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You Are My Destiny

 これは本編《死後も現世でゾンビやってます  ~三種の神器をもらってハイスペックゾンビな俺~》の外伝です。

 ただし本編のキャラは一切出てきませんので、この作品だけでもお楽しみいただけます。

 天使。

 一般人が想像しうる姿といえば、シックスパックに割れた腹筋に、背には輝く純白の翼を生やしたいけ好かないイケメン。

 ……あるいは現代風に言うなら、白いワンピースを着た世にも美しい絶世の美女にこれまたおっかなびっくりな純白の翼を生やしていることと思う。

 多少なりとも中二病を患ったことがあるボクこと早瀬川はやせかわ夏美なつみはそういう認識をしていた。世界は平穏でつまらない。そう嘯いていたあの頃がとてつもなく恥ずかしくて、穴があったら入りたいくらいだ。


 しかしながら正直、そのような説明に意味はない。だって、悪魔だろうが天使だろうが、ともすれば神様だってこの世には存在しないんだから。おっと、献身的な神様崇拝者はそうは思っていないだろうけれどね。

 さて、多かれ少なかれ心の平穏を取り戻したとこで。では誰にともなく心の隅でボクはボクに問おう。


 問:背中に純白翼を生やした青銅色の鎧を身に着け、腕に極太のロングソードを装備している人とは思えない生き物をなんと呼ぶか。


 天使だね。それは天使だ。紛うこと無く天使と言って差し支えないだろう。

 唯一、問題があるとすればこれは夢現ゆめうつつの出来事ではなくて、れっきとした現実で――しかもボクのベッドの上で、さらにはボクのすぐ目の前で起こっている現実であることを留意しなければならない。

 時間は深夜二時。丑三つ時と言えば、多少なりとも恐怖が沸き起こるだろうか。丑三つ時に天使が現れるなんて聞いたこともないわけだけれど、それはいっそのこと地平線の彼方へと第三宇宙速度で吹き飛ばすとして。


 これは何の冗談だ。自慢ではないが、ボクは芸能人のような有名人ではないし、このようなドッキリをされるほど親しい友人がいるわけでもない。まして、ボクはホラーが嫌いで、ボクの友人はことごとくそれを周知していたはずだ。

 であれば、目の前にいるのは特殊メイクでもしている強盗なのだろうか。いや、素性バレを嫌って特殊メイクするほどの金がある人間が強盗をするとも思えないからやっぱり夢?

 テンパる頭で、表情はクールに。けれど、パニクった頭は命令と違う行動を起こす。


「は――」

「?」

「ハウワーユー?」


 ハウワーユー。御機嫌いかが。とんでもない姿でボクを馬乗りするのだから機嫌がいいも何も無いだろうに。

 人間に見えない=天使=外国の超常生物≒英語。そのような経路を経て、ボクは英語でそう尋ねたわけだが。気がつくまでもなく阿呆だと思い、目をつぶって頬を熱くする。

 しかしながら、ボクの言葉に反応を示した超常生物は首――と言って良いのかわからないが――を傾げて疑問を提示する。少なくとも英語は通じないらしい。だからといって今度は日本語で試そうとは思わないけれど。


 ムッフゥという息遣いが耳に届くや極太ロングソードを振り上げる天使。馬乗りのようにされているため身動きが取れないボクは辛うじて動かせた両腕で必死の抵抗を試みる。


「ま、待って待って待って! こんばんわ、ボンソワール、グーテンアーベント!? 通じないよね、知ってた!!」


 天使と思われる何かの行動が、腕に装備されている極太ロングソードでボクを両断しようとしているのだと気がついて、どうにか意思疎通を試すが、やはり意味はなかった。

 そうして、惨めな足掻きの甲斐もなく、振り上げられたロングソードは無慈悲に落ちてくる。

 これは夢だ。十中八九現実だが、僅かな希望で夢であることを捨てられないから、これは夢。間違いない。目をつぶれば、次の瞬間には――。


 死ならぬ夢を覚悟したボクの左耳を痛めつけるがごとく衝撃音が、衝撃波と一緒に訪れた。それにより、ベッドから転げ落ちるボクは、そこそこの痛みを腰と頭に覚えて擦りながら目を開ける。

 一体全体何が起きたんだと、小さくつぶやきながら視界に入った認めるほかない現実を目の当たりにして、今度こそ開いた口が閉じなくなる。


 大きく破壊された部屋の壁。それに伴ってぐちゃぐちゃになった内装。そしてベッドの上には土足で失礼の一言もなかった見知らぬ男性が、口に煙草を咥えながら鼻から煙を吹き出していた。

 破壊された壁の先を眺めながら、何やら呟いたように見えたが、見知らぬ男性は右手の人差し指と中指で煙草を挟むと胸を大きくするように息を吸って、口から大量の煙を吐き出した。

 そうして振り返って僕に言う。


「大丈夫かい、お嬢ちゃん(・・・・・)?」


 渋い声。考えればすぐに助けてくれたと分かったが、その時のボクはベッドに土足で立つ見知らぬ男性目掛けてグーパンチをかましていた。

 ぶげふ、と。弱々しく倒れる命の恩人を見下して、ボクはこの不審人物を警察に突き出すべきかそうでないかを懸命に考えていた。それとは裏腹にボクの平穏な日常がゆっくりと壊れていっているのに気が付きもせずに……。


 夏の夜風がぬるりと肌を舐め回す。

 非日常の到来は、おそらくはここから始まっていたに違いない。

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