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11 守りたいもの

1R終了

「いまの悲鳴は…?いや、気のせいか。それよりも。」


 玄助の目の前で巨大ゾンビが立ち上がった。


「こいつ、強すぎだろうが…!」


 『相棒』の左ひじから先にはもう何も付いていなかった。力ずくで引きはがされたようにコードがぶらぶらと揺蕩う。




 怜たちを逃がすために殴り飛ばしたまではよかった。しかし巨大ゾンビは高圧電流を受けたにもかかわらず、すぐさま動き始めた。起き上がる瞬間を狙って殴ろうと再び振りかぶると、それよりも先に巨大ゾンビの腕が『相棒』の足を掴んだ。


 構わず拳を振り下ろす。その瞬間に、足を持ち上げられた。重心がずれ、姿勢制御が追いつかない。拳を振るいきれずに、たたらを踏むように後ろに下がる。その隙に巨大ゾンビが立ち上がっていた。『相棒』よりも少し背が高い。強烈な威圧感に体が固まりそうになる。


「このおっ!」


 気合を入れながら恐怖を振り切り、巨大ゾンビに向かって走り込みながら左の拳で校舎の壁に押し付けた。


「スタンフィストォ!」


 高圧電流を再び流し込む。いくら電流に強くても、流し続けていれば効果はあるはずだ。


 そうした玄助の予想とは裏腹に、巨大ゾンビの動きは素早かった。押さえつけられた上半身はそのままに、人間ではありえないような柔軟性を発揮しながら、『相棒』の左腕に両足を絡ませて来た。


「気持ちわるい動きしやがって!」


 腕に絡みついている巨大ゾンビを引きはがそうと、腕を振り回して地面や壁にたたきつける。巨大ゾンビは相当の重量で、振り回すのも一苦労だ。だが巨大ゾンビは振り落とされずに、むしろものすごいパワーで腕を締め付けてくる。


「くそ、こっちが先に壊れちまう!」


 ミシミシと、装甲のつぶれる音が操縦席にまで伝わってくる。巨大ゾンビが両手で『相棒』の腕を固定しながら、足を『相棒』の腹に当てて思い切り伸ばした。関節部がすさまじい力で引っ張られる。


 玄助は右手で巨大ゾンビの手足を外そうと試みるが、パワーでは巨大ゾンビに負けているようだ。



 抵抗むなしく、関節部のコードがちぎれる。悲惨な音を立てて左ひじから先が抜き取られた。


「ぐわっ!」


 反動で数歩よろめく。微かに悲鳴が聞こえたような気がした。だが、今はそれどころではない。目の前で『相棒』の左腕を投げ捨てながら立ち上がる巨大ゾンビにどう立ち向かうか、玄助は必死で考えていた。


「CPLなら…いやだめだ、あれは切り札だからな。」


 考える間もなく巨大ゾンビが突進してくる。とっさに『相棒』の体を右に翻すと、すんでのところで回避に成功する。


「偶然だろうと!」


 そのタイミングで右腕を振り下ろす。ぎりぎりで避けたため、ゾンビは『相棒』の至近距離にいた。無防備な首筋に手刀がめり込む。肉の爆ぜる音と共に、巨大ゾンビがうつぶせに倒れた。ここぞとばかり巨大ゾンビの右肩を踏みつけるが、一度踏みつぶしたところで大したダメージは与えられない。何度も繰り返し足を振り下ろす。


「このやろ、このやろ、この野郎!」


 五回目の踏みつけで、ようやく巨大ゾンビの右肩がちぎれた。だが、巨大ゾンビは右腕を犠牲に四つん這い、いや三本足で距離を取り、悠然と立ち上がった。


「これでおあいこ…でもない、みたいだな。」


 巨大ゾンビの右腕はすでに半分以上再生されている。玄助の背中に冷たい汗が流れた。


「それでもやるしか!」


 玄助がゾンビに接近しようとすると、先ほど巨大ゾンビを踏みつけていた右足の力が抜けた。『相棒』が急にバランスを失い転びそうになるが、なんとか左足で体重を支える。


「なんだ⁉」


 コントロールパネルを確認する。右足の関節部分が故障したようだ。調整時間の短さがついに祟ったのだ。右足のフォローをしようとした左足にも警告が表示されている。


「もうガタが来たか。でもなぁ——。」


 操作盤を素早くたたいて自己修復システムを起動する。故障個所を別ルートでつなぎ直したり、他の部品の出力を調整したりして、損傷をどうにか誤魔化す。


「怜と約束したからな、そう簡単には引けねぇんだ!」


 ぎこちない挙動を取る右足ではなく、左足に重心を集めて立つ。激しい動きは出来ないため、巨大ゾンビの動きを最小限でいなして隙を作るしかない。さっきは運良く避けられたが、これからは意図的に、しかも完璧に成功させ続けなくてはいけない。もしそれが出来ても、『相棒』が動けなくなるのは時間の問題だ。状況は絶望的だった。


「さあ来いッ!」


 玄助が気を吐くと、巨大ゾンビが両腕を振りかぶってとびかかって来た。受け止めてるのは可能だろうが、膝がオシャカになる。しかし、横に避けるには回避する時間が足りない。ならば、このまま受け流すしかない。


「なるようになる!」


 飛び込んできた巨大ゾンビの左手を『相棒』の右腕でつかみながら、タイミングを合わせて背を向ける。巨大ゾンビのスピードと腕の力を合わせつつ、上半身を折り曲げた。


 一本背負い投げの要領で投げ飛ばされた巨大ゾンビは、背中から勢いよく地面に激突する。骨格のはじける音が聞こえるが、何事もなかったかのように蠢いている。


「まだここから!」


 近くに落ちていた燃料タンクを拾う。『相棒』の右足からパージしたものだ。それを持って巨大ゾンビの頭を勢いよく殴りつけた。肉片が飛び散る。


 細腕の右腕では、数回殴っただけで拳がいかれてしまう。だが、燃料を積み込んでいたタンクは非常に丈夫だ。殴るのにはうってつけだ。


 タンクがひしゃげるまで、何度も何度も殴り続ける。再生しようとしてきた肉芽を片端から潰していく。ディスプレイの警告に右肩の関節部も表示されるようになった。


「もってくれよ、『相棒』…!」





 怜に抱えられた優斗と華は、何もない海岸に来ていた。


「織原さん、ここは…?」


 優斗が怪訝そうな顔をする。


「ちょっと黙ってて。」


 怜は二人を砂浜に下ろすと、何もない空間に手をかざした。


「わぁ…。」

「嘘だ、こんなの…。」


 華と優斗が口々に声を漏らした。何もなかったはずの空間に、ドアが現れたのだ。


「さあ、入って。」


 怜がドアを開けると、中は非常に広い空間になっていた。研究所のようにも見える。


「これが私と上司の基地。私の上司、こういう技術の開発が得意なの。」

「と、得意ってレベルじゃこんなの作れない!亜空間技術が現代の二歩も先を行ってる。こうした空間と空間をつなげるワープ技術は、実現性が高い理論が提唱されたばかりなのに…!!」


 なにやら一人でぺちゃくちゃと話す優斗の後ろに、真っ赤なスポーツカーが砂埃を巻き上げながら停車した。


「あら、詳しいのね坊や。」


 車からセクシーな女性が降りてきて、優斗の顎に手をかけた。


「は、ははは、えと…。」

「でも残念。これはワープ技術じゃないのよ。私の作り上げた箱庭を、この場所に重ねて置いてあるの。これはその入口。空間連結系のワープ技術だと、人体に影響が出ることが多いのよねぇ。」

「な、なんだって!!」

「優斗君、わかるの!?」


 何も理解できなかった華は、優斗が理解できたことに驚いていた。優斗は元気よく言う。


「何を言ってるのか全然わかりません!」


 華が砂に倒れ込んだ。


「保科さん、どうしたの?」

「な、何でもないの、織原さん…。」


 二人を無視して源子が言う。


「うーん、まあ細かい説明はいいわね。とりあえず中に入ってもらえる?」


 優斗と華を中に入れながら、怜に向き直る。


「怜ちゃんは愛しの彼のところへ行って。この後の作戦は無線で伝えるわ。とりあえず、人工ゾンビが外に出ていないか確かめておいて。」

「了解しました…けど愛しの彼じゃないです!行ってきます!」


 怜は三人を置いて一目散に玄助のところへ向かう。内心ではかなり気になっていた。あの再生能力を持つゾンビでは、普通の攻撃では太刀打ちできない。怜が戻るまでの間に死んでしまっている可能性も非常に高かった。


 怜を見送り、源子も中に入る。優斗と華が、所在なさげにきょろきょろと首を動かしていた。


「さて、二人ともいいかしら。」


 その声に、華は改めて源子を見る。頭の中で記憶の断片が引っ掛かった。


「えっと…。あー!この前のお姉さん!」

「ええ。あの時お世話になったから、私の秘密基地にご招待。あんまり変なところに触らないでね?」


 豊満な胸を誇示するようにしながら、ウィンクと共に言う。優斗と華の反応が鈍いのを見て、サッと表情を切り替えてディスプレイを起動した。『相棒』が巨大ゾンビと戦っている場面が映し出された。ずいぶんボロボロのようで、動きがかなりぎこちない。


「やっぱり、調整が甘かったんだ…。」


 悔しそうに唇を噛む優斗の肩を源子が抱いた。


「ねえ、もしかしてあなたたちもあれを作ったの?」

「え、ええ。僕は玄助くんの手伝いですけど…。」

「私は、ただの応援です…。」


 華が縮こまる。二人の答えを聞いて、源子がにやりと笑った。


「あなたたちにも、お手伝いしてもらおうかしら。」




「…了解しました、お姉さま。」


 源子からの指令を聞いた時には、既に高校の目の前まで来ていた。敷地内で取っ組み合いを続ける二体の巨人が見える。


「玄助!」


 呼びかけるが、返事はない。巨大ゾンビに『相棒』が弾き飛ばされ、よろめいて倒れた。


「まずい、玄助、玄助ってば、返事しなさいよ!」


 怜が敷地内に入った時、玄助の『相棒』は校舎に寄りかかって倒れていた。巨大ゾンビの股の間を通って追い越し、『相棒』の操縦席にとりついた。


「生きてる⁉死んでないなら返事しなさい!」

「ん…。」


 その声に玄助は目を覚ました。右目が開けられないと思ったら、頭から流れる血が視界をふさいでいただけだった。乱暴にぬぐい、『相棒』の状態を確認する。まだ動ける。まだやれる。


「返事しなさい!」


 操縦席を叩きながら呼びかける声に、だんだん意識がはっきりしてきた。


「れ…い?」

「よかった、気が付いたのね!玄助、今すぐここから逃げなさい!市外に出るわよ!この事態に、国も動いたわ!」

「どういう、ことだ。」

「玄助がアイツの腕を落としてくれたおかげで、調査資料は十分。あとはあれを持ち帰って、防衛隊の空爆で巨大ゾンビを処理するわ。」

「空爆⁉」


 一気に覚醒した。思考と状況がクリアになる。


「ええ。半径2kmを蒸発させる新型爆弾を投下する予定。巨大ゾンビも、残ったゾンビも一掃できる。国内への爆撃なんて前代未聞だけど、方法はこれしかない。」

「そんな…もっと、他の攻撃手段はないのか!?人型重機で捕獲するとかさ!」

「下手な攻撃でUVがまき散っても困るの。一気に爆撃を行うのが一番よ。それに、人型重機で取り押さえようにも、戦闘に耐えられる重機なんてあなたの『相棒』くらいしかないわ。それは分かっていたでしょう?」


 ヒト型であるメリットは、器用な作業が出来ること。こうした怪獣騒ぎでもなければ、ただの建築機械としての意義以外はほぼ内に等しい。警察に作業用を回収した機体が数基あるのみで、軍事レベルのものは開発計画すら立っていなかった。


 つまり、現状で最も有効な手段は、人気のない場所で強力な爆弾を投下すること、ということになる。合理的で、反論できない結論だった。


 だが、玄助の顔に影が差す。


「…町はどうなる?」

「え?」

「その爆弾を落としたら、町はもう壊滅だよな?」

「ええ。だから、いま人手をかき集めて避難を行っているの。時間さえ稼げれば--」

「なら、ダメだ。」


 玄助が『相棒』を起き上がらせる。


「だ、ダメって何よ…わわわ!」


 急に起き上がったので、怜は転がり落ちそうになってしまった。何とか突起に捕まる。


「悪い、俺はこいつと戦うよ。」


「何を言ってるの!」

「悪い。でも、俺はそうしなきゃいけないんだ。」

「確かに街を犠牲にするのはよくないかもしれない!だけど、それ以上の被害を食い止めるにはこれしかないの!」

「だとしてもだ!」


 ゆっくりと向かってくる巨大ゾンビに、『相棒』は構える。


「俺は、守りたいんだよ!」

「…ああもう、分かったわよ!あとでどんなに怒られたって知らないんだから!」

「へへ、上等!地下に残ったゾンビは怜に任せた。こいつは俺が必ず倒す!」

「手はあるの?」


 玄助が不敵に笑う。


「奥の手をまだ残してある。最後にぶちかましてやるよ。」

「そ、じゃあ任せたっ!」


 怜が飛び降りると同時に、巨大ゾンビが『相棒』に殴りかかる。ひじから先の無い左腕で受け止める。その足元を怜は駆けて抜け、がれきに埋まった地下への入り口を掘り返し始めた。


「悪いが、お前に付き合ってる暇はないんだよ!」


 ギシギシと音をたてる右足を持ち上げ、思い切り蹴飛ばした。ゾンビを遠ざけたが、その衝撃で膝関節の噛み合いがすっかり外れたようだ。棒のようになってピクリとも動かない。だが、足首は動くようだ。最低限の構えは取れる。左足を前に半身で構え、右腕を顔の横に引いた。


「さあ、来いよ化け物!串焼きにしてやる!」




 怜は瓦礫を押しのけて地下への階段を駆け下りる。暗視スコープやサーモセンサーを用いた彼女の視界では、地下の暗闇も好天のビーチよりはっきりと見える。地下に残っていたゾンビに残らずAUT弾を打ち込んでいく。


『正々堂々と命令違反なんて、やるわねぇ怜ちゃん。』


 無線で源子がからかうような声が聞こえてくる。


「すみません、源子さん。失敗した時には大人しく彼を連れて離脱します。爆撃の用意は進めてください。」

『別にいいわよー?いくら怜ちゃんが私のお付きだからって、全部に従わなきゃいけないわけじゃないんだし。好きにやってね。でもその分、今回は助けないわよ?』

「分かってます。」


 地下の空間はかなり広い様だ。人工的なものかと思ったが、どうやら違う。かなり深い位置にあるために気付かれないまま残ったのだろうが、ここは天然の洞窟だ。


「一体どこまで続いているのかしら…。」


 周りのゾンビたちは唸るばかりで、その疑問に答えてくれそうにもなかった。




「玄助くん、まさかアレを狙って…?」


 ディスプレイに映る『相棒』の動きに、優斗は作為を感じ取っていた。


「ケンちゃん、大丈夫かな…。さっきからずっとやられっぱなしだよ。」

「保科さん、大丈夫だよ。玄助くんは、ちゃんとぎりぎりで避けてる。すごい技量だ。」


 『相棒』は巨大ゾンビの攻撃を最小限の動きでかわし続けている。とはいえ完全に避けているわけではなく、ダメージを軽減する程度のものだ。あれではすぐに『相棒』は動かなくなるだろう。だが、『相棒』は常に同じ構えでゾンビを待ち続けている。


「それに、あれはたぶん待ってるんだ。ゾンビが思い通りの動きをするのを。」

「へえ、ずいぶんと信頼してるのね。」


 源子がおかしそうに言う。


「もちろんですよ。僕は玄助くんの親友です。それに、僕は『相棒』のこともよく知っていますから。」




 通算十回目の攻撃をいなしたところから、玄助は数えるのをやめた。数が頭にあると、どうしても焦る気持ちが生まれてしまう。


「落ち着け、落ち着くんだ玄助。狙いは一つ、きちんと待てよ…!」


 左足を軸に回転し、巨大ゾンビのパンチを避けた。ほぼ片足で動いているような状態で、画面上の左足は警告で真っ赤に染まっている。


 何度も攻撃をかわされ続けた巨大ゾンビは何かを学習したようで、なかなか接近してこなくなった。出方を伺っているようだ。互いににらみ合う時間が続く。


「ここは一発、賭けてみるか…!」


 巨大ゾンビの様子を良く観察する。こちらは大きく動けないが、巨大ゾンビは動き回って隙が出来るのを待っているようだ。だがその分、向こうの体勢にも隙が出やすい。これを利用しない手はない。


 ならば--

「しまった!」


 巨大ゾンビが低姿勢になった瞬間、『相棒』が急に頽れた。ついに残っていた左足にも力が入らなくなってしまったのだろうか。


 それを見逃さず、巨大ゾンビは頭から突っ込んできた。避けることも受け流すことも出来ないこの状態であの巨体の突進を受ければ、操縦席ごと潰されてしまうだろう。


「なんてな、わざとだよ!」


 左足が再び動き出す。倒れそうになった巨体をぎりぎりで支え、『相棒』は右腕を振りかぶった。右前腕部に装着された細長い棒状のパーツから、甲高い音が鳴り始める。


「ここだ!安定剤、排出!」


 棒状パーツから液体が噴出されるのと同時に、突進してくる巨大ゾンビの頭部に合わせて右手を突き出した。頭と拳が激突する。衝撃に負け、右の拳がひしゃげていく。それをものともせず、玄助は腕を押しこんだ。


CPL(クレーンポンプリニア)ランチャー、シュートォ!」


 棒状のパーツが滑るように打ち出される。杭打機のようにぶちぶちと巨大ゾンビの肉を断ち切って進み、体を頭から串刺しにする。


「注入!」


 突き刺さった棒からさらに棘のようなものが無数に生え、巨大ゾンビの体内に食い込む。その棘の先端から液体が放出された。巨大ゾンビの体がわずかに膨らむ。


「パージ!」


 『相棒』の腕から小さな爆発が起こり、棒が切り離された。それと同時に、爆発の熱を受けた棒が内部から一気に燃え出した。


 それは巨大な爆発となって巨大ゾンビを内で破裂した。さらに、先ほど注入した液体もゾンビの体内をめぐりながら発火し、体中に炎を届けていく。


 しかし爆発の反動で、『相棒』も盛大にひっくり返った。当然、玄助にも相当の衝撃がかかる。揺さぶられた勢いで後頭部を激突させた。


「グゴオオオオオオ」


 巨大ゾンビが苦しそうな悲鳴を上げる。夢中で暴れて火を消そうとしているようだが、体内の火は消えることがない。次第に、巨大ゾンビの体が溶け始める。


「へへ、いくら燃えづらくてもな、中からこうやって火を付けられたらひとたまりもないだろ。内部に燃料を注入して燃やす、CPLの味はどうだ。」


 やがて、ゾンビの体が崩れて瓦礫の上にたまる。さながら、悪趣味なキャンプファイヤーのようであった。


「はは、ははははは。やった。勝った…ついにやれたよ、親父…。」


 玄助が『相棒』を動かそうとするが、全くピクリともしない。


「あれ?さっきの故障はフリだったんだが…。」


 ディスプレイを確認すると、全身が警告だらけで埋まっていた。自己判断プログラムも匙を投げて操縦不能と訴えている。


「本当に限界だったか…。だが、奴を倒せたなら——。」


 言いかけて、絶句した。燃え残りのはずの黒い塊が、ぬるぬると動き始めた。不定形な軟体生物のようにくねりながら移動する。


「なんだよ、なんなんだよアイツは⁉」


 燃え残りとはいえ、大きさは自動車何台分もある。放っておけばまた被害が拡大するだろう。


「クソ、終わってないのかよ!動け、動け『相棒』!」


 ゾンビの残骸から出現したそれは、あたりの瓦礫を飲み込みながら、出現してきた地下空間へと下っていった。


「待てよ、にがさね…ぇ…?」


 急に視界がぼやけてきた。後頭部が妙に痛む。手を添えると、粘着質な液体に触れた。


「あー、畜生…。」


 手にべっとりと付着した血を見ながら、玄助は気を失った。

次回予告


傷つき倒れた玄助。しかし、巨大ゾンビの脅威は去ってはいない。立ち上がれ玄助、己の望みを果たすために。

次回『巨神弾劾アイゼンエルフ』第十二回、『新たなる巨神、その名は』

お楽しみに。

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