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征服girls  作者: 少名毘古那
3/10

その3

その辻斬りとやらの気配の出没が多発する場所があるらしく、そこへ向かう。道中、自分は神社の家の息子である、とカモくんは語った。



「なんで自分で退治できないの?その…ひつじぎり?」



ぶらぶらと手でお守りを弄びながら、カレンが問う。



「…辻斬りだ。羊を斬るわけじゃない。

代々、私の家系は女系で、女に力が宿りやすい傾向があった。

私は男だ、受け継いだ力は弱く、自分では退治ができない」




「だからヒナたちに頼んだのですか?」



「…そういうことだ」



なるほど。

だから悔しそうにしてたんだ。

自分ではできない、と。



「というか、どうして僕達なんだ?共通点は何?」



「……」



びくっとして、目を彷徨わせるカモ君。

しばらく逡巡していたが、恐る恐る口を開く。

その表所はとても不安そうで、とてもビクビクしていた。

まるでイタズラがバレてしまった子供のような顔だ。

大人ぶった口調の癖に急に子供らしい顔を見せるなんて…!

ギャップが堪らないよー!




「…怒らないか?」



きゅんっとしてしまうほど愛らしい声音でそう言ってきた。

か、かわいい…!

そそられてしまうではないか!

今すぐ抱きついて頬ずりしてキスしたくなるが、ここはぐっと我慢する。

こくりと肯けば、おててをいじいじしつつ、教えてくれた。




「霊力とは、信仰心で生まれるんだ。

信仰とは何も神だけに当てられるものじゃない。

誰でも、少し頭が良かったり、運動ができる人がいれば、純粋に尊敬したり憧れたりするだろう?それも信仰で、それが高い人は微量の霊力を有する。君たちは人よりも霊力が高めなんだ」



「ひ、ヒナたちが?」



にわかには信じ難いが、カモ君は強く頷く。

その瞳はとても力強く、とても嘘を言っているとは思えない。




「そうだ。 全員、男に……。

いや、女もいるが、モテるだろう?」




…は?

ええと、幻聴だったかな。

今、彼は何と言った?




「…えと、かもくーん?どういうことだーい?」




「例えば、ヒナはSっ気の強い男性からモテるだろう?」




「そういえばご主人様が絶えたことはありませんね…」



結構な問題発言をしてることに気づいてないヒナちゃんは、恥ずかしそうに手で頬を覆う。

たしかに彼女はかなり顔立ちが愛らしいし、巨乳だ。

きっとモテるだろうなぁ、正直、羨ましい。

でも、その愛はきっと純愛ではない気がする…。

ヒナちゃんは純粋だろうが、ご主人様達はどうなんだろうか…。

一度、ヒナちゃんの歴代のご主人様達を見てみたい。




「クミは女にモテる!」




「…自慢じゃないがな」




ビシっと僕を指すカレン。

確かにその通りだ。

今日も告白されたし。

それより問題はカレンだ。

カレンがもてるとか、そのような話は聞いたことない。




「もしかして実は私モテモテなの!? 高嶺の花なの!?きゃぁ!!」




完全に浮かれてるカレンに、少し気まずそうに「いや」と否定した。





「…カレンは、友達に愛されてるという信仰心がある」




「……そっち?」



そっか。

なにも恋愛感情だけが信仰に繋がる訳じゃないのか。

人付き合いが上手なカレンは、友達に愛されてるということで信仰心が高めな訳だ。




「やだぁああ!!クミ達みたくモテモテな信仰心がほしいー!男限定でー!」




ぎゃあぎゃあと騒いで駄々をこねるクミ。

まるで子供だな、こりゃ。

本当にこれで相手ができるのかな。



「いいじゃないか、友達に愛されてるなんて」



「友情じゃなくて愛情がほしいの!!!」



「僕はカレンを愛してるぞ」



「何その無駄な男前!?

もークミが男なら良かったのにぃ…。

今すぐ、性転換手術して来なさい!」



「無茶言うな…」




不服と言いだけに唇を尖らすカレンだった。

これじゃあ彼女をもらってくれる男は当分先だな。

そう心の中で嘆息する。




「てゆーかさぁ、そんなんでその羊刈りの退治を任せたの?

ぶっちゃけ、もっとモテモテな子とか、友達多い子とかたくさんいるよ。

ウチらだけが特別そういうの多いとか、無いと思うけど」



まあ、確かに。

もっと僕より女にもてる人とか沢山いそうだし、いるはずだ。

なんだか理由が釈然としない。




「…いや、このあたりの人間では一番だ」




「それはそれでなんだか嬉しいですね」




ヒナちゃんは明るい笑顔で嬉しそうに笑う。

それはまるで輝く太陽のような、気持ちのいい笑顔だ。

一方、それとは対照的にカレンのテンションは低い。

つか、暗くてどんよりとしている。

いじいじと「の」の字を書き始めた。




「そりゃあ異性からのモテモテ度ナンバーワンだったら嬉しいでしょーよ」



「…カレンさん、引きずりますね」



「一週間は引きずるね!」




どうも、悔しくて仕方ないようだ…。

しかし、かける言葉が見つからない。

こういう時、なんて言えばいいのだろうか。

と、普段さほど使わない頭を悩ませていると…。




「喋ってる所悪いが…着いたぞ」



「え?」




前を行くカモ君が止まり、こちらを振り返る。

何の変哲のない学校の裏側。

体育館裏である。




「…確か辻斬りに遭った子って」




「体育館裏…でしたよね」




ここ、そんなに危ないところだったのか。

自分の通う学校が辻斬り出没の多発な場所なんて…怖い。




「でも、見た限り全然何もないよ?」




「そうそう出てくるとは限らないだろう」




そりゃあそうだ。

そんな簡単に出るなら苦労しない。




「他にも出没が多発する場所がある…そこへ…」




「あれ…塚田さんじゃないですか!」




カモくんの声を誰かの高い声がかき消した。

少し苦虫を噛み潰した顔をするカモ君。

そんな表情も可愛い。

つか、なんか聞き覚えがあるんだけど。




「どもですー!」




疑問はあっさりと解消した。

どこかで聞いたと思ったら、昼間のサチちゃんだった。

学校帰りらしく、制服姿で手を振りながら駆け寄ってくる。




「やあ」



「偶然ですねー」



振ったばかりだから少し気まずいな。

でも、なんかサチちゃんは普通っぽい。

それともわざと明るく振舞っているんだろうか。




「お友達とこれからどっか行くんですか?」



「あ、いや…別にそういうわけじゃ一一」




そんな時、突如変な臭いが鼻についた。

それはなんて言えば良いのだろう?

生ゴミを燃やした時のような、生臭くて、食品が腐ったような…。

理科の実験でよくあるアンモニアをもっと過激にさせた感じ?

周りを見ると、みんな鼻を抑えて気分が悪そうだ。

ただ、サチちゃんだけがニコニコ笑っている。

彼女はこの臭いには気づかないのか?




「クミ」



足元のカモくんが、腕を上げて前を指す。

ちょうど、サチちゃんの後方あたり。



「…あ!」



「え!?」



「君たちには、もう見えてるはずだ」




悲鳴が上げる。

思わず僕も叫びそうになった。

目の前には黒い霧。

もやもやした煙のようなものが、どんどん形になっていき一一刀のような光を帯びてきた。

霧が刀を持っているという形である。

サチちゃんの後ろ…。

まさか、サチちゃんを狙っているのか!?




「サチちゃん!」



「きゃっ」




慌てて飛び出して、サチちゃんの腕をつかんで引き、僕の胸に収める。

刹那、刀が音を立ててふりおとされ、鋭くて鈍い光が目の裏にこびりついた。まさに間一髪。




「ひぃっ、か、刀!?本物!?」




パニックになるカレンに、ガクガクと膝が震え、恐れ慄くヒナちゃん。




「当たり前だ、あれがオモチャの刀に見えるのか!早くお守りを握るんだ」



「え、お守り?」



「早く!クミもヒナもだ!」



命令され、自体のわかってない真っ赤なサチちゃんを優しく離す。




「サチちゃん、ちょっとその木の影に隠れてて‥」




僕は彼女を不安がらせないよう、努めて明るく振舞った。

サチちゃんは何か言いたそうにしていたが、言うとおりに隠れてくれた。

後ろのリュックからお守りを取り出し、握る。




「握ったよ!」



「よし、自分の名前を言ってみろ」



「な、名前…柴田ヒナです…?」



「変身ヒーローっぽく、かつ人型ロボット初号機パイロットを意識しろ!」




シ○ジ君か。




「逃げちゃダメだー!キュ○レッド!園田カレンーー!」




なんでノリノリなんだカレン?




「し、柴田ヒナですぅ!」



「…塚田クミ」



自分の名前を言うのは少し恥ずかしい。

だが、言った瞬間にお守りが光った。

正式には青い玉が光り輝いている。




「わあ…」



キラキラと制服が光だし、どんどん変形していく。

僕だけでなく、カレンもヒナちゃんも。

そして、気づけば一一全員、巫女服風な制服になっていた。

制服のスカートが腰からちょっと上になり、白いシャツの素材が少し丈夫になり、真ん中で交差している。

リボンの色が青になっていて、真ん中にはあの玉。

プリキュアというより、セーラー…。




「きゃーー!きゃー!きゃー!かっこいいー!え、これ月に変わってお仕置きじゃーとか言った方がいいよね?」




「はわわわ!何だかコスプレみたい、すごくえっちぃですね!」




「ちょっと憧れてたんだ、こういうの…どうかな」




くるくるとその場で回転してみる。




「なんだかよくわからないけどかっこいいです、塚田さん!!」




ぱああと顔を輝かせ、うんうんと頷くヒナちゃん。

う、そこは可愛いねって言って欲しかった…。

突如変身したことに大騒ぎの女子高生たちに、ため息をつくカモくん。




「みんな、それはわかりやすくいえば防御服だ。

悪なるものには聖なる巫女服という感じだな」




なるほど、わかりやすい。




「言っただろう、決して傷つかないと。

見えないバリアが張ってあるとでも思えばいい、その服自身が神なのだ」




「あのー、カモくん?」




「詳しい原理等はあとで話す。とにかくあいつを倒すんだ!絶対に傷つかないから」




そう言って、彼は僕にお札を渡してきた。

ポケットに入っていたからくしゃくしゃだが、真ん中になにやら文字が書かれている。




「クミはこれで抑えろ」



え、札で?

抑えるって…どうやるの?




「…ヒナ、なにか武器になりそうなものはないか」




武器は現地調達なのか。

まるで潜入ゲームの某傭兵さんみたいだな。

煙草だけは携帯…はしてないか、僕らは未成年だし。



「えーと、これくらいしか…」




ヒナちゃんはそう言ってカバンの中から麻縄を取り出してきた。

うわ、なんて物を持ってきてるんだ、この子は。

さすがドMである。

僕には理解できない。




「上等だ」




その麻縄に手を差し伸べ、なにやらぶつぶつと唱え始めるカモくん。

その言葉はどこか神秘的で、不思議な感じがする。

けれど、葬式やお祓いでよく聞くお坊さんの読経ではなかった。

もっと、何か…日本語ではない、未知の言葉のような…。

言葉が終わると、麻縄がくにゃりと己で意志を持ったかのようにピンと伸びて、みずから紐状に編み込まれてく。




「わ…!」



みんなが呆然と見つめる中、麻縄は鞭のような形に変形した。





「…これで奴を叩いて弱らせろ」




「わかりました!!Mなので気持ちいいところは心得てます!」



さ、さすがどM。

やっぱり僕には理解できない。

ぶたれたり、縛られたりしてどこがいいんだろうか。

理解に苦しむ。




「私はこれしかないんだけど」



カレンが出したのは、まさかのボールペンだった。

カモ君はそれを受け取って目を閉じて、また何かを呟く。

すると形が大きくなり、カモくん並の大きさになる。

そしてペン先だけが異常に膨らみ、鋭くなった。

それはまるで槍のようだ。




「…これで殺傷能力は充分だろう」




ふう、とため息をつく。




「わー、すご、かっこいい。ロン○ヌスの槍みたい!」




「興奮してないでさっさとやれ!」




「ガッテン承知ー!」




嬉しそうに敵に向かうカレンだが、ひゅんっと刀がこちらへと振り落とされ一一すごい勢いで僕の裏に隠れる。




「きゃああああ!!こ、怖いんですけどー!」




「…敵なんだから当たり前だろ」




「無理無理無理。やばい、何あいつ早いし!有り得ないから!」




「カレン…」




そりゃあそうか、さっきまで普通の女子高生だったのだ。

自分を殺そうとする相手なんか、生きてきたこの17年間会った事がない。

会った事がある人はレアだといえる、その前に死んでると思うけど。

そう考えると、結構大変なことをしているのかもしれない。

でも、私もそうなのに…どうしてこんなにも落ち着いていられるんだろう。




「仕方ないですね!この美しき狩人・キュ○マゾリーナが月に代わって成敗します!」




ヒナちゃん待って、何その二つ名!

つか、セーラーと混ざってるから!

鞭を高く振り上げて、勢い良く振り落とす。



「Mに目覚めちゃってください、えええい!!」



かっこよく言い放つヒナちゃん。

だが、その鞭は相手に当たることなく、あっけなく霧散させてコンクリートを叩いた。何しろ霧なのだ、そう簡単には当たらない。




「……あれ?」




「ふむ、相手が実態を持った瞬間を狙わねばならないようだな」




カモくんが顎に手をそえながら言う。

いや、今は冷静に状況を分析している場合じゃなくて!




「…ひ、ヒナちゃん!」




呆然とするヒナちゃんに刀が降り下ろされる。

気づいていないヒナちゃんに容赦ないそれは、僕の反応速度よりもずっと早く襲いかかり一一

ヒナちゃんの肩あたりに振り下ろされた刀は、バチンっ!と火花を散らせて刀が弾かれた。




「一一っ、」




ヒナちゃんは反動で後ろに跳ね、コンクリートに打ち付けられる。

刀も霧ごと後ろへ下がり、そのまま霧散してしまった。

辺りを見渡したが、文字通り煙のように消えてしまった。




「……嘘」




嘘のように消えてしまい、唖然とした。

退治した…訳ではないだろう。

逃げたのだろうか?

そう言えば、これは防御服だってカモ君は言ってた。

ああそうか、この巫女服は防御服。

何かしらの作用が向こうにあって、霧散してしまったのか…?




「う…」




ヒナちゃんがゆっくりと起きあがったのにハッとして、駆け寄った。




「ヒナちゃん、大丈夫?怪我はない?」




「はい…大丈夫です。ごめんなさい、ニブくて」




「いや、僕の反応が遅かったんだ、ごめんよ」




もっと早く反応できていれば。

後悔が募るが、ともかく怪我がなくてよかった。

彼女の身体をじっと見るが、特に外傷は無さそうだ。



「……あれ、辻斬りは?」




ヒナちゃんはキョロキョロと周りを見渡して、黒い霧がいないことに気づいたらしい。




「消えちゃったのよ…マジで煙みたいに」




カレンも呆然と呟くように言った。




「…つーかさ、まさか、あんなのが現実にいたなんてね…」




「カレン…」




「こ、怖がっちゃった…あははは」




身体を抑え、震えと歯ぎしりをして、地面に座り込むカレン。

その瞳は怒りと悔しさが滲み、複雑な表情をしていた。

ビビった自分を恥じてるようだが、それはお門違いというやつだ。

恐れて当たり前である。

誰だって自分に害する者に出逢えば怖い。

治安が良いと言われる日本でも何があるかわからない。

特に女の子は狙われやすく、命を落とす人も少なくない。

それだけでも怖い話なのに、相手は化物だ。

よくわからない霧の化物なら尚更怖いだろう。

でも、何で私はこんなに落ち着いて客観的に分析しているのだろう。

私だってビビっているはずなのに…不思議とカレンほど怖がっていない気がする。体育館裏は不気味な静寂に包まれ、風の音だけが聞こえていた。




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