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彼女の事情

 ギルドを出た後、俺たちは落ち着ける場所を探してフラフラと歩いていた。

 「ごめん、お金払わせちゃって。今度ちゃんと返すよ」

 「別にお礼として受け取ってくれてもいいですよ?」

 「いや、女の子にお金出させるのはさすがに.....」

 「もう出させてるじゃないですか」

 こんな感じで誰かと話しながら歩くのって星波以外では久しぶりだ。しかも可愛い女の子。今はフード被ってるから顔見えないけど。



 「とゆうか、ゆきさんは謎が多いです。冒険者でもなかったのにあんな怪我してるし、魔法適正Sランクだし、服装も珍しいし、わたしのこと話した後ゆきさんのことも聞かせてくださいね」

 「おう。まあ自分でも何話したらいいのか分からないくらいなんだけどな。あ、そこの露店寄ってもいい?実は今腹減ってて......」

 「さっきの換金はこのためだったんですね......急ぐ必要もないですし、どうぞ買ってきてくださいです」



 同意も得たため、俺は近くにあった露店に足を運ぶ。そこで売っているのはすり潰した芋を衣に包んで揚げたもの、つまりコロッケだ。

 「おっちゃん、それ二つ」

 「おう!揚げたてあるから持っていきな!」

 銀貨を一枚渡して、銅貨八枚が返ってくる。つまり銅貨は百円か。

 セニアにコロッケを一つ渡す。自分の分だと思っていなかったのか、セニアは驚きつつコロッケを受け取る。

 買ったばかりのコロッケを一口。サクッという食感とともに、芋についた素朴な味付けが口の中いっぱいに広がっていく。うん、コロッケだ。

 


 再びぶらついていると、年期の入った古風な宿を見つけた。

 「あ!あの宿すごくボロボロで安そうですよ!今日はあそこで休みますか?」

 「そんな嬉しそうにボロボロとか言わないの。まあ俺は泊めてくれるだけでもありがたいし、セニアがそう言うなら」

 こうして俺はまたセニアの紐になるのか。罪悪感が半端じゃない。

 「ていうか、匿ってくれって言ってたけど、これじゃ俺のいる意味なくないか?」

 「確かに思っていたのとは違いますけど、わたしは今お金があっても収入がないですから。その点ゆきさんは才能のある冒険者。今後は負担をかけてしまうことが多くなると思います」

 こんな可愛くていい娘なのにどうしてこんな生活をしているのか本当に不思議だ。



 

  セニアは外見が少し怪しい感じになっているので、先に俺が部屋を取りに行くことにした。

 ドアを開けて中に入る。宿の中身は外見ほどボロくなく、こんな趣旨の宿だと言われれば納得するレベルだ。

 入口のすぐ横にカウンターがあり、従業員だと思われるおばちゃんが立っている。俺に気づくとすぐに声をかけてきた。

 


 「お客様、お一人でしょうか?」

 「外に連れがいるので二人ですね」

 「お二人でしたら一部屋か二部屋、どうなさいますか?」

 「一部屋でお願いします」

 即決だった。これは邪な気持ちで決めたんじゃない。一緒にいたほうがもしものときの対応が早いし金も節約できる。むしろ二部屋とるほうが合理的ではない。これはセニアのことを考えてやったことなのだ。

 


 おばちゃんは鍵を取りに行くと言って、カウンターの奥に入っていく。

 俺は部屋を取れたことを報告するため、入口から外に顔を出す。

 「ごめん。一部屋しか空いてなかった」

 「あの......全部聞こえてたです」

 俺にできたのはひたすら弁解することだけだった。



 おばちゃんが帰ってので部屋の鍵を貰う。セニアは俺がいいなら元々一部屋にする予定だったらしいので新しく部屋は取らなかった。

 階段を上り、鍵に付いている番号と同じ部屋を見つける。

 部屋の中にはベットと机と椅子。必要最小限のものしか置いてないって感じだ。



 部屋の中に入り、セニアはようやくフードを着ていたローブごと取った。長い金の髪と少し幼さが残る容姿が俺の前に映し出される。そしてローブを脱いだ瞬間、俺は衝撃を受けた。

 ローブの下に着ていたのはゴスロリと洋服の中間みたいな服。それはいい。いかにも異世界の女の子が着てる感じの服だなって思う。しかし、その服の下にあったのは激しく自己主張をする双丘だった。ローブのせいで体型が分からなかったけど、まさかこんな爆弾を抱えていたとは!

 


 「セ、セニアって歳いくつ?」

 「?十六ですけど、それがどうしました?」

 このサイズで同い年!?学校内でも数人いるかどうかだぞ。しかも顔は幼い感じだから余計に際立って見えてしまう。これがロリ巨乳というものなのか......!

 「あの......さすがにそこまで見られると恥ずかしいです///」

 セニアは俺の視線に気づき、腕で胸を隠す。

 俺は再び弁解することしかできなかった。

 



~~~




 「王子との婚約が嫌で逃げてきた?」

 「はい。先日までダージ帝国とこの国、オスクルが戦争をしていたのはご存知だと思います。そのときにダージ帝国は王家が全員殺され、壊滅しました。ただし、王の隠し子だったわたしを除いて、です。わたしは母と二人で帝国の郊外で質素に暮らしていたのですが、なぜかオスクルの兵士はわたしが王の隠し子だと知っていたようで、この国に連行されました。その後わたしは見せしめとして処刑されるはずだったんですが、王子がわたしのことを気に入ったようで、王子の婚約者という形で生かされることになったんです」

 


 最初の前提からもうご存知ないからなんにも話が入ってこない。過程はもうどうでもいいとして、セニアは今、国に追われているということなのだろうか。王子の婚約者として発表されたなら、顔を隠していた理由も納得できる。



 「でも見方を変えればその王子は死から救ってくれた救世主じゃないか。どうして結婚するのが嫌だったんだ?」

 「確かにそういう捉え方もできますが......王子はちょっと好きになれなくて......。」

 そう言って、セニアは俺に新聞のようなものを渡す。そこには王子の似顔絵が載っていて、ぶっちゃけカエルのような顔をしていた。

 


 俺は物語に出てくる王子には二パターンあると思っている。一つはイケメンで性格も良く、女子が想像する王子様みたいなタイプ、もう一つは丸々と太っていて、甘やかされて育ったゲスなお坊ちゃんタイプ。

 ここは物語の中じゃないし、外見で決めつけるようで悪いけど、こいつはおそらく後者だろう。まだ出会ってそんな経ってないけど、セニアが外見だけで判断するような人じゃないのは分かっている。



 「つまり、俺はセニアがオスクルの王子に捕まらないように立ち回ればいいんだな?」

 「そうしてくれると嬉しいです。ゆきさんが嫌だと言ったらそれまでですけど・・・・・・」

 「そんなことしないよ。俺も一人は心細いし、セニアを守ってあげたいっていう気持ちもあるから」

 「......ゆきさんは優しいんですね///じゃあ次はゆきさんのことを聞かせてください」

 「いいけど、嘘みたいな話だからな?信じるか信じないかはセニアに任せるよ」



 こうして俺はこの世界ではない別の世界から来たことを話す。今までの生活、学校での出来事、あっちでの常識など、思いついた全てを話しつくした。セニアは最初こそ信じられないといった顔をしていたが、話が進むにつれ、好奇心の赴くままに話を聞くようになった。



 「ここじゃない別の世界から来た、ですか。色々おかしな点がありましたが、そう言われてしまえば全て解決してしまいますね」

 「お、そういえばなによりの証拠があるんだった」

 俺はポケットにある現代の象徴、スマホをセニアに見せる。

 「ここのボタンを押すと電源が付くんだ。せっかくだし写真でも撮るか」

 「シャシン?なんですかそれ」

 「写真の説明か・・・・・・意外と難しいな。一瞬で超リアルな絵ができると思ってくれればいいよ」



 スマホを起動させ、部屋の窓を開ける。そこから見える異世界ならではの景色を撮る。パシャっという音に後ろにいたセニアは少しピクっとする。

 「ほら、これが写真。綺麗に映るだろ?」

 「うわ・・・・・・すごいです。あの一瞬でこんなことができるなんて・・・・・・!」

 「そう言われれば確かにすごいかもな。セニア、こっち向いて」

 突然呼ばれたことに驚いたのか、きょとんとしながらセニアがこちらを向いた瞬間、再びパシャっという音が鳴る。画面を見ると、さっきの表情のままセニアが映っていた。なにこれ可愛い。

 


 「今わたしのこと撮りましたね!!絶対変な顔してました!消してください!」

 「大丈夫、全然変な顔なんてしてな・・・・・・ちょ、スマホ引っ張るなって!わかった!消しとくからやめろって!」

 セニアが強引にスマホを強奪しにきたので、説得してスマホから引き剥がす。写真を消すということで向こうも納得したようだ。まあ消さないけど。



 「にしてもゆきさんの世界は楽しそうなところですね。わたしも行きたいです」

 「一応元の世界に戻る方法も探してるんだ。もし戻れるようになったらセニアも一緒に来る?」

 「もちろんです!ゆきさんの言ってた学校にも通ってみたいです!」

 「学校かー......」

 正直嫌な思い出ばかりだ。しかもファンタジー溢れるこの世界で俺は魔法適正S、気軽に話せる仲間もいる。ずっとこの世界にいれば良いんじゃないかと思わなくもない。



それでも俺は、元の世界に戻りたい。そう思えるのは嫌なことの他に、嬉しいことや楽しいこともあったからだろう。

 


 セニアを連れて元の世界に戻る。今後の指針はこれにしよう。

 そう決意を固めて再びセニアと何気ない話を続ける。結局この日は夜遅くまで二人で語り合うこととなった。

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