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「…思い出すって、なにを」
「全てです」
美香はぼくに一歩近付く。
美香からは汗のような酸っぱい香りもせず、言ってしまえば無臭だった。
ぼくからも少し汗の臭いはするというのに。
美香は、生きているのだろうか。
「秀秋さんは、何も、覚えていないのでしょう?」
ぼくを映す美香の瞳が、ぐるりと湾曲を描く。
気持ち悪い。
「私が、思い出させて、あげます」
美香の手がぼくの頬に触れる。
体温が伝わらない、冷たくもない。
唇と唇が近付く。
「え、ちょ、なに……!!!」
触れ、柔らかい感触が伝わってくる。
体温のない唇が、とてもとても気持ち悪く。
二人の涎が口内で混ざり合い、ぼくの熱が美香の方へと奪われていき。
とても、気持ち悪いほど、ぼくは溺れそうで。
ごぽり。
美香は口端から流れていく涎を手で拭ってから、ぼくをまた見つめる。
「おぼれてしまうでしょう」
きもちわるい。
「おぼれてしまうでしょう」
きもちわるい。
「××××し×××し×う」
きもちわるい。
「×××××××××××」
きもちわるい、きもちわるい、きもちわるい、きもちわるい、きもちわるい。
「―――――う、ぐ、ぐる、ぃう、ぎ」
白く折れそうな指先は、体温を失くした美香の首へと。
きもちわるい。
押し潰すかのように。
きもちわるい。
美香の首は折れそうで。
きもちわるい。
体温がない。
きもちわるい。
「ぁ、あ、あ、あ」
―――――どうして、笑っているの。
ねぇ。
どうして、笑っているの、どうしてどうしてどうしてどうしてどうして。
ごぽ、
ごぽり、ごぽぽ、ご、ぽ。
お、おぼ、おべ、おぼ、おぼれ、べ、べべべ。




