2度目の人生
好きな人ができた。
右隣の席の正美ちゃん。
正美ちゃんは可愛らしい。
今日は2回。落とした消しゴムを拾ってあげた。
右利きなのに、左の席にいる俺が拾った。
正美ちゃんは愛らしい。
入学初日から、自分の席をちょっとだけ定位置から右に寄せている。
正美ちゃんの右隣は左利きなのに。
狭くて不便するのは正美ちゃんだよ?好き避けだね。
こんなあからさまなアピールに最初は半信半疑だったけど、夏休みを目前にして、流石に据え膳食わぬは恥かかせだと分からない俺ではない。
『ちょっと・・・いきなりなんなの』
放課後に呼び出しておいた。
夕陽に反射する、瞳かピアスか指輪かに目が眩んだ。
「あの、えっと///あなたが、す、すー!」
アレ?
「だからっ!すっ!!??」
好きって言えないぞ?
金縛りの類じゃなく、好きの送り仮名ってなんだっけぇ?みたいな間の抜けた感覚。
言ってみればお漏らしした後の虚無感に支配されていた。
「初めて、あっ!、、、あれ?
ま!まさっっ!がっ!、、、あれあれ!?」
会った時から!正美ちゃんが!!
なんで言えないんだよおおお!?
『あっ!うん!気持ち伝わったよ。ありがとう!
でもゴメン!彼氏いるし・・・ホントごめんね!』
何が起こったのかまるで分からず、冷蔵庫に放置された野菜のように立ち尽くしていた。
正美ちゃんは小悪魔だ。
校則で禁止されているピアスと指輪が亜麻色の髪色とカラコンによく似合う。
そしてただただ、股間の温もりだけが僕を支配した。
〜1度目の人生終了後・地獄〜
閻魔大王代行「オマエ、生前履歴書見るに、
ろくでなしだったんだな!でも、いなくなることで沢山の人笑顔にしたな!・・・ところでオマエ、未練あるか?!」
未練タラタラだ。死んでわかった。
失うことで、そこにあった価値に気づくとは情けない。
だからこそ価値のある死だ。
閻魔大王代行「更正の余地アリ!転生許可!
もうこんなとこくんなよな!」
ーそれが、最期で最初の言葉だったー
〜2度目の人生・現世〜
俺は、1度目の人生で沢山の人を傷つけた。
その十字架を背負わされて生きなければならない。
今は形容詞と、動詞と、固有名詞を奪われている。
頭の中で言葉を認識することはできる。
思考の中には確かに存在するのだ。
でも、口にできない。文字にして書けない。
表現が封じられることはこんなにも辛いのか。
以前の人生では、だれかれ構わず噛みつき、泣かせ、
イラつかせた。それが快楽だった。
ほとんどの人間は自分について、深く思考したことなんてない。
現に周りのバカどもの言葉に、なんで?と一言返せば言い返すことが出来るのは一握りだ。
だけど、2度目の人生で、笑顔にさせ、喜ばせたい人と出会った。
正美、俺が必ず幸せにするぞ。