記憶少女と借金取り
少しでも興味を持って下さり、ありがとうございます!
とある貧しい辺境の村。
ガラの悪い男達が、ぼろ家に押し入る。
「村長さぁーん、延ばすのは今日までって言ったよなぁ?」
「返せないなら、娘を売る覚悟は出来たんだろうなぁ?」
怒鳴られて身体を震わせる見窄らしい男女は、年頃の娘を間に庇う。
村の娘・ヨナは、その様子を草陰から覗き見ていた。
見窄らしい男女は村長のゼオ・グアンとその妻であるラン、庇われている娘はリンネと言う。
リンネはヨナの幼馴染であり、その両親であるゼオとランにも世話になっていた。
(どうしようか)
両親を亡くしたヨナは、自分の家はあったが、週に三度はグアン家に行き、食材などを持ち寄って食事をしていた。
丁度今日も食材を持ってグアン家に来たところだったのだが、取り立て屋が来ているのを見つけ、慌てて草陰に隠れたのだった。
「娘だけは…娘だけはどうか見逃して下さい!代わりに私が行きます!」
「ラン!」
「母さん!」
男達は顔を見合わせる。
「別に母親でも良いぞ、年にしてはなかなか良い値で売れそうだしなぁ」
「そんなっ…!」
リンネが絶句する。
「嫌だよ母さん…行かないで…お願い…」
「良いのよリンネ。それにあなた、約束したでしょう?リンネだけは絶対に守るって。」
「だが…!俺はランもリンネも失いたくない…!」
悲痛な顔でゼオが声を上げる。
「五月蝿えなぁ、どっちでも良いから早く決めーー」
「私が行きます」
「何だ、お前?」
「ヨ、ヨナ!?」
グアン家の3人が目を見張る。
「売るなら私を歓楽街に売って下さい」
ヨナは感情の無い目で言い切った。
「……っ!」
ゼオとランが、少し困った様な微妙な表情をする。
(そりゃ、いくら娘の様に接していても、本当の娘の価値に勝てる筈はない)
ゼオとランは苦しい様な、それでいて何処か救われた様な表情をしていた。
ヨナはリンネの表情を伺う。
リンネはただ、目に涙を浮かべ絶望の顔をしていた。
「そんな…嫌だよ…ヨナ…何で…」
「両親が居なくなってから皆さんにはまるで家族の様に接して頂きました。その恩返しという事で。」
グアン家には本当に感謝している。この人達が居なければ、両親が居なくなって直ぐ死んでいただろう。
「あなたがたに救われた命ですので」
「………っっ!」
ゼオの目に涙が浮かぶ。ランは顔を覆う。
(これは肯定と受け取って良いのかな)
ヨナは借金取りに向き直る。
「という事です。私をお売り下さい。そして借金は帳消しという事で、そこは宜しくお願い致します」
「…まぁいいだろう。ではこの女を売る引き換えに、借金は帳消しだ。」
リンネの方がヨナより圧倒的に美人でスタイルも良いため、借金取りは少し悩んでいた様だったが、納得した様だ。
若い娘は歓楽街でかなりの値で売れる。リンネの様な美人ならばグアン家の借金の何倍もの金で売れる。
ヨナも美人ではないが、グアン家の借金よりは高く売れると判断された様だ。
「じゃあお前、行くぞ。」
借金取りに誘導され、ヨナは付いて行く。
「ヨナ!」
リンネに呼び止められる。
「何で…何でっ…!ヨナが行くなら私も…!」
「リンネ…」
ゼオとランに腕を掴まれ、止められる。
「離して!」
ちらりとヨナを見たゼオとランは、許しを乞う様な、何とも言えない目をしていた。
(別に、私が望んだ事なのに)
ヨナにこりと笑って3人に会釈し、先を行く男について行った。
(…それに…どうせ暫くしたらもう思い出せなくなってしまう)
ヨナはふぅっと息を吐いた。
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