゥエにしがみついた。


 10分程走ったとこで、あずきはリリィに追いついた。

 リリィは一匹の巨大生物と対峙していた。

 あずきは目をむいた。

 それは全長10メートル近くありそうな羽の生えた巨大なトカゲだった。

 あずきはその生物を、学校の図書館に置いてあった小説の挿絵で見たことが

 あった。

 これはあれだ。

 ドラゴンの末席(まっせき)

 飛竜、ワイバーンだ。


「大丈夫だったかい!!」


 リリィがあずきに声を掛ける。

 目は飛竜(ワイバーン)に合わせたままだ。


「大丈夫です!!」


 あずきが返事をする。

 その声に触発されたか、飛竜がリリィからあずきの方に向き直る。

 駆け出す。

 迫りくる巨大生物にあずきの身がすくむ。


「逃げろ!!!!!」


 リリィの声が聞こえる。

 恐怖のあまり、あずきには、時間の流れがゆっくり感じられた。

 あ、これ死ぬかも。

 

 飛竜の爪があずきに振り下ろされた刹那、あずきの背後から猛スピードで

 何かが飛んできた。

 光の矢だ。

 光の矢は狙いを(あやま)つことなく、飛竜の体に当たり、爆発した。 

 

 続けて何十本と飛んできて、凄まじい勢いで飛竜の体を殴打する。

 飛竜は10メートルも吹っ飛び、近くにあった木に縫い付けられる。

 次の瞬間、光の矢が大爆発した。


 視界を奪う強烈な光と爆発の轟音が去ったあと、そこにあったのは、

 飛竜の死体だった。

 体に大穴が開いている。

 どう見ても生きているようには見えない。

 よく見ると、飛竜の爪が一本折れている。

 右手の親指の爪だ。あずきはそれを拾ってポケットに入れた。


 リリィが走ってくる。


「あたしとしたことが、しくじっちまった。飛竜(ワイバーン)の気配に気付かないなんてさ。

 だが、あんたが無事で良かった。さ、他の飛竜が出てくる前に進んじまおう」


 リリィはあずきをひょいっと抱え、ドゥエに乗せた。

 自身はウーノに跨る。

 リリィがウーノを走らせる。

 少し遅れながら、あずきの乗ったドゥエが追う。


 ラクの背に乗ったまま、あずきは考えた。あの光の矢、どこから飛んできたの?

 少なくとも、リリィの放ったものではない。

 だって飛んできた方角が違うもの。

 

 リリィは飛竜の後ろにいた。

 矢はわたしの後ろから飛んできた。

 じゃ、誰がわたしを助けてくれたの?

 それに、わたしがラクから落ちたとき、ケガしないように保護魔法で守って

 くれたのは?

 あのときリリィはこの場にいなかった……。


 探知魔法に引っ掛からない以上、ここで答えを得ることは出来ない。

 いずれ分かるだろう。

 今はこの森を抜けることだけ考えよう。あずきは黙って前を向いた。




 二頭のラクは、当初の予定より少しだけ遅れて森を抜けた。


「案内人として、客を危険にさらしちまったのは完全にこっちの落ち度だ。

 これは返すとしよう」


 リリィが懐からゴーレムの宝石を出して、あずきに差し出す。


「いえ、リリィさんのお陰で森を抜けられたのは確かですし、道中、きっちり

 仕事はしてくださったので、それはお約束通り、案内料として納めてください」


 あずきは受け取りを拒んだ。

 が、リリィはゴーレムの宝石をあずきの手に握らせた。


「なぜだか分からないが、こいつはこの先、あんたに必要になる気がするんだ。

 月兎族は勘を大切にする。あんたも魔法使いになるなら、勘を大切にしな」


 あずきは宝石を見た。

 リリィに言われたことによる先入観か、あるいは、目覚め始めたばかりの

 魔力器官が心に訴えるのか、あずきも何となく、この宝石に運命を感じた。

 あずきはリリィ、そして自分の勘を信じることにした。

 きっとこの宝石は、どこかで必要になる。

 そんな予感がした。


「あ、そうだ、これ」


 あずきは懐からドゥエの折れたツノを出した。


「くっつけられませんか?」


 リリィが首を振る。


「残念ながらそいつは無理だ。そいつもあんたが持ってな」


 あずきは頷き、バッグに入れた。




 あずきは箒に跨り、宙に舞った。

 空中からリリィに向かって手を振る。

 リリィが地上から手を振り返す。

 あずきは進路を街に定め、箒に魔力を送る。

 箒は街に向かって一気に飛んだ。




 街に向かって飛ぶあずきを見送りながら、リリィは懐から出した杖で空間に

 魔法陣を描いた。

 数秒経って、魔法陣が光を放つ。


「リリィさん?」


 魔法陣から若い女性の声が聞こえる。


「奈々かい?今、あの子がそっちに行ったよ。

 あと数時間もすれば街に着くはずだ」

「わかりました。受け入れの準備をしておきます。で、どんな感じでした?」


「まだまだ練りが足りないが、そこはなにせ初心者だからね。今後の成長に

 期待ってとこだが、潜在能力としちゃ、スペシャルだ。

 今まで何人も見てきたが、ありゃ群を抜いてる。さすがバロウズの一族だ。

 8歳でこっちに迷い込むだけのことはあるよ」

「それはそれは。上手いこと導いてあげなくっちゃ、ですね。あ、昔のこと、

 覚えてました?」

「いや、残念ながら覚えてないようだったよ。

 ママの忘却魔法が完全に効いてたね」

「それは残念。じゃ、初見のていでいかなくっちゃ」

「頼んだよ、奈々」

「おまかせあれ」


 会話の終了と共に、魔法陣が空に薄れて消えた。




今回、あずきは魔法をガンガンに使います。

アニメとかで考えてみると、結構燃えるのではないでしょうか。


さて、今回最後に奈々が出てきました。

エピソード0を読まれた方なら、ニヤっとする展開なのではないでしょうか。

そして次回、エピソード0から4年経って、待望の再会が待ってます。

どうなるのでしょうか。

乞うご期待♪

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