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4話 第一住人発見!

狂人となり操られていた兵士を倒した僕たちは、階段の上に陣取っていた兵士の先を進み、2階を歩いていた。このままこの階を探索するか、上の階へ行くか、はたまた下の階に戻るか。僕らは選択を迫られていた。


「この館は3階建てだよな、どうする?1階から探索していくか?」


「いや、上から順々に調べて下っていったほうが楽だと思うよ」


「そうするか、タカシもそれでいいか?」


「うん」


といった会話があり、わりとあっさりと僕たちは3階から下に向かって探索を始めることにした。3階にたどり着いた僕たちは、一つ一つの部屋をしらみつぶしに探すことに決める。


まずは最初の部屋を開けて入ってみる。中はアパートの一室くらいの大きさの部屋で誰もおらず、ベッドと小さな棚、そして衣装掛けには使用人のものだろうか、質素な黒のワンピースと白のエプロンドレスがかかっている。


いわゆるメイドさんの服みたいだけど余りひらひらはしておらずなにやら控えめな感じだ。何観察してるんだろう僕……。


「ここは使用人の部屋といったところだろうね」


「大分綺麗になってるね、やっぱりメイドさんだからきっちりしてるのかな」


「俺の部屋みたいだな」


「クラウド君の部屋は汚そう……」


「うるせー!……まあ汚いけどな」


「はっはっはっ!」


「おっさんも笑うなよ!」


とその後メイドさんの服をこっそり持って帰ろうとしていたクラウド君がおでんさんにたしなめられるの

をみつつ探索は続いていった。アイテムとしては少しほしいかも……コレクションとして、いやこれでは

クラウド君と同じような発想だ。イカンイカン。


そんなことがありつつ隣の部屋隣の部屋と僕たちは探索を続けていく。毎回警戒しつつ扉を開けていたため、神経がはりつめてくる。しかし似たような使用人の部屋が続いてくると。


「……同じような部屋しかないじゃねーか!」


この屋敷には多くの使用人さんがいる、もしくはいたらしい。クラウド君がそう叫ぶほど、同じような使用人の部屋が続いていた。


しかしやがて僕たちは、他の部屋とは様子の違う部屋にたどり着いた。そこは回りの場所から離れており、部屋のドアもただの木というわけではなく、ところどころ意匠をほどこしてある。使用人の部屋ってわけでもなさそうだ。


警戒して入ってみるとそこの部屋は周りの部屋よりも広く作られており、ベッドも広いみたいだ。

家具も高そうな様子で、本棚まで設置されている。


ただそんなことよりも驚くべきことに2つならんだ大きなベッドの片方に女の子が眠っている、もしかして亡くなってないか確認したけど、呼吸はしているみたいだ。歳は16,7くらいだろうか、ブラウンの短めの髪の毛とそばかすと素朴で起きたら元気そうな顔立ちだけど、少し顔色が悪いかなあ。


「人が寝てるみたいだね……どうしようか」


「まあ起こすしかないだろ」


「そうだね、ただ気をつけて起こさないと……警戒はしておくんだよ」


「じゃあ僕が起こすよ、クラウド君だとなんかぶったたきそうだし」


「失礼な、女の子ならそんなことはしない、するとすりゃ熱いぶちゅっと……」


「まったく、なおさら任せられないね、タカシ君頼むよ」


「だね」


「冗談だよ冗談」


おでんさんと僕はどうだかといった目でクラウド君をじとっと見つめる。とりあえず揺さぶってみる。起きないな。もしかして死んじゃってるんじゃないか。


おーい、おきてくださいと呼びかけてみる。まだ起きないか。

お、そうだ、いいこと考えた。


僕は下級攻撃魔法の一つである氷の魔法コールドウィンドを発動させる。

この魔法は吹雪を相手にぶつける魔法で、成長すると氷の刃まで作れるようになる。


僕はまだ吹雪しかでないけど、弱めに使えば起こすのくらいは……。

ごめんと心の中で思いつつ、寝ている彼女にコールドウィンドを使用する。


するとぴくっとおきたかと思うと、彼女はさっと立ち上がり僕らに向かってファイティングポーズを構える。


その顔もまた目はうつろで口からはぼそぼそ何かをいっているようだけど……この人も狂人か。やっと会えたまともな人かと思ったのに……。


彼女は武器も持たず僕にタックルをしかけてきた。何故僕を狙ったのかは分からないけど一番弱そう

だからかな……本能で分かりそうだもの。


僕はしょうがなく装備していたアイアンバックラーでそのタックルをはじきかえし2,3度シールドでの

打撃を彼女に打ちつける。すると彼女はパタッと突然倒れてしまった。


「あれ……あまり強くはやってないよ?」


「ただ単純に強くはなかったではないかな、先ほど戦った兵士の方は例外なのかもしれないね」


「しかしとりあえずどうするよ、狂人なら倒さなくっちゃいけねえが、俺は狂人とはいえ無抵抗の

女の子をズバッとなんて抵抗あるぜ」


「とはいえ操られているし、救う手段がないんじゃ、やるしかないよね……」


「うーむ、戦いの最中というならまだしも、無抵抗の状態のさらには女の子にとどめをさすというのは

抵抗があるね……しかし若い君らにさせるのもどうかと思うし……ここは私がやろう」


覚悟を決めたというようにおでんさんがダガーをアイテムメニューから取り出し、止めをさそうとする。


そのとき。


「お待ちください!」


完全に他者の存在を予感していなかった僕は、その凛とした力強い女性の声を聞くまで誰かがいることに気がつかなかった。


クラウド君とおでんさんも同様に、突然の人の声にあわてて武器を構えなおしている。


振り返るとそこには、背中にかかる程度の長さの暗めの金色の髪をした。意志の強そうな目鼻立ちのくっきりとした顔立ち。薄い青色の清潔そうなスカートと地味な服装に身を包んでいるがどことなく上品な感じを受ける女性が立っていた。


歳は僕とそう変わらないと思うけど、意志の強そうな感じが僕よりずっと大人に見せている。


「あんたは…」


いち早く冷静になったクラウド君が声を掛ける。さすが前衛といったところなのか。どうやらクラウド君は突然登場した女性がどういう存在なのか警戒しているようだ。と思ったけど、アリだな、85点とかボソッとつぶやいてる、何も聞かなかったことにしよう。


「その前に武器を納めてくださいませんか?そのままでは冷静に話をすることは難しいですし……」


「しかし、そこの狂人のお嬢さんがいつ起きだして襲い掛かってるか気が気でないのだが」


おでんさんが冷静に現在の状況を分析し、この危険要素が去らないと武器を収めるのは難しいと暗に告げる。


「そうですか、ではしばらく眠らせましょう……。ごめんねアリサ、しばらく眠っていてね」


そう言うとその女性は、小声で何かをつぶやいた。そうすると苦しそうに気を失っている女性、アリサというらしいはやがて安らかな寝顔へと変わっていった。


「これでしばらくは起きないでしょう、襲い掛かってくる心配はないですよ」


「そうですか、ありがとう」


「……いえ」


そして襲われる危険性がなくなった僕らは、座って話せる場所に移動しようという話になった。


ここの部屋は実は2つの部屋が繫がっているようなつくりになっていて、女性はそこから来たのだという。よくみると普通に繫がってたけど同じような部屋ばかり見てたから見落としちゃったのかな……。


そして今いる部屋から僕たちは移動して、その女性の部屋だというところに案内され、ふかふかの

いすに腰掛けて話をすることになった。


「ところであなたはどなたなんですか?狂人ではないようですけど、それにこの屋敷はなんなんですか?

広い上に人少ないし、襲ってくる人しかいなかったし……それにここはイストンのあの空き家

じゃないんですか?」


やっと話の通じる人に会えて落ち着いたとき、僕は、ここのダンジョンに入ってから浮かんだ疑問を一気にぶつけるようにしゃべり始めた。その勢いに自分でもびっくりした。


「そうですね、まず私の名前からお答えしましょう。私はステラ、この館の持ち主であるマルコスの娘である、ステラ・フィロンフィア。それと他のお答えするのは、まず父の話から始めなければなりません……」


そういうとステラさんはぽつぽつと語り始めた。

ステラさんの父マルコスは精神に影響を与える魔法を研究しており、人の心を操れれば自分の思うがままの世界になると常日頃から話していたこと。


やがてその研究の成果のうち、様々な精神に作用する魔法、例えば気分よくさせる魔法落ち込ませる魔法などに加え持ち前の話術を用いて、有力な商人となり、イストンの町に大きな館を建てたこと。


しかし、人の心を自分の思うがままに操るという研究はまったく成功せず、研究は行き詰っていたこと。

やがて今まではやらなかった危険な研究までやるようになっていったこと。


被験者は館の使用人たちと、警備をする兵士、やがて実験に使われた人たちは狂人となり、亡くなっていったこと。


「人が少ないのはこれが理由です。ここに住んで働いている人が、皆実験台にされて亡くなっていった

後、ここの館に来る人はめっきり減ってしまったのです。……狂人となっても残ったのは実力1の兵士であったドロスと、使用人であって、私の友人でもあったアリサだけです……空き家というのは分かりませんが、おそらくこの館に人がまったくいないようにみえるため空き家に見えるのだということでしょう」


あの兵士はドロスという名前だったのか。実力1ということはどうりで強いはずだね。それにしてもあの空き家に人が住んでいたとは驚きだ。


「母親はいないのか?」


「はい、もう10年以上も前に亡くなっています」


「そうなのか……」


クラウド君がすまなさそうにしてる顔は久しぶりに見た。


「もう一つ聞きたいのだが、そこの少女アリサちゃんといったかな。友人といっていたのを聞いたが、その子を生かしているのは何故なんだい?うーん上手い言い方が見つからないな……狂人となった彼女は治せることはできないというのに、誰かに操られたままにしておくのかい?」


おでんさんは聞きにくいことでも必要とあらば突っ込んだ内容でも聞いていく。


「おそらくそれはただの私のわがまま、この子に生きていてほしいだけ、もしかしたら戻る方法

があるかもしれないと私が勝手に探しているだけなんです……」


「そういうことだったのか……まあ君とそこに寝ているアリサさん、との関係は詳しくは知らないし私たちを襲わないのであれば、とやかく言う問題じゃない。それに今までの世界における難病というものは治療不可能で、死を待つしかなかったものもある。ただそれも時代の流れとともに、治療法が見つかることだってあった。案外狂人というのも将来は治せるようになるかもしれない」


「ありがとうございます」


「いえ……」


「そもそも誤らなくてはいけないのは、勝手に進入したのは僕らなわけですし……そのドロスさんでしたっけ、彼も僕らで倒してしまったのですし……」


ドロスを倒したということを告げると彼女は驚いたよう顔を見せる。


「あのドロスを倒したのですか!……いえあなた方が気にすることでもありません。ドロスは父の忠実な私兵、父は敵が多かったのですが、今まで危険もなくやってこれたのもドロスあってのこと……ドロスもまた、父の実験に進んで協力していました。彼のことだから心を変化させればもっと強く役に立てるとかを考えてたのだと思います。それほど忠実な人でした」


ドロスという人はステラさんによるとどうやら忠義に熱い兵士だったらしい。


「うーん、悪い人じゃなかったのかあ……」


「そうみたいだな」


僕とクラウド君の間にはちょっと早まりすぎたかなという反省会場じみたものが形成されていた。


「もう一度いいますが、あなた方が気に病むことはありません。運命という言葉で片付けたくはありませ

んが、これも我がフィロンフィア家の罪の報いでしょう」


ステラさんは諦めているような、責任を感じているかのような複雑な表情をしている。毎日こんな表情をしてたら多分早死にしちゃいそう。


「まあ、そのなんだ、ステラさんよ、なんかろくでもないことになってるみたいだが、こんな屋敷

逃げ出して好きに生きちゃっていいんじゃないの?」


クラウド君の意見はなにか軽い気がするが、僕はこの逃げちゃえという意見にどちらかというと賛成。


「すべてが終われば、アリサとともにアリサの治療法を探して外の世界に出るのもありかもしれません

ね……」


「いいじゃんいいじゃん、そうしよーぜ」


「僕もそっちのがいいと思いますけど」


クラウド君がそれ名案じゃね、てかそれしかなくねみたいな口調でいう。僕もそれに賛同する。

おでんさんは何か別のことを考えてるみたいだ。


クラウド君は思い立ったが吉日とばかりに続けて提案をする。


「で、俺たちに何か出来ることはないのか?」


「そうですよ!何でもいってください!」


「何においてもまずは父を倒す……いや、殺さねばなりません。この父を野放しにしてはいけません。

終わるにしても始まるにしても……父は心を操る魔法は結局完成しなかったようですが、狂人や死者を操る魔法を使うとても危険な相手です。……あったばかりのあなた方に頼めるようなことではないです

ですが、あなた方しか頼れる人はいないのです!どうか、どうか協力してくれませんか?」


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