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初仕事

 異世界に来て、初めての朝を迎えた。もしかしたら夢オチかもしれないと昨日までは思っていたが、やはりこれは現実らしい。窓から入る太陽の光が、心なしか元の世界よりも清々しく見える。



 セニアはまだベットの中で気持ちよさそうに寝ていた。一人でいる間は不安でよく眠れなかったのだろう。起こすのも悪いのでそのままにしておく。ちなみに俺は勉強机みたいになってる机と椅子で寝た。学校での俺のデフォルトだ。



 スマホの時計を見ると、時刻は朝の六時半。いつもなら習慣であるランニングを行っているはずの時間だ。体を鍛えるというより、鈍らせないのが目的だったから今日はやらないことにした。今日からは冒険者の仕事をこなすのだ。



 もしかしたら昨日のモンスターとまた戦うかもしれないなー、と遠い目をしていたが、自分には一つ大きな武器があったことを思い出す。魔法だ。



 「そういえばまだ使い方とか教えてもらってないな......」

 セニアが魔法を使うとき、詠唱のようなことしていたから、魔法を使うときには詠唱が必要なのだろうが、それだけだとは思えない。きっと何か他に必要なことがあるはずだ。

 


 「後でセニアに教えてもらおう」

 そういうことにした。考え事をしているとベットのほうからモゾモゾと音が聞こえた。セニアが起きたようだ。寝ぼけているのか「うにゅ......」と言ってしばらくボーっとしていた。



 少し時間を置いて、ようやく俺の存在に気付いた。最初は驚いたような表情をしたが、すぐに今の状況を思い出したようだ。

 「おはようございます......」 

 「おはよう。眠気が覚めたら朝ごはんでも買いにいこうか。もちろんそれくらいの金は自分で払えるから心配しなくていいよ」

 「はい......わかりましたぁ......」

  そう言ってセニアはしばらくの間、うとうとしていた。どうやら朝に弱いタイプらしい。やることもなかったので、俺はこの微笑ましい光景を楽しむことにした。

 


~~~


 

 セニアが平常運転に戻り、俺たちはクエストを受けるためギルドに向かっていた。

 「魔法ってどうやったら使えるようになるんだ?」

 今朝から気になっていたことを思い出し、セニアに聞いてみる。昨日同様セニアはフードを深く被っていて、正直もったいない。



 「魔法というのはそれぞれで発動条件が違うんです。なので一概にどうやるかと説明するのは難しいですけど、全ての魔法に共通するのは詠唱と陣が必要なことくらいです」

 「陣?魔法陣なんて昨日使ってたっけ?」

 「魔導士は自分がよく使う魔法の陣を常に携帯してるんです。例えばわたしは回復魔法の陣を紙に描いてポケットの中に入れて持ち歩いてますよ」

 「じゃあ全魔法の陣を体中に描いておけばいいんじゃないか?」

 「自分の得意属性じゃない魔法の陣は初級魔法くらいじゃないと小さく収まらないんです。なので得意属性じゃない強力な魔法を使いたいときは地面に陣を描いたりしないと使えません」



 今の話から魔法についてまとめると、魔法には詠唱、魔法陣、発動条件が必要で、得意な属性の魔法ならば簡単に使える、ということだ。詠唱を覚えるのも陣を描くのも中々めんどくさそうだ。アニメとかだったらかっこよく詠唱してるけど、裏でこんな努力してたのかな・・・・・・。



 「自分の得意属性ってどうやって調べるんだ?」

 「白魔石(はくませき)という魔力を与えることによって色が変化する魔石を使うのが一般的ですね。赤が火、緑が風といったように色で得意属性がわかるんですよ」

 「へぇ~。どうせならクエストの片手間に探してみるか。俺も早く魔法が使えるようにならないといけないからな」

 


 魔法についてある程度知ることはできたものの、どうやら一朝一夕で使えるものではないようだ。使ってみたかったけど仕方ない。

 とりあえず今日は、異世界での初仕事をがんばるとしよう。



~~~



 「一角兎の角の採取、一本につき銀貨二枚。バーミラージの上皮採取、一つにつき銀貨三枚」 

 俺たちはギルドに到着し、クエストボードに貼ってあるクエストを確認していた。クエストの数自体は多かったのだが、これといったものが見つからず、ずっとボードを眺めている。

 


 よく分からないモンスターの名前も多くあり、いっそセニアに選んでもらおうかと思っていた矢先、俺はあるモンスターの名前を発見した。

 『音速狼の牙、一つにつき金貨一枚』

 音速狼って多分昨日の狼だよな?牙一つで金貨一枚ってあいつ結構強かったのか?

 


 「なあセニア、この音速狼って強いのか?」

 「迷宮の上層に住むモンスターらしいですよ。迷宮は名の知れた冒険者ですら攻略するのは難しいらしいですからね。おそらく相当強いんじゃないんですか?」

 「もし、俺が武器も魔法も無い状態でこいつに勝てたって言ったら、これいける?」

 「ゆきさん、もしかして昨日の傷って......ていうか武器どころか防具すらない状態で迷宮に潜るなんて常軌を逸してますよ......」

 


 だっておっちゃんが飯代稼げるって言ったもん。

 しかし苦戦したとはいえ、素手で勝てた相手でこれほど稼げるというのは魅力的だ。十体倒したら金貨十枚、つまり十万円貰える。本来一日で稼ぐ額じゃない。



 「ゆきさんがやりたいと言うならわたしはいいですよ。武器は護身用の短剣くらいしか貸せませんが、わたしも魔法でサポートできますし。ただし危ないと思ったらすぐ撤退してくださいね?」

 「ありがとう、早速このクエスト受けるって報告してくるよ」

 クエストボードに貼ってある紙を剥がし、受付へ持っていく。手続きは簡単で、書類に名前を書き、クエストを受けた本人だと証明するためのバッチのようなものを貰うだけだった。



 「じゃあ行こうか、迷宮へ」

 前回は迷宮の入口付近をうろつくだけで帰ってきたので、迷宮がどんなところかはよく分からなかった。今回はある程度進んでみたいな。セニアもいるから怪我しても大丈夫だし。

 時間はまだ早朝といってもいい時間帯。俺たちは陽の当たることのない迷宮へ足を運ぶことにした。




~~~




 「ふっ!」

 「グルぁ!?」

 相変わらず突進しかしてこない狼の攻撃を避け、すれ違いざま短剣で切りつける。この一連の流れを繰り返し、今相手しているやつで三体目だ。一本も牙は採取できていない。使っているナイフはセニアが護衛用に持っていたものだ。



 この世界のモンスターは倒される、つまり死ぬとすぐに灰になって消えてしまう。今回のように採取するタイプのクエストでは灰になったとき一緒にドロップするのを信じて倒し続けるしかないのだ。

 再び向かってきた狼の突進を避け、ナイフで一閃。この一撃がとどめとなり、狼は灰になった。ドロップ品はないようだ。



 「全然でないなー、やっぱそう簡単にはいかないか」

 「でもゆきさん、すごいです。迷宮のモンスターをこんな簡単に倒すなんて。もう既に中級冒険者クラスの実力はあるんじゃないですか?」

 冒険者はその仕事ぶりに応じてランク分けされている。俺のようなルーキーは初級、才能ある冒険者が十年かけてやっと中級、更にその上が上級となっている。



 「このモンスターは単純な攻撃しかしてこないから勝ててるだけだよ。それに迷宮と言っても、ここは上層だし」

 「そんな謙遜することないと思いますけど......きました!二匹です!」

 セニアが叫んだと同時に二匹の狼はこちらに向かってくる。二匹ともジグザグに動くことでこちらの的を絞らせない。いい連携だ。



 「援護は任せてください!」

 そう言うとセニアは、右手を前に出す。その直後、セニアの足元には水色の魔法陣が展開される。

 「『魔を穿つ水弾よきたれ!ウォーターボム!』」

 水属性の初級魔法、ウォーターボム。名前からなんとなく想像はできるが、水の塊を相手に飛ばすというものだ。セニアは狼の一匹に水弾を撃ち続ける。



 「やっぱすごいな、魔法って」

 狼は高く跳躍することでこの攻撃を回避する。しかしそうなってくれれば俺たちの勝ちだ。着地地点を予想し、俺が先回りをする。空中で満足な動きができない状態をナイフで一閃。狼はそのまま絶命した。



 もう一匹も同じような手順で倒し、少し休憩を取ることにする。ちなみにさっきの戦闘で牙が一つドロップした。

 「魔法、俺も早く使えるようになりたいよ」

 「ゆきさんはすごい才能を持ってますから、今の魔法なんかはすぐに使えるようになると思いますけどね。帰ったら教えましょうか?」

 「ありがたくその提案に乗らせてももらうよ」

  手から水弾を撃つイメージで片手を前に出す。詠唱は忘れたが、先ほどの魔法の真似だ。

 


 「ウォーターボム!」

 ドォン!!と向かい合う形にあった壁から音がした。鉱石でできた壁にはしっかりと窪みが残っており、そこからは水が滴っている。俺は片手を前に出したまま固まっていた。手には何かを放出したような感覚が残っている。



 俺の手からは水弾が飛んでいったのは、きっと見間違いではないだろう。

 「もうわけがわからないです......」

 セニアは頭が痛いというジェスチャーをする。魔法の行使には、発動条件、詠唱、陣という三つの過程がいる。それがさっき俺がセニアに教えてもらったことだ。しかし今のは詠唱と陣の過程を行っていない。発動条件はわからないものの、少なくとも二つ常識外れなことをしたということになる。



 「魔法、使えた......」

 ぶっちゃけ自分でもわけがわからない。自分でいうのもなんだけど流石適正ランクSといったところか。

 しかしこれだけ派手に音を立てると、流石にモンスターが気づかないことはない。音速狼が三匹、暗闇の奥から姿を現す。



 「『ウォーターボム』」

 もう一回撃ってみる。ボムというより矢に近いかんじで敵の一匹めがけて飛んでいく。流石にそれは避けられたものの、連続で数回撃っていくと、一匹にヒットした。頭に当たったのか戦闘不能の状態で地面に転がっている。残った二匹が激高し、俺のもとへ向かってくる。そろそろこの攻撃にも慣れてきたので、あとの処理はお手の物だった。魔法を当てた狼からは牙もドロップした。



 「この調子なら今日はすごい稼げそうだ。金貨十枚くらいいけるんじゃないか?」

 「今くらいの頻度でドロップしてくれればほんとにそれくらい稼げるかもしれませんね。今日はひたすらここで粘りましょう」

 この日、迷宮からは悲痛なモンスターの声が響き渡ることとなった。

 

 

 

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