クリスマスイブの夜に [千文字小説]
いつかの誕生日プレゼントでお前から貰った懐中時計。
今は電池も入ってなくて、時間も思い出も止まったままで。
懐かしく感じるよ。 お前と過ごした毎日が。
逢えないけれど、 俺は決して忘れてなどいない。
楽しかったもんな、 俺等が過ごした毎日は。
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「あのさ、俺と付き合ってくれない?」
その話のきっかけは、俺のダチが開いた合コン。
俺は君の見た目に惹かれ、君のする仕草に恋をした。
それは大体お互いに言えたことらしく、お前は二つ返事で俺の言葉に応えてくれた。
大好きだった。愛していた。 それは確かな、俺の心で。
別れを惜しむ暇などないけれど、俺にはそれしかできなくて。
お前は俺と付き合い初めてから少しして、重い病気になった。
だけど、きっと二人なら乗り越えられるって信じていたさ。
けれど、現実はそんなに甘くはなかったんだね。
――小さな壁は壊すことができる。
――大きい壁は登る努力をすればいい。
――じゃあ、大きすぎる壁はどうすればいい?
所詮、人間なんてちっぽけな存在なんだよ。
俺はお前に何もしてやれなかった。
愛する人を護れずに、俺は一体何をすれば?
お前の太陽のように穏やかな笑顔が好きだった。
まるで、俺の心の雪を溶かしているようだったから。
だけど、お前は何も言わずに死んでいった。
「痛い」の一言ぐらいあれば、悲しみを分かち合うこともできたかもしれないのに。
お前は強がりだったし、負けず嫌いだったもんな。
だけど、最後の最期くらいは弱音吐いてもいいと思うよ?
俺は、お前のそこが嫌いなんだ。
「大好き」は言ってくれても、「辛い」は言ってくれない。
助けてくれはするけれど、俺なんて必要としていないみたいで。
大好きなんだし、両想いのはずなのに、 お前は俺を頼らない。
そんなに、俺は頼りないのか?
頼むから、強がらないでくれ、 逝かないでくれ。
俺はお前を忘れられないから―――――。
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お前は死んでしまって、俺の生きている意味はなくなった。
二人で紡いだ糸も、今は“プツリ”と切れてしまって。
お前はそっちで楽しくやっていますか?
お前の好きだった花が一面に広がっていますか?
求めても戻らないのなら、俺はお前の幸せを願うよ。
思い出のクリスマスに、人が混み合う街の中、
俺はこの懐中時計を今も大切に身に着けている―――。