魔法を作る魔法
「では、このアイテムを使ってみましょう」
宿のとある一室、俺とセニアは襲ってきた男から拝借した眼鏡状のアイテムを手に対面していた。配置は昨日と同じでセニアがベット、俺が椅子。
「使うっていってもどう使えばいいか分からないんだけど」
「わたしが使うのでゆきさんはそこで座っててください。多分どこかにスイッチが......」
セニアは持っていた眼鏡状のアイテムの真ん中を押し始めた。レンズ同士の間といえばわかりやすいだろうか。そんなに押したら折れるんじゃないか?と言いたくなったが自分が使い方を知らないだけだろうと納得する。
「ここじゃないんですかね......?」
そういってセニアは押し続けるのをやめて再び眼鏡とにらめっこ開始する。あの眼鏡破壊されるとこだったのか。
「もしかしてここですかね......」
「そこは絶対に違う!」
セニアがレンズを潰しにいったのでさすがにストップをかける。
「わたしじゃよくわからなかったです。ゆきさん見てくれませんか?」
「わかった。ちょっと貸してくれ」
眼鏡を受け取り、スイッチを探す。しかしそれらしいものは見当たらなかった。
「もしかしてこれ普通の眼鏡なんじゃないか?」
「以前これと同じ形をしたものを店で見たのでそうだと思ったんですが......」
「たしかにこんなカラフルな眼鏡、普通ないもんな」
どうしたものかと首をひねる。とりあえず今までの経験からそれっぽいのを提案してみる。
「魔力を込めればいいんじゃないか?」
「そういうことですか!よく思いつきましたね」
種やら石やらでこうしろって言われてきたからな。
セニアは眼鏡をかけた状態で魔力を込める。眼鏡かけたセニアって新鮮だなーなんて思っていると、レンズに変化があった。某戦闘力を測る機械のようなかんじで文字が映っている。
「あれ......?」
「どうした?」
「いや、それが魔法が一つしか表示されなくて......しかもこれは......」
たしか数種類知れるって言ってたから、一つというのはたしかにおかしい。魔法を一つしか取得していないのならわかるが、俺は少なくとも初級魔法を四種類は既に使っている。
「とりあえず紙に書きますね」
セニアは備え付けのペンを取り、紙に詳細を記していく。この世界の言語は読み書きともに日本語とほぼ同じだ。少し文字の形が違ったりするものもあるが、わからないほどではない。
「どうぞ」
紙をセニアから受け取り、内容を確認する。
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魔法名 クリエイト:魔法を生成する。
詠唱 ???
陣 なし
発動条件 ???
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半分くらい調べきれてないな。魔法を生成するって言われてもどうやればいいのかとか一切わからない。
「魔法を作る魔法なんて、聞いたことありませんよ。レア中のレアですね」
「たしかにすごい魔法なのはわかるんだけど、この説明だとな......」
さすがに適当すぎる。陣のところがなしになってるから、詠唱と発動条件の???はなにかあるってことだ。それを知れないことには使おうのも使えない。
「まあ今まで通り魔法名だけ言ったりして色々試してみるよ。考えるより行動するほうが好きだし」
「もしなにか手伝えることとかあれば、言ってくださいね。わたしなんでもやりますから」
「ん?今なんでもするって言ったよね?」
「?言いましたけど......?」
ネタとはいえ、こんな純粋な目で見られてしまうと罪悪感があるな。こういうのは通用する人にやらないとダメなんだなってことがよくわかった。
気を取り直して、『クリエイト』の魔法を試すことにする。
『クリエイト』
目を閉じて唱えたのはただの偶然だったが、正しかったらしい。それまで真っ暗だった視界内に突然プログラムのようなものが出現する。驚いて思わず目を開くと、部屋の光景が目に入る。再び目を閉じても視界は真っ暗だ。
「どうでした?」
「なんかプログラムみたいなのがいっぱいでてきて、目を開けたら消えたよ」
「ぷろぐらむ?」
どうやらこの世界にはプログラムという単語はないらしい。コンピューターすらないわけだからないのは当然なのかもしれない。
「俺の世界にあるものなんだ。気にしないでくれ」
そう言って、再び『クリエイト』を使う。やはりプログラムのようなものが視界内に出現する。それを改めて見ると、どうやらこれを編集することで魔法を作成することができるようだ。脳内で言葉を考えると、空欄に文字が書き込まれていく。
文字を書き込んだり消したり、そのほかにも色々な機能があったので片っ端から試していった。しばらく時間が経ち、ある程度把握できたところで目を開ける。暇そうに外を眺めているセニアが視界に映る。
「ただいま。どれくらい時間経った?」
「あ、おかえりなさい。もうあれから大体二〇分くらい経ちましたよ」
「そんなに時間かかってたか......ごめん、つまらなかっただろ?」
「わたしはゆきさんと一緒に居られるこの状況自体が幸運なことなので、どうということありません。それよりどうでした?その魔法使えそうですか?」
「ある程度はわかったよ。あとは実際に作ってみるくらいだな」
どうやら魔法を生成するときは、詠唱、発動条件、内容をすべて考えなければいけないらしい。威力の高い魔法、複雑な魔法はどうしても消費する魔力が大きくなってしまう。それを緩和させるのが詠唱と発動条件。つまり魔法の内容と消費魔力のバランスをうまく調整することが魔法を作る要だ。ちなみに陣はこのプログラムの代用品のような役割をしているらしく、全部頭に入っている俺には必要ないようだ。
「じゃあ朝言ってた瞬間移動できる魔法でも作ってみたらどうですか?」
「お、いいなそれ!そうさせてもらうよ」
そうと決まれば早速作業だ。まずは魔法の内容から決める。瞬間移動する、なんて曖昧なものでは魔法は作れない。作れたとしてもバカみたいな量の魔力が持っていかれる。まあ今はテストだし目に見える範囲に瞬間移動でいいか。詠唱は......自分で考えるのが恥ずかしいからあんまり作りたくない。なしでいいや。あとは発動条件か。『テレポート』と唱えて三秒間目を瞑る、と。あ、唱えるとこ詠唱でいいじゃん。
テストとはいえ初めての魔法生成で少し手間取り、十分ほどかけてようやく試作魔法が完成した。
「じゃあそこに瞬間移動するから、ちゃんとできてたか確認してくれるか?」
「わかりました。いつでもどうぞです」
「じゃあいくぞ。『テレポート』」
唱えてすぐに目を瞑る。頭の中にしっかり入っている。多分失敗しないだろう。
三秒後、ドッと魔力が持っていかれたのを感じた。やはり瞬間移動はかなり高度なものらしい。三秒目を瞑るくらいじゃまともに使えない。目を開けると、先ほどまでとは少し違う景色が見える。改善点があるとはいえ、一応成功したようだ。
「セニア、どうだった?」
「ちょ!?こっち向かないでください!!見えてますから!!//////」
なぜか顔を真っ赤にしたセニアが慌てて枕に顔を埋める。見えてるって、こっちは見ててくれたのを前提に感想を求めてるんだけど......。
「なあ、できれば感想とか言ってほしいんだけど......」
「か、感想ですか!?///えっと......その......立派だと思います......//////」
「だからどういうこ......と......?」
肌寒さを感じ、下を見る。そこに着ていたジャージはない。というかなにも着ていない。後ろを見ると、着ていた衣類が無造作に転がっている。
「すみませんでしたぁ!!!」
人間の出せる最高のスピードで土下座の態勢に入る。謝るのだ。おまわりを呼ばれる前に。いるかわかんないけど。
「とりあえず、服着てください......///」
「はい」
従う以外に道はなかった。
しばらく沈黙が続き、ようやくセニアが口を開く。
「い、いまのはなかったことにして、もう寝ましょう!」
「ごめんな......事故とはいえあんなこと......」
「もういいですから!灯り消しますよ!」
そう言ってセニアは灯りを消し、布団に潜る。完全に真っ暗だ。俺も昨日と同じように寝る態勢に入るが、やはり寝付けない。しかし話しかける勇気もなく、ただ時間だけが過ぎていく。暇つぶしにさっきの魔法を改良することにした。
とりあえず身に着けているものは一緒に移動するように設定して、発動条件と詠唱も見直す。あの魔力消費を抑えるにはうまくこれらを活用しなければいけない。結局夢中になってしまい、『テレポート』の改良に一時間ほどかかってしまった。
そろそろ寝ようかと思い、『クリエイト』を解除する。するとなにやらベットのほうから声が聞こえてきた。
「......っ......ぁ」
さーて、魔法作るか。再び『クリエイト』を発動し、外からの音を強制シャットアウトする。俺はなにも聞いていない。これ以上やらかしたら口を利いてくれなくなるかもしれない。それはなんとしても阻止せねば。
結局その後、魔法作成に没頭してしまい、この日睡眠をとることはなかった。