訪れる迷い
「…くそっ」
滝は幻影呪縛の記憶の苦しみを耐えるのに必死だった
「こんなんじゃ…ろくに戦えねえだろ…」
その時、しぐれは滝の部屋を尋ねた
「…あの、滝、いるかな」
「しぐれ?」
特徴のある低い声で滝を呼んだ
ガチャ
「君に…言い難いんだが話がある」
「なんだよ、改まって」
「…その、」
俺は少し胸騒ぎがした
なんだか嫌な予感が止まらなくて寝付けなかった
「今夜は1人でいるのは危険だな」
ベッドから起き上がり、そろりと純の部屋に行く
「純さん!いるか!」
軽くノックをした
が
「いない?」
俺はしばし考え
「しゃーない、散歩するか」
すると遠くからザワザワ騒ぎが聞こえた
「な、なんだ!?」
騒ぎの近くへ行ってみると、しぐれと滝だった
「あの2人が騒いでいるなんて珍しいな」
2人とも、普段は大人しいほうだと思うが、騒ぐということはない
「行ってみるか」
俺は足音を消して恐る恐る滝の部屋のドアの隙間から覗き見した
すると…
「滝!!もうあなたは限界がきてるんですよ!自分で分かっているでしょう!?なぜ戦いにきたんです!」
「仲間をほうっておけるか!」
「そんな体がボロボロな状態で…あなたは死にたいんですか!!」
「仲間を犠牲にするくらいなら、この身体がどうなったって構わない!!」
確かに、幻影呪縛を喰らったせいなのか、髪は少し延びている気がするし、顔も痩けていた
「能力だって完全ではないのに…危険すぎる…こんな状態で勝てるわけがないでしょう?今でもどんどん、能力が吸い取られていくのに…」
俺は驚愕した、段々細くなる体、顔色もよくない こんな滝を見たのは始めてだった
「滝…」
俺は耐えられずドアを開けた
「陽仁!!」
「陽仁お前…聞いてたのか?」
「いや、完全ではないけどな 滝、悪いことは言わない あなたの体が心配なんです。俺のわがまま、聞いてください」
滝はゆっくり、ベッドに倒れ込んだ
「… 陽仁、お前何をした」
俺は自然と能力を放出し、滝の前に手を翳していた
「滝には、無事でいて貰いたいから このまま、司令官の部屋へ滝を移動させる」
「優しいな、お前は」
「幻影呪縛にかかって病んでも、俺たちにはどうすることも出来ないから……」
その晩がすぎると、オレはジュン・タルナに呼ばれた
「おはよう、昨夜は眠れたかな?」
「ジュン・タルナさん…でしたっけ おはようございます」
純さんとは確かに違った 背丈、見た目もほぼ同一だが、この世界では着る服が違う
俺とジュンは、中庭で話をしていた
「シルヴァに滝を送り込んだの、お前だろ?」
「なんで知ってるんですか」
「人を移動させる力があるやつはそうそういないからな」
「…滝をどうすることもできません 俺には」
「そんな事だろうと思ったよ」
俺はベンチからすくっと立ち上がって
「ジュン・タルナさん…俺は、元々滝の事がそんなに好きではありませんでした 殺す気でいましたよ、本当は」
「なら、昨晩殺ってしまったらよかっただろ」
「…あの人とはそんなに、仲良くしちゃいけないんです。自分なんかが」
ジュンは察したのか、俺を強く抱きしめた
背中が広く感じた
「弱音、吐いちまいなよ、戦いの前に ここで」
そう囁かれた時、なぜか一筋の涙がこぼれた
戦うまで大分時間はない 滝もどうなるか分からない
トヴァースも、みんな、帰りたいと思っているのに
迷いが
「迷いが消えない」
滝を殺すのは簡単なこと 全部投げ出して、逃げるのも簡単なこと
「ジュン・タルナさん… 俺はバカなやつです 信用しないで」
俺はテレポートでアジトへ1人向かった
「陽仁…まさか!!」
ジュン・タルナは警報ベルを鳴らした




