6話 戦い 下
「アーマーブレイク!」
囲んでいるオーガに向かってアーマーブレイクを使う。黄色い光が相手の体を包み込む。
見た目には何も効果がないように見えるけど……。
クラウド君が同じように大剣で背中を切り付ける。すると今まではじかれていた攻撃でオーガもあまりこちらの攻撃はダメージをほとんど受けないと思っているのか、まともに当たった。斬撃が当たった瞬間オーガが少しひるむ。見るとオーガの体に一筋の傷がついていた。それに気付いたオーガはグガアアアア!という叫び声を上げている。……おぉ、結構効果があるな。
「よっしゃ、いけるぞ!」
アーマーブレイクというのは妨害魔法の一つで、文字通り鎧を壊す。つまり相手の防御力を下げ、こちらの攻撃が通り易くなるもの。硬いオーガには必要な魔法だったりする。
魔法剣士である僕のよく使う魔法の一つで、さっきまでは時間稼ぎであまり攻撃するつもりもなかったから使わなかったけど、今3人いて攻撃に転じることが出来る場面ならちょうどいいのかも。
オーガは傷をつけられたことに怒っているのか、単調にクラウド君への攻撃を繰り返している。その隙に僕は同じように足首を狙って斬りつける。ゴギという音と共に命中して一筋の傷をつける。……やっぱり硬いけど、さっきとは大違い。
オーガは僕の攻撃なんてまるでなかったみたいに、クラウド君に対して執拗に攻撃を繰り返している。やっぱり大剣の一撃はインパクトがあったのかな。一人に攻撃が集中しているおかげか、僕は連続して同じ箇所に斬撃を加えていく。おでんさんはクラウド君が攻撃を受けるたびに、ヒールや、さらに回復量の多いハイヒールをクラウド君に掛け続けている。
しばらく安定した戦闘が続く。クラウド君が相手の攻撃を避けたり、受け止めたりしつつ、大剣でメインの攻撃を行い、おでんさんがクラウド君の回復、そしてタイミングを見てメイスでの打撃。
そして僕の足首への攻撃。オーガは確かに強いモンスターだけど、数人がかりだと結構やりやすい相手だ。動きが単調というのもあるけど、僕らよりレベルが高いモンスターの中では比較的相手しやすいモンスターだと思う。一人でも欠けるととたんに不味くなるから、気は抜けないけどね。
「おい、何をしている!そこらの人間どもなんかに負けるお前ではないはずだろう!……クソッしかたがない」
今までほぼ見ているだけであったマルコスがようやく状況のまずさに気付いたのか。露骨に焦りの表情とともに、いらだつような口調で叫んでいる。……もしかして回復魔法でも使う気なのか。
回復されて長期戦になったら僕たちが格段に不利になる。オーガの一撃は重い。おでんさんが、今はクラウド君が受けたダメージを回復しているけど、回復量の多いハイヒールは精神力も大きく消費する。無限に連発できるわけじゃない。
「チッ……兵士とついでに始末しておくんだった」
クラウド君が魔法を使おうとしているマルコスに対して悪態をつく。ここは補助的な攻撃をしている僕がマルコス相手するしかないのかな……。そんなことを考えていると突如
「そうはさせません!」
「なにっ!?」
マルコスの驚く声も一瞬に、マルコスの背後からにゅっと人が姿を現す。ステラさんだ!彼女は戦闘が出来ないらしいから、部屋の隅っこにいてもらったけど、マルコスの背後に移動していた!
そして、ステラさんは重そうな研究用の本かなにかを勢いよくマルコスの頭に振り下ろした!……うわー痛そう。マルコスはイスに座りながらがっくりと首を落とした。どうやら気絶したらしい。
ステラさんはハアハアと息を切らしながらこっちに向かってぶんぶんと両手を振りながらこちらに向かって叫んでいる。
「こちらは大丈夫です!皆さんは戦いに集中してください!」
「おーすごいね、武器なんかなくても……たくましいお嬢さんだ」
「ステラちゃんやるねえ、いつでも冒険者になれるぜ」
おでんさんとクラウド君が度胸って大事だよなあと笑いながら話している。僕もステラさんはいい冒険者になれると思う。やっぱり度胸だよね。
そしてマルコスによる回復という横槍の心配がなくなって、少しの時間が流れる。同じように攻撃を加えて行く僕たち。オーガの動きは目に見えて鈍くなっている。
体中に傷があり、足に力が入らないのか、鋭いストレートにも勢いがない。そして……ついに足をすべらせたのかオーガが前のめりになって転倒した。その隙を逃す僕たちじゃない。
……そもそもフォーメーションB(笑)自体相手に大きな隙が出来たらこうするという暗黙の了解がある。それは……全開を出し切った全力攻撃!
「ヴァイオレンスストーム!」
「十字斬り!」
「ダブルスマッシュ!」
うつぶせに倒れたオーガに向かって思い思いの技を当てていく。クラウド君のヴァイオレンスストームはすさまじい勢いで4回斬りつける多段攻撃。僕の十字斬りは横と縦の2回攻撃。おでんさんのダブルスマッシュは縦方向の上下の2回攻撃。
この武器によるスキル攻撃は通常攻撃とは違い、使用するときに体に力がみなぎり動作に補正がかかり、普通に攻撃するよりも大きなダメージが与えられる。
なんかこの世界には武器の熟練者に対して祝福として武器の精霊?が存在していて、一時的に力を与えてくれるのだとかどうとか……おでんさんあたりは設定に詳しそうだけど僕は詳しくはわからない。ただ一度使うと再使用まで少し時間がかかるようになっている。また魔法と同じように精神力を消耗する、なので乱発はできず、ここぞというときに使うのが定番。要するに必殺技ってやつだね。
うつぶせに倒れたオークに僕たちのスキル攻撃が直撃する。いくら僕たちよりレベルの高いオークといえどもこれはきついだろう……。オークは倒れたまま低いうなり声を上げたかと思うとピクリとも動かなくなった。そして1分も立たないうちに光となって消滅していった。どうやら倒したらしい。
これにてひと段落といったところかな……。僕らよりレベルが高くても単調な動きのオーガはなんとかなるね。……一人だとぼろぼろだったけどね!ただ、これが高度な知性を持つレベルの高いモンスターだとかなりきつい戦いになったはず。
「まあメインのボスは倒したけどよ、まだ終わってないぜ」
「そうだね、元凶をなんとかしないと」
そういえばステラさんに本の一撃をくらってのびてしまった。マルコスが居たんだった。奴をなんとかしないとこのダンジョンは解決しないからね。
僕たちは武器を納め、のびてしまったマルコスとその近くにいるステラさんに近づいていった。
「ステラさん、終わりました」
「ありがとうございました……私も戦えればよかったのですが」
ステラさんがうつむきつつ、落ち込むような口調で戦闘に参加できなかったということを悔やむ。
「いや、マルコスの回復を止めただけで十分ありがたかったです」
「確かにな、それにしても、まーだこいつは寝てるのか。死んでないよな?」
クラウド君がちらりとステラさんのほうを見る。
「いえ、呼吸はしていましたから、おそらく生きてはいます」
「まあくたばってても良かったけどな……とりあえず起こすか」
「こういう時はタカシ君だよね」
「やっぱり……」
みんなが僕のほうをちらりと見る。多分誰でも起こせるんだろうけど、一番スマートに起こせるという役回り。仕方ないなあ。
「じゃあ行くよー……」
気の抜けたような声と共に僕はスタンマジックを発動させる。この魔法は動きを止める魔法であるが、体全体に衝撃が奔るという効果もあるので、寝ていたり気絶している人を起こすのにも使える。
使った瞬間、マルコスの体がびくんと跳ねる。
「ン……ぐっ……ここは、私の研究室、寝てしまったのか?」
「と思うじゃん?違うんだなそれが」
「お前は、お前たちは……!そうか、私の実験体は……!」
寝ぼけているのか現状を把握できてないマルコスに突っ込むクラウド君。そのおかげかどうか、マルコスは現状を把握できたらしい。
「なぜだ!なぜお前たちは実験の邪魔をする!私はただ、研究をしたいだけ!ステラもそうだ!私が育ててやった恩を忘れたのか!」
「いや、その実験が迷惑なんだけど」
「うるさいうるさい!私はただ名誉を得たかっただけだ!……それもこれもあの女パトリシアが死んでからだ!そこから私の評判が落ちていったのだ!」
パトリシアって誰だろう?初めて聞く人だなあ、小声でステラさんにパトリシアって誰なんですと尋ねてみる。
「パトリシアは私の母の名前です。おそらく父が言ってるのは私の母でしょう」
そしてステラさんは母は幼いときになくなってしまったということを付け加えた。
「そうなんですか……すいません」
「いえ……いいんです。私もあまり記憶はないですから」
「まあいいけどよ、なんで自分の評判が悪くなったんだよ?」
クラウド君がすっごい嫌そうな顔をしながらマルコスとの会話を続ける。
「私の研究は優秀だ!人心に関しての研究なら他の追随を許さないと自認している。それに金も持っている!地位もある!……なぜだ!こっちが聞きたいくらいだ」
マルコスがまくし立てるように言う。その姿は必死でアピールする小心者といった印象を受ける。
「お金を持っているのなら例えば慈善事業をするとかよかったのではないかな、それに人体実験で狂人を生み出すなんて正気の沙汰とは思えないのだが。人心を魔法でどうにかするというのも一般的な視点から見たらどうしようもない」
「慈善事業?なぜだ?私の金だ、私が好きなように使って何が悪い。私が金を使うことで恩恵をえるものもいるだろう!人体実験は私の研究をさらに高みに上らせる重要な実験だ。成功すれば私の名誉は右肩上がりだろう?何がおかしい」
僕はマルコスの自己中心的な姿勢とその独特な考えに唖然とした。自分のお金は自分のものというのはまあなんとなく分かる。ただそのお金をただ自分のために使うだけで人気が得られるという考え、また人体実験で自分の名声が高まると本気で信じてるらしい。冗談で言っているのかとマルコスの顔を見てみると笑うでもなく、真面目な顔をしている。
クラウド君とおでんさんは苦虫を噛み潰したような顔、ステラさんは僕と同じように唖然としている。
「ぶっとんだマッドサイエンティストだったか」
「……そうだね」
「……」
クラウド君は吐き捨てるように、僕はやっとの思いで言葉を、おでんさんは無言のままだ。おそらくパトリシアさん、つまりステラさんのお母さんが生きていた時は、マルコスの行動をフォローしていたのだろう。評判が悪くならないように、ただパトリシアさんが亡くなった後は、マルコスをフォローしてくれる者がいなくなってしまい。結果として一人行き着くところまで来てしまったといったところかな。
「まただ!お前たちも私をそんな目で見るのか!私を蔑むような目!嫌なものを見るような目だ!クソクソクソクソ!……お前も物言わぬ体になればそのような目はしなくなるか……まずはお前からだ弱そうなの!」
「えっ!?」
突如豹変したマルコスが僕に向かって何か魔法を唱えようとしている。その行動に対して、僕は反射的に剣を抜き、マルコスの首元を一閃する。……つい反射的に動いてしまった。マルコスは致命的な一撃を貰い、床に倒れた。
「大丈夫ですか!?」
「いきなり襲い掛かってくるとはな」
「そうだね、タカシ君は大丈夫?」
皆が僕に向かって近づいてくる。
「うん、僕は平気……だけどあっけなかったね、これで終わりなのかなあ……」
僕はぽりぽりと頭をかきつつ、なんとなく後味の悪さを感じながら皆に問いかけた。
「だろうなあ、ジャンプイストンがつかえるようになってるし」
「そうだね、入った時は使えなかったからね」
「え!そうなの?じゃあ入ったばかりのときは帰れなかったんだ。全然知らなかった」
ジャンプイストンはイストンの街のトラベラーストーンという場所にワープする魔法で、僕らはいつも使っている魔法。ただその魔法がこのダンジョンに入ったとき、そして今までは使えなかったらしい。ということは今まで帰れなかったのか……知らなかった。
「まあそういうことだ、じゃあ帰るか、ステラちゃんもアリサちゃん連れてきなよ。親父さん倒してるんだし一緒に帰ろうぜ」
そういえばステラさんはマルコスを倒した後、冒険者になるとか何とか言ってたかも。
「そうですよ、こんなところぱぱっと出ましょう、いや僕たちがアリサさんのところにいってからジャンプイストン使ったほうがいいのかな?そっちのほうが早いし……」
僕はこの陰気臭い地下研究室から逃げ出したくて別の場所に移るよう提案する。
「いえ、ごめんなさい。それはできないんです」