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6話 戦い 上

地下の階段を下りていくと、そこには扉があった。さび付いた鉄の扉はどことなく侵入者を拒むような印象がある。ここの扉をくぐれば、そこにはマルコスがいるはずだ。扉をパッと開けることは簡単だが、腐っても半年やってきた冒険者、一呼吸置いて皆に問いかける。


「どうしようか、奇襲する?」


「いえ、父はドロスを操っていたのです。その倒されたドロスが死んでしまったのですから、もう我々の動きは読まれていると思っていいでしょう」


「そんじゃあ普通に行くとするか」


「その前に支援魔法を掛けておこう」


おでんさんが魔法、ディフェンスマジックを使う。この魔法は防御力を上げる魔法で、効果は15分ほど、ただ発動するまでに少し時間かかるため、こうして確実に戦闘が起こる前に唱えておくと便利な魔法である。淡い光が僕らの体を包みディフェンスマジックが僕らにかかった。この淡い光につつまれると少し安心する。実際は攻撃を受けるまで実感できる魔法ではないのだけどね。


そしてディフェンスマジックを掛け終えてもらったあと、ステラさんが口を開いた。


「あの、戦いの前に言うことでもないですが、私としては大事な事を聞き忘れていました」


「なんですか?」


「……皆さんのお名前を聞いていませんでした」


その言葉を聞いて、僕らはあっと気付いたような顔をしてお互いを見合った。確かに大事な事だったね。


「そういえば、直接、自己紹介してなかったな。俺の名前はクラウド。職業はソルジャーだ」


「さらっと嘘言わないでよ、ナイトでしょ、ナイト」


クラウド君は時々自分のことをソルジャーといったりする。僕には何を言っているのか分からないけど。何かしらのネタなんだろう。多分。


「そうともいうな、とりあえず俺は前線で暴れるのが仕事だ」


「まったく……僕は斉藤タカシ、職業は魔法剣士。いわゆる中衛ってやつです。臨機応変にいろいろやってます」


とりあえずクラウド君のジョークを流してサラッと自己紹介をしておく。


「最後は私だね、私の名前はおでん、職業はプリースト、後衛をやることが多い職業だけど、ここの3人といるとこのメイスを振る機会が多いからね。どちらかというと中衛ってやつかな?」


確かにプリーストには後衛で味方の回復やサポートに徹している人が多い気がする。でもこのおでんさんはチャンスがあり次第、殴りかかっていくような人だ。だけど回復に支障をきたしたことは今まで見たことがない気がする。


そして自己紹介もすんだところで、僕は扉に手を掛ける。さび付いた大きな鉄の扉は訪問者を拒むようなイメージすら感じさせる。


「自己紹介もすんだし、開けるよ?」


「おう」


「いつでもどうぞ」


そして僕らは、地下研究所へと足を踏み入れた。不思議と緊張はなかった。気の抜けた自己紹介を挟んだというのもあるかもしれない。


「やあステラ、どうしたんだね?……そんな人たちを連れて」


地下の研究所を一瞥してみるとそこは予想以上に広く、そしてランプの明かりがあるとはいえ、薄暗い。そして人が走り回れる程度の大きさはありそうな部屋だ。本とか机とかが散らばっており、普通の研究室といっていいとおもう。ただ僕はすこしの違和感がある、それがなんだかわからないけど、戦いの前に考えることじゃないと思考を目の前の人物に集中させる。


部屋の中央より少し北に備え付けてあるイスに座っている男がいる。その男は僕らを見ずに僕らへ語りかけてくる。こいつがマルコスで間違いなさそうだ。ただ後姿からはマルコスがどういう表情で話しているのか、どういう姿なのかは分からない。


「お父様、分かっていらっしゃるのでしょう?」


ステラさんはマルコスの様子を見て、断言するような口調で問いかける。


「さすが私の娘、優秀だ……それならばこれから何をすればいいのか理解できるね?」


「その前に聞きたいことがあります……なぜアリサを実験台にしたのですか?」


「そんなことか、まあいい……特にたいした理由はないよ。彼女はステラ、君と仲が良かったからね。そのステラに対する好意を別の相手に移し変えたりすることができたら、心を操るという私の研究は大きく前進するだろう?」


どうやらこのマルコスというやつはどうしようもないやつらしい。握るこぶしに力が入る。クラウド君たちはマルコスをにらみつけるように眺めている。


「そんなことのために……」


ステラさんが呆然とした様子で立ちつくしている。無理もないよね……こんな理由を聞かされちゃあ。そんな状態のステラさんにマルコスは追い討ちを掛けるように問いただす。


「そんなこととはなんだ。お前が豊かな生活が出来ているのも、私のおかげではないか。さあもう一度聞こうか。ステラ、何をお前はすべきなんだい?分かっているだろう?」


ただその言葉にステラさんははっと気付いたような顔になった。


「何をすべきかは理解できました……それはあなたを倒すこと!」


「そうか……残念だよ、そこの君たちかい?娘をたぶらかしたのは」


そのマルコスの残念という言葉とは裏腹に、口調は淡々としたものであまり残念そうな様子は見られず。ステラさんが自分を倒しに来る事は彼にとって予想外のことではなかったようだ。


親子の会話を終え、やっとマルコスはこちらを振り向く、頭はぼさぼさで、ひげは伸び、ぼろぼろのローブを着用して目はぎらついている、マッドサイエンティストそのものがいた。その姿にステラさんに似ている部分をつい探してしまうが、僕には見つけられなかった。


「そうだといったら?」


マルコスの言葉に対し、クラウド君が挑発気味に返事をする。


「ドロスを倒したからといって調子に乗っているのかな?ドロスは確かに優秀だったが、そこまでだ」


「あんたのお抱えの一番優秀なやつを倒したって言うのにずいぶん余裕だな」


「……ふふふ、彼は私の忠実な私兵としては優秀だったが、一番強いというわけではない。いや、強かった、だが……いや、語ることはない。実際にご覧に入れよう」


やけに余裕綽々なマルコスがパンパンと両手を叩くと、壁だと思っていた布がとけ、鉄格子となっている部分が露出した。こんなしかけがあったのか!そういえば人体実験してるというのに、その実験対象がこの部屋に見当たらなかったのはおかしかった。違和感の正体はこれか!

鉄格子の中になにかいるのかもしれないけど、現時点では僕には中の様子は暗くて分からない。


そしてもう一度マルコスがパンパンと手を叩いた瞬間!

ガンガンと大きな音を立てて、鉄格子がぐにゃりと変形し、中から異形の人、いや人といえるのかわからないモノが姿を現した。なんだこいつは!


「オーガだって!?そんなものを従えていたのか!」


僕はその異形の姿の怪物を見て、嫌な予感と、この戦いの困難さを予感していた。


「オーガとは……いい趣味をお持ちで……」

おでんさんも一筋縄では行かないと思ったのか、いつもとは違った皮肉めいた口調でつぶやく。


僕たちはこの突如現れた、オーガというモンスターについて多少とはいえ知識がある。オーガはここイストンの街から北の平野を超えると見える大森林に住み着いているモンスターで、体長は普通の成人男性1,5~3人分であり、小さいものでも人間よりはるかに強い力を持っている。


また特筆すべきはその体力の高さで特徴的な緑色の頑丈な皮膚で覆われたその体は、驚くべき防御力を誇っている。


「兵士のほうはなんとかなりそうだが、こいつはやばいな……」


そして僕たちはそのオーガとやりあったことがある。そのオークはここのオークより、小さめでそれでもすさまじい堅さと攻撃力で、僕たちは非常に苦戦した。一般的にオーガは大きいものほど強いといわれているから、当時戦ったオーガより一回り大きいこいつは……それに兵士五人もおまけなんて。


僕はハァ……とため息をつくと


「……仕方ない、僕がオーガをひきつけておくから、兵士をチャチャっと片付けちゃってよ」


「タカシお前……いや、任せた」


「……そうだね、タカシ君が適任かもね」


「待ってください!アレを一人でなんて無茶ですよ!皆さんもどうしてそんな簡単に……」


ステラさんもオーガの強さというのは感じるのか。一人で行こうとする僕。そしてそれを止めないクラウド君とおでんさんに強めの口調で問いただす。


「ステラさん、僕は自殺しに行くわけじゃないです。それに倒すって言うわけじゃない……ちょっとクラウド君達が倒すまで耐え切るだけ、それなら僕が適任なんです。だから皆も止めない。それに冒険者なら格上の相手と戦う機会なんていくらでもある。ステラさんもなるんですよね?冒険者に……」


「……しかし!……分かりました」


ステラさんが納得したようでよかった。


「といっても長くは持たないから皆早く来てよ?」


その言葉にクラウド君とおでんさんが静かに笑う。我ながら締まらないなあ……。


「相談は終わったかい?そろそろ待つのも飽きてきたのだが、私も研究の続きをしなくてはならないんだ。……それに安心したまえ、君たちは殺さないよ。貴重な実験材料なんだから……ただ腕や足の一本や二本は許してくれたまえ」


マルコスがニタリと趣味が悪い笑顔を向けている。とことん下衆なやつだなあ……もう猶予はなさそうだ。


「いわれなくても!」


僕は剣を抜き盾を構えつつ、オーガに突進していく。その様子にオーガと兵士たちがこちらにいっせいに視線を向けるが


「お前たちの相手は俺だ!」


クラウド君が兵士たち5人に切りかかり、兵士たちはクラウド君へと矛先を変えたようだ。

そっちは任せた!だけど早くこっちに来てよね……。


それにしても……このオーガは間違いなく強い。冒険者、いや冒険者に限らずNPCモンスターなど、このゲームにはレベルというものが設定されている。最大レベルは今のところ70で僕のレベルは39。レベルが上がると、他のゲームと同様、体力、知力、筋力、精神力、器用さ、などが強化される。まあ普通のRPGみたいなもんだね。


自分以外のレベルや教えてもらったりすること以外でレベルというものは図れないが、これくらいやっていると敵のおおよそのレベルは分かるようになってくる。……このオーガは間違いなく自分よりレベルが高い。


ただオーガは経験上、体力、筋力は低いがそれほど素早いモンスターじゃないということを僕は知っている。まずはけん制として下級炎魔法、ファイアボールを発動させる。ファイアボールは文字通り火の玉を

相手にぶつける魔法で、火に弱いモンスター相手に効き目が強い。オーガは森に住むモンスターで火には弱かったはずだ。


そして、発動させ、勢いよく飛んでいったファイアボールは、オーガの禿げた顔面に命中した。よし直撃だ!しかし


「うそだろ……」


特に効果もなく平然としているオーガ。確かに魔法剣士の攻撃魔法は専門職には劣るとはいえここまで効かないものなのか……僕がまったくダメージがないことに戸惑っていた。そしてその隙を突いてオーガは大きく振りかぶった右手で僕を殴り飛ばそうとする。それに対し、僕は戸惑いから対応が遅れ、なんとか盾で防いだものの、大きく吹き飛ばされ後ろの壁に体ごと激突する。


「タカシさん!」


ステラさんの叫びが聞こえる。ああ……やってしまった。打ち付けられた背中と盾で防いだ左手がぎしぎしと鋭い痛みを発している。このような痛みまで再現するのは本当にすごいゲームと思うのと同時に、少し勘弁してほしいと思う。


それにしても油断していて直撃を貰ってしまった。この一撃で僕の体力はかなり削られたな……おでんさんにディフェンスマジックかけてもらってよかった……まったくあんなこといっておいて、このザマなんて。オーガは予想以上に強い……それに速い。時間稼ぎすら出来るかどうか不安になってきた、……いや、待てよ?時間稼ぎ?僕は何を勘違いしていたんだろう。


ファイアボールなんて下級魔法が通用するわけないじゃないか。それを知っているのは一番僕なのに……僕には僕の戦い方があるじゃないか!


ステラさんが駆け寄ってこようとする。僕はそれを片手で制止して


「ゲホッ……ごめん、大丈夫……ちょっと油断してました」


「やはり一人では……!」


「大丈夫、大丈夫ですから……攻撃に当たらないところへ」


それでも尚こちらに来ようとするステラさんを止め、とりあえず気休めではあるけど下級回復魔法ヒールを自分に掛けておく。体の痛みが少し引き、体力も若干であるけど回復した。オーガは追撃を食らわせようとのしのしとこちらに近づいてくるところだ。移動はおそいのか、それとも急がずとも余裕だと思っているのか分からないけど……。


ただやられたというのに僕の頭はすっきりとしていて、次にすべきことははっきりと分かる。ゆっくりと迫りつつあるオーガに僕はとある魔法を即座に発動させる。


「ダークネスクラウド!」




登場魔法


・ファイアボール 分類 下級攻撃魔法 

生成した火の玉を相手にぶつける。ダメージはあまり高くないが、火に弱い相手にはバカにできない効果がある。


・ヒール 分類 下級回復魔法

プリーストなどが得意とする回復魔法の中でも初歩に位置する魔法。魔法剣士でも使うことが出来る。傷や体力を回復させる効果としては、あまり高いものではないが、あると便利な魔法。


・ディフェンスマジック 分類 中級支援魔法

防御力を底上げする魔力の衣を纏わせる魔法。攻撃されたときなどにより効果のほどを実感できる魔法。あるとないとではダメージが大分違ってくる。


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