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征服girls  作者: 少名毘古那
9/10

その9

僕の言葉に、二人は顔を見合わせた。

そんなまさか、みたいな顔をしている。




「…さっきもそんなことを言ってたけど、私たち足もあるし…つか、全然信じらんないんだけど」




訝しげな目で見られて、少し戸惑う。

やっぱり、驚いたり倒れたりしないことから、カレンたちは記憶を思い出してないらしい。

僕だけなのか。

記憶から見るに、僕はカモくんを庇った形で斬られた。

ということは、視えてた故に助けた僕に巻き込まれる形でカレンたちは切られたのか。

……罪悪感。

僕がカモくんを助けようとした時、心配して駈け寄ったカレン。

それがなければ、彼女は死なずに済んだのかもしれない。

ヒナちゃんはただの通行人で、もっと僕が足止めしてたら切られずに済んだかもしれない。

悪いのは暴走した辻斬り、されど。

自責の念に苛まれる。




「……」




どうしたら、彼女たちに死んだ旨を伝えられる?

僕のように記憶を思い出せたなら、話は早いのに。

考えあぐねてると、助け船が入った。




「…クミの言う通りだ。私が君たちを殺した」




久しぶりに面を上げたカモくんだった。

静かに泣いていて、涙でぐしゃぐしゃになった面を隠すこともせずにしゃくりあげる。

…幼い少年のようだ。

泣いてる姿は、本当に幼い。




「…本当、なの?とても信じられないんだけど」




「だって手も足も透けてないし、みんなに見えてますし…」




カモくんの言葉に、ようやく信じ始めた二人。

しかしまだ疑心暗鬼らしい。

まあ、すぐ理解できるはずないか…。



「…君たちは幽霊ではない。

死体の傷口を無理やり塞いだ体に、霊を入れただけだ」




「……つまり、血肉が通ってる体じゃないってことですか?」




「そうだ」




ぐい、と袖口で涙とかを拭いながら。




「…偽物だ、私よりかはマシかもしれないが」




はっきりと、死んだということを告げた。

そして彼は、握られていたミサキさんの手を振りほどいて僕たちの前へ歩んでくる。

危機感を覚えたミサキくんが構えようとして、黒庵さんがまた制した。

いきなり、土の上へ座る。




そしてそのまま体を地面へ一一土下座をした。





「……すまなかった。どうすればいいか、言って欲しい」




詰まった声が子供らしくて驚く。

表情は見えないが、止まりかけていた涙が出てるのは明らかだった。




「答えてくれ、私はどう責任を取ればいい?」




「…え」




カレンが困ったように声を出した。




「……カレン。君は最初、自分たちは将来があって暇じゃないからと断ったよな」




「あ…うん」




「あれがどれだけ辛かったことか…」




ぐ、と土を巻き込んで拳を作る。




「私のせいだ…私がみんなの将来を奪った…!その体も命も、全部私の未熟さゆえ…!!

許してくれ…、本当にすまなかった」




どこにそんな声があったのかと問うような声だった。

腹の底から出したのは、自分を責め続ける本心。




「ずっと…ずっと謝りたかったんだ…だから無理やり生かさせた…。

ごめんなさい……謝って済むことじゃないが、本当にごめんなさい…」




すすり泣く声。

責める人も出ず、しばらくカモくんのしゃくりあげる声だけが響いた。

…ずっと、苦しんでたんだ。

彼は彼なりに考えて行動したのに、僕らを巻き込んでしまった結果に。




「…そんな風に謝れたら、責めらんないじゃん…」




カレンがそう呟くと、つられるようにヒナちゃんも口を開いた。




「まあヒナたちが自分で行動したんですし…全責任があるってわけじゃないと思いますよ」




「そうだな、今更ごねたって生き返るわけじゃないし」




「…許さないでくれ」




しかし、返答はおかしなものだった。

おおよそ想像してたのとは全然違う返しに、疑問がたくさん生まれた。




「ここで許すな…責めてくれ!“もっと生きたかった”って!

じゃなければ私は…!あまりにも酷すぎる!!」




泣きながら、自分を責め続ける彼は、あまりにも幼すぎて。

怒る気力がどんどんすり減っていった。

どうしようかと顔を見合わせ、答えの出ぬまま時間だけが過ぎていった。




「………やはり、君たちには驚かされる」





ぼそりと責めろ以外の言葉をしゃべる。




「…初めて、だったんだ。こんな私をかばって、助けてくれた大人は」




ずっと迫害されて生きてきた彼。

顔を見れば大人は自分たちに敵意を向け、どこへ逃げても同じだった。




「大人なんて自分のことばっかで。

家族でさえ、家のことしか案じてくれなかった。

だれも私を助けようとしてくれなかったんだ…」




一族の全てを背負わされた彼の身は、家の事だけを想う家族の願いでできている。

彼を生かしたいのではない、家を生かしたいのだ。




「クミがパッと駆け出して守ってくれた時、何をしてるのかわからなかった。

呆然としてしまったんだ。目の前の血にただただ驚いて、気がついたらカレンやヒナもやられていた。

死体をみたとき、ようやく気付いたくらいだ。私を守ってくれたのだと」




知らなかったのだ。

守ってくれる人間がいるという事実を。

だって彼はそれを知る前に死んでしまったから。




「…必死に全部の霊力を使って復活させたら、ヒーローになれるだけの予算がなくなった。

だから頼んだんだ」




「…そういう事だったんだ」




カレンが防御服をつまみながら言う。

今から思えば、その“死なないし傷つかない”は僕達が死体だからなんだろうな。




「…それだけじゃない。

殺した事を謝って、それで訊きたかったんだ」




訊きたかった?





「助けた理由だ」




僕を涙で濡れた瞳で見つめながら問うてきて、目を見開いた。

この無垢な瞳は、本当に無垢なのだ。

僕達を復活させる術は学んでるのに、人としてのことを学んでない。




「…カモくん…」




「言ったろう、助けられたのは初めてなんだ。

記憶を思い出したんだろう、クミ。どうか教えてくれ。

わからないんだ、理解できない…」





そんな自分が悔しいのか、顔をしかめる。

勤勉な一族だったらしいから、知らないことが悔しいのだろう。





「確かに思い出したけど、考えはないよ」




「え?」




「咄嗟に助けたいと思って、死んだ。それだけさ」




帰り道、襲われた子供が視えた。

黒い霧を覆った刃物がいきなり子供に振り下ろされて一一震えた。

助けなくては、と。

カレンが叫ぶのも厭わずに駆けて、立ちふさがった。

その痛みとかは思い出せないけれど、切られて倒れた時だけはきちんと思い出せた。

立っていた、生きていたカモくんが嬉しかった。





「君が生きていて、僕は満足したんだ。

立っているその足を見た瞬間、痛みも何もかもが報われた。生きててくれてよかった。

ちなみに、助けたことは後悔してない、だから謝らないでくれ。

僕が勝手に助けたんだから」




「…っ」





そう言うと、彼はまた大きな目からボロボロと涙を流した。





「意味がやはりわからない…けど、すっごく嬉しいんだ…」





「そういうもんだよ、人間って」





しゃくりあげて泣き始めた彼に近寄り、肩に手を置く。

ミサキさんも何も言わず、黙認してくれた。




「じゃあ教えてあげようか。

こういうときは“ありがとう”って言うんだ。

謝られるより、僕はずっと嬉しい」




どうせ教えられなかったのだろうから。




「殺したのに…お礼…?」




「ばか、そーゆーもんなんだよ」





不思議で仕方ないのか、それでも彼は言った。





「助けてくれてっ…ありがとう…」



ヒーローを引き受けたときと同じ、やってよかったという満足感で、僕は満たされた。

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