ゾンビ溢れる世界で私は、道行く野良ゾンビに恋してしまいました。
中学生の時に一度だけ、ゾンビ映画というものを観たことがある。
といっても自発的に観ようとした訳ではなく、テレビで流れていたのを何となく観ていただけなのだけれど。
……その映画の主人公は、最後にゾンビに噛まれて感染してしまった。
なんだ、結局そんなオチになるのか……なんてその時は思ってしまったけど。
「ア゛ァゥー……」
「ヴァァア゛」
「ア゛?」
……私の最期もそんなオチになっちゃうかもしれない。
なぜこんなことになってしまったのか。
もしこれが映画なら、色々と危険を冒しながらその理由を探すのかもしれない。
でも私ただの女の子だし。
二ヶ月前まで女子高生だったし。
そんな使命も何もないので、普通に頑張ってここまで生き延びてきた。
だけど私も、ただ何も考えずに生き延びてきた訳ではない。
この二ヶ月間、私はゾンビについて観察を行ってきた。
そのおかげで分かったことは、このゾンビたちは基本的にはイメージにあるゾンビと同じような生態なのだが、いくつか少しイメージとは違う特徴があるということだ。
ゾンビの特徴その1。
めっちゃ動き遅い。
いや、イメージのゾンビも遅いじゃんって思うかもしれないけど、もはやそんな次元の話ではない。
試しに食べ物で釣って、百メートルに何秒かかるかを計測したら日が暮れた。
ウサギとカメならぬウサギとゾンビだったら、二日間くらいウサギが寝ても勝てると思う。
ゾンビの特徴その2。
夜は活動しない。
なぜかは分からないけど、ゾンビが活動できる時間帯は外が明るい時だけ。
夜はその場でずっとじっとしている。
なんていうか……逆では?
夜に活発になるイメージあるんだけど……。
ゾンビの特徴その3。
懐く。
一ヶ月前、私のご飯を物欲しそうにしていたゾンビに少しご飯を分けてあげたら、なんかずっと私の後ろに着いてくるようになった。
遅い足で頑張って着いてくるのを見ていたらなんだか私も愛着が湧いちゃって、今では活動拠点で一緒に住んでいる。
ゾンビの特徴その4。
ここまでのゾンビの特徴に当てはまらないゾンビが稀にいる。
例えば──。
「チッ……ここももう駄目みたいだナ……」
……なんてことを、今私の前で呟いているゾンビとか。
今まで朝にジョギングしてるゾンビとか、おばちゃんゾンビたちがヴァーヴァー言いながら井戸端会議的なことをしているのは見たことがあったけど……。
私が理解できる言葉を話すゾンビは初めて見た。
しかし……。
ここからじゃよく顔が見えないなぁ……。
まだ向こうも物陰に隠れている私には気づいていないようだけど……よし、ちょっと話しかけてみよう。
「こんにちは、今日もいい天気ですね」
「ああ、確カにいい天気だ、ナ……!?」
私に気づいた喋るゾンビさんが、驚いてこちらを振り向く。
その瞬間、今まで物陰から覗くように見ていた私は、はっきりとそのゾンビの姿を見る。
……目が、合ってしまった。
その目はガラス玉のように綺麗に光っていて、私はしばらくの間目を逸らせずにいた。
……しばらく経って、私は視線をさらに上へと移す。
短く、艶やかな黒髪。
それはゾンビなのに、手入れされているかのように美しく……。
……これが一目惚れ、というものなのだろうか。
私はこの荒廃した世界で、生まれて初めての恋をした。
「ナ、なンだよお前は!? お前も自我があるのカ!?」
ワンテンポ遅れて、喋るゾンビさんが声を荒らげる。
急に話しかけられてびっくりしたのだろうか。
しまったな……怖がらせるつもりはなかったのだけど……。
ここは少し宥めた方がいいかもしれない……。
そう思った私は、この状況にピッタリな言葉を探して、喋るゾンビさんへと語りかける。
「結婚しませんか?」
「ナ、なにを言ってルんだお前はッ!?」
しまった、つい欲望が言葉に出てしまった……。
……こうなったらもう取り繕っても遅いか。
そもそもこんな世界になる前は、自分を取り繕うことなんてしなかったし。
うん、ありのままの自分で行こう。
「いきなりすみません。……でもどうやら、あなたのことを好きになってしまったらしいのです。という訳で、結婚しませんか?」
「いやいやイや! おかしいだロッ! だいたい私は女ダ!」
……何を言っているのだろうか、このゾンビさんは。
女だって? そんなこと──。
「そんなこと知ってますよ。だってその服、ウィリアム女学院の制服ですよね? 私もそこ通ってましたし。っていうか見たら分かりますよ」
「あれッ!? ジャ、じゃあなんデ──」
「好きという感情に性別とかゾンビとかなんて関係ないんですよっ!」
「ひぅッ! ご、ごめんなさイ……!」
ああっ、完全に怖がらせてしまった……。
少しありのままの自分を出し過ぎたかな……。
反省しなければ……。
「……ごめんなさい。人とコミュニケーションなんて久々にとったから、少し距離感が掴めないんです……」
「い、いヤ。構わないサ。でも驚いたよ、私以外ニ自我を持っているゾンビがいたなんテ……って、あれ? ……もしかしてお前、人間なのカ……?」
私の顔をマジマジと見て驚きながら、喋るゾンビさんは話す。
「そんなにマジマジと見つめられちゃったら照れちゃいます……」
「アッ、すまない……じゃなくてッ! どうしてお前はゾンビになってないんダ?!」
「ゾンビにまだ噛まれていないからじゃないですかね?」
「カッ、噛まれてない? そんなこと……でも確かニ……うーむ……」
私の言葉を聞いて、一人で考え込む喋るゾンビさん。
「……おーい。聞こえますかー? 喋るゾンビさーん?」
「……果たして有り得るのカ? 現にこうやって……いやでもやっぱリ……」
駄目だ、完全に自分の世界へと旅立ってしまっている。
……。
「うーむ、おかシくは──」
「えいっ」
「──ひゃっ!? な、ナにをするんダ!?」
「何って……ハグ?」
「そ、そうじゃなくてッ! なんでいきなりハグなんテ……!」
「いや、反応ないしいいのかなって」
「いっ、いいわけあるか! ……ええい、離セッ!」
喋るゾンビさんが無理やり抜けようとする。
……が、その抵抗は虚しく、私の腕の中でじたばたするだけに留まっていた。
「……ッ! くぁッ……! ハァ、はぁ……。くっ、クソッ! なンでお前こんなに力が強いんだよッ!」
「まあ腐ってもこの世界で数ヶ月生きてきてますからね。それに元々運動部でしたし」
「ぐぬぬ……。こっ、こうなったラッ! お前を噛んでゾンビにしてやるからナっ! ゾンビにナりたくなければ今すぐ離れロっ!」
私は喋るゾンビさんを強く抱きしめながら、その言葉を聞いて想像する。
喋るゾンビさんが、私を噛む。
喋るゾンビさんに、私の初めて(ゾンビ化)を奪われる。
…………。
「い、痛くしないでね……?」
「うガぁー! おっ、お前は無敵なのカ?! 分かった、私が悪かったかラもう許してくれーッ!」
……結局、私が喋るゾンビさんを解放したのは、存分に喋るゾンビさんの感触を堪能した後だった。
……これが、私と喋るゾンビさんの初めての出会い。
このあと、喋るゾンビさんとの共同生活や、冒険の日々がやってくるのだけれど……。
……それはまた、別の機会に綴ろうと思う。
執筆楽しかったです(小学生並みの感想)
一応この作品はここで終わりの予定ではなく、今後連載小説として執筆していくつもりです。
ただ現在は別の連載もあるので、同時連載になるか落ち着いたらにするかはまだ考え中ですが……。
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あと他の作品もよかったら読んでいってください!(唐突な宣伝)