押しかけ妹は新妻気分
【登場人物】
氷見野静佳:新卒の社会人。22歳。少しずぼらな性格。
氷見野玲理:高校二年生。姉のことをとても慕っている。
七月も後半に入り、学生たちは夏休みという年一回の大イベントに歓喜していることだろう。
朝の通勤の途中に楽しそうに会話している私服の若い女の子たちを見かけるたびに羨ましいと思ってしまうのは社会人なら仕方のないことではないか。
とは偉そうに言うものの、私、氷見野静佳が社会人として会社で働き始めたのは今年からだ。去年までは彼女たちと同じ立場だったくせにという話だが羨ましいものは羨ましい。出来ることなら去年に戻って最後の夏休みをもう一度楽しみたいくらいだ。……いや、去年の今頃はまだ内定を取っていなくて遊んでる暇じゃなかったんだった。戻るなら大学一年か、いっそ高一、高二なんてのもいいかもしれない。受験や将来のあれこれに頭を悩ますことなく、暑い日差しを浴びながら友達と夏を満喫する。最高じゃないか。
高二の頃の私は暑すぎて外に行くのもだるくてずっと家でごろごろしていたが、今の私が過去の夏休みに戻れたらもっと有意義に時間を使ったことだろう。お金がなくたってやれることはたくさんある。鈍行電車で遠くにひとり旅、なんていうのも楽しいかもしれない。
そんなことを考えていると妹のことを思い出した。妹の玲理は今年高校二年生。大学まで実家暮らしだった私とは仲が良く、私が一人暮らしをするために家を出るときも泣いて悲しんでくれた。
仕事が始まってからは忙しくてあまり連絡も出来ていなかったが元気にやっているだろうか。
そうだ、近況を聞くついでに夏休みを将来後悔しないようアドバイスをしてあげよう。
私はさっそく玲理にラインを送った。
『やっほー玲理、元気にしてる? 夏休みに気兼ねなく遊べるのはいまのうちだけだから、旅行とかイベントとかやりたいことやっときなよ』
返事はすぐに返ってきた。
『おねーちゃん久しぶり! 私は元気だよー。おねーちゃんも元気? 体調とか崩してない?』
『元気元気。体は丈夫な方だし』
『じゃあホームシックとかなってない?』
『ないない。仕事が忙しくてホームシックになる暇ない』
『やっぱりお仕事忙しいんだ』
『そりゃあ入社したばっかりだしね。でも最近はやっと慣れてきたからだいぶマシかな』
『お仕事大変だと部屋散らかってない? おねーちゃん家でも全然片付けてなかったよね』
言われて私は部屋に目をやった。六畳の洋室の床は雑誌や衣服で散らかり足の踏み場がほとんどない。本棚の本は順番がめちゃくちゃ。カーテンレールには乾いた洗濯物が掛けっぱなし。開いた押し入れの中に重ねてある衣装ケースからは衣服や下着が飛び出している。食べ物のゴミだけはきちんと捨てているものの、それ以外はひどい有り様だ。綺麗なのは今いるベッドの上と鏡台だけ。
私は現実から目をそらして文字を打ち込んだ。
『失礼な。ちゃーんと片付けてるよ。実家じゃないんだから私ひとりで全部やるのは当たり前』
妹相手に情けないところは見せたくないのが姉の心情。
『さっすがおねーちゃん! じゃあ私が遊びに行っても大丈夫?』
え!?
私は玲理の言葉を二度見したあと再び部屋の惨状に目を向けた。何度見てもひどい。とてもじゃないが人を呼べる状態ではない。けれどここで拒否をすると部屋が汚いのを隠そうとしていると思われるかもしれない。
やむを得ず折衷案をとることにした。
『もちろん。でも来る前に連絡してよ。私が家にいるかどうか分からないから』
玲理が来る日さえ分かればそれに合わせて部屋を綺麗にしておける。
掃除というのは取り掛かるまでが一番しんどくて、いざやり始めるとちゃっちゃと終わらせられるものだ。玲理の訪問という動機があれば私の重い腰も上がろうというもの。
『分かった! 絶対遊びに行くからね!』
懸念事項がひとつ増えたと思いつつ、妹の無邪気な笑顔が頭に浮かび自然と頬がほころんだ。
遊びに来たらどこに連れていってあげよう。何を食べさせてあげよう。夏のボーナスもちょっと出たとこだし、服やカバンを買ってあげるのもいいかもしれない。
うん、玲理と久しぶりに会話したら元気でた。
また明日からもお仕事頑張りますか。
玲理に対する私の認識が甘かったと気付いたのはそれから数日後のことだった。
土日休みの会社員にとって土曜日の午前というのは至福の時間だ。仕事に行かなくてもいいし家事は明日にまとめてすればいいしで心も体もまったりと休むことができる。
いつもの起床時間に目覚めたあとの二度寝は気持ちがいい。まどろみながら昼過ぎまでのんびり過ごすのが私のいつもの土曜日だった。
ピンポーン、とインターホンが鳴った。
誰だ私の休日を邪魔するやつは。ベッドに横になったまま壁にかかったインターホンのディスプレイを見やる。
マンションの入り口のオートロックの前で若い女性が立っていた。格好から宅配業者ではない。となると訪問販売か勧誘か。
私は居留守を決め込んで布団を被りなおした。どちらにせよアポイントのない訪問には対応致しかねます。
何度かインターホンが鳴り、私は無視をし続けた。普通ならもう帰るはずだがこの女性はやけに粘るようだ。もしかしたら部屋を間違えている可能性もある。
そのとき枕元の私のスマホが震えた。まさか会社からかと怯えながら画面を見ると、そこには玲理からの着信が。なにかあったのだろうかと電話を取る。
「……もしもし? 玲理?」
『おねーちゃん今どこにいるの?』
「今? 家で寝てるけど」
『なんだ、家にいるんだったら早くインターホンに出てよ。いないのかと思って焦っちゃった』
「え?」
瞬間私の脳が一気に覚醒した。ばっと起き上がりインターホンのディスプレイに駆け寄りもう一度よく見てみる。そこにいたのは玲理だった。スマホを耳に当てているのは私と電話しているからだ。
「な、なん……来るときは連絡してって……」
『突然行った方が驚くかなぁと思って。驚いた?』
「お、驚いた、けど、ちょっとそこで待ってて! 五分、いや十分!」
部屋の散らかり具合を見回してから私は叫んだ。驚いたとかよりもこのままだと玲理を部屋にあげることが出来ない。とりあえず床に落ちているものを押し入れにつっこんでせめて座れるようにしないと。
スマホから玲理の呆れるような息が聞こえてきた。
『どうせ散らかってるんでしょ? いいよ。私が掃除するから』
「え、あ、いや散らかってるとかじゃなくてその……」
『いいから。早くここ開けて』
「はい……」
私は言い訳をやめて玲理に従った。玲理には全部お見通しだったのだろう。だてに十数年姉妹をやっているだけのことはある。私はオートロックを解除して玲理を招き入れた。
この部屋を見せるのはちょっと、いやかなりきついけど、ここまで来た妹を追い返すわけにもいかない。
「……着替えよ」
自身の寝間着を見下ろしてぽつりと呟いた。部屋だけじゃなく服すらだらしなかったら玲理になんと言われることやら。
いまさらそんなことで姉の威厳が回復するわけないのは分かっていたが。
「うわー、思った以上にひどいねー」
部屋に上がるなり玲理が感想を述べた。まったくもってその通りなので何も言い返せない。
「おねーちゃん、おっきいゴミ袋出して。ちらしとかは捨てていいんだよね?」
「あ、うん」
「雑誌は?」
「えーと、まだ読むかもしれないし一応置いといてくれると……」
「そんなこと言ってたら片付かないよ? 一週間まったく読まなかったのは捨てるからちゃんと仕分けてね」
「……はい」
「いらない箱か段ボールある? 服はいったんそっちに入れるから」
「え!? 捨てるの!?」
「さすがに服はいきなり捨てないよ。全部あとで畳んでしまうの。でも明らかに汚くて着てない服があったら捨てていいかどうか聞くからね」
「あ、はい……」
てきぱきと片付けを始めた妹を台所でぽつんと立ったまま眺める。手伝おうにも入り込める空気じゃない。
それとひとつ気になることがあった。
私は玄関のくつ脱ぎ場を見る。そこには玲理が持って来ていたキャリーバッグが置かれていた。まるで旅行にでも行くのかという荷物だ。
「ねぇ玲理」
「なに?」
「これからどこか旅行にでも行くの?」
「行かないよ」
「え、でもあの荷物……」
「しばらくおねーちゃんの家に泊まるから」
「……は?」
「だから、しばらくここに住ませてもらうからね。あ、プラとか分別した方がいい? 金属は?」
「えっと、プラは台所のゴミ箱に別でまとめてて、金属は適当に分けててくれたら不燃で出すか、ら…………住むの!?」
玲理がうるさそうに眉をひそめた。
「さっきからそう言ってるのに。なにか問題ある?」
「問題っていうか急すぎるし、あ、ほら寝るとこはどうするの?」
「寝袋持って来た」
「キャンプじゃないんだから……それでいつまでいるつもり?」
「さぁ? 決めてない」
「なにそれ。もしかしてお母さんかお父さんと喧嘩した?」
「してないよ。私がおねーちゃんのとこに行きたかっただけ」
「私のとこに来ていいことないよ。土日以外は仕事で相手できないし、泊まるんなら旅行にでも行った方が――」
「今は言い合いより片付け! 部屋を綺麗にしてあげようっていう妹の善意を踏みにじるつもり?」
「いやそういうわけじゃないけど……」
「じゃあこの話はおしまい! それより捨てていいか分からないのがたくさんあるんだからおねーちゃんも手伝ってよ」
「あ、うん、ちょっとその前にトイレ行ってくる」
私は逃げるようにトイレに入ってカギを閉めるとスマホを取りだしてお母さんに電話をした。ほどなく繋がり、声をひそめながら問い詰める。
「お母さん、玲理のことなんだけどどういうこと!? 私聞いてないんだけど!」
『あらそうなの? 玲理はもうおねえちゃんには伝えてあるって言ってたから』
「だから聞いてないんだって! 今日急に来たんだから!」
『玲理が行ってなにか不都合なことでもあった? 出掛ける用事?』
「ずっと家にいるつもりだったけど……」
『じゃあいいじゃない。おねえちゃんと離れて寂しがってたんだから遊んであげなさいよ』
「遊ぶのはいいんだけど、しばらくここに泊まるっていうのは知ってるの?」
『知ってるわよ。一人くらいなら大丈夫でしょう?』
「うち1Kなんだからギリギリだって」
『ギリギリってことは大丈夫ってことよね』
「私の負担ガン無視!?」
『家事とか玲理がやるって言ってたからその辺は任せたら? 部屋もどうせ汚いんでしょう?』
「……今玲理が片付けてくれてる」
『だと思った。この際だからあの子に片付けの仕方とか教わりなさいよ』
「はいはい。でもお母さんもいいの? 夏休みに娘がずっと外にいっちゃってたら寂しいでしょ」
『私よりもお父さんが寂しがってるわ。お母さんとしてはお昼ごはん用意する手間が減って大助かり』
「そりゃよかったね」
『もし玲理が宿題さぼって遊ぶばっかりだったら連絡して。そのときは無理矢理つれて帰るから。まぁあの子は誰かと違ってちゃんとそういうのは済ます子だから大丈夫だと思うけど』
「誰のことカナー?」
『はぁ……とにかく、二人だけの姉妹なんだから邪険にしないで仲良くしなさいよ』
「分かってるって」
お母さんとの電話を終えて息を吐く。無責任というか放任というか。まぁ私の家だからこそ安心している部分もあるのだろうが、いかんせん話が唐突すぎる。
トイレを出ると玲理が片付けを進めながら話しかけてきた。
「お母さんなにって」
「仲良くしなさいだって……聞こえてた?」
「おねーちゃんの声はね」
玲理が振り向いた。その顔はどこか不安そうだった。
「……私、やっぱり迷惑かな?」
弱々しいその言葉は、ここで私が頷いたら出て行ってしまいそうに思えた。
妹にこんな顔をさせるなんて姉失格だ。
私は玲理に近寄ってしゃがむと可愛らしい頭を撫でた。
「迷惑じゃないよ。驚いたのは驚いたけど、玲理が遊びに来てくれて嬉しい」
「ほんと?」
「本当だよ。部屋を片付けてくれてるのもすごく助かるし、お母さんが言ってたんだけど家事もやってくれるんだって?」
「うん。その、将来役に立つかなって……」
なんということだ。夏休みをいかに楽しんで過ごすかということしか考えていなかった私と違い、玲理は真剣に将来を見据えて生活スキルを磨こうとしていたなんて。
感動のあまり私は玲理を抱き締めた。
「偉い! ちゃらんぽらんな私と違って玲理は本当に良く出来た妹だよ!」
「じ、じゃあ私ここに居てもいい?」
「いいに決まってるよ! むしろ私からお願いしたいくらい」
「良かった」
玲理がほっと安堵したあと、神妙な声で呟いた。
「あとおねーちゃん、トイレから出たら手を洗った方がいいよ?」
「ちがっ、トイレは使ってないから! ほんとほんと!」
姉妹で賑やかにじゃれ合いながら土曜の午前は過ぎていくのだった。
片付け、掃除、整理整頓を終え私の部屋は見違えるほど綺麗になった。あれだけ散乱していた衣服も全て衣装ケースの中だ。部屋の広さは変わっていないのに広くなったように感じる。
「いやーこんなに綺麗な部屋見たの引っ越してきたとき以来だよ」
「どうせ使ってたらまた汚くなるって思ってるでしょ」
「そ、そんなことないよ。せっかく玲理に片付けてもらったんだからなるべく綺麗に使っていくようにする!」
「別にいいけどね。私がいる間は全部私がやってあげるから」
「うぅ……嬉しいけど妹と比べて自分が情けなさすぎる……」
「気にしなくていいよ。お仕事たいへんでしょ? 私もおねーちゃんのお手伝いできて嬉しいし」
こんな妹がいていいのだろうか。今私は世界中の姉のなかで一番恵まれていると断言できる。
「よーし、今日の夜は美味しいもの食べに行こっか! 玲理なに食べたい?」
「……私が作る、じゃダメ?」
「へ?」
妹の為に奮発しようとした私の気概が折られた。玲理はさらに信じられないことを言う。
「今日からご飯は全部私が作ろうと思ってるんだけど、それでもいい?」
「いいって聞かれても……玲理の方こそいいの?」
「うん。その為におねーちゃんの好きな料理お母さんからたくさん教わってきたから」
私は世界一恵まれている姉じゃない。宇宙一恵まれている姉だ。
本日二度目のハグをしながら感謝を込めて玲理の頭をなでなでする。
「あぁ、玲理! 私の可愛い妹! おねえちゃん幸せ過ぎて泣いちゃいそう!」
「おおげさだよ。あ、でもそのかわり材料とか調味料のお金――」
「出す出す! 玲理の好きなの買っていいよ。お肉も国産でいいしみりんも本みりんでいいし砂糖も和三盆でいいから!」
「そこまで極端にしなくても。節約できるとこは節約するから安心して」
玲理の微笑みは控えめだったがどこか自信を感じさせるものだった。
たった数カ月会わなかっただけで妹がこんなに頼もしくなるとは。
ちょっと前まであんなに小さかったのに……と思うのは私が歳をとったせいだろうか。
誇らしい気持ちと寂しい気持ちが入り交じる。成長を見守るというのはまさにこういう気分のことなのか。
数年後には玲理も誰か好きな相手が出来て、その人の為に色々と尽くしてあげるようになるんだろうな。
おねーちゃんおねーちゃんと慕ってくれているうちは私も甘えさせてもらうとしよう。姉の威厳? はて、なんのことやら。
「うわぁ、めっちゃ美味しそう……」
食卓に並んだ好物の料理の数々を前に私は生唾を飲み込んだ。
玲理がエプロンを外して向い側に腰を降ろした。
「教わった通りに作ってみたけどお母さんのと味が違ってたらごめんね」
「いいよそんなの気にしなくて。それよりもう食べよ! あったかいうちに!」
二人で「いただきます」と手を合わせてから食べ始める。
「ん~、美味しい~!!」
お世辞抜きに本当に美味しい。味が違っていたら、という玲理の心配なんてまったくない。ほとんどお母さんが作ってくれたものと変わりないし、なんだったらお母さんの料理より美味しいと感じる。
「よかった。おねーちゃんの口に合って」
「合う合う! 合い過ぎて頬が落っこちちゃう!」
「それだけ喜んでくれたら私も頑張って作った甲斐があった、かな」
玲理が嬉しさを噛み締めるように微笑んだ。私は口をもごもごさせながら言った。
「ほら、玲理も食べなよ。早くしないとなくなっちゃうよ」
「二人分はあるんだから急いで食べなくてもなくならないよ」
「それだけ美味しいんだって。え、本当にこんな美味しい料理毎日作ってくれるの?」
「うん、でも全部美味しいかは保証できないよ。今日は初日だからちょっと豪華にしたけど、明日からはバランス考えるからね」
「家で手料理食べられるだけでありがたいから全然大丈夫。いやー、実家を出て初めて自動でご飯が出てくるありがたさに気付くんだよねー」
「おねーちゃんこっちに来てから料理ほとんどしてないでしょ?」
「う、い、いやそんなことナイヨ」
「フライパンにほこり積もってた」
「お、お湯は沸かしてたから!」
「それは料理じゃない」
「レトルトやカップ麺も人間の叡知が詰まった料理であることに変わりはないと思うな」
「じゃあ明日からカップ麺にする?」
「ウソウソ! 玲理の手料理の方が数百倍いい! 明日からもよろしくお願いします!」
満足そうに頷く玲理を見て、力関係が完全に入れ替わってしまったことを感じる私がいた。でもまぁこれだけ美味しい料理を食べさせてくれて掃除もしてくれるのならそれでもいっか、とも思う。妹が進んで姉孝行をしてくれるならそれを好きなだけさせてあげるのが妹孝行になるのではないだろうか。
なんとも私に都合のいい解釈だことで。
お風呂からあがり、歯磨きや寝る前のスキンケアなどを済ませてあとは寝るだけとなったとき、寝袋を広げ始めた玲理を見てストップをかける。
「ちょっと玲理、寝袋で寝るって本気だったの?」
「だってベッドはひとつだし、お布団は他にないんだよね?」
「大事な妹を寝袋なんかで寝させられるわけないでしょ。ほら、こっちきて」
私がベッドの上で手招きすると玲理が固まった。
「そ、それって――」
「私の横に来なよ。一緒に寝よ?」
「い、い、いいの?」
「玲理スマートだし平気平気。いいからおいで」
再度手招きしてやっと玲理が近寄ってくる。若干照れくさそうにしているのがなんとも可愛らしい。
「壁側に玲理がいってね。私の寝相で落としちゃったら危ないし」
「で、でもそれじゃおねーちゃんが落っこちるかも」
「私は大丈夫なの。ほら、玲理はゲストなんだからホストの言うことを聞きなさい」
玲理の手を引っ張ってベッドの壁側の方へ寝かせる。そこに掛け布団をかけてから私もその中へと入り玲理と肩を並ばせる。
「明かりは小さいのつけとくよ」
「う、うん」
「タイマーでちょっとだけ冷房かけてるから、暑かったり寒かったりしたらリモコンで調整してね」
「わかった」
明かりを暗くする。いつもならだらだらとテレビを観ながら寝落ちするところだが玲理がいてはそういうわけにもいかない。
眠気がくるまでは話でもしていよう。
「こうやって二人で一緒のベッドで寝るなんていつぶりだっけ?」
「……わかんない」
「確か玲理が小学校のとき台風かなにかでめちゃめちゃ風が強かったときに寝られなくて私のベッドに来たことあったよね。覚えてる?」
「……覚えてる」
「実はあのとき私も寝られなかったんだけど、震えてる玲理を抱き締めてたらいつの間にか寝ちゃってたんだよね。やっぱり人肌って安心するんだなって実感したよ」
「……い、今抱き締めてもいいよ」
「へ?」
横を窺うと玲理は体ごと私の方に向いていた。口の前で両手を祈るように組み、上目使いに私を見つめている。けれど私と目が合うと途端に顔を伏せて目をそらしてしまった。
「あ、い、今のはえっと、私を抱き締めて安心できるなら抱き締めてもいいよってことで、あ、あとほら、おねーちゃんが落ちないように体をこっちに寄せた方がいいんじゃないかってことで――」
早口でまくしたてる玲理の背中に腕を回し、その小さな体を抱き締めた。
「うん、じゃあお言葉に甘えさせてもらおっかな」
「――――」
玲理の華奢な体はあたたかく、顔を近づけるとシャンプーの香りが鼻孔をくすぐった。ただ抱き枕を抱き締めるのとは訳が違う。これが愛しい妹だからこそ側で触れ合うだけで心が安らげる。
「玲理、寝苦しくない?」
「…………だい、じょぶ」
「なんか苦しそうだけど」
「く、苦しくない! 苦しくはないから!」
強く否定されたらそれ以上は何も言えない。まぁ寝づらかったら体を反転させて壁の方を向くだろうし別にいいか。
「でもなんか私ばっかり得してて悪いよね。部屋綺麗にしてもらってご飯作ってもらって、寝るときもこうやって気を遣ってもらってさ」
「ぜ、全部私が勝手にやったことだし、その、おねーちゃんが抱き締めてくれると、私も安心する、から……」
「お、じゃあ今日のお礼も兼ねてうーんと抱き締めてあげよう」
ぎゅうっと玲理を抱き締める。玲理は無言で私の抱擁を受け入れているが本当にこれで安心してくれているのだろうか。
心配していると玲理が自分から私の方へさらに体を密着させてきた。
よかった。玲理も喜んでくれているみたいだ。私が甘えるばかりだったので玲理が私に甘えてくれるのは嬉しい。料理や家事をやってくれたお礼としては釣り合わないかもしれないが、せめて玲理が安眠できるように私の出来ることをしてあげよう。
徐々に湧き上がってきた眠気に目蓋を降ろしながら、私は腕のなかのぬくもりを抱き寄せた。
日曜になっても玲理は働き者だった。
ご飯の準備はもとより、洗濯や水回りの掃除など、本来は私がやるべき仕事を全部やってくれた。
買い物に一緒に出掛けても服やアクセサリーをねだってくることもない。せめてもと玲理の為にマットレスや寝具一式を買おうと私が提案したが、お金がもったいないからと断固拒否された。
あんまり欲がなさすぎるというのも困りものだ。私が玲理に唯一誇れる経済力を見せつけるチャンスがなくなってしまう。とはいえ『服を買うお金で良いお肉を買う方が私もおねーちゃんも嬉しくならない?』と言われてしまっては頷くしかなかった。実際材料を選んでいるときの玲理は本当に楽しそうだった。
この土日だけでも玲理がやってくれたことはすごく助かることばかりだったのだが、そのありがたみを充分理解するのはむしろ平日になってからだった。
お昼休み。私の会社には社員食堂は無く、社員たちはそれぞれ食べに行ったり買ってきたりと各々が好きな昼食をとっている。私も仲の良い同僚の女性社員たちとその日によって食べに行くかを決めていたのだが、今日からは断らなければいけない。
私は備え付けの冷蔵庫から四角い布の包みを取り出した。給湯室の電子レンジに向かう途中、同僚から話しかけられる。
「氷見野さんお弁当? 自分で作ってきたの?」
「いやー、それが妹が遊びにきてて。泊まってる間はご飯作ってくれてるんだけど、お弁当も作ってくれるって言うから」
「うっそ、なにその妹! 私も欲しいんだけど」
「ダメダメ、私のだから」
会話につられてぞろぞろと数人が集まってくる。
「へぇ、そんな妹さんがいるなんて意外ね」
「でもお弁当の中身が全部冷食だけだったりして」
言ったな。うちの玲理のすごさを見せつけてやらねば。私は近くの空いているデスクに包みを置き、結び目をほどいて弁当の蓋を持ち上げた。
「そこまで言うなら見てみてよ、ほら」
弁当の中を覗き込み、みんなが「おぉ」と感嘆した。
「すっご、冷食ひとつも入ってないじゃん」
「彩りも考えてあるし、肉と野菜の炒めたやつ普通に美味しそうなんだけど」
口々に褒められて自然と私の口角があがっていった。うちの妹すごいでしょ、と自慢したくなるのをなんとか堪えて説明する。
「まぁ半分くらいは朝ごはんと同じやつだから」
「いやいや、それでも充分だって」
「むしろ半分なの? 朝ごはんと全部一緒じゃないと作る気しないわ」
もっと褒めて。もっと称えてあげて。私の自慢の妹を。
私はあくまで謙遜しながらさらに話した。
「お弁当だけじゃなくって掃除とか家事もしてくれててさぁ。本当に助かってるんだよね」
「は? それ本当に妹? 嫁とかじゃなくて?」
「本当に妹だよ。まぁ確かにやってることはそんな感じだけど、正真正銘の高校生の妹」
「高校生!? 大学生でもなく!?」
「大学生の夏休みは八月でしょ。高校生だから夏休み始まって私のとこに遊びに来たの」
高校生、と聞いて離れたところにいた若い男性社員が手を挙げた。
「氷見野さん、いやお義姉さん! 妹さんを俺に紹介してください!」
「あー、すみません。大事な妹なのでちゃんとした人じゃないと」
「俺ちゃんとしてるよ!?」
周りのみんなが笑った。男性社員に口々に「どんまい」とか「未成年に手を出したら捕まるよ~?」などと声を掛けている。
ちゃんとした人じゃないと、とは言ったが私から玲理に誰かを紹介することはないだろう。
こういうものは自分できちんと選ぶべきだ。それがたとて厚意であったとしても当事者の気持ちを無視して押し付けるのはよくないと思っている。
そんな悠長なことを言っていられるのはいつまでか。このままだと確実に玲理に先を越されそうだ。行き遅れた長女をねちねちといじるお母さんの図が容易に想像できてつらい。
「――ってことが会社であってね。みんなが玲理のこと褒めてたよ」
その日の晩ごはんのときに会社であった出来事を玲理に話した。すると玲理は箸の先を咥えたまま目を伏せて呟いた。
「お、お嫁さん……」
「そうそう。もし誰かと結婚したらこんな感じなんだろうなーって思うよ。家に帰ったら待ってる人がいて、お風呂やご飯の用意をしてくれてるってすごい幸せなことだよね」
「……おねーちゃんも、幸せ?」
「もっちろん。いつもなら月曜なんて会社行きたくなーいってなるのに今日はそりゃもう清々しい気分で出勤できたからね。玲理がいてくれるなら仕事が多少きつくても頑張れそう」
「じ、じゃあ――……」
玲理が何かを言いかけて言葉を止めた。しばらく待ってみると玲理がにこっと微笑んだ。
「明日からもお弁当作るね」
「本当? ありがと~! あ、玲理のお弁当見て他の子も触発されたっぽくて、私もお弁当作ろうかなみたいに話してたよ」
玲理がいてくれるなら仕事を頑張れる、という言葉は本心だ。
これだけ世話をしてくれる妹がいる間に一生懸命働いて、それで玲理が帰るとなったときにうんと豪華なものをプレゼントしてあげる。玲理が断っても無理矢理渡す。私はそう決めた。
翌日から私は一層精を出して働いた。朝は玲理の作ってくれた朝食を食べ、アイロンをかけてくれたシャツとスーツを着て出勤し、お弁当を食べ、仕事が終わったあとはすぐに家に帰って晩ごはんを食べ、お風呂につかって汗を流し、玲理と一緒にベッドで眠る。
私が夜の付き合いを断って毎日一直線に帰宅しているのを見て同僚が『新婚さんみたい』と言った。
確かに似たようなものかもしれない。玲理がうちに来てからというもの毎日が充実している。見送ってくれる人がいるから気持ち良く出勤して、待っていてくれる人がいるから脇目もふらずに帰る。そこには相手を愛しいと思う気持ちが確かに存在していると思う。
当たり前だ。大事な大事な妹を可愛いと思わない姉なんていない。
――もしかすると、どこかでこの状況に浮かれている自分がいたのかもしれない。
私が作成した依頼書にミスがあった。金額を一桁少なく記入してしまっていたらしい。
幸いなことに先方も疑問に思いそのまま受理されることはなかったが、それでも各所に多大な迷惑をかけたことに変わりはない。上司と共に謝罪に行ったあと、厳重に注意を受けた。
「おねーちゃんどうしたの? なにかあった?」
散々な一日を終えて憔悴しきった私を見て玲理が心配してきた。気落ちしたまま今日あった出来事を話すとさらに心配の色を強めた。
「大変だとは思うけど、あんまり気にしすぎない方がいいよ」
「気にしないとダメなんだよ……二度と同じことをしない為に……」
玲理の作ってくれた晩ごはんは相変わらず美味しかったが私の心が晴れることはなかった。
放心状態でお風呂に入り、玲理と共に寝床に着く。
薄暗い天井をぼんやり眺めていると隣の玲理が話しかけてきた。
「まだ落ち込んでるの?」
「……まぁね。こんな大きなミス初めてやったし」
「ミスくらい誰だってするよ」
「そうだけど、いざ自分がやったとなったらすごいダメージ大きくてね……」
衣擦れの音。玲理が体を横向きにしたようだ。
「抱き締めていいよ。そしたらちょっとは回復する?」
申し出は嬉しいが今はその優しさに甘える訳にはいかない。
「いや、やめとく。最近良いことばっかりで気が緩んでたから少しは自分に厳しくしとかないとね」
「じゃあ――私が抱き締めてあげる」
次の瞬間、横から玲理が抱き着いてきた。私を抱き締めようと懸命に腕に力を込めているが、体格的に私より小さいのと私の体勢の問題でうまく出来ないようだ。
その行為がどうというよりも慰めてくれようとしている気持ちが嬉しかった。
「……ありがと。私のことはいいから早く寝なよ」
「私じゃおねーちゃんの心を癒してあげられない?」
「そんなことないよ。充分癒された」
「…………」
しばらく玲理は黙った後、唐突に呟いた。
「……落ち込んでる人を慰める時にどうすればいいか、本で読んだから知ってる」
玲理が体を起こした。掛け布団も一緒に持っていかれたせいで私の体の上には何もなくなったのだが、そこに玲理が跨がってきた。
「玲理?」
呼びかけても答えてくれない。暗くて表情が読み取りづらいが笑っているわけでも怒っているわけでもなさそうだ。
そのとき、玲理が自分の上半身の衣服を脱いだ。
「え!? ちょっと、玲理」
下着も外し完全に上半身を露出させた状態で玲理は今度は私の服の裾に手を掛けた。
「ま、待って、玲理ってば!」
「……人肌のぬくもりが安心するって前に言ってたよね。うん、肌を重ねることで人を慰める方法、私ちゃんと勉強してきたから」
玲理の手が私の服をどんどん上へめくっていく。
「!? ちょ、まっ、そ、それは玲理にはまだ早い!」
「高校二年生なら別に早くないと思う」
「う~、じ、じゃあ、そういうのは将来好きになった人とするものであって姉を慰める為にするものじゃ――」
「好きな人、ここにいるよ」
「そういう好きじゃなくて、玲理が心の底から好きになった人と――」
私の唇が玲理の唇で塞がれた。
さっきから私の理解の範疇を超えたことが起こりすぎて頭の中がパニック状態だ。そりゃそうだろう。上半身裸の妹にのしかかられてキスをされている状況で冷静でいられるはずがない。
「……おねーちゃんは何もしなくていいよ。私が慰めてあげるから」
耳元で囁かれても、いまだ混乱状態の私はどうすればいいか分からず、私は自分の寝間着が脱がされていっているのを他人事のような気持ちで見つめていた。
玲理が私のことを好きだと仮定して考えてみれば、私の家に来た理由も、甲斐甲斐しく面倒を見てくれる理由も全部に納得がいく。それに最初から気付けというのは無理な話だ。玲理の想いが姉に対するものかひとりの女性に対するものかなんて私に分かるわけがない。
とはいえ一夜明けて冷静になった今、色々なことに気付くことができた。
いつも通りに朝食を作って一緒に食べている玲理の耳が少し赤くなっていることや、肩や腕が触れそうになる度に頬がぴくりと動いて一瞬固まっているのなんかは昨日の私には分からなかっただろう。昨日の今日だからというのも勿論あるのだが。
私はというと、起きて食事の用意をしている玲理を見たときから顔の熱さがいっこうに下がらないでいた。どのくらい赤くなっているのか知りたくなくて顔を洗うときは鏡を見ないで洗ったほどだ。ポーカーフェイスは玲理の方がうまいらしい。
「はい、お弁当」
「あ、ありがと」
こんな日でも玲理はきっちりとお弁当を作ってくれた。なんという鋼のメンタルだろうか。
そろそろ出勤の時間が近づいてきた。昨夜の事に関して私も玲理もまったく話題に出さない。だがこのまま何も言わないまま仕事に行っていいのだろうか。
ダメだ。気になり過ぎて絶対仕事に支障が出る。せめてお互いの気持ちをすっきりさせておかないと。
「あー、玲理」
「な、なに?」
「玲理のおかげで仕事のミスのことはもう引きずってない、から」
仕事のミス以上に衝撃的な出来事があったのでとは言わないでおいた。
「そ、そうなんだよかった。またつらいことがあったら慰めてあげるね」
玲理!? 爆弾発言に耳を疑ったが、玲理が口元を両手で覆ったところを見ると弾みで言ってしまっただけのようだ。
私もなるべく動揺を出さないように答える。
「も、もう私は大丈夫だよ。今度なにかあったら私が玲理を慰めてあげるから」
言い終わった瞬間私は自分の口元を覆った。違う。言いたいことはそうだがそういうことじゃない。玲理の驚いた目が私を見つめているのがなおのこと痛い。
「…………」
「…………」
「玲理」
「おねーちゃん」
お互い同時に呼びかけて止まる。
「玲理先に言いなよ」
「おねーちゃんが先でいいよ」
再び見つめ合って、私は口を開いた。
「今日も仕事終わったらすぐに帰ってくるから、ご飯用意して待っててね」
それは私から玲理への一種の返事のつもりだった。これからも玲理が待ってくれている家に帰ってきたい、と。
「……うん、わかった」
果たして私の気持ちが伝わったのかどうか。次は玲理が言いかけた続きを口にする。
「えっと、行く前に抱き締めて欲しいなって……昨日してもらってないから」
言いながら玲理の顔がどんどん赤みを帯びていった。明確に私にして欲しいことを言うのは、食事の材料を買うときを除くと初めてかもしれない。どんな服よりもアクセサリーよりも、私に抱き締めてもらうことの方が玲理にとっては喜ばしいことなのか。
私はひしと玲理を抱き締めた。昨日玲理からもらった想いに少しでも応えるように。
「それじゃあ、いってきます」
「いってらっしゃい」
まるで新婚の夫婦のように、玲理に見送られて家を出た。
足取りが軽い。体調がすこぶる良い。玲理が待っていてくれるから、私は今日も仕事を頑張れる。
ただ、当面は今の生活で問題ないとしても、ひとつだけ心配ごとがある。
夏休みが終わって玲理が実家に帰ってしまったら私はどうしたらいいのだろう。
正直玲理がいない暮らしに耐えられそうにない。結ばれた今だからこそ尚更強くそう思う。
まぁ先のことは先の自分に任せるとして、私は私の出来ることをしよう。
つまり――仕事をして、家に帰って玲理のご飯を食べて、玲理を抱き締めて一緒に寝る。
これをしっかりやっている限り、私と玲理は幸せでいられるのだから。
幸せに気が緩んで仕事でミスをしないようにだけ気を付けて。
◆ ◆
スマホのアラームの振動で目を覚ました私はドキっとした。
私の視線の先――そこには衣服を身につけていないおねーちゃんがいた。まだぐっすり眠っているようだ。
いつもならここでベッドを抜け出して朝ごはんとお弁当を作り始めるのだけど、私はしばらく横になったままおねーちゃんを見つめていた。
おねーちゃんの半開きの唇や上下する胸を見るたびに昨夜の出来事がフラッシュバックしてきて私の頬を熱くさせる。
なんて大胆なことをしてしまったのだろう。
もっとゆっくり距離を縮めていく予定だったのに、落ち込んでいるおねーちゃんがあまりに可哀想でつい……はぁ。
早まったとは思うけど後悔はしていない。不意をついた形だったけどおねーちゃんとこうなれたことは嬉しい。たとえ嫌われることになったとしても。
でもどんなにおねーちゃんに嫌われても私の気持ちが変わることはない。今こうやって寝顔を見ているときでさえ大好きな気持ちで私の胸はいっぱいだし、その唇にキスをしたくてたまらなくなってる。
どうせならキスしちゃおうか。首を伸ばそうとして、やめた。
キスをして起こしてしまったら気持ち悪がられるかもしれない。
嫌われてもいいけど、嫌われたくない。矛盾しているんじゃなくどっちも私の本心だ。
おねーちゃんの長いまつげを眺める。
起きたあとどんな反応をするのだろう。怒る? 恥ずかしがる? 全部夢だと思ってなかったことにする?
どれでも構わない。私はおねーちゃんが望むことをしてあげるだけ。怒るのなら罰を受けるし夢にするなら何もなかった風に演じてみせる。
でももし、私の気持ちを受け入れてくれるのなら。
ぎゅっと抱き締めて欲しいなぁ、なんて。
起こるかどうかも分からない未来をふっと笑い飛ばす。
そろそろベッドから出て朝食の準備をしよう。
私の料理を美味しいと言って食べてくれるおねーちゃんの笑顔の為に。
終