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ソラにいるキミに……  作者: コーキ
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11話 眠れずに……

 ズズッっと布製のソファーが擦れる音がリビングの方から聞こえてきた。 枕元の時計は午前1時…… ゆっくり休んでとは言われたけど、あまり寝れる気がしない。 新城さんもそれは同じようで、何回も寝返りを打っているみたいだ。

 

 迷惑かけちゃったなぁ。 仕事帰りだったみたいだし、ご飯にお風呂にベッドまで用意してもらって…… 


「…… まだ起きてます? 」


「ん? 寝れないのかい? 」


 スッスッとフローリングを擦る足音が聞こえて、新城さんが入り口から顔を覗かせた。 私も上体を起こして新城さんにエヘヘと笑って見せる。


「なんか興奮しちゃってるみたいで…… ベッド貸してもらってるのにごめんなさい 」


「いや、謝ることじゃないよ。 少し話でもしようか…… 入ってもいいかい? 」


 ハイと答えると、新城さんは部屋の照明を点け、待っててと一度リビングに戻って行く。


  ピ- ピ-


 電子レンジの音がして、再び寝室に戻ってきた新城さんは私にマグカップを手渡してベッドの足元の方に腰を下ろした。 不用意に近づかないよう気遣ってくれるのは、やっぱり大人の男の人だなと思う。


 マグカップの中身はミルクココア。 少なめの量なのは、やはり私を気遣ってくれてのことだと思う。


「ありがとうございます。 リラックス効果があるって言いますもんね 」


 少し熱めのココアを冷ましながら一口…… ん!? なんか思ってたのと違うけどさっぱりしてて美味しい!


「ハチミツですか? 」


「よく分かったね。 夜中に飲むには程よい甘さのほうがいいでしょ? 」


 ゆっくり飲むつもりだったけど、あっという間に飲み干してしまった。


「はは…… もう少し増やしても良かったね。 少なくしたのは余計なお世話だったみたいだ 」


「ううん…… どうしてそんなに優しいんですか? 私迷惑ばかりかけてるのに 」


「迷惑ねぇ…… 家を飛び出さずにはいられなかった? 」


 優しくしてくれる理由は聞けず…… というか、この人はこの気遣いに自覚がないのかもしれない。


「部屋をメチャクチャに荒らされてるのを見たら、さすがに我慢できなくなっちゃって 」


 そうかと新城さんは自分のマグカップに口をつける。


「とりあえず高校卒業までは我慢しようと思ったんですけど、最近はあまりに酷いから 」


「警察には? 」


「話してません。 場合によっては高校も辞めなくちゃならないかもと思うとちょっと。 専門学校も行きたいので、成人するまではやっぱり…… 」


 ふと思い出したように新城さんは口を開く。


「親権停止っていうのを聞いたことはあるけど。 藤堂さんの知ってる人に弁護士とかは? 」


「知り合いに弁護士はいないです。 相談するお金もないですし 」


 考えなかったわけじゃない。 でも高校卒業までの学費を先払いするのと、専門学校分の学費を確保するのが私には精一杯だった。


「俺の方で弁護士の知り合いをあたってみるよ。 余計なお世話とは言わせないからね 」


「い、いや、お金が…… 」


「専門学校はどこに行くつもり? 」


「…… 看護学校です 」


 新城さんはびっくりしていたが、すぐに優しい笑顔を私にくれる。


「夢なんでしょ? その夢で多くの人を助けなきゃ。 お金の事なら心配しなくていいから 」


「え…… と 」


 つまり弁護士を探して費用も出してくれる…… そんな都合のいい話なんてあるはずがないのに、新城さんの笑顔は私をその気にさせてしまう。


「だ、ダメです! 弁護士に支払う費用なんて安くありません! 」


「じゃあ働くようになったら少しずつ返してくれればいい。 それよりも、夢は諦めちゃダメだ 」


 新城さんはさっきとは打って変わって真剣な表情だった。 力強い視線…… 私の目に熱いものが込み上げてくる。


「…… どうして…… 」


「夢を叶えられなかった人もいるからね…… 」


 温かいものが私の頬を伝っていた。 きっとその人は、新城さんにとってとても…… とても大切な人なんだ。 その人がどうして夢を諦めたのかなんてとてもじゃないけど聞けない。


「あぁごめん! 泣かせるつもりはなかったんだけど 」


 あたふたする新城さんに、慌てて涙を拭って笑ってみる。


「ごめんなさい! 泣くつもりなんてなかったんだけど…… こんなに嬉しいと思ったの初めてで 」


 ヤバい…… 涙が止まらない。 諦めかけていた看護師の夢をまた目指せる可能性をくれた新城さんに、ありがとうと言わなきゃならないのに…… もう言葉にならない。


 俯いてしゃくり声しか口にできない私が落ち着くまで、新城さんは傍に居てくれた。


「さあ、もう2時を過ぎた。 明日学校があるならちゃんと行かないとダメだよ 」


 ベッドから立ち上がり、新城さんは照明のスイッチに手を伸ばす。


「あの…… ホントにいいんですか? 」


「まぁ任せてみてよ。 それじゃおやすみ 」


 優しく微笑む新城さんはスイッチを押して照明を消しリビングに戻って行く。 お礼言いそびれちゃった…… 明日起きたら朝一番にお礼を言おう。 そう思いながらリビングに向かって私は深々と頭を下げた。

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