非暴力、不服従
制服の左右の内ポケットにはスマホが2つ。
ズボンの右側のポケットにはスマホが1つ。
そして左側のポケットにガラケーが1つ。
非常に歩きにくい。
肩に2台掛けていたビジネスマンなんていうのは今は昔の話だが、彼らは何かしらの英雄として何かしら深く刻まれるべきだ。
そんなことを考えながら、小雨が降り出した屋上に戻ってきた。
ゴツ男がいなくなったことでしばらくは身を潜める場所に出来そうだ。
それに屋上からは校舎がなんとなく一望出来る。
授業に出てない者にはちょうどいい。
しかしスマホ以上、正美以下に気になるのが突如消えたゴツ男だ。
突然生前の行いを悔い改めて飛び降りた可能性もあったが、地面にそれらしき痕跡もなければ、屋上にも手掛かりになるようなものはなかった。
あれ?
ジャラジャラがなくなってる?
よく悪そうな人たちが上は肩、下はお腹辺りまで覆っている、恐らくは防弾チョッキ代わりとして使っているジャラジャラが。
あんな趣味の悪いトライアングルの回収業者がいるだろうか。
音楽の先生に民族楽器として差し入れたって断られる。
それと、、あのモヤシ。
やる時はやる漢だ。
そういやバット。
どこから持ってきたんだ?
おおかた、ゴツ男にカツアゲでもされて追い詰められての善行だろうけど。
「ぎゃははー!ぎゃはぎゃは!ぎゃっはっは!」
耳をつん裂くバカ笑いに思考を遮られた。
貯水タンクの裏で身を屈める。
「ツヨシぃ!どしたべぇ!?ぎゃーっは!」
「啖呵のツヨシが泣いとんでぇ!いひひー!」
「むふふふふふふふふふふふふふふふふ」
腹をよじり涙を湛えた3人が上がってきた。
それに続いて、不機嫌そうなゴツ男が俯きがちに現れた。顔は上気して太陽を思い出す。
日没にはまだ早いはずだが。
晴れてて雨が降ってれば、狐の嫁入りとか言うけど、曇って雨なのに太陽とは。狐の離縁かな。
「ほらぁ!ツヨシぃ!もっかい言ってくれべや!
さっきの!可愛いいべぇ?ぎゃっぎゃ!」
あーいけない。
「上品すぎて啖呵どころか!短歌でも読み出すでコイツ!いひー!」
烏帽子のジェスチャーを交えて小馬鹿にしている。ゴツ男の表情に血の気が走っていく。
「むふ!むふふふふふ!むーっふ!!むふー!」
かわいいなあいつ。
何も言ってないけど1番バカにしてる気もする。
ゴツ男が拳骨を振りかぶった。
死人が出る。思うが早いか。
次の瞬間、目を疑う光景が広がった。
ゴツ男は、ぎゃはーと、いひーの頭を撫で、
愛おしい目でむふーを3秒ほど一瞥すると、
「弱いものほど相手を許すことができない。
許すと言うことは強さの証なんだよ」
ゴツ男は、人を傷つける言葉を奪われていた。