表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/15

2 想定外で最悪な出会い

やっと主人公の登場。少し長めです。

五月 日本・浜風市



 人口100万人を超える地方都市、浜風。首都から二時間もあればたどり着けるこの都市は、海に面した港町として古くから栄えてきた。貿易の拠点であると同時に国内でも有数の漁場を抱え、人々の生活の中心地であった。現在でも、華やかな雰囲気に包まれる貿易港を中心とした市街と自然豊かで木々に囲まれた漁港とが市内に両立する、独特の文化を持った都市である。そんな浜風市の隅である夕方、恐ろしい計画が進行していた。


「計画は順調か?」

「イエッサー!すでに目標はポイントに到着しております。」

「昨日仕掛けた罠も正常です、サー!」

「よろしい。しかし、奴は我々の計画を何度も邪魔してきた。最後まで気を抜くな。もしも罠が突破されたときには、我々自らの手で奴を打ち倒すのだ!」

「さー、イエッサー!」


 海に面した通りの脇。生い茂る草木に隠れ、邪悪なたくらみを語らう影が三つ。上半身をむき出しにして棍棒を持ち、何かを待ち構えている。


 通りの向こうから、一人の男が歩いてきた。ツンツンと硬そうな黒髪を無造作に伸ばしている。邪魔にならない程度には切ってあるが、それ以上には何も気にしていないようだ。身長は170cm程度だろうか。細身だが、肩はがっしりとしているように見える。黒い学ランに身を包み、肩からエナメルバッグをぶら下げている。


「来た!」


 隠れている影のリーダー格が小さく声を上げた。息を殺して、男の様子を伺う。スタスタと快調に歩く男。その行く先には、細いピアノ線が張られている。


「いけ…いけ…!」


 ついに、男がピアノ線に足を引っかけた。残念ながらつまずいて転ぶことはなかったが、足に感じた異物に気を取られて覗き込む。その横から、巨大な玉が飛び出してきた。木にひもでくくられていたそれが、ピアノ線の刺激により振り子のように男へと襲い掛かる。


「うおっと。」


 飛び出してきた玉、バランスボールに一瞬声を上げた男だが、軽く弾いて難なく回避する。ダメージは与えられなかった。罠の失敗を悟ったリーダー格はすぐさま号令をかける。


「かかれぇーー!」


 木陰から道路へと現れたのは、男の半分ほどの大きさの人影三つだ。手に持った棒で男を滅多打ちにしようと襲い掛かる。まずは先鋒。三人の中でもひときわ小さい影だが、スピードは一番だ。一瞬で距離を詰めると、飛び上がって棒を振りかぶった。


 男はそれを認めると、おもむろに片手を伸ばす。


「うわっ!」


 振り下ろす前に手を取り押さえられた。そのまま両手をつかまれて宙ぶらりんになる。

「はなせぇ!」


 じたばたと足を振るが、あいにく男の手のほうが長い。蹴り飛ばそうとしても届くことはない。無為な抵抗を続けていた小さな影は、勢いをつけて海へと放り投げられてしまった。


「サンタァ!」


 リーダー格が悲痛な叫びをあげた。それと同時に、男に次鋒が襲い掛かる。いつの間にか男の背後に回り込んでいたのは、三人の中では最も長身の影だ。長いリーチを生かし、必殺の突きを放つ。


「やった!」


 リーダーは声を上げる。棒が男を貫いたように見えたからだ。だがすぐに、それは誤りであったと分かる。突きは、男の脇に挟まれているだけだ。むしろ、棒を押さえられてしまっている。次鋒のジロウにはピンチであった。しかし、リーダーがこの決定的な隙を見逃すようなことはしない。


「やあああ!」


 脇で挟んでいるという事は、身動きが取れないという事でもあるのだ。長年の仇敵を倒すべく、リーダーは棒を上段に構えながら駆けだした。


「よっと。」


 気の抜けるような掛け声とともに、男がくるりと体の向きを変える。棒をつかんでいたジロウは大きく振り回された。だが、男が攻撃を防げないことに変わりはない。ジロウの犠牲に感謝しつつ、リーダーが最後の一撃を放とうとする。


「うわあああ!」


 ジロウの悲鳴が真横から聞こえた。驚いてそちらを見ると、振り回されたジロウがそのまま自分にぶつかろうとしているところだった。


「うぎゃ!」


 予想だにしない反撃を避けられず、ジロウとぶつかったリーダーは重なって倒れこんだ。


「そら、もう終わりかカズキ!」


 男がおどけたように言いながら二人を持ち上げる。


「うわ!やめろ、ゾンビマン!はなせぇ!かあちゃんに言いつけるぞ!」

「おいおい、言いつけたら怒られるのはお前のほうになるんじゃないか?」

「た、確かに…。えーと、じゃあ、じゃあ、ジロウ、だれに言えばいい?」

「うーん、そりゃ先生とか——。」


 ゾンビマンと呼ばれた男が噴き出した。


「先生はもっとだめだろっ!」


そのままゾンビマンこと杉多(すぎた)(けん)(すけ)は二人を海に投げ入れた。


「わあああああ!」


 二人の悲鳴が重なる。しばらく沈んだ後に、二人はサンタに脇を抱えられて海面に浮かび上がってきた。


「コノヤロー!次は絶対負けないからな、ゾンビマン!」

「誰がゾンビマンだ、誰が!」


 玄助が苦笑する。


「お前に決まってるだろ!なーなー、教えてくれよ!巨大ゾンビってどんな奴なんだよ!」


 カズキの言葉に二人の取り巻きも笑い声をあげた。玄助はいっそ恐ろしいほどに穏やかな調子で答える。


「おう、教えてやるから気をつけろ。いいか、巨大ゾンビは沖に住んでるんだ。体長は何mあるかもわからないくらいにでっかい。お前らなんか一口でパクリ、だ。絶対、お前らだけで遠出するんじゃないぞ!」


 返事の代わりに、子供たちの大爆笑が響く。


「バーカ、そんなのいるわけないだろ!カガクテキにもアリエネーって、父ちゃんが言ってたぞ!」

 

 そうだそうだ、と口々に取り巻き。ひとしきり笑って、笑い疲れた彼らは玄助に指を向けた。


「おい、ゾンビマン!次こそは負けないからな!」

「そうだ、おぼえとけー!」

「月夜の晩ばかりとおもうなよー!」


 三人が各々の捨て台詞を吐きながら、泳ぎ去っていく。よくよく見ると、下半身に身に着けていたのはズボンではなく水着のようだった。


「あいつら、水着を着てる時点でもう負ける気満々じゃないか。…って、おーい!お前ら、このバランスボールは⁉」


 あっ、やべっ。という声が微かに聞こえた。こっちに寄越せと言うふうに手を動かすので、三人に向かって思い切り投げる。風に煽られながらも大体目標の場所に落ちたバランスボールを三人がかりで押しながら遠ざかる。


「これで俺の二十戦二十勝目だな。」


 玄助は嬉しそうにつぶやく。


「高校生二年生にもなってなに小学生いじめて喜んでるの、よ!」

「あいてっ!」


 背中を急にカバンでたたかれた。思い教科書の入ったスクールバッグは凶器としても有効だ。高校指定のセーラー服のスカートがはためく。


「痛いじゃないか、(はる)!」


 聖剣のようにカバンを構えるのは、玄助よりもずいぶん小柄な少女、保科(ほしな)(はる)だ。髪は肩のあたりで切りそろえられ、前髪の片方は耳にかけてヘアピンでとめている。クリっと丸い目は人懐っこさを感じさせる。身長に対して胸は膨らんでいたが、太っているような印象は与えない程度で、かわいらしい雰囲気を醸し出していた。


「痛いじゃないでしょ、子供みたいなことして。もっと大人っぽくしなきゃ。今日も私のことを置いて帰っちゃうし!」

「あいつらだって楽しんでるんだからいいだろ。」

「でも海は危ないもん。まだ冷たいんだよ?」

「自分だって昔は飛び込んで遊んでたくせに。」

「そういう問題じゃないの!」


 ぷっくりと頬を膨らませる。こうした小動物のような仕草は、彼女の幼いころからの癖だった。


「ほんと、油断しちゃダメなんだよ?海は、危ないんだから…。」

「はいはい。分かってるよ、ちゃんとね。」

「…なーんか信用できないんだよね。」


 華は不満げな顔をするが、それを無視して歩き出す。なんやかんやと文句を言いながら、華はその後ろについていった。二人の家は近所なのだ。長閑な港のさらに端、小高い丘の近くに二人は住んでいた。


「ね、ケンちゃん。」

「なんだ?」

()()()のパーツ、そろそろ届くんだよね?」

「ああ!やっと明後日届くんだ!待ち遠しかったぜ…。」


 喜色を浮かべる玄助に、華は優し気な目を向けた。


「うん、私も。すっごく嬉しい。」

「へへ、だよな。ついに完成するのかと思うとワクワクする。」

「…それも、そうだけど。」


 何やら歯切れの悪い春に、玄助は首を傾げる。その様子を見て、華は慌てて首を振った。


「あ、ごめん。変な意味じゃないんだけどね、その…。」

「なんだよ、そんなに言いにくいのか?」

「…やっと、ケンちゃんのやってきたことが形になるんだな、って。」


 意を決したように華が口を開いた。


「ほら、さっきのカズキくんたちもそうだけど。ケンちゃんのこと、ゾンビ狂いの変な人って思ってるでしょ?」

「いや、カズキたちはそんなんじゃ…。」

「ううん。自覚はなくても、悪気はなくても、ケンちゃんは『ゾンビの人』って思われてるんだよ。」


 いつになく真剣な様子に、玄助は口をつぐんだ。自然と二人の足が止まる。


「私はね、ケンちゃん。()()()()の後からケンちゃんが巨大ゾンビのことをいくら訴えてもだれも聞いてくれなくて、馬鹿にされたり、哀れまれたりしながら、それでも頑張って()()を作り続けて。そんなケンちゃんの努力が、やっと報われるんだ、って思ったら、なんだかとっても、うれしくて…。」

「よ、よせよ…。まだ完成したわけじゃないんだ。それに、華と優斗が助けてくれたおかげじゃないか。俺の話を信じて協力してくれたのは二人だけだったんだから。」


 華の目じりに涙がにじむと、玄助は気まずそうに頬を掻きながら顔を赤らめた。つられて、華も照れ臭そうに微笑む。


「ねえ、覚えてる?昔からさ、ケンちゃんはヒーローになるんだって言ってたよね。」

「え?あ、あー、そういえばそうだったかも。」

「私ってどんくさいから、いつもみんなに迷惑かけたり、いじめられたりしてたけど、ケンちゃんはいっつも助けてくれた。小学生の時、花壇を荒らした犯人に間違われた時も、味方になってくれた。」

「…そんなこともあったっけ。覚えてないな。」

「はい、ダウト。そんなに照れながら言われても嘘だって分かりますぅ。」


 妙にうれしそうに言う華の顔に、なぜかどきりと胸がなった。そのせいだろうか、玄助は何も言い返さずに華の顔を見つめることしかできなかった。


「その時ね、ケンちゃんのことは一生信じようって思ったの。どんなことがあっても、もしケンちゃんが私をだましたとしても、それでも私はケンちゃんを信じるよ。」

「騙してもって、そんなのーー」

「嘘じゃないよ。だって、私は…!」


 華が顔を真っ赤にしながら声を張り上げた刹那、足元が揺れた。下から突き上げるように胎動する大地に、華はバランスを崩した。


「危ない、華!」


 玄助はとっさに手を伸ばし、抱き寄せるようにして華の体を支えた。しばらくして揺れが収まるまで、その格好のままでいた。


「地震か。最近多い気がするな。」

「そ、そそ、そう、かね、えへへ…。」


 妙な返事である。不思議に思い華の顔を覗き込むと、リンゴもかくやというほどに赤くゆであがっている。そこで自分が華を抱きしめたままであることに気が付き、慌てて体を離す。


「わ、悪い…。」

「ううん、私こそ、その、支えてくれてありがとう。」


 何やら気まずい空気が二人の間に流れる。玄助がどうしたものかと気を揉んでいると、華の顔色が変わる。何か閃いたような表情だ。後ろで組んだ手を落ち着かない様子で動かしながら、少し硬い声で切り出す。


「その、明後日からまた作業再開、だよね?」


「おう、そうなるな。もう一週間ぶりか。長かったな。」


「私も行っていいよね?」


「なんだよ改まって。当り前じゃないか。三人でやってきただろ?」


「え、えへへ、そうだよね、なに言ってるんだろう私。」


 手をぎゅっと握り、顔を赤らめる。


「その、明後日、終わったらさ、私のうちで夕ご飯、食べない?実は、ちょうどパパも、ママもいなくて、さ。危ないっていうか、こんなかわいい子を夜に一人にさせちゃ、ダメじゃない?まあケンちゃんも男の子だから安全か、っていうとそうは言い切れないけどケンちゃんとなら別に…じゃなかったケンちゃんならパパも安心できるし、体も鍛えてるからさ。それに私も料理頑張るし食べてほしいなんてことはないけど、二人分作るのも一人分作るのと変わらないから手間じゃないし最近ケンちゃんうちに来ないし久しぶりにどうかな、なんて!そ、それに、話したいことも、あるような気が…」


 ためらいがちに切り出したが、だんだんと早口になりながら言い捨てる。最後のほうはほとんど口の中で呟いただけだ。玄助の顔を見ることが出来ず、耳まで真っ赤にしながらうつむく。


「おう、いいぞ。」

「え⁉」


 玄助の軽い返事に、顔いっぱいの笑顔を浮かべて顔を上げる。


「それなら優斗も呼ぼう。三人で食べようぜ。完成の前祝ってことで。」


 だがすぐに喜びは薄れ、怒気が顔に浮かび上がった。


「ふん!」


 唐突に玄助は背中をはたかれた。


「いたっ!なんだよいきなり!」

「いいから聞いて!私と二人でお夕飯!わかった⁉」


 ぐいぐいと詰め寄られ、玄助はたじろぐ。身長差があるにもかかわらず、ものすごい気迫だ。二人分と三人分だと料理の手間はそんなに違うのだろうか。


「あ、ああ。分かった。」

「うむ、よろしい。」


 パッと迫力が霧散し、かわいらしい笑みが咲いた。わが幼馴染ながら、こういう表情だけはかわいらしい。


「じゃあ、忘れないでよ!」


 二人が分かれる道にいつの間にか来ていた。華は分かれを告げると駆け足に角を曲がっていった。何度もこちらを振り返り、ブンブンと大きく手を振る。その様子が見えなくなるまで、玄助はそこに佇んでいた。




「ただいま。」

 玄関を開け、家の中に声をかける。返事はない。買い物にでも行っているのだろう。適当に靴を脱いで上がり、自室へ向かう。古い平屋の日本家屋だが、しっかりと保全されているためにきれいな印象を与える。


 だが、その近くにある広いスペースには、ところ狭しと重機が並ぶ。通常の車両型重機に混じって人型重機の姿も散見される。だが、そのどれもが酷く古びて、錆びついているようであった。一部にはパーツが欠損しているものもある。消えかかった『杉多工務店』の文字が哀愁を誘う。


 自室に荷物を放ってさっさと着替え始める。制服をハンガーにかけ動きやすい服装になると、玄助は引き出しから小さな鍵を取り出した。それを握りながら、しばらく机の上の伏せた写真立てを見つめる。


 夕方を告げるチャイムが響く。その音にハッとした玄助は、慌てて家を飛び出した。彼が向かったのは家の裏の山だ。鬱蒼と木々の生い茂る中を、迷わずにずんずんと進んでいく。


 やがて、ぽっかりと開けた場所に出た。小さな小屋がある。その隣にはブルーシートに覆われた巨大な物体があった。


 ずいぶん背が高い。全高5mは超えているだろう。ブルーシートの隙間からは金属製の部品が覗く。


「よう、元気にしてたか。」


 呼びかけながら固定具を引き抜き、ブルーシートをはがした。

中から、カラフルな巨人の姿が現れた。しかし人型であるものの、ひどく不格好であった。胴と四肢、すべての色が異なっている。それどころか、そもそも一組ではないパーツをつなぎ合わせているようだった。


 左足はそのままなのに右足の横に大きなパーツが付いているせいで、ひどくバランスが悪い。両腕も同様で、右腕に対し左腕が異様に太い。ひじ先には両腕とも何かのパーツが外付けされているが、はたから見ても無理やりくっつけてあるのは明白だ。


 『寄せ集め』。この巨人を一言で表すなら、それ以上にふさわしい言葉はないだろう。


「今日も元気に頑張ろうな、相棒。」


 小屋の中に入ると様々な工具やパーツが置いてあるので、必要なものを適当に見繕ってポーチに入れる。玄助はするすると器用に腕をよじ登り、胸部にある操縦席に入った。ポケットから取り出したキーを差し込むと、寄せ集めの人型重機がうなりをあげて起動する。


「さて、今日のご機嫌はどうだ?」


 玄助がレバーを動かすのに呼応して左腕がゆっくりと持ち上がる。だが、あまりにもゆっくりで、とまっている虫さえ動じないほどだった。右腕、両脚と続けて動かすが、どれも同じように鈍い動作だ。


「よーし、オールクリア。ご機嫌みたいだな、相棒。」


 操縦席を出て、背面にとりつく、腰に付けたポーチから工具を取り出すと、外面の一部を取り外し始めた。慎重にはがし、中の配線をどけながら侵入すると、人の頭ほどの大きさの丸い球が現れた。ペットの頭をなでるように、その球体を撫でまわす。


「よしよし、可愛いジェネレーターちゃん。元気にしてるか?実は旧式のお前だとパワーが足りなくてな。やっぱり、ジャンクパーツからコツコツ組み立てるだけじゃどうにもならない。でも安心しろ。今度、一年間バイトした金をつぎ込んで最新式の増殖炉を買ってくるからな。そうしたら、一人前に早変わりだ。」


 ぶつぶつと話しかけながら、ジェネレーター周りの配線を丁寧に確認する。玄助は顔をオイル塗れにしながら作業に熱中した。


 息が苦しくなってきた玄助が上半身を外に出すと、辺りは真っ暗になっていた。いつの間にか夜になっ

ていたらしい。マナーモードにしていた携帯端末に目を通すと、帰宅を促すメッセージが入っている。


「しまった。ばあちゃんに心配かけたかもな。」


 つぶやきながら、急いで蓋を閉じる。ライトで足場をしっかり確認しながら降り、後片付けをする。


 昼間でも薄暗い森の中は、夜になると一層闇が深くなる。ライトのビームも木々に遮られ、遠くまで照らすことはない。そんな不気味な中を、玄助は怯えることなく作業を進める。


 しかし、警戒を怠っているわけではなかった。幼いころから森に囲まれた生活をしていた彼は、夜の森が危険なことを熟知していた。凶暴な野生動物は生息していないが、()()が出現することもある。五感を研ぎ澄ませて、少しの異変も見逃さないようにする。


 ドサリ。


 後ろから物音が聞こえた。重そうな足音だ。ライトを消して、気配を殺す。じっくり暗闇に目を鳴らすと、静かに後ろを確認した。


 猪だ。それも、かなり大きい。ゆうに100kgは超えているように見える。だが、様子がおかしい。足取りがふらついているし、月明かりに照らされた瞳が白く濁っている。玄助の鼻に微かな腐臭が感じられた。


 間違いない。(アンデッド)(ウィルス)に感染した、ゾンビだ。玄助はおもむろに、カバンの中から大きなナイフを取り出す。ゾンビ化した動物の感覚は鋭くない。気取られないよう、ゆっくりと近づく。

猪ゾンビが背を向けるとすかさず、玄助が跳躍した。


「ふっ!」


 猪ゾンビにまたがるように飛び乗り、気を吐きながら首筋にナイフを突き立てる。たまらず、猪ゾンビが暴れ始める。すさまじい力だが、動作自体は早くない。必死にしがみつき、振り落とされないようにする。


「おらっ!」


 タイミングを見計らい、再びナイフを突き刺す。今度は手ごたえが硬い。そのままぐりぐりとねじ込むように動かす。


 効いてる。あと少し。


 だが手元に気をとられた瞬間、猪ゾンビが予想外に跳ね上がった。


「うぐっ!」


 踏ん張りが甘くなっていた玄助は投げ飛ばされ、背中から地面に激突する。背中がズキズキと痛むが、折れてはいないようだ。痛みを堪えてすぐさま起き上がり、猪ゾンビの追撃に備えて警戒する。だが、それは無用に終わった。


「ギヤァ…」


 不気味な唸り声をあげて猪ゾンビが倒れる。最後に押し込んだナイフが、頚髄を傷つけたのだろう。


 ゾンビの弱点はもろさだ。ナイフ程度でも簡単に傷つけられる。首を狙えば、神経の集まる頚髄を破壊することすら難しくない。


 荒い息をはきながら、玄助はゆっくりと距離を詰める。その間、猪ゾンビはピクリとも動かない。やはり、運動機能に障害を与えられたのだろう。


 ナイフを引き抜こうと手を伸ばす。


「動かないで!」


 突然、鋭い声が飛んできた。とっさに手を止めると、どこからか飛んできた弾丸が猪ゾンビの腹に命中した。猪ゾンビはビクンと体を跳ねさせる。


「なんだ⁉」


 弾丸の飛んできた方を見ると、長い銃を構えた人影が、森の奥から現れた。銃を下ろしながらこちらに歩いてくる。


 厚い雲があるために月明かりは十分ではなかったが、淡い光を長い黒髪が照り返している。女性だ。しかも、非常に若く見える。


「危ないところでしたね。電気ショック弾を撃ち込んだので、しばらくは動けないと思います。」


 彼女はにこやかにほほ笑んだ。少しだけ上がった目じりが強気な印象を与えるが、笑顔には親しみがある。


「えっと、あなたは…?」


 予想外の美少女の登場に驚きながら玄助が尋ねる。


「ああ、ごめんなさい。私はプロのゾンビハンターです。たまたまこの森の調査をしていたところだったんですが…。」


 ゾンビハンターと聞いて、玄助の顔色が変わった。


「本物のゾンビハンター…。初めてお会いしました!俺、実は将来ゾンビハンターになりたくて——。」


 だが、玄助の脳裏に引っかかるものがあった。


「…声のよく似た妹さんとか、います?」

「いいえ、いませんけど…?」


 風が吹き、雲が流れる。柔らかな、しかし確かな明るさを持った月の光が二人を照らす。


「あ…。」

「うそ…。」


 二人の顔が驚愕に染まる。


「転入生の織原(おりはら)(れい)⁉」

「クラスの変人の杉多玄助⁉」


 そう叫んだのも同時だった。


 玄助の目の前にいるのは、一週間ほど前にクラスに転入してきた女子生徒だった。クールで人を寄せ付けない彼女は、良くも悪くもクラスの注目を集める人物だ。だが、良くも悪くも他人に関心のない玄助にとって、彼女は名前と顔を覚えている程度の人間であり、クラス内での彼女のそんな評判を知る由も無かった。


「ちょ、ちょっとまて、織原、お前プロのゾンビハンターって言ったか?」

「い、いいい、言ってないわよ?」

「目が泳いでるぞ。」

「気のせいじゃないかしら。そもそも私は織原なんて名前じゃないの、えっと、オ、オリ、そう、オリハ・リーよ!外国人なの!」

「俺の名前知ってる時点でそれは無理があるだろ!」

「…はじめましてあなたのお名前は?」

「とぼけるのもたいがいにしろ!」


 目を逸らし続けていた怜が、観念したように玄助と目を合わせる。


「…そうよ。織原怜よ。クラスメイトの、織原怜よ。文句ある?」

「文句っていうか…。」


 玄助が怜の持つ銃に目を向ける。


「ゾンビハンターって、十八歳以上じゃないとダメなんじゃなかったか?織原さん、もしかしてサバを読んで…。」

「ち、違うわよ!正真正銘十七歳!」

「じゃあ、どうして…?」


 玄助の問いに怜の顔が青くなる、再び目を逸らす。


「いえ、ごめんなさい!嘘を吐いたの!やっぱり十八歳!」

「誰がそれで騙されるんだよ!」


 怜が玄助の顔を覗き込む。


「…ダメかしら。」

「まあ、ダメだな。」

「はぁ。」


 怜が大きくため息を吐いた。


「その、詳しくは言えないんだけど、いろいろあって、まあ特例みたいなものよ。クラスのみんなには、絶対内緒よ?お願いね?」

「へぇ。」


 玄助の眼が怪しく光る。


「それ、詳しく教えてくれないか?特例ってのをさ。」

「え?」

「さっき言いかけたけど、俺、プロのゾンビハンターになりたいんだ。出来るだけ早く。」


 玄助が倒れた猪ゾンビを指さす。


「実力なら、あれを見てほしい。ゾンビの生態や特徴だって勉強してるし、ナイフ一本で対処も出来るようになった。なあ、俺にもその特例っていうの、教えてくれよ!」


 怜の顔が険しくなる。猪ゾンビの傍に座り、検分する。


「…ゾンビについて、ちゃんと知っているの?」

「ああ、もちろん!ゾンビの正式名称はUV発病個体。死体を動かすウィルスであるUVに感染した生物の死後、症状が現れた状態だ。肉体への執着が薄く、捕食行動と繁殖に貪欲で非常に凶暴だ。さらに危険性を高めているのが、その再生能力。UVは感染個体の体組織を模倣しながら増殖するため、欠損した部位ですら再生することが可能だ。だけど、ゾンビも無敵じゃない。一番の弱点は火。焼却すれば完全に死滅する。それから、UVが肉体すべてに入れ替わることはまれだし、入れ替わっても長時間維持できないから、肉体そのものは時間がたつほど脆くなる。そして、体の作りは感染した生物に依存するから、脊椎動物なら脳や頚髄と言った命令系統を破壊されると動きが止まる。どうだ、そいつにもしっかり刺さってるだろ?」


 得意げに長々と語った玄助は、猪ゾンビの首元を指し示す。


「ゾンビと対した際は、まず頚髄及び頭部を狙って攻撃、活動を停止させる。そしてしかるべき場所、もしくは現地でしかるべき設備を用いて焼却処分する。これでゾンビの処置は完璧だ。そうだろ?」

「…ええ、知識としては問題ないわね。」


 淡々とした響きではあったが、玄助はそれを誉め言葉として受け取った。


「へへ、これでもちゃんと準備してるんだ。もちろん、UVの予防接種を欠かしたこともない。」

「杉多君、教室に居る時よりもよく喋るわね。熱意があるのね、きっと。」

「え?そういわれるとなんか恥ずかしいな。でも、織原さんも——。」

「…もうやめなさい、こんなことは。」


 怜がゆっくりと立ち上がり、玄助を鋭い視線で射抜いた。


「こんなこと、って…。」

「一人でゾンビを倒すようなことよ。」

「な、なんでだよ。」

「身を守るためなら仕方ないけど、このナイフの刺さり方から見て、あなたが後ろから襲い掛かったんでしょう?自分から危険に飛び込むような人は、いつか痛い目を見るのよ。」

「倒せたんだからいいじゃないか!それに、そんなことじゃゾンビハンターになんて——。」


 怜が大きくため息を吐いた。


「あのねぇ、どうしてわざわざゾンビハンターなんかになろうとするの。危険だし、臭いし、いいことなんて何もない。あなたは普通の高校生なんだから、普通に生きればいいのよ。こんな仕事は諦めなさい。別の夢を作るべきね。」

「あ、なんだと⁉」


 それに、と怜は小さくつぶやいた。


「あなたは『特例』にはなれないの。まっとうに生きている、あなたには…!」

「それに、なんだって?聞こえないぞ!」

「何でもないわよ!とにかく、もうこんな危険なことはやめて、普通に高校生活を送りなさい。ゾンビハンターなんて目標、変だわ!」


 人の目標にまでケチをつけるとは、さすがに言い過ぎだ。それに、ゾンビハンターのくせに自分の仕事を馬鹿にしているのが許せない。まるで自分のあこがれを馬鹿にされたような気がした。玄助はだんだん腹が立ってきた。


「お前はどうなんだよ!お前だって高校生なのに、それはいいのかよ⁉」

「私は別よ!」

「あーあーそうかい分かりましたよ!自分だけは特別で、他の奴はダメなんだな?技術や知識があっても、自分以外は認めないと。はいはい、そういう事ね!」

「な、なんて言い方よ!私は、あなたを心配して!」

「心配される覚えはない!」


 怜が言い返そうと開いた口を、ゆっくりと閉じた。


「…まあ、いいわ。どうせ、明日にはこの森も閉鎖されるんだから、あなたが危険に首を突っ込むこともなくなる。言い争っても無駄ね。」

「なんだって⁈」


 玄助が焦りを見せる。


「閉鎖…閉鎖ってどういうことだよ。」

「そのままの意味よ。しばらくUV関連の調査を行うから、関係者以外立ち入り禁止。どう?分かった?」

「ま、待て!俺も、入れないのか…?」

「もちろんよ。むしろね、ここは公有林なんだから、あなたが勝手に入っていたことの方がおかしいの。あれ、そもそもなんでこんなところにいたのかしら…?」」

「ぐ…。そ、それでいつまでなんだ⁉普通の調査なら数日だよな?」

「最低半年。場合によっては、数年ね。ここのゾンビの調査と、あとは、まあいろいろ調べなきゃいけないの。もし危険性が認められたら、原則立ち入り禁止になるかもね。」

「それは…それは困る!俺はこの森にガキの頃から立ち入ってる。そんな危険なことなんてなかった!俺には分かってるんだよ!」

「素人の意見じゃどうしようもないわね。さ、帰りなさい。」


 怜が玄助をぐいぐいと押す。


「ちょ、ちょっと待て!」


 玄助はその手を掴んだ。


「ええと、その…。」

「…まだ文句があるわけ?」


 ここが閉鎖されてしまえば、完成間近の『相棒』を、置いていくことになってしまう。かといって、ここから持ち出すことも困難だ。移動させるにしても、まずは満足に動けるように調整しなくてはいけない。どうにか、森に入れるようにしなくては。玲をだまくらかしつつ、森での作業を認めさせる方法はないものか。玄助は頭をフル回転させる。


 ふいに、ひらめいた。俺はさっきお願いをされていなかったか?それも、かなり必死に。


「あ、そうだ!織原さん、君がゾンビハンターだっていうのは学校では秘密なんだろ?」

「ええ、そうね。」

「俺がばらしたら、まずいんじゃないのか?」

「…まさか。」


 険しかった怜の顔が青くなっていく。


「秘密にする代わりに、森に入ることを見逃してくれ!」


 玄助が両手を合わせる。


「このとおり!」

「な、なんてことを言うのよ!許可できるわけないじゃない!」

「ほー、それじゃあ学校中に織原さんがゾンビハンターだって触れ回ってもいいんだぜ?」

「な…この…!」


 怜が口をパクパクさせる。玄助と遭遇した時もそうだったが、突発的な事態に弱いようだ。このまま勢いで押し切る作戦に出る。


「ほらほら、どうした。いいんだぜ、俺は別に。織原さんの秘密をみんなに話しちゃっても。あーでもそれだと大変だなぁ。織原さんの事情は知らないけど、秘密にしておきたかったんだろ?あーあ、秘密が守れなくて残念だ。ちょっと森に入るのを見逃すだけで、全部丸く収まるのになぁ」

「でも…そんなこと…。」


 怜の眼がぐるぐると回り始める。


「ほら、容姿端麗品行方正文武両道の織原さんなら分かるだろ?俺の前に素顔をさらしちゃったのが運の尽きだ、諦めて取引しようぜ?互いに悪い話じゃないだろ?」

「だって、でも、あの。」

「どうしたの織原さん、そんなに焦っちゃって。落ち着いて深呼吸。」

「そ、そうね、すぅー、はぁー。」

「落ち着いた?」

「ええ、なんとか。ありがとう。」

「そう、じゃあ取引は成立ってことで。」

「わかったわ、そういう事———になるわけないでしょう!もう、この…!」


 怜がもどかしそうに叫ぶ。勢い作戦は失敗だ。次の手はもうない。


「だ、大体!どうしてそんなにここに来たいのよ!」

「それは…。」


 玄助が『相棒』に目線を向ける。


「こいつを、完成させたいんだ。あと少し、あと少しで出来る!頼む、迷惑はかけない!」

「すでに迷惑かかってるわよ。それより、これってあなたのモノだったのね?不法投棄だとばかり思ってたけど。」


 ジトっとした目で玄助を睨みつける。


「確か、人型重機の製造と所持も免許が必要だったはずだけれど、あなたは持っているの?」

「も、もちろんさ。」

「嘘ね。年齢制限に引っかかるはずでしょ?」

「う…。」

「嘘ついたり、脅したり、挙句の果てに法律まで犯して。どうしてそんなことをしてまでこれを作りたいのよ。」


 玄助がうつむく。表情に影が差した。


「…信じて、貰えないと思うんだけどさ。」

「何なのよ?」


 玄助が顔を上げ、満面の笑みで応える。


「実はさ、俺、巨大ゾンビに備えたいんだ!」

「巨大、ゾンビ…?」


 玄助はおどけたように言う。


「そうそう!知らないか、巨大ゾンビ。よく映画とかであるじゃん。」

「え、ええ、まあ。」

「何とかアイツを止める方法を作ろうと思ってさ。」

「…それは、フィクションでしょう?」


 一瞬、玄助が痛みを堪えるような顔をする。


「…まあ、そうなんだが。でも、備えておくに越したことないだろ?現実になったら怖いぞ~?」

「ふざけてるの?」


 怜がぴしゃりと言い放つ。


「…もういいわ。まじめに話す気がないのは分かった。」

「そう?俺はまじめだけど。」

「そういう、人を小ばかにしたような…!」

「ごめんごめん。だけど、俺は真剣だ。」


 玄助の表情がきつく引き締まる。その迫力に、怜は少したじろいだ。


「本当に、そいつを完成させたい。だから、頼むよ。俺の全部をかけてきたんだ。最後までやらせてくれ。」

「自分の、全部を…。」


 怜がかみしめるように繰り返す。


「…あなた、さっきの話、もしかして本気なの?」

「え?」

「巨大ゾンビに備えたいっていうの。」


 玄助が押し黙る。その態度を見て、怜は確信した。


「本気なのね。そんな夢みたいなことのために、これを作ってたのね。」

「…ああ。」

「呆れた。これ、全部自作?」

「ああ。友達にも手伝ってもらってるけどな。ほとんどは俺がスクラップから組み上げた。小学生の時から、毎日。」

「…すごいわね。そこまで打ち込めるって、私には分からないわ。しかも、こんなことに。」

「人の勝手だろ。」


 怜と玄助の目線が交錯する。互いに一歩も引かず、にらみ合う。先に目を逸らしたのは怜だった。


「しょうがないわね。あなたの熱意に免じて、特別に許可してあげるわよ。ただし、日中だけよ。夜はゾンビが活動する危険が高いからダメ。いい?」

「…いいのかよ。」


 案外あっさりと許可されたので、玄助は拍子抜けする。無茶な要求をしていることは自覚していたので、怜がまさか許可するとは思っていなかったのだ。


「私も、このことを学校でバラされたくはないもの。あ、あともう一個だけ条件を追加ね。学校で、今までと態度を変えたり、不必要に話しかけたりして来ないで。」

「…わかったよ。」


 怜が長く息をはきながら頭を抱えた。


「どうしてこんな面倒なことになっちゃったのかしら。もう、全部あなたのせいよ!あなたが変なことを言って私を惑わせて!」

「は?」

「だいたい、普通の高校生がこんなものを作っている時点でおかしいのよ!もっと部活とか委員会とかバイトとか、打ち込めるものはたくさんあるでしょう⁉どうしてこれなのよ!ゾンビハンターになりたいとか言っちゃうし!」

「いや、バイトはしてるけどな…。」


 怜のお小言が長くなりそうだったので、玄助はゆっくり足を後ろに下げる。音をたてずに一歩ずつ遠ざかっていく。


「そもそもね、私がこんなに言ってるのは安全を考えての事なのに、まるで私が悪役みたいな感じを出さないでほしいわ!むしろ、あなたのほうが悪役みたいな脅し方をしてるくせに、『頼む』だなんて、おかしいと思わないわけ?突っかかって来るし、本当に大変よ。ねえ、聞いて…る?」


 愚痴を言うことに熱中していた怜が玄助を睨みつけようとすると、もと居たはずの場所には何もなかった。慌てて辺りを見回す。玄助は森の奥に入ろうとしているところだった。


「あ、コラ!危ないからって言ったでしょう!」

「やべ、見つかった!」


 玄助が逃げるように茂みへと駆けこんでいく。


「待ちなさい!」

「あーっ、織原さんの後ろにワニのゾンビがーっ!」

「まさかっ!」


 即座に振り向き辺りを警戒する。物音ひとつ、しなかった。


「——って、こんなところにワニがいるわけないじゃないの!」


 怜の怒声は、暗い夜の森へと吸い込まれていった。返事は返ってこない。玄助の姿も見えなかった。


「も、もう…!」


 怜が拳を握りしめて天を仰ぐ。


「ば、ば、ば、ばかあ~~~~!」


 言いなれていないようで、その声は何とも頼りなく震えていた。

次回予告


玲との邂逅を果たした玄助だが、互いの印象は最悪。玄助は苛立ちを隠せないまま悶々とした夜を過ごしていた。そんな中、幼馴染の華にも新たな出会いが?そして満を持して登場するあの少年は一体…?

次回『巨神弾劾アイゼンエルフ』第三回、『日常は常ならず』

お楽しみに

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ