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12 新たなる巨神、その名は

主人公機のお披露目です。

「く…な…すけ!く…じゃ…い、玄助!」


 誰だ…?誰かが、俺を読んでいる…?


「来てはいけない!早く、早く逃げるんだ!」


 いや、違う。この声は…。


「いいか玄助、父さんの代わりに、町の、町のみんなを…!」


 父さんだ!


 玄助は荒れ狂う海の中で、ただ浮き輪に必死にしがみついていた。


「げほっ、とう、とうさ…っ!」

「玄助…。」


 口の中に水が入るのも構わず叫んでも、すべて波の中に消えていく。どれだけ手を動かしても、近づくことすらできない。


「行かないで、父さん!!」


 必死に伸ばした手に、何かが触れた。耳元で、俺を呼ぶ声がする。


「げ…すけ。」


 誰だ。俺を呼ぶのは誰だ。俺は父さんに追いつかなきゃいけない…置いて行かれたくない…!


「落ち着いて、玄助。」


 涼やかな声だった。冷え切っていた指先にも、ほのかな温もりが伝わってくる。


「私は、どこにも行かない。だから大丈夫。安心しなさい。」


 不思議と波が穏やかになった。父さんはどこにもいない。けれど、握った温度だけは確かに感じられた。それだけで、十分だった。



 目を覚ますと、見知らぬ天井が目に入った。どうやら知らぬ間にベッドで寝ていたらしい。


「…そうか、あのまま気を失って。」


 周りを見ると、カーテン越しの隣のベッドで動く影があった。長い髪、スレンダーな体形。


「怜…か?」

「玄助?目を覚ましたのね!」


 返事をした声はやはり怜だった。ほっとしながら、玄助はカーテンに手をかける。


「あ、ちょっと待って!」

「どうした?」

「いま、着替えてる途中だから…。」

「ああ、すまん。…ん?でもそういうのは、気にしなかったんじゃないのか?」

「…そういえば、そうね。何でかしら。あなたに見られると思ったら、急に恥ずかしくなったの。」


 カーテンを開き、怜が姿を現す。布地のしっかりしたTシャツにミリタリーパンツ、ガンベルト。やる気の服装だ。


「その格好…。やっぱり、まだ倒せてないんだな。」

「ええ。あなたも起きたのなら行きましょうか。」

「どこに?」

「最後の作戦を聞きに、よ。」


 怜に連れられて歩いて分かったが、どうやらここはどこかの指揮所のようだった。最初に居たのも、野戦病院のようなものだった。玄助が戦いで気を失ってから、ほぼ一日が経過していたらしい。そのあいだ怜も気を失っており、玄助が起きる数時間前に目を覚ましたらしい。


「状況はどうなってるんだ。」

「それは、私の口からは言えない。」


 怜がとある簡易ルームの前で止まった。


「ここよ。」

「いや、だからなにが——。」

「入ります。」


 玄助を無視して扉を開け、中に入る。そこには、玄助にも見覚えのある女性が座っていた。『つくし』に怜と一緒に来ていた人だ。


「あら、犯罪者くんもお目覚めね。」

「え⁉」

「そんな心外そうな顔をしないで。無免許運転に危険運転、人型重機の不法所持に違法改造。それから細かい罪状は…。」

「すみません、やってました。」


 玄助が頭を下げたので、怜は慌てて源子を睨んだ。


「お姉さま、からかわないでください!」

「ふふ、ごめんなさい。反応がかわいくて。」

「え?どういうことですか?」


 顔を上げた玄助に源子が優しく微笑む。


「改めて自己紹介するわね。私は平賀源子。怜ちゃんの保護者兼上司。聞いてるのよね?」

「ええ、まあ。」

「そう。とりあえず、あなたは私の特任補佐官ってことになったから、法律関係は全部クリアよ。安心してちょうだい。」

「は…?」


 怜が困ったように額に手をやった。


「お姉さま、説明が足りなさすぎます。」

「あら、そうかしら。」


 あきれた顔で玄助に向き直る。


「あのね、お姉さま--この人は、こう見えてかなりの権力者なの。私が特例でゾンビハンターやってたのも、大体この人の差し金よ。」

「そうねぇ。全国UV対策委員会最高顧問とか、政府のUV関連危機対策本部顧問とか、技術開発局特別研究員とか、まあいろいろやってけど、忘れちゃった。名前を貸してるだけでも、こういう時は便利よね。」

「は、はあ…。」


 予想以上のスケールに、玄助は生返事を返した。


「お姉さま、私の鎧の設計や、特殊なゾンビハンターの仕事なんかも全部一人でこなしてるの。」

「本当にすごい人なんだ…ですね。」

「あら、好きな口調で構わないわよ。さて、私のことは置いておいて。気になってるのは、『ヴァンパイア』のことでしょう?」

「ヴァンパイア…?」

「そう。昨日現れた巨大ゾンビのことよ。西田たちのネーミングよ。大方、ゾンビを超えるアンデッド、ってことでしょうけど。センスないわよねぇ。怜ちゃんだったらどんな名前がいい?私だったらスーパーゾンビとか…。」


 源子が頬を膨らませる。怜が咳ばらいをした。


「あら、話がそれたわね。『ヴァンパイア』の消息は不明よ。君との戦いの後、核と思われる部分だけで逃亡を図った『ヴァンパイア』は怜ちゃんと遭遇。怜ちゃんが別のゾンビと戦闘中だったこともあって、捕獲は失敗。学校の下にあった地下空間は海につながっていたから、今はもう海底でしょう。新種の研究をしていた人物は海の方から侵入して、学校の地下に研究施設をひそかに建造していたみたい。高校にも協力者を作って、体勢は万全だったわけね。」

「それが、東条先生ですか。」

「あら、よくわかるのね。」


 源子が面白そうに片眉を動かす。


「…ゾンビが湧いてきた倉庫から出てくるのを見ましたから。」

「そう。大正解よ。で、海につながってたものだから、その後の消息は追えなかった。潜水ドローンで調査してるけど、あまり期待は出来ないわね。」

「そう、ですか…。でも、それならもうしばらくは上陸してこないですよね?」


 玄助がほっと肩の力を抜いた。


「そうはいかないの。ゾンビの生態を考えると、浜風の近海に潜んでいる可能性が高いし、おそらく夜になったらまた上陸してくるわ。彼らは、一度逃した獲物に執着するの。」

「獲物、って…。」

「さあ。もしかしたらあなたのロボットかもしれないし、他の人間かもしれない。いずれにせよ、上陸して捜索することはほぼ間違いないでしょうね。」


 玄助の顔が険しくなる。


「さて、そこで政府は再び爆撃の用意を要請したわ。上陸し次第、速やかに殲滅せよ、とのお達しよ。あなたはどう思うかしら。」

「それによって、浜風はどうなりますか?」

「そうね。海岸部は消し飛んじゃうわねぇ。市街地も無傷ではないでしょう。」

「なら、ダメです。」

「どうするの?」

「俺が行きます。」


 玄助が部屋を出ようとする。怜が引き留めようとするのを、源子は片手で制した。


「行ってどうするつもり?あなたの『相棒』、もう動かないわよ。」


 玄助の足が止まった。


「理由を聞かせてちょうだい。あなた、前の戦闘でもそうやって戦おうとしたわよね。それはどうして?執念?こだわり?使命感?」

「それは——。」


 玄助が振り返り、源子をまっすぐ見据えた。


「きっと、その全部です。みんなを守るって、約束したので。」

「人命は助かるわよ。」

「人命だけ助かってもダメなんです。みんな、この町で暮らしてきたんだ。俺は、それも守りたい。」


「バカみたいだわ。」


 後ろで話を聞いていた怜が吐き捨てるように言った。


「そんなの、非合理的よ。間違ってるわ。」

「ああ、そうかもしれない。でも、俺はそうしたい。そうしなくちゃいけないって思ってる。怜もまた食いたいって言ってただろ。」

「なんのことかしら。」

「『つくし』のオムレツ。別の場所でも料理は出来るけど、あの店はあそこにしかない。みんな、この町でそういうものを持ってるんだよ。だから、それを壊すわけにはいかないんだ。」


 そう言った玄助の声があまりにもまっすぐで、怜は言い返すことが出来なかった。頭では、玄助の言っていることが間違っていると、わかっているのに。


「ふーん。でも、そこまでして守る価値のあるものかしら。あなたに対して、町の人がみんな好意的だったわけでもないでしょう。」


 源子が玄助に問う。確かに、巨大ゾンビの存在をかたくなに主張し続けた玄助は、悪い意味でも目立った存在だった。それに、庄司や新田という、かつての友人もいる。彼らの命を救った玄助を犠牲にして逃げ延びようともしていた。『守る価値はあるか』その問いかけは的を射ているようにも思えた。だが。


 玄助はくすりと笑う。


「そんなの、関係ないですよ。俺が守るって決めたんです。もしかしたら守ってくれなくてよかった、って言われたり、守って後悔することもあるかもしれない。でも、それは全部守った後の話です。」


 源子が無表情で玄助を見つめる。鋭い視線で射抜かれて、玄助はたじろいだ。


「…それは、本気なのね?」

「ええ。」

「何をしても、意志を貫く?」

「ええ。」

「あなたの命に代えても?」

「…ええ。」

「『相棒』がどんなにいじくられていても?」

「ええ。…え?」


 源子が満面の笑みを浮かべ、怜は呆れたようにため息を吐いた。


「そういってくれてよかったわぁ!あなたの『相棒』、いろいろ改造しちゃったんですもの!」

「え⁉…え?話が見えないんですけど…。」

「つまりね、私は最初から爆撃ではない方法で『ヴァンパイア』を処理するつもりだったの。それに一番有効なのは、あなたとあなたの『相棒』だったわけ。」

「えっと、まだよくわからないんですが…。」

「『ヴァンパイア』を処理できるレベルで強力な兵器を、ピンポイントで『ヴァンパイア』だけに当てるのは困難よ。普通の場合はね。いまここには、人型重機を戦闘用に改造して、あまつさえ自分で乗りこなしてしまった酔狂な男がいる。」

「それ、じゃあ…。」


 源子が心底おかしそうに笑う。


「重機としてしか利用価値がなかったはずの人型重機に、君は新しい可能性を見出したのよ。人型兵器は提唱されたものの、使い勝手が悪すぎてとん挫。だけど、対巨大ゾンビ戦においては、通常兵器を使うよりもはるかに効率的だという事が、昨日の戦いぶりで判明した。戦車や戦闘機を出したり、まして爆撃をするよりもずーっと小さい被害に留まったわ。」


 源子が笑みを浮かべながら玄助に手を差し出す。


「おめでとう。あなたが追い続けた夢は、無駄じゃなかったのよ。」

「あ…。あ、あはは、ありがとうございます。」


 なぜか出てきそうになった涙をこらえながら、玄助は源子の手を取った。


「だから、お願い。一から人型兵器を作るにはさすがに時間が足りないの。馬動けるのは、君の『相棒』だけ。だけど、これじゃ『ヴァンパイア』には勝てない。」


 悔しいが、頷くしかない。舌をかんだ玄助の顔に、ずいっと源子が押し迫る。


「だけどね、私の持てる技術を使ってあなたの『相棒』を改造してる。今度は本当に『ヴァンパイア』にも勝てるように。だから、あなたには戦ってほしい。戦闘経験があって、何より『相棒』のことをよく知っているあなたに。」

「…俺で、いいなら。」


 握る手に力を籠める。


「いいお返事ね。ちなみに、失敗したら爆撃作戦に移行するから、覚悟してね。」

「なっ!」

「あーら、自信ないの?」

「あ、ありますよ!絶対、やりきってみせますから!」

「ふふ、若いわね。それじゃあ行きましょうか。」

「行くって、どこにです?」

「あなたのパートナーたちのところへ」




「な、なんでこんなところから扉が⁉」

「そういう反応はもう飽きちゃった。さっさと入って。」


 海岸の基地の扉を見た玄助のリアクションを無視して、源子が玄助を中に入れる。中では、謎の巨人がたたずんでいた。


「こ、これは…!」


 かなり見た目が変わっているが、一目でわかった。『相棒』だ。たくさんの機械に囲まれ、修理と改造が行われているようだった。


「どう?私の作った万能ドッグくんは。どんな機械でもすぐに直したり改造したりできるんだから。あなたの『相棒』も、今晩までには必ず完成させるわ。」

「ケンちゃん!」


 上の足場から声が聞こえて見上げると、華がこちらを見下ろしていた。


「華⁉」

「僕もいるよ~。」


 隣から優斗も顔を出した。


「お前ら、一体何をしてるんだ⁉」

「源子さんに頼まれたんだ。改修案自体は源子さんの設計だけど、それを実際にやるうえでは、この子の面倒を見てきた僕らの意見もあった方がいいって。だから、作業は自動で機械がやってくれるけど、細かいところの調整は僕らの仕事さ。」

「な…。」


 玄助が絶句する。源子がその肩に手を置いた。


「どうせあなたが改造に賛成するってあの子たちも言ってくれたから、昨日のうちに作業を始めちゃったの。あの子たちも徹夜で手伝ってくれて、今はもう最終段階よ。」

「俺の相棒が…。」


 玄助が顔を覆い、体を震わせている。


「玄助…。」


 姿が変わってしまって泣いているのかと怜が心配するが、それはすぐに吹き飛んだ。


「くくっ、なんかとんでもないことになっちまったな!」


 玄助は笑っていた。


「優斗、華!ありがとう!」

「お礼なんていらないよ!私、ケンちゃんのためなら頑張れるから!」

「僕もさ!僕たちの『相棒』を、最高に強くしてあげなきゃ!」


 三人が拳を突き出し、口角を上げた。


「さて、二人は続きをお願いね。怜ちゃんもお手伝いをしてちょうだい。玄助くん、君はこっちで新しい『相棒』についてレクチャーを受けてもらうから。」

「分かりました。」

「覚悟しておいてね、覚えること沢山なんだから。」

「はい、頑張ります!」


 玄助の気合の入った返事に、源子は満足そうに笑みを浮かべた。


「じゃあさっそくなんだけど、動力を変えたわ。」

「え?」


 大きく改造したとは聞いていたが、まさか心臓部まで変わっているとは。


「あのジェネレーターじゃ限界があるんだもの。『鉄十号』に付いているのと同じ、偽軸対蹠炉(FAAR)を搭載したわ。もちろん規模はこっちのほうが大きいけど。世界で私にしか作れない特別製よ。今回が二台目ね。」

「え、えふえーえーあーる?」

「そう。真反転理論空間って聞いたことある?」

「いえ、全く。」

「うーん。じゃあ反物質は?」

「それなら、なんとなく。」

「あれみたいなものを利用したジェネレーターよ。反物質はある観点から反転してる物質なんだけど、それとは異なりすべてにおいて反対であるもの——簡単に言えば真・反物質みたいなものの存在する理論上の別位相軸空間を仮想的に再現して、現空間との境面反応から無限に近いエネルギーを恒常的に取り出すの。ただ、反応が加速し過ぎると仮想空間自体が保護システムからあふれて、辺り一帯と対消滅を起こす。通常はリミッターをかけて動作させるんだけど、この大きさのものをそれなりの出力で動かすためにはそれも外す必要があるのよね。」

「…つまり?」

「高出力で使用し続けると、半径10mくらいが消滅するから気を付けなさい。」

「しょ、消滅⁉」

「ええ、文字通り。空間ごと消え去るわ。原理を聞く?」

「遠慮します…。」

「そう、良かった。もしもそうなったら爆撃なんかよりずっと被害も大きいんだから、中止しなくちゃだめよ?」


 半径10Km。その被害を想像して絶句する。


「どうして、そんな危険なものを…?」

「決まってるじゃない。現行モデルで最高の出力を誇るジェネレーターと増殖サーキットを使っても、『ヴァンパイア』のパワーには勝てないわ。あなたが体を張って得てくれたデータのおかげね。だから、危険をはらんでいてもこっちを採用したわけ。」

「だけど…!」

「大丈夫よ、臨界が来る前に何とかすればいいの。それに、限界時間は5分よ?それだけあれば十分よ。」

「は、はは…。」


 玄助の頬を冷や汗が流れる。


「それで、各部の出力は調整次第だからまたあとで説明するわ。先に武器の説明から始めるわね。急ごしらえだからあまり種類は用意できなかったけど、威力は十分なはずよ。まず、このプラズマサーベルなんだけど、基本的には起動してプラズマの刃が発生したら、触れたもの全部が蒸発するから——。」


 『ヴァンパイア』の性質上、処理するためには仕方がないのであるが、あまりに物騒な武器が出てくる。目を白黒させながら、必死に耳を傾けていた。


 父さん。思っていたのとは違う方向で、ずっと、責任重大だよ。





 夜の海は暗い。明かり一つない浜辺では、夜空のきらめきだけが頼りだ。だが、海の水は光を跳ね返し、その奥はいつまでも暗いままだ。表面ばかりが明るく騒がしい夜の海に、大きな波が立った。塩水をまき散らし、それは浅瀬から浜を目指して歩いてきた。


 現れたのは、巨大ゾンビ『ヴァンパイア』だった。


『…予想通り、出たわね。」

「はい。」


 無線から聞こえる源子の声に答える。源子の周りでは、優斗と華、それから怜が玄助を見守っているはずだ。


『いつでも行けるかしら?』

「もちろん。お願いします。」

『そう。5分のタイマー、忘れないでね。きっかり5分で暴走すると思っていいわ。それじゃあおーぷんざげーと!』

「開門!」


 源子の掛け声とともに砂浜の空間が割けた。中から、シルバーにカラーリングされた巨人がせり上がる。


『うーん、『相棒』っていうだけだと呼びづらいわねぇ。相棒、あい、ぼう。I、棒!ね、ちょうどいいし私との合作ってことにして、私の開発ネームのナンバリングに入れてもいいかしら。』

「…いま言うことですか、それ。意味も分からないし。別に構いませんけど。」


 ディスプレイもない真っ暗な操縦席にいる玄助は、源子の無線に呆れた声で返事をした。玄助の頭にはフルフェイスのヘルメットが載っている。『相棒』にもあったパイロットヘルメットを改造し、玄助の動きに反応して頭部カメラが動くだけでなく、すべての映像がヘルメットの内部に映るようになっていた。普通は操縦桿も見えなくなるので非効率だが、『相棒』の操縦席をそっくり引きついたこのロボットと玄助の組み合わせにおいては、動きのラグを極限まで減らすことが可能だ。


 さらに、着ているものも短時間で製作したとは思えないほどの耐衝スーツである。源子いわく、衝撃だけなら大抵の爆弾にも耐えられる代物だ。


『じゃあ、この子は『鉄十一号』!相棒だから、ローマ字の(アイ)に棒、11でピッタリよ!』

「ちょっと呼びづらいかもしれないです。あと相棒からの連想は強引過ぎませんか。」

『えー、文句付けるなら最初に言ってほしいわねぇ。仕方ない、じゃあアイアンイレブン——。』

「サッカーする熱血ロボアニメのタイトルみたいだ。」

『分かったわよ、じゃあドイツ語で『アイゼンエルフ』!どう?』

「採用で!」


 馬鹿らしい会話だが、玄助の肩に入っていた力が不思議とどこかへ消えていた。自然な手つきで起動キーを回す。


「アイゼンエルフ、起動します!」


 『エルフ』の瞳が光る。玄助との連携を高めるために、人間と同じ位置に配置された二つの瞳を持つ『エルフ』は、その色と相まって白金の騎士を思わせる。


ジェネレーターが本格始動すると、全身から冷却ガスが噴き出した。圧倒的な出力によるオーバーヒートが起きやすい起動時の負担を軽減する。


 『相棒』と異なり、『エルフ』は非常にスマートなスタイルをしている。もちろん骨格部分には流用も多いため、似通っている部分もある。細い胴に対して横にせり出した腰部と下半身などはその趣をたたえている。


 だが、両腕は大きく変わった。決して太くはないが、関節と筋肉に当たる部分が肥大し、かなりマッシヴな印象を与える。さらに、アンバランスであった両腕のバランスも均等に改良された。

細い胴に筋肉質で比較的大きな手足を持った『エルフ』は、不格好な土偶であった『相棒』に比べ、洗練された土偶のようであった。


「リベンジマッチだ、『ヴァンパイア』!」


次回予告


源子の超空間テクノロジーが組み込まれた新生『相棒』、その名は『アイゼンエルフ』!人知を超えた巨神たちの戦いの火蓋が切って落とされる。果たして勝つのは…!

次回『巨神弾劾アイゼンエルフ』第十三回、『浜辺の決戦』

お楽しみに

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