20話 たっくんの厨房で……
たっくんの厨房に到着したのは待ち合わせの3分前。
「いらっしゃいませー! 」
恐る恐るドアを開けて店内に首を入れると、元気のいいウェイトレスさんの声が私を出迎えてくれる。
「お好きな席にどう…… あ、もしかして待ち合わせの方ですか? 」
エプロン姿が可愛いウエイトレスさんにお店の最奥のボックス席に案内される。 途中で厨房の方を覗いてみたが、新城さんの姿は見えなかった。
「こちらにどうぞ。 沖野さんはまだ見えられてないんですよ 」
「そうですか、よかった…… 」
「遅れそうで心配したのかい? 」
見上げると厨房の出入口からコック姿の新城さんが顔を覗かせていた。
「新城さん! こんにちは 」
「いらっしゃい、藤堂さん 」
立ち上がって新城さんにペコッとお辞儀をする。
「うぉー、ホントそっくりだな。 聞いてなきゃビックリするどころじゃないな 」
新城さんの隣からにこやかに顔を覗かせたもう一人のコックさん。 ここにいる皆が栞さんの事を知ってるんだ……
「こいつは小野司。 そっちは司の彼女の浜松瑠依。 昨日君が会ったのが丸ノ内佳。 みんな君の協力者だよ 」
「…… え? 」
「俺1人だけじゃ無理だからね、仲間に話したら快くOKしてくれたんだ 」
協力者って…… 会ったこともない私の為に?
「違うだろ。 佳に尋問されて白状したからだろが? コイツすぐ1人で抱え込んで突っ走っちまうんだよ 」
小野さんに頭を叩かれて新城さんは苦笑いしていた。
「そういうワケだから、何か困ったことあったらいつでもここに来て良いからね 」
ニコッと浜松さんが笑いかけてくれる。 ヤバい…… 頭の中が真っ白だ。
「僕もいるんだけどなぁ 」
レジの奥からヒゲのおじさんが出てきた。 あまりヒゲ似合ってないけど……
カラン カラン
「いらっしゃいませー!」
ドアのベルが鳴ると、浜松さんがすぐにお客さんの元に飛んでいった。 覗き見ていると、パンツスーツ姿の女性がこちらに案内されてくる。
「遅れてごめんなさいね、車の鍵が壊れちゃったみたいで…… ダメねー、あの車買い換えようかしら 」
スッと私の向かいに座った女性は深々と頭を下げた。
「はじめまして、沖野陽子です 」
「は、はじめまして! 藤堂遥です! 」
緊張して声が裏返っちゃった。 恥ずかしい……
「そう緊張しなくても大丈夫ですよ。 彼女は僕の同級生だから 」
ヒゲのおじさんがタイミングよくホットコーヒーを私達に出してくれる。 ど…… 同級生? 失礼だけどそうは見えません……
「久しぶり、拓ちゃん。 何年ぶりかしらね 」
「3年ぶりくらいかな。 変わりないかい? 」
「うん、息子の高校受験もあってバタバタしてたけど相変わらずよ。 拓ちゃんはどう? 娘さん大きくなったんじゃない? 」
「もう4歳になるよ。 最近口が達者でねぇ…… いや、君の仕事が終わってからにしようか。 藤堂さんが呆れてるよ 」
『おかわりはサービスするからね』とヒゲのおじさんはテーブルから離れていった。 沖野さんはコホンと一つ咳払いをして私に向き直る。
「ごめんなさいね、すごく久しぶりだったものだから懐かしくてね。 それじゃ始めましょうか 」
沖野さんが言うには、親権停止の申し立ては私自身が行うことが出来るが、実際の手続きは弁護士がやったほうがスムーズにいくらしい。 私は申し立てをしてから一度家庭裁判所に出向き、事情聴取を受けなければならない。 そこから裁判所の調査官の事実調査が入る為、どうしても審理期間は長くなってしまうと言う。
「もちろん貴女の親にも聴取が入るし、その事に対して親がより厳しくなってしまうかもしれない。 その為に保全処分というものがあるのだけど…… 急を要するかしら? 」
「はい、出来れば。 大した金額じゃないですけど、私名義の通帳も持っていかれちゃいましたし 」
「わかったわ、同時に申し立てしておくわね 」
字、綺麗だなぁ…… 大きな手帳にスラスラっと走り書きをしているのを見ていると、キャリアウーマンと言う感じでなんかカッコいい。
「ん? 」
沖野さんに見とれていると、彼女は不思議そうな目で私を見た。
「まぁ不安もいっぱいあるでしょうけど、任せておきなさい。 最近多いのよ? DVに悩まされてる子供達。 申し立て件数も年々増えてきてるしね 」
「いえ、そうじゃなくて…… カッコいいなぁと思って 」
目を見開いて驚いていた沖野さんは突然大声で笑い出す。 笑い方は豪快な人だ。
「いやいや、そんなこと初めて言われたわ。 昔はよくノロマとか頼りないとか言われたものだけど…… 歳も取っちゃったし、もうおばさんよね 」
「そんなことないですよ? 店長はオジサンですけど 」
浜松さんがパフェを二つ私達の前に出してくれた。 縦長の細いグラスに何層もクリームが重なり、はみ出そうなほど乗せられた生クリームにはおしゃれにチョコレートソースがかけられている。
「オジサンからのサービスです。 チョコレート以外は店長の手作りですよ 」
美味しそう…… 『ありがとうございます』とヒゲのおじさんに頭を下げて柄の長いスプーンを手に取る。
沖野さんはクスクスと笑っていた。
「そういえば拓ちゃん、昔もそうやって私の気を引こうとしてたことあったっけ 」
「え? お二人ってもしかして…… 」
「まだ若い頃にね。 もう20年も前の話よ 」
レジの奥の方を見てもヒゲのおじさんの姿はなかった。 普通のレストランとはちょっと違う雰囲気…… 大事な話をしに来たのになんか居心地がいい。
「遠慮なく頂きましょうか 」
沖野さんと笑い合ってパフェにスプーンを刺し、大きめの一口を口に入れるその時だった。




