5話 戦いの前に
「おーやっとボスっぽいののおでましか!」
「そういえばダンジョンだったね……そんな感覚しないから忘れてたけど」
「確かにね、私はダンジョンといえばドラゴンとかゴブリンとかがうろうろしてるものだと
ばかり思っていたよ」
僕はやっとダンジョンらしい、待ち受けるボスとの戦いというのを聞いて、そういえばここはダンジョンだったなと思い出す。変則的な感じだったけど、簡単に言えばボスを倒せば解決!という流れだろう。
「あ、あの……」
突如としてわけのわからないことを口走り始めた僕たちに、ステラさんはおどおどとうろたえ始める。うろたえたステラさんというのも中々新鮮に思えるのは、ステラさんが大人びているからだろうか。
「ちょっと路線は外れたが、元々俺らはそれ目的で来たような物だしな、タカシにおっさん
もそうだろ?」
「うん、僕はステラさんの依頼を聞き入れることに異論はないよ」
「気まぐれの人助けというのも冒険者の醍醐味というものだね」
「というわけだ」
もともと僕らはダンジョンに行くつもりでここにいるわけだけど、実際入ってみるとダンジョンといった感じはあまりしなくてちょっと戸惑ったけど、元々こういう戦いになるのを想定してたわけで……それを知ってる僕らのやけにさっぱりとした承諾に知らないステラさんは困惑の表情を浮かべている。
「なぜ、あなたたちは……しっかりとした報酬だって支払えるか分からないのですよ?」
「そんなこといってもなあ……」
「報酬が50マニだけとかいうのも冒険者ならあるしね……」
「ははは!そんなこともあったね、あれはすごい依頼だった、子供がいじめっ子にとられた人形を取り返してくれってものだったね、なぜそんなもの受けたんだろうと思うと笑えてくるね、今では話の種になってるから受けた意味もあるのかな」
あれはなあ……何をしようかと街をぶらついていたら、小さい男の子がいじめっ子に人形をとられたから冒険者さん取り返して!って依頼。おかげでいじめっ子から人形をとりかえすことには成功したけど周りの目線が痛かったし、それに50マニの報酬。インパクトのある依頼だった。
「あなたたちは、それに冒険者とは一体……」
「あんた冒険者を知らないのか……まあひきこもってたらしょうがねーな、冒険者って言うのはまーなんだ、とにかく自由な存在だな、何者にもしばられず、まあ縛られたいやつは縛られてもいいんだが、なんていったらいいんだ?おっさん頼む」
クラウド君が面倒な説明なんて出来るか!といった具合におでんさんに丸投げする。おでんさんはそれをきっちり受け取り
「そうだね、冒険者というのは確か……半年くらい前から急増している、所属する国を持たず、何事にも縛られない、自由な生き方を追求していく、人々のことであると公式ページにはあったね」
「そういう言い方するとなんかかっこいいね!」
「実際はただのフリーターみたいなもんだけどな」
「冒険者……私もなれるでしょうか……」
「冒険者はなるもの拒まず、いつでもウェルカム」
「そうなのですか、私もすべてが終わったら冒険者として皆さんみたいになりたいです」
その言葉に僕たちは顔を見合わせて笑う。ここに入る前に会ったシェイドさんの言葉を借りると僕たちはでこぼこ3人組だからね。
「いや、あまり僕たちみたいになるのはおすすめできないけど……」
「いえてるな、まあ後のことより今のことだ。お前さんのおやじさんを倒さなきゃいけないからな」
「……そうだね、それが今一番やるべきことだ」
おでんさんはさっき少し笑ったけど、たまにこういう風に考え込むことがある。結構難しいことを考えてるみたいだ。僕はダンジョンを出た後のことを考える。そうだなあここを出たら冒険者としてステラさんとパーティーを組んでどこかに一緒に行ってみたりするのもありかもしれない。
アリサさんの狂人を治すのを一緒に探してみるのもありかもしれないな。その前にまずはマルコスを倒さないといけないけど、そうだ!
「ところでステラさんの父さん、いや、マルコスはどこに?」
「父の私室はこの館の2階にありますが、おそらくそこにはいないでしょう。いるとすれば、いえ、間違いなく地下にある研究室にいるでしょう」
「よし、じゃあ早速行こうぜ、思い立ったが吉日っていうからな」
「いや、その前にマルコスの部屋に行ってみないかい?部屋に行けば彼がどんな人なのか分かるかもしれない、それによっては対策だってできることがある。……これは建前でRPGとかで行ったことないところがあると個人的に気持ちが落ち着かないんだ」
おでんさんの言うことは微妙に分かるような気がする。ゲームとかでダンジョンに潜ったとき、アイテムとか取り逃したって知るともやもやするからね。クラウド君も思うことはあったらしく、特に異論はないまま2階に行くことに決まった。
その2階へと行く道中。僕たちは雑談を交わしていた。
「そういや、ステラちゃんはいくつなん?」
「私ですか?私は16ですけど……」
「おい、タカシくーん、これが本当の16歳だよ。お前は下手すると中学生だからな見た目的に」
「ほっといてよもう……」
僕だって童顔で高校生しかも高校2年生には見えないってことは重々承知。身長だってあまり高くないし……下手すればクラウド君の言うとおり中学生くらいに見られそうだ。
僕と比べるとステラさんはどことなくしっかりとしていて、大人びている気がする。育った環境がそうさせるのか分からないけど、僕とは何か雰囲気が違う気がする。まあこんな話はやめやめ!とっとと話を変えよう。
「そ、そういえばマルコスってどんな人なんですか?心を操る魔法を研究しているとは言ってましたけど……」
「父ですか、そうですねえ……とその前に父の部屋に着いたようです、話は入ってからでもよろしいですか?」
「といってもほんとにいないんだろうな……開けてみたらこんにちは!とかいやだぞ俺は」
クラウド君がちょっと待った!と部屋に入ろうとするのを制止する。
「父はここ一年ほど研究室にこもりっきりでめったに出てきません、なので間違いなくここにはいないでしょう」
「ならいいけどよ……」
部屋の前にたどり着いた僕たちはドアを開ける。と同時にほこりとかび臭い香りがもわっと迫ってきた。
僕はつい咳き込む、これはひどい……相当の間使われていない感じをうける。それ以外は使用人の部屋の大きさの5、6個分はありそうで流石に館の主人の部屋といった感じだ。
内装の家具もしっかりとしたものを使っているようにみえる。良し悪しなんて分からないけどね。
「なんつーか俺らのボロ拠点もこんな感じだったよな?」
「そうだね、こんなかんじだったかも……」
「とても汚かったからね、とはいえそのおかげで安く借りられたのだけど」
僕たちは中の部屋の空気に、ついつい昔、といってもそれほど前じゃないけど、僕たちの拠点である、イストンの町の中にある家について初めて見たときのことについて口々に言い合った。
その拠点は最初見た時はものすごいおんぼろでほこりだらけだった。ここはそこまでぼろぼろではないけどこのかび臭い空気とほこりっぽさにそのときのことを皆思い出したようだ。まあその理由で家賃値切りに値切ったけどね。
そんなことを考えつつ、とりあえず僕たちは部屋の中に入って窓を全開にする。外は暗闇の世界、それに透明の壁が阻んで出られないというのに、空気は綺麗だな、まあどうでもいいといえばいいけど……。
僕とクラウド君はその辺においてある椅子にこしかけ、話しの続きを聞こうと待機している。おでんさんは何かをあさっているらしい。改めてみてみると研究者らしく、本とか、よくわからないアイテムがそこそこ転がってる。
「さて、それじゃ聞かせてもらおうか」
「はい、父は……そうですね、研究者という話と商人であったといった話はしたと思いますが、父は研究者としてでは生活することが出来ず、商売を始めたのです。父は商売の才能があったようで、また研究の成果である精神に作用する魔法を使って大成功しました。……その後、成功した父は次に名誉を求めたんだと思います。ですが、父はお金は持っていても人気がまったくありませんでした。まったく人望がない上にその手の人心に対しては父の研究の成果も役に立ちませんでした……」
僕とクラウド君は何もいわずにその話を聞いている。大金持ちになったはいいけど、人気者にはなれなかった、悲しいような、すべてを求める哀れな人と思うべきかは僕には分からない。
「父としては、どうだったんでしょう……生活にはご覧の通り不自由はしていません。ただ父親としては
あまり世間的にはよかったとはいえないのかもしれません。そもそも父は研究ばかりしていて家に居てもあまり会って居なかったものですから……あまり思い出というのも記憶にないのです」
マルコスは父としてはあまりいいものではなかったらしい。金持ちならいいじゃないかと考える人もいるだろうけど、僕はこういうのは寂しいと思う。
「親父さんを殺してしまうことに抵抗はないのか?」
「抵抗がないというと嘘になります……ただこれはやらなくてはならないこと、覚悟は前からしてきています。それに友人であるアリサを実験台にした父を個人的に許すわけには行きません」
ステラさんが表情なく淡々と覚悟を告げる。僕にはステラさんの思いは分からない。この分からないところが僕よりも年下なのに上に見せているんだろうかと思う。
「アリサさんってどういう人だったんですか?」
「アリサは私の使用人でもあり、友人でもありました。小さいときからの付き合いでずっと仲良くやってきたんです。明るく周囲を元気にさせてくれる子でした。ときには喧嘩もしたりしましたけど、かけがえのない友人でした……それを父が……」
アリサさんのことを語るステラさんは父マルコスの話をするときには出なかった悲しみの表情が現れていた。それほどまでに親しい間柄だったんだろうなあ。
「……父は家にいるものを手当たり次第実験台としてつかってきました、なんとかアリサだけはと思いかばってきたのですが、ある日……私が眠っているすきに……」
「それだけやっていて逃げ出そうとか、皆でマルコスに逆らうとかいうつもりはなかったのか?」
「父にはドロスがついていましたから……父から逃げることはできても彼から逃げることはできませんでした。館にいるうちは大丈夫なのですが」
そうか、マルコスの腹心の兵であるドロスの監視下に置かれていたからできなかったのか……。
僕たちはその後、しばらく無言のまま腰掛けていた。マルコスは目的のためなら手段を選ばない男らしい。油断してはいけない相手だ。
「そうか、これ以上はいい、それにここに長居する必要もなさそうだ、タカシ、おっさん呼んで来てくれ」
「わかった」
ちらりとおでんさんを見るとなにやら本を眺めているらしい。どうりで何も喋らないと思った。これからのことを伝えるべく、僕はそれに近づいていく。
「おでんさん、そろそろ行こうと思うけど、どう?何か見つかった?」
僕に話しかけられたおでんさんは見ていた本をパタッと閉じて、こちらに顔を向ける。その表情は何かいいものが見つかったといった感じではなかったので、あまり期待はできなさそうだ。
「……お、タカシ君かそうだね、、魔法の本はいくらかあるけど、私には理解できなかった、実質何も見つからなかったようなものだね。それでもう行くのかい?」
おでんさんの横にはいくらか本がかさなっており、一通り調べてみたのだろう。
「うん、クラウド君もそう言ってるし、僕もここに長くいる必要性はあまり感じないし……」
「そうだね、ここでは特に収穫はなさそうだ……ところでタカシ君」
「なにおでんさん」
「……んー、いや、なんでもない、行こうかタカシ君、戦いが待ってるからね、気を引き締めていこう」
おでんさんが何かを言いかけたが、ちょっと考えて言うのをやめる。内容は気になるけど、いわゆるボスとの戦いの前にいうことでもないと思ったのかもしれない。
部屋を出た僕らは、ステラさんの案内により、1階へと行き、少し隠された場所にある地下室の入り口(1階の変哲のない一室の床板が外れるようになっていてそこから階段となっている)にたどり着いた。
そこで僕らは戦いの準備を始めている、無言でクラウド君とおでんさんはメニューを開きなにやら最終確認を行っているようだ。僕もそれに習い装備などの確認を済ませる。
「さて、準備はできたかい?」
「俺はオッケーだ」
「僕も大丈夫」
「んじゃ行くとするか!ステラちゃんはここで待ってるか?」
「いえ、私も戦うことは出来ませんが、ついていきます」
おでんさんの最終確認に答え、ボス前の緊張感と共に、僕たちは地下室へと足を踏み入れるのであった