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何処かおかしいと、気付いたのは今朝だった。
朝だというのに髪を二つにくくっている少女がぼくの部屋に入っていて、学習机の上に雑誌を置き、黙々と読み耽っている。
知っている者ならば、まだ少し理解はできる。だが、雑誌を読んでいる少女という少女は一度も顔を見た事がない、正しく見知らぬ少女なのだ。
少女はぼくが起きたと気付いたのか、雑誌を閉じて椅子から立ち上がり、ぼくが寝転がっているベッドへと近付いて来る。
「おはようございますー」
顔と顔の距離が、ほぼ、ゼロに近くて。
「ぅ、うわああぁあぁぁあああああ!!!!!」
思ったより顔と顔が近かって、思わず跳ね上がってしまった。
いや、本当に驚いた。
「そんなに驚くことはないじゃないですか。小田秀秋さん」
少女はぼくの名を呼び、ニコリと笑い掛ける。それに対しぼくは歪な笑みを浮かべ笑い返した。
「な、なんでぼくの名前、知ってるの…」
と、「秀秋ー、起きてるのなら降りてきなさいよー」下から母親の声がした。…話しは中断だ、取り敢えず下に降りて起きたと母親に見せなければならない。
ぼくはベッドから起きてベッド下に置いていたスリッパを履き、ゆっくりとした速さで階段を下りリビングへと向かった。
「…お、おはよう、お母さん」と欠伸をしながら挨拶をする。
「朝ご飯は、テーブルの上に置いてあるから」母親の言葉にぼくは頷いた。
「ふーん…これが秀秋君のお母さんですか」
まだ、いた。ていうか下に降りてきていた。
少女はキョロキョロと辺りを見渡しながら、歩き回っている。
「…どうかした? 秀秋」母親はぼくの些細な異変を感じ取り問うた。「は、あ、あの、何も見えないの?」「見えないって、何がさ」「…いや、いい」
こんなにも少女がうろうろとしているのにどうして母親は何も見えないのだろうか。
…まぁ、その事はまた考える事にしよう。取り敢えずご飯だ、朝ご飯を食べよう。
椅子に座り、テーブルに置かれていたお箸を手に取り、ぼくはご飯を食べ始めた。
「…そう、秀秋」
「なに、お母さん」
「殺人事件、あったんだって」
「……ふーん」と、ぼくは母親の心配症に少しうんざりとしながら答える。
殺人事件より、目の前に入る少女の方が大事だと思うけど。
「あ、秀秋君。その味噌汁ください」
「…味噌汁? あぁ、いいよ」
ぼくは茶碗を手に取り、隣に座る少女に手渡す。
少女は顔を緩ませながら茶碗を受け取り、ゴクゴクと音を立てながら味噌汁を飲み干した。
「そういえば、アンタの名前、聞いてなかったね。何て言うの?」
「横山美香と言います」味噌汁を飲み干した茶碗を置き、横山美香と名乗った少女はニコリと笑いながら答えた。
「美香、と呼んでくださいね。秀秋さん」




