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征服girls  作者: 少名毘古那
10/10

その10

「何、アルバムなんか見てるのよぅ」



寝そべってアルバムを見ていたら、ママにまた踏まれた。

グニグニとひとしきり踏んだあと、思い出したように訪ねてくる。




「そうだ、クミ。風邪治ったの?」




「風邪…て、ああアレか。もう治った」




あの謎の風邪のような症状。

あれは、霊力で無理やり塞いだ体に魂を入れたために、体に馴染めなかったからの症状だった。

馴染んだから軽くなったというわけだ。




「ならいいけど…って、うわー懐かしい!これクミが何歳のとき?」




アルバムを覗き込んで騒ぎ出してきた。




「多分5歳かなあ、幼稚園の帽子が年中のときのだし」




天国か地獄かはわからないけれど、どっちにしろアルバムは持ってはいけない。

だから、感傷に浸りたくて本棚から引っ張り出したのだ。




「本当だ、ママ若いわぁ」




「そう?今も変わんないよ」




「……そうやって女の子落としてるのかぁ」




「いや、違うし」




一緒に楽しかった人生を思い出す。

僕は明日、黒庵さんに殺される。

もう死んでるけど、もう一度死ぬのだ。

ようするに人生最後の日である。

黒庵さんは、僕達に時間をくれた。

死ぬ前の身辺整理の時間だ。

ベッドの下のショタ写真集とかはみんな処分したし(見つかったら恥ずかしい)

最後の晩餐はもう済ませた(好物でもなんでもないメニューだった)

いや、案外、こういう時は普通の方がいい。

昔、死刑を翌日に控えた罪人もそうだったそうだ。

まあ、僕は罪人ではないけど、結果的には同じだ。

そんな僕は最後に人生を振り返ろうと思ったのである。




「わぁ!見て!クミがスカート履いてる!珍しいわね~。

最近はズボンが多いのに…レアすぎるわ!」



「…燃やしてくれ」



「嫌よー、ママの宝物にします!」




写真を抜き取って、小さい頃のスカート姿の僕をニヤニヤ眺める。

取り返そうと手を伸ばして、ふとママが呟いた。




「やっぱクミは私に似てかわいいねぇ

小さい頃から可愛かったけど、今もすごぶる可愛いわぁ」



「………」




黙ってしまった。

いつもなら可愛くないと怒るけれど、状況が状況だけに。

…僕が死んだら悲しむんだろうな。

それだけで親不孝者だ。

謝っておこうかと考えあぐねて、不自然だから怪しまれたくないとも思った。

そして決断した。



「……ママの娘に生まれてよかったよ」



我ながら自然に言えたと思う。

けれどどうしても声が震えてしまって、視界が海の底にいるような感覚になった。

だめだ、泣いてしまう。

顔を背けると、ママが涙を推すような言葉を吐いた。




「ママもよ。産んだのがクミで本当に良かった」



一一あぁ、もう。

ぽた、と写真の上に落ちた涙を急いで隠して、震える肩を止めようと片手で押さえた。

死にたくないと、思った、まだママのそばにいたいと。

けれどそれは叶わない願いで。

僕ができるのは、約束くらいだった。




「…じゃあ僕はまたママの所に生まれてくるよ」




願わくば、また会いたい。

僕を作ってくれたのはママだから。



「本当?約束だからね」




泣いてる僕に気づいてるのか、気づいてないのか。

嬉しそうな声で答えてくれた。

もう頷くことしかできなくて。

そんな自分が不甲斐ないと思った。

その日は一睡もできなかった。

今までのことを思い出すのに忙しくって。

そして翌日、普通に学校に行くふりをして、黒庵さんのもとへ向かった。





「いってらっしゃいあ、クミ、帰りにスーパーで卵買ってきてくんない?」




「うん、わかったよ。行ってきます、ママ」




が最後の会話となった。




◇◇◇




朝早い体育館裏は、みんなと黒庵さん以外誰もいなかった。

御崎くんがいないのに驚いたが、黒庵さんは「仕事で忙しいんだよ」と流した。




「もう一度切って、霊力で繋ぎ止めてる所を解く。

そうすれば死体にもどれる」




え、もう一度切られるのかぁ嫌だなぁと思ったが、まあもう死んでるしいいかと思い直した。





「じゃあいけ」





「え?」





カレンとヒナちゃんにいきなりそう言ったので、カレンが疑問で返した。

意味がわからない。




「もう死んでるとはいえ、殺すとこ見せたくねぇんだよ。

順番に行くから、死にたいとこで待機してろ。向かうから」





やっぱり彼は優しかった。




「……じゃ、じゃあね、クミ」





「さよなら…です」





今まで経験したことない、変な空気。

気まずいというかなんというか、不思議な感じだった。

見ていたカモくんも目をそらす。

どう言っていいのかわからないから、僕も曖昧に受け答えようとしたが、やめた。

最後だからな。

背を向けようとした彼女らを止める。




「ヒナちゃん、通行人なのに参戦してくれてありがとう。

ヒナちゃんの優しさに色々と励まされた。…もっと早く出会いたかった」





「え…っ」




「カレンとはかなり長い付き合いだったな。

その自由な性格に苦労させられたが、半面羨ましかった。

視えてないのに助けるとか、やっぱりカレンだな。

また会いたい」




「…んん…っああもう!!」




たまらずカレンが駆けてきて、胸に収まる。

後ろからヒナちゃんも抱きついてきた。胸当たってる…。




「そんなこというなー!涙我慢してたのに…!」




「本当ですよ!泣きたくなかったんですよ!」




なんだか前後で叱られる。

ぎゃーぎゃーさわがれて揺さぶられ、そしてふとカレンが言った。




「……また会おう、絶対。この三人で」




「はい、約束です!こんどは幼なじみとかになって、みんなともっと仲良くなりたいです!」




死ぬ前とは思えない明るい声だった。




「うん、またな。今度は一一カモくんも」




カモくんは、神様の警察の偉い人の所へ連れて行ったと黒庵さんが言っていた。

最後に会えないのは寂しいけれど、また会えると信じたい。

いや、きっとまた会えるだろう。

いつか、どこかで…。

いつもと同じように、またねと言って別れた。

二人が別々の死地へ赴くのを目で追って、見えなくなったのを確認してから向き合った。




「よろしくお願いします」





「……」





あまり浮かない顔をしている黒庵さんは、あまり光を帯びていないいつもの黒い刀を弄りながら。




「…さっきの、あれ」




「あれ?」




「あの…カモとも会いたいってやつ。

あいつに伝えておく。きっと喜ぶだろうよ」




多分あの年らしくきゃあきゃあ喜ぶことはないだろうけど、それでも喜ぶところを想像した。

黒庵さんもなのか、少し口元が緩んでる。




「えと、痛いんですか?」




「ん?ああ……痛いなんて思わねぇよ、体と精神が離れるだけだ。もう死んでんだから」




よくわからないけど、そうなのか。





「一一花が散るよりも早く、一瞬で済ませっから」




腕はわかっている。たぶん刹那だろう。

座れと言われて地面に座る。

さながら切腹前の武士みたいだ。

正面から殺すのは好きではないらしく、背後からになった。

……目を閉じる。

昨日の恐怖は全然なく、穏やかな気持ちだった。

朝の冷たい風の匂い。

地面の湿っぽさ。

自分の息遣い。

これで最後なのだと思うと、いつもと違うものに感じた。




一一また、みんなと会えますように。




そうつぶやいて、刀が振り落とされる音がした。







◇◇◇


その日、同じ場所で寄り添うように倒れた少女たちの死体が見つかった。

死因は刃物による血液の大量出血とみられ、不思議なことに死後何日か経過していると判断されたという。

近辺で通り魔が流行っていたことから、それによる犯行だろうと捜査が行われたが、結局犯人は捕まらなかった。

少女たちはお揃いのお守りを握りしめていて、遺族には遺品としてそれが返された。

また、そのお守りには社名が記されていて、賀茂神社一一ちょうど体育館の裏側に昔建てられていた、神社のものだったという。





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