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妖狐と悪魔  作者: Mayumi
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第二話

私はどこかのビルの屋上に舞い降りる。そして身体を人間のそれへと変換する。

「終わりました?」

そんな私に声をかけてくる人影があった。

「終わったよー」

その人影の名は桜禍(おうか)。悪魔を自称する男だ。

「ではあの方達も『仲間』に?」

「そ。快く承諾してくれたよ。それより、桜禍。私は九尾の妖孤が生まれたばっかりだ、なんて情報流せって言ってないんだけど」

九尾の妖孤である私にあのろくろっ首達がああも素直に襲い掛かってきた理由くらい既に私には予想がついていた。

「そうでしたっけ?」

惚ける桜禍。こういうところがかなり気に障るのだが。

「九尾の妖孤ってどんな奴だろうって様子見にきたところを後ろからガバッと捕まえて話をする、って寸法だったんだけど」

「それにしては楽しそうでしたね、火鵺(かや)。戦闘にならないのが至極残念そうな顔もしていましたか」

見てたよね、そりゃあ。はぁ。こいつ、この調子だと全部わかっててやってるな。何か、私には思いつかないような理由でもあるのだろうか。

「それに、まだ貴女は全盛期ほど強くないのですよ?大物がきたらどうするんですか。弱いって情報を流しておけばやってくるのは小物ばかりでしょう」

「あ、そ、そっか」

うぅ。ムカつくけど優秀なんだよ、こいつ。

「今、ムカつくって思いました?」

にっこり笑って聞いてくる桜禍に、

「ぜんぜん」

私はにっこり顔で答えた。つか、人の心読むな。

「ま、今日はこんなもんでしょ。帰ろっか」

「はい」


――あれから一週間。私は昼は学生、夜は妖怪の仲間集めなんてものに勤しんでいるのだった。











あの後。そう、私が悪魔を名乗る男に『願い事』をした直後――

男は不意に私に歩み寄り顔を近づけて、そして私は何かを囁かれ、その瞬間私はまるで電源が切れたかのように意識をから手を放した。いや、手を放したというよりはもぎ取られたという表現の方が合っている気がする。

それから1時間後、目を覚ますと私は事が起こる前と同じ場所、同じ体勢で横になっている自分を認識した。つまりリビングのソファに横たわっていたのだ。

そこで、私は一つの異変に気が付いた。

ここで確認しておくが、これは私が男にした『願い事』関係の異変ではない。断じてない。プラス、そう大したことでも……いや、大したことはあるのか?

まぁ、いい。とりあえず事実を説明しよう。私は自分の頭が体よりも上にあるのを感じた。後頭部に慣れたソファの感覚とは違った生温かい感覚を感じた。

――端的に言うと、私が男に膝枕をされていたのだ。

何故?と考える間もなく飛び起きた私は、恐らくは顔を真っ赤に染めながら、男を問い詰めた。

  『何これ!?てか何で?何であんたが私を…その、あ、あれしてんの!?』

すると男はこう答えた。

  『窓が割れている部屋で寝ていては風邪を引くでしょう?』

まぁ何とも的外れな答えが返ってきたものだ。きっと男は私の部屋でなくリビングにいる理由を聞かれたとでも思ったのだろう。というか、窓を割ったのはこの男なのだが。しかし意外にも、というかありがたいことにも、その的外れな答えは私を平静へと導いてくれた。胸に手を置いて乱れた息を直し、ゆっくりと深呼吸をしてから私は口を開いた。

  『…私がした『願い』は?どうなったの?』

私は早速本題に入る。勿論この時点で私は自身の体が人間のものである気が付いている。それ故に、この疑問をぶつけずにはいられなかったのだ。

しかして、男は何とも奇妙な答えを返してきた。

  『貴女が望み次第、それは今すぐにでも叶うでしょう』

一瞬の間を置いて私は自らの頭上に疑問符を登場させた。と同時に、

  『はぁ?』

そんな言葉で男に更なる説明を促す。

  『実は――』

まるで私の心を読んだかのようにすぐさま男は説明を始めた。それによると、男は、私が現世の人間の体と前世の妖怪の体のどちらも使えるようにしたらしい。つまり、私は自らの体を、現世の人間のそれと前世の妖怪のそれへ自由に交換できるらしいのだ。

あまりにも突拍子もない男の説明に呆気にとられる私を男は暫く無言で見つめた後、不意に何かの表情を顔に乗せたかと思うと即座に逃亡しようとした。

それを、私が止めた。男が逃げるのを躊躇うぐらい、逃げる気をなくすぐらいの体の奥底からの威厳を撒き散らしながら。

  『待ちなさい!』

そう叫んだ私の瞳はさぞキラキラと輝いていたことだろう。前世でも千年ほど生きた私だったが、こんな力を持った者にであったことはついぞなかった。だから、こんな逸材をこんなところで逃すなんて勿体ないと思った。それに、私には『目的』があることだし。

  『…あんた、私に協力なさい!』

そうしてこの時から、私と悪魔を名乗る男――桜禍の協力関係は始まったのだった。








さて。所変わって、

「何してんの、あんた」

ここは私の家。

「いえ。私、ゆっくりするところないんですよね」

桜禍はコーヒーを飲んで寛いでいた。

もう一度確認するけど、ここは私の家。

「そのコーヒーは?」

「キッチンで作りました。貴女も飲みます?」

じゃあそのカップとインスタントのコーヒーは私のものだと。

「砂糖もですが」

「人の心読むなぁ!」

私は桜禍にチョップを入れる。

「やめて下さいよ。コーヒーが零れるでしょう」

避けられたけど。

「この状況でこぼれなかったのは偉い。ソファが汚れずに済んだ」

「動詞の使い方間違ってますよ。零れなかったんじゃなくて零さなかったんです」

「ううん、合ってるよ。私はコーヒーに向かって言ったんだもん」

「さいですか」

えーと。話が逸れた。

「あー、えっと、だからさぁ、何であんたが『私』の家で寛いでるの?」

そう、桜禍は上着を脱いで足を組み、更にはコーヒーを飲みながらソファで本を読んでいたのだった。どんだけ寛いでんの。

「私、他にゆっくりするところが...」

「それはもう聞いた」

もう、じれったいなぁ。だから私が言いたいのは、

「何であんたが『私』の家で勝手に寛いでるのかを聞いてるの!いつ、どうやってこの家に不法侵入したの!?」

すると桜禍は不思議そうな表情で首を傾げた。

「先程、帰ろうと言ったのは貴女ですよ?」

はい。確かに、確かに私は帰ろうと言いましたよ。言いましたけれども、

「あのさ、今、朝なんだけど」

現在、午前8時ジャスト。私が学校へ登校するために制服に着替えて、じゃあ朝食でも食べるかと先ほどリビング入ったところ、何故かそこに桜禍がいたのだった。

「話は昨日、てか今日の早朝に終わったじゃん。そのあと別れたじゃん」

「あぁ、別れるふりして空いてる部屋で寝てました」

「更に驚愕の事実発覚!?」

ああもうこいつは何を考えているのだろう。どうせ使ってないんだから空いてる部屋で寝るぐらい構わない。コーヒーを勝手に作って飲んでたのもまぁ仕方がないとしよう。

それよりも、私が文句を言いたいのは別のことだ。


ーダン!


と机を叩き、

「私が文句言いたいのは、あんたがそういうことを勝手にやってること!一言言いなさいよ!」

桜禍は少し目を見開いている。私がダメと言うとでも思ったのだろうか。

協力を仰いだ以上、私達は仲間だ。しかも桜禍は身体を戻してくれた。大恩人と言っても過言ではない。そう無下にはしない。泊まりたいのなら言えばよかったのだ。私もそこまで鬼じゃない。

「泊まりたいなら言いなさい。準備とかあるんだから。空いてる部屋は大分使ってないから布団とか汚いだろうし」

少し考えたらしい桜禍は、

「では、改めてお願いします」

そう言って頭を下げた。

「ここに住ませて下さい」

「そうそう。そうや...ん?い、いや、ちょっ、ま、待って。す、住ませて下さい?」

「はい」

さも当然のように微笑む桜禍。

「えーと、改めてっておかしくない?」

「前に言いませんでしたっけ?」

「言ってない」

てか、住む?確かにここは元々4人で住んでた家で今住んでいるのは私一人だから部屋もあるし広さもあるけど...す、住む?

「駄目なら良いのですが」

「いや、いいけどさ」

あー、男一人と女一人が一つ屋根の下か。学校の人に知れたら大変だな。ま、いっか。あの人たちにはそんな興味もないし。でもそれなら新しく日用品とか買わなきゃいけないし、あれ、悪魔ってそういうのいるの...?

「有り難うございます。ところで火鵺。今は8時15分ですが、間に合います、学校?」

「え!?あ、マジで!?やっば!行ってくるから!詳しい話は帰ってからね!」

私は久しぶりに戸締りをせずに自宅を出た。









「...疲れた」

夕方。同じ道を疾走してから7時間ほどが経過していた。

7時間、か。

本当に無駄な時間を過ごしたと思う。学校には上辺の付き合いのクラスメイトはいるが、友達と呼べる人間はいない。あまりにつまらない人間しかいないからだ。そんな人間と過ごす時間が有意義なものになるはずはなく、必然的に無駄な時間と私は表現するのである。しかもこの無駄な時間は疲れるのだ。

前世まえは親しい人間の友人も何人かは出来たのだが、長い間に人間は変わってしまったらしい。

「便利にはなったんだけどなぁ」

と私はカゴに食材を放り込んだ。

こんな近くにこんな新鮮な食べ物が、しかもこんなに沢山売っているなんて、最初は驚愕の事実だった。その時は人間の技術の進歩に感心をしたものだ。

「5543円になります」

ちなみに、お金の持ち歩きやすさもかなりの驚きだった。カードとかマジ有り得ない。いや、カードって言ってもSUICAのことだけど。

「ありがとうございましたぁー」

……何か、沢山買ってしまった。桜禍が家に来た御祝いでもしてやろうかと久々にスーパーに寄ったら、あれもなかったこれもなかったと色々足りないものに気付いて……。

「ま、いいや」

よし、お金はこれから桜禍にも出してもらおう。そんなになさ過ぎて困ってるって訳でもないし、『あて』も一応あることだし。

「ただいまー」

玄関を開けると何やらいい匂いがした。明らかに食べ物、いやなんかの料理のにおい。

嫌な予感がする…。

するとキッチンから声が響いた。

「火鵺。夕飯を作っているのですが、何か買って来ました?」

やっぱりか!

「え、うん。あ、でも食材だから置いとけばいいよっ!」

しかも桜禍の作っているのはきっと何か手の込んでそうな料理だろう、この時間から作っているのだし。私の作ろうとしてたカレーライスより断然美味しそう。

「じゃあ冷蔵庫入れといて下さい」

親指で冷蔵庫を指す桜禍。

キッチンにいるの自分なんだから自分でやれよ的な事を思い浮かべるも、何とか自制。

「はいはい」

だってついでに何作ってるのか見れるし。

「夕食までメニューは秘密ですよ」

他人(ひと)の心読むなぁ!」

私は蹴りをお見舞い、

「ちょっと、今大変なところなんですよ?」

出来なかった。

「大体、私には読みたくなくとも読めてしまうんです」

読みたくなくても読める?

「どういう意味?」

自分の意思とは別に常時発動してるってこと?それとも別の意味でもあるだろうか。

「そのままの意味です」

しかし桜禍は答える気ゼロの固い音色の声でそう言った。

「ふーん」

ここはいったん撤退とばかりに引き下がる私だけど、勿論そのままにしておく気はない。その内探ろうと心にメモをする。

「そんなに役には立ちませんよ、これは。それより早く食材をしまって下さい」

それでもどうやらこいつは他人の本心を読めるらしいってことはわかった。これからの交渉に使えるかもしれないと私はひそかに企む。

「わかってるっつの」

そして私は冷蔵庫の野菜室を開け、食材のたっぷり詰まったビニール袋を傾けた。


「待ちなさい、火鵺!何をしてるんです?」


――必死の叫びが家じゅうに響き渡る。

桜禍のあまりの剣幕に多少冷や汗をかきながら私は文句をつける。

「あんたが冷蔵庫に入れろって言ったんでしょ」

だって、一つずつ出すの面倒だしさ。

「...貴女、料理したことあります?」

「あるに決まってるでしょ!失礼なこと言うな!」

確かに一人暮らしを始めてからはあんまりしてなかったけど。

「なら、食材は鮮度や傷がついていないのがいいって知ってます?」

確かに店では形とか良くないと売れないけど、

「店までの話でしょ?家では料理しちゃうじゃない」

料理しちゃえば形関係ないじゃん。

「はぁ。あのですね、食材をそんな風に冷蔵庫に入れたら傷がつきます。傷がついたら長くちません。つまり鮮度が落ちるんです。(わか)ります?」

何か当たり前のことをそんなこともわからない馬鹿にわざわざ説明してやってるように聞こえるのがムカついた、ので半分程は耳を素通りさせた。

「とりあえずわかったのは、食事係はあんたに決定ってこと」

私は怒りマークを作りながらも笑って言った。

「ええ。そうした方がお互いの為ですね」

が、桜禍はその表情の裏に全く気づくそぶりを見せないまま料理を再開させる。これは鈍感なのか、はたまた無視か。ちなみに私の予想は後者だ。



――結局、祝福しようと思っていた桜禍との同居一日目にして早くも後悔をしつつある私なのであった。




火鵺と桜禍の掛け合いは書いてて楽しいです。次、新キャラ登場。

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