斯くて現実も動き出す
休日だから奮発しちゃうゾ
「んっ、ふぁあ〜」
久々に健康的な朝、最近はエナドリで徹夜続きだったからなあ。
しっかし花海鮮やり遂げたのは奇跡だったな、あれの年単位の攻略はガチ勢が
ざらにやってたからな〜。あっ、電話しないと……佐藤さんに六十万のAB2の
お礼言っとかないとだし。
「もしもし、佐藤さんですか?」
「結ちゃん元気?」
「おかげさまで、そちらはいかがですか?」
「今、日光に行ってるよ」
この人僕の父さん程じゃあないけど色んな所を駆けずり回ってるからなあ。
先月はユーラシア大陸の外周を一回りして、涼しい顔してたから、父さんとは
また違った意味でワールドワイドな人物だし……。
「忙しそうですね」
「そうでもないよ、結ちゃんがだいぶ方々に根回ししてくれたから昔よりは
うんと楽になったよ」
「お役に立ててなによりです」
所詮は知り合いの知り合い、名前だけ知ってるような人ばかりだし……。
それでも、この人にとってはコンタクトとれるようになってるだけ
ありがたいって事か。
「ところでアクブレ2…どうだった?」
「凄く使いやすいです、でもあんなに高いの良かったんですか?」
「いいのいいの、ウチのボンクラが買い取ってくれたから」
「それもそうでしたね」
あの馬鹿なら幾ら被害を被っても構わない。日頃の行いが酷いので仕方ない。
「話は変わるんだけど、結ちゃんはVR技術をどう思うかい?」
「凄い技術なんじゃないですか?」
「それは、ゲーマーとしての感想かい?」
「……ええ」
「じゃあ、序列者としてはどうだい?」
棘のある聞き方だと思ったら……十中八九思い当たる節がある。
昨日のプレイ中に思考が遮らてた感覚、今になって思えばおかしい。
ABだとそんあことはなかったけど、AB2はどうやら厄介な代物らしい。
「……精神保全、魂魄離脱 辺りが有力ですね」
本来、人間は自分の肉体が変化した時魂の形が適応せずに自我を失うか、
発狂してしまうかのどちらかである。僕の場合は何度も不定形生物にされた事
があるから問題ないけど、一般人がやろうとしたのなら何重にもセーフティを
掛けなければならない。それに加えて花海鮮は個人ゲーだったけど、お味噌は
オンラインゲームである。処理速度が遅くなるのにグラフィックが異常だし、
AIの反応も人間に近しいものを感じる。それならば魂を抜いて何処かに
放り込んでいる可能性が大きいのである。
「それだけかい?」
「……恐らく、異界接続 多分それ以上に色々使われているかもしれません」
魂を抜き出して、スーパーコンピュータで演算したぐらいじゃあ、五感を
再現出来るはずがない。脳に直接干渉しているなら話は別だけど……、
異世界と繋がっているのかもしれない。あくまで可能性の段階であるけど……。
「そうかい……こっちでは、世界規模での認識操作を確認してる」
「それなら、国内の対応は僕が行うので佐藤さんは海外をお願いします」
僕の持つ人脈は九割型国内に限られる。その反面あらゆる分野に対応可能な
狭く深くなタイプである。だが、国家という組織に所属している佐藤さんは海外に
繋がる太いパイプ持っている。特に今回のような複数の要素が絡む案件においては
八面六臂の活躍を見せてくれるのである。
「分かったよ、序列権限はAクラスでの発令かい?」
「特Aです」
規模が規模なのでやむを得ない。
「……分かった、それだったら先にC国から懐柔しておくよ、A国も必要が
あるだろうけどオンラインゲームの人口は断然C国だからね」
今回の案件は僕等の趣味も関わってくる。故に多少の前知識をいつも以上に
持ち合わせている。常は二手 三手先を読む程度の読みだが、今回は上首尾に
事を進められそうである。
「すいません、お願いします」
「そんなに気にしなくていいよ、これがお仕事だから」
「それでは失礼します」
「よろしくお願いするよ」
「さてと……」
備え付けのクローゼットから取り出したのはトランシーバーみたいなもの……。
この形状は如何ともし難いが機能的に仕方ない。
「現時刻を以って、序列第零位の権限において、特Aクラスの非常事態警報を
発令します、優先度C以下の任務に従事している場合、二十四時間以内に
終了の後、各司令室に帰還し待機してください、繰り返します、現時刻を以って
序列第零位の権限において、特Aクラスの非常事態警報を発令します、
優先度C以下の任務に従事している場合、二十四時間以内に終了の後、
各司令室に帰還し待機してください」
国内序列第零位、「無能万能」月見里 結、それが僕の役職?みたいなものだ。
基本、緊急時以外はクラスのまとめ役としてのお飾りの立場だから、意味はあって
ないようなもののである。だが、例外としてA、特Aクラスの危険を把握した場合に
限り、超課の人員を招集する権限がある。最も僕は招集するだけで状況への対応は
滅多に行わない……否、行えない。余談だがA、特Aクラスは日本全土に影響がある
レベルの危険度であり、緊急を要する案件の事を指す。
「こっちはこれで よしっと」
「次は……」
✴︎
「もしもし、藍美ちゃん」
電話の相手は栗栖野 藍美、生粋のゲーマーで僕の後輩。シチュとジャンルに
よってはあの希匠ですら敗北を喫する達人である。
「先輩、どうしたんですか?入院中って聞きましたけど……」
そもそこの後輩に一報入れたのは協力を仰ぐためである。希匠の手を借りるのは
純粋にゲームを楽しむ時だけである。しかし、今回は察しの良いあいつを頼ると
超課やクラスメイトの秘密が芋蔓式に露見する危険性がある。従って純粋かつ
天然の彼女を攻略のお供にしておく算段である。今後の状態の変化によっては
お味噌の攻略の必要があるかもしれない。その理由は今のところWGCが
オンラインサービスを提供しているのはお味噌のみである事と、他のタイトルは
何故か一ヶ月と経たずに終了している事にある。つまりここが問題の中核を
担っている可能性が大いにあるからである。
「ツイスティング・ミソロジーは買ったかい?」
「買いましたよ、でもどうしたんですか?」
「実はユニーク関連のいい情報が手に入ったから、フレンド集めてプラネティアに
来てくれるかな?ウサギを目印に探してくれればいいよ」
「本当ですか!?」
食いつきいいなあ〜。流石はゲーマー……。
「うん、なんだかんだいって付き合い長いし……いつものお礼って事で」
「付き合い、先輩との付き合いフフフ……」
この子は純粋なんだけど、時折、雑賀との同族の香りがする……。
その内、僕の寝込みを狙って来そうではあるが、次にリアルで会えば立派に
女の子になってるから大丈夫……じゃないな。むしろ余計に襲いに来そう。
うぅっ、悩みの種が……。
「もしも〜し、藍美ちゃ〜ん?」
「はっ、すみませんそれじゃあ何時ごろにログインすれいいですか?」
「多分、検査とかが終わってからになると思うから夜の八時ちょうどで」
嘘ではない、検査自体は午前中に終わるけどそれ以外もあるし……。
「分かりました、ところでユニークってアナウンスのやつですか?」
「アナウンス?」
へぇ〜、僕の他にユニーク自発したやつがいたんだ。
「ええ、昨日 リードってプレイヤーがユニークシナリオを発生させたらしく
それからずっと掲示板もスレッドも荒れに荒れてますよ」
「…………」
「ソレハ、オタノシミッテコトデ ハッハッハ」
ナンテコッタ、オイラ、マチ、デアルケナイヨ……。
やっぱり、待ち合わせ場所を変えて……しまった街の名前以外、何一つ
知らないよ……。
「はい、分かりましたそれじゃ今日の八時にウサギを目印に集合ですね
ああっ、私今からバイトなんで失礼します すいません」
「切れちゃった……まあいいや」
任せた、未来の自分(問題の先送りとも言う)
「とどめは……」
✴︎
「院長先生、午後からカンファレンスルームは使えますか?」
「構わないが、またかい?」
「すみません、病室だと手狭なので……」
「分かった、二時から使えるように手配しておく」
「ありがとうございます」
◆
「みんな今日は集まってくれて ありがとう、早速だけど時間がないから
説明を始めさせてさせてもらうよ」
院長先生に話を通してお借りしたカンファレンスルーム、今 集まっているのは
僕のクラスメイトの九割……つまりはこちら側の人間である。
「今、世界各地で大規模な隠蔽工作が行われている」
「今はまだ何も起こってないけど、これ程の規模ならトリニティを使う必要が
あるかもしれない」
トリニティとは僕が持つ、最終兵器……。文字通り三位一体のアイテムで
ジャンルの違うそれぞれを無理矢理起動し、使用する。その効果は月を一撃で
破壊し得る程ではあるが、代償に命の危険を伴う。その内の一つは家に居間に
飾ってある妖刀で、銘を大嶽丸という。非常に危険なので今まで二度しか
使用していない。いや、二度も使用してしまったと言うべきか。一度目は生死の境
を彷徨って、二度目は死んだ。その後生き返ったのは自分でも驚いたけど……。
「……………」
「そうなれば僕も生きていられるか分からない……」
流石に三度目で生きてる自信はない。
「だからそうなる前に力を貸して欲しい」
「水臭いっすね、そんなの言われなくても頑張りますよ」
「大丈夫、大丈夫、任せてください」
発言が多い二人が代表だと言わんばかりに主張してくる。中々立派になった
じゃないか……。
「拙者も助太刀いたす」
「「「お前は黙れ」」」
「すみません」
前言撤回、一人駄目だった。
「生意気、訓練メニュー追加っと」
「そんな、殺生な〜」
「「「ハッハッハ」」」
「さて、それじゃあ今後の予定を話すよ まずーーー」
そして昼過ぎまで方針のすり合わせが行われた後、お開きとなった。
尚、貧血が酷くなって途中で倒れた僕は約束の時間ギリギリまで気絶していた。
明日からゲームパート本格稼働ナリ!