前編
一部、差別表現があります。苦手な方は注意お願いします。
私は「世捨て人」と呼ばれている人間である。「世捨て人」となった時から、当てどもなく土地を渡り歩くだけの存在だ。目的地も終着地もない。私たち「世捨て人」を受け入れるものなど、なにもない。いや、なにもなくはないのだが、それは人間としての終わりを意味する。
「世捨て人」の烙印を押されはしているが、私はまだ人としてのプライドを持ち続けているのだ。
その日も私は、人気のない山道を歩いていた。むろん普通の道もあるが、私が道を歩けば石を投げられ、蔑み侮蔑の視線の嵐。親は子供の目をかくし、商人は私をとらえようとするだろう。
もう慣れはいしたが、面倒くさいので私はなるべく人が忌避する山道を歩くことにしているのだった。なぜ、山道が危ないかは解かるだろう。獣や山賊、そして魔獣やごくまれに魔族などが潜んでいるからだ。
当然私の行く道の先にもそいつらが立ちはだかるわけだが、斬って捨てているうちに、どんどん強くなっていったようだ。もう人間で私に敵う者はいまい。…この力をあの時持っていれば「世捨て人」にならずにすんだのではないか…
そう物思いに耽っていると、聞こえるはずのない人の話し声?怒鳴り声が聞こえてきた。
「っ何でお前はいつもそーなんだっ!!」
「だからごめんなさい、ってば~」
1人は男で、怒鳴っているようだ。もう1人は女の声だ。すっかり落ち込んでいるのがよく解かる様だ。
いつもなら人間に見つかる前に、その場を離れるのだが、この時は何故かこっそり近づいて行ってしまった。私は高レベルであるので、隠密行動も得意だ。
「的に矢が当たらないのは仕方ねー。お前、六割の確率で外すんだ~とか言ってたもんな。」
「…うん。」
姿が確認出来る位地まで来れたが驚きだ。なんと、ダークエルフとエルフのパーティだったのだ。そのダークエルフが体に矢を数本刺さった状態で、血をダラダラ流しながらエルフの女性に説教をかましているのである。
ちなみにであるが、ダークエルフとエルフが一緒にいることはまずない。その場で殺し合い?が始まるのが定説である。エルフが闇に堕ちたのがダークエルフで、とか言われているが、ダークエルフがどこから生まれるのかは、本当の所誰も知らない。エルフも、100年に一度姿を見るか見ないかなので、どういう種族なのかまったくわかっていない。
全く分からないエルフであるが、エルフとダークエルフが憎しみ合っているのは誰もが知るところだ。500年に一度の周期で、戦争を起こしているとかいないとか。
寿命の短い人間には、解からないことばかりだ。…そんなエルフとダークエルフが一緒にパーティを組んでいて、しかも説教はされているが、仲が良さげだ。
「なんで獲物を狙ってるはずのお前の矢が、百発百中で、この、俺様に当たんだよ!!」
「さぁ~?不思議だね~??みんなで狩りしてた時もこんなことなかったのに」
「さぁ?じゃ!ね!え!!」
「そんなに怒ると、血が噴水みたいに…って、あ」
怒りが最高潮に達したらしいダークエルフの血が、勢いよく噴水のように流れ出した。
昔投稿した、「憧れのエルフ~」の続きのような。