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神記浪《しんきろう》  作者: 歪不二叡智
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第二話 自分、騎士団に入ったけど質問ある?

 アスティライト神記の世界にやって来たその翌日、俺は手にした神の如き力に歓喜するのではなく、神殿の最深部、玉座の間で一人反省会を行って鬱になっていた。


「うあぁぁあ、今思えばなんて恥ずかしいマネをしていたんだ!神のふりして、いい気になって、つい調子に乗ってしまった!死にてぇ!」


 そもそも、神話を創るとか粋がってみたものの、何も案を考えてなかったのだ。


「創造主様!いかがされたのですか?」


 俺の叫びを聞いた、シンラが祈りの間から走り寄って来た。


「…いや、なんでもない。それより、この世界でさらに信仰を深めるには、何が必要だろうか。」


「私の信仰心はこの世の誰よりも深いと自負しておりますが、その信念も私だけの物では主の存在に比べればあまりに小さいでしょう。とすれば、さらなる預言者と信者が必要ではないでしょうか。」


 …まあ、それもそうだな。


「よし、俺はこれから第二預言者となるに相応しい者を探しに近くの町へ行こうと思う。君は、ここの留守を頼めるか?」


「かしこまりました!不肖シンラ、この命に代えましてもこの神殿をお守り致します!」


「まあ、命に代えなくてもいいけど頼んだ…。」


 俺は、記憶を辿り、かつてのゲームマップを思い浮かべる。確か、ここから1番近い町は王都ディア・ラ・ヴォルナの城下町のはず。


「GMツール、テレポーテーション!ポイント、ディア・ラ・ヴァルナ!」


 その瞬間、俺の体は光に包まれ、王都の門の前へと転送された。


 街は相変わらずの活気で溢れていた。

 西洋風の石畳の街並みには、様々な食べ物の屋台や曲芸が行われている。

 この町では日々新たな文化が発展し、栄えて続けているのだ。

 というのも、アスティライト神記というゲームが一本道のストーリーを追っていくような、普通のRPGゲームとは大きく異なる特徴を持っていることに由来する。


 製作陣の一人で凄腕プログラマー美波さんが開発した超高性能AIによって、全てのNPCが独自に思考し行動する。

 それによって、予測不可能なイベントや今まで存在すらしなかった新たなアイテム、コンテンツが生成されることすらある。

 従って、やればやるほど自由度、やりこみ要素は無限大に広がる。

 つまり、世界自体が常に動き、進化しているのだ!


 それは、製作者であっても、予想しなかった自体が起きるというわけで…。


「まずい、自分達で作った世界とはいえ、製作した時とは大分変わっているところも多いな…。本当に、この世界で神としてやっていけるのだろうか…。」


 面白くするために取り入れた仕様が、今になって裏目に出るとは…。

 そんなこんなで、町を歩いていると、早速見知らぬ建物が目に付いたのだった。煉瓦造りで入り口には、「tabularasa(タブララサ)」と書かれた看板がある。


「…バーか何かか?ちょっと、覗いてみるか。」


 俺が入り口に入ろうとすると、いかつい男が話しかけて来た。


「見ない顔だな、この店は関係者以外立ち入り禁止だ。」


 なんだその一見さんお断りみたいなのは…。そう言われるとますます気になるではないか。


「別にいいじゃないか、金ならあるぞ。」


 そう言って、俺は荷物から大量の金貨が入った袋を見せつける。


「わかんねぇ奴だな!ダメったらダメなんだよ!」


 ちっ…。金があってもダメとは。いったい、どうやって商売してるんだこの店は…。こうなったら、仕方がない。強行突破するしか…。そう思った時、店の中から不意に人影が出て来た。


「…何事だ⁈」


 それは、腰まで届くほど長い黒髪をハーフサイドポニーテールに結った女戦士だった。黒地に赤い龍の紋をあしらった鎧を纏っている。


「これは、セリスティーヌ様!失礼致しました。この男が、店に入ろうとしていたもので…。」


 セリスティーヌ…。

 そうだ、思い出した。このキャラは確か…。


「…美波さん。」


 それは、俺がかつての製作陣の仲間だった美波さんをモデルに作ったキャラだった。俺は、まるでかつての仲間に再開したかのような衝撃を受け、しばらく我を忘れていた。


「私は、王都第二騎士団長セリスティーヌ・オルディンだ。貴様、私に何か用か?」


 問いただされ、我に返った俺は冷静に考え始めた。

 セリスティーヌはかなりの強キャラだ。

 もし、預言者として配下に迎えられればメリットは計り知れない。

 しかし、ビショップのシンラと違って、いきなり自分が神であるから信じろと言っても、聞き入れては貰えないだろう。こうなったら、徐々に信頼を勝ち取るしかない。

 そのためには、少し面倒だがこうするしかない。


「セリスティーヌ様にお願いがあり、参りました。俺を、騎士団に入団させては頂けないでしょうか?」


「馬鹿が、お前のようなヘロヘロに王都の騎士団が務まるか!」


「まあ、待て、アルブ。今は人手不足だ。即戦力にはならないかもしれないが、王都の警護くらいはできるだろう。」


「しかし…。」


「ならば、お前がそこの男と戦ってみるというのはどうだ?」


「セリスティーヌ様…それでは、まともな戦いにならないかと…。」


 言わせておけば、あのアルブとかいう野郎…。これ以上、奴の調子を乗らせないために俺は口を開いた。


「そうだな。確かに、まともな戦いにはならないな…。お前が。」


「…な!なんだと、このザコが!

 もういい、この場で粉々にしてくれる!!」


 俺の安い挑発に激怒したアルブは、そう言うや否や俺の顔面に拳を振り下ろしてきた。

 こうなれば、仕方がない。

 ゲームバランスの崩壊を避けるため、あまり目立つ場所で派手なことをするのは避けたいのだが…。


「GMツール、タイムストップ!」


 俺の発したコマンドと共に、アルブの拳は止まった。

 よし、あとはアルブの拳の向きをアルブの顔に向ければ完了だ!


「GMツール、タイムレジューム!」


 世界が再び動き出すと、目の前には自らの顔面を殴り、地面に崩れ落ちたアルブの姿があった。


「て、てめぇ…。何をした…。」


 異様な光景に野次馬の群衆が集まり、訳のわからない、ものを見る目でアルブがこちらを睨んだ。

 ただ一人、セリスティーヌだけが納得したかのような口調でこう告げた。


「…なるほど、いいだろう。貴様の王都第二騎士団への入団を許可する。本部には、私から推薦状を出しておこう。」


 かくして俺は、王都第二騎士団に入団することになったのだった…。




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