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魔物逆襲  作者: シマ
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P.1 森の中

――王国歴742年――


人間と魔物が共存する世界「アストラ」。


人間たちは、長い間「魔物」を恐れていた。


人間側は魔物を危険な存在として扱い続け、魔物の住む土地を奪い、討伐隊を送り続けていた。


森に住む魔獣。


洞窟に潜むゴブリン。


空を飛ぶ巨大な竜。


人間たちは彼らを「討伐対象」と呼び、見つけ次第、剣を向けた。


そして今日も――。


王都アストラード。


朝の鐘が鳴り、街には多くの人々が集まっていた。


商人たちは店を開き、冒険者たちはギルドへ向かう。


そんな中、冒険者ギルドの掲示板の前に、一人の青年が立っていた。


若い剣士のレオンである。


「……今日の依頼はっと」


レオンは掲示板に貼られた依頼書を一枚ずつ確認していく。


薬草採取。


商人の護衛。


街道の魔獣退治。


どれも珍しくない依頼だった。


その中で、レオンの目に一枚の紙が止まった。


「ゴブリン討伐……?」


依頼書には、近隣の森でゴブリンの目撃情報が相次いでいると書かれていた。


さらに、森を通る商人が襲われ、荷物を奪われる事件も発生しているらしい。


報酬も、通常のゴブリン討伐より少し高い。


レオンは依頼書を手に取った。


「これにするか」


その直後。


「ちょっと待ってよ!」


後ろから声がした。


振り返ると、仲間のワグールが息を切らしながら走ってくる。


「また勝手に決めたの?」


「別にいいだろ。簡単そうだし」


「ゴブリンだよ? 簡単とは限らないって……」


ワグールは依頼書を覗き込む。


「ほら、ここ。森の奥で目撃されたって書いてある」


「だから?」


「だからって……」


ワグールが不安そうな顔をする。


そこへ、眼鏡をかけた男が近づいてきた。


アルベルトだった。


「何を騒いでいる」


「レオンがゴブリン討伐を受けようとしてるんだよ」


アルベルトは依頼書を見る。


「なるほど」


「どう思う?」


レオンが尋ねる。


アルベルトはしばらく依頼書を眺めた。


「受けても問題ないだろう」


「ほら!」


レオンが笑う。


しかし、アルベルトは続けた。


「ただし、依頼書に書かれている情報が少なすぎる」


「どういうこと?」


ワグールが聞く。


「ゴブリンが何匹いるのか書かれていない。目撃された場所も曖昧だ」


「……つまり?」


「何か隠されている可能性がある」


ワグールの顔が青ざめる。


「やっぱりやめようよ……」


「報酬は?」


レオンが受付へ尋ねる。


「銀貨十五枚です」


「行こう」


「話聞いてた!?」


ワグールが叫んだ。


アルベルトは小さくため息をつく。


「まあいい。三人なら問題ないだろう」


こうして三人は依頼を受けることになった。


――数時間後。


王都を出た三人は、街道を歩いていた。


目的地は王都から少し離れた「黒森」。


そこは木々が非常に多く、昼間でも薄暗いことで知られている。


街道を進んでいる途中、レオンが口を開いた。


「なあ、最近この辺で魔物が増えてるって話、本当なのか?」


「噂ではな」


アルベルトが答える。


「森の奥から魔獣が出てくることが増えたらしい」


「それって危なくない?」


ワグールが尋ねる。


「危険だから討伐するんだろ」


レオンは笑った。


しかし、アルベルトは笑わなかった。


「……少し妙だ」


「何が?」


「魔物が森から出てくる理由が分からない」


アルベルトは森の方向を見る。


「普通なら、魔物は人間の住む場所を避ける」


「でも最近は違うってこと?」


「ああ」


三人の間に、少しだけ沈黙が流れた。


やがて、黒森が見えてきた。


巨大な木々が空を覆い、森の中はほとんど光が届いていない。


「うわ……」


ワグールが立ち止まる。


「本当にここ入るの?」


「当然だ」


レオンは剣を腰から確認する。


「ゴブリンを倒して、依頼を終わらせる」


「簡単に言うなよ……」


三人は森の中へ入った。


――森の中。


外とは違い、ほとんど音が聞こえない。


聞こえるのは、鳥の鳴き声と風で木の葉が揺れる音だけ。


「……静かすぎない?」


ワグールが小声で言う。


「確かに」


アルベルトも周囲を見回す。


「足跡を探す」


三人は地面を調べ始めた。


しばらくすると、アルベルトが何かを発見した。


「これだ」


地面に、小さな足跡が残っている。


「ゴブリン?」


レオンがしゃがみ込む。


「おそらくな」


「新しい?」


「そう古くはない」


アルベルトが足跡を追っていく。


三人は慎重に森の奥へ進んだ。


しばらく歩くと、今度は木の枝に奇妙な傷がついているのを見つけた。


「これもゴブリン?」


「いや」


アルベルトが答える。


「爪の跡だ」


「じゃあ魔獣?」


「おそらく」


ワグールがさらに不安そうな顔になる。


「ゴブリンだけじゃないってこと……?」


アルベルトは答えなかった。


その代わり、森の奥をじっと見つめている。


「どうした?」


レオンが尋ねる。


「……何かいる」


「え?」


三人が一斉に静かになる。


耳を澄ます。


――ガサッ。


遠くの茂みが揺れた。


「!」


レオンが剣に手をかける。


ワグールは杖を握りしめる。


アルベルトは周囲を警戒する。


しかし、しばらく待っても何も出てこない。


「……風じゃない?」


ワグールが言う。


「いや」


アルベルトが首を横に振る。


「何かが動いた」


レオンは剣を抜いた。


「なら追うぞ」


「ちょっと待って!」


ワグールが止めようとする。


「罠かもしれないよ!」


「だからこそ行くんだ」


レオンは茂みの方向へ進んでいく。


アルベルトも続く。


ワグールは仕方なく二人の後を追った。


しばらくすると、地面に再び足跡が現れた。


今度は一つではない。


いくつもの小さな足跡が、森の奥へ続いている。


「かなりいるな」


レオンが言う。


「……この先に集落があるのかもしれない」


アルベルトが答える。


「なら、一気に叩こう」


「待て」


アルベルトがレオンの肩を掴む。


「何だよ?」


「静かすぎる」


森の中には、先ほどまでいた鳥の声すらなくなっていた。


三人は足を止めた。


「……何かがおかしい」


アルベルトが呟く。


その瞬間――。


森の奥から、微かな音が聞こえた。


「……声?」


ワグールが耳を澄ます。


「聞こえた?」


「うん」


三人は音のする方向へ進んだ。


木々の間を抜ける。


そして――。


「……あれは」


レオンが目を細める。


その先には、小さな洞窟があった。


洞窟の入口には、いくつもの足跡が残っている。


ゴブリンのものと思われる小さな足跡。


しかし、それだけではなかった。


大きな獣の足跡。


そして、人間のものとは明らかに違う巨大な足跡まで残されている。


ワグールが震えた声で言う。


「……これ、本当にゴブリンだけなの?」


アルベルトは答えなかった。


ただ、洞窟の奥を見つめている。


レオンは剣を握り直した。


「入るぞ」


「ちょ、ちょっと!」


「ここまで来たんだ。確認するだけだ」


「……分かったよ」


三人は洞窟の前まで歩いていく。


入口には明かりがない。


中は真っ暗だった。


レオンが剣を構える。


アルベルトが魔法で小さな光を作り出す。


ワグールは恐る恐る二人の後ろにつく。


そして三人は、洞窟の中へ入っていった。


――数分後。


洞窟の中は思った以上に広かった。


壁には、古い傷跡がいくつも残っている。


「ここ、本当にゴブリンの巣なのかな」


ワグールが呟く。


「分からない」


アルベルトが答える。


「だが、誰かがここを使っているのは間違いない」


そのとき。


洞窟の奥から、小さな音が聞こえた。


「……!」


三人が立ち止まる。


「今の聞いた?」


ワグールが尋ねる。


レオンは黙って前を見る。


アルベルトが光を少し強くする。


そして――。


洞窟の奥に、小さな影が見えた。


レオンが剣を構える。


「……いたぞ」


三人はゆっくりと、その影へ近づいていった。


まだ幼いゴブリンだった。


ゴブリンは震えながら、両手を上げる。


レオンは剣を振り上げた。


「まだ子供じゃないか」


「流石に倒すのはやめない?」


「そんなことを言っている暇があるなら少しは働いたらどうだワグール」


アルベルトが少し強い口調で話した。


その瞬間。


「やめろ」


低い声が洞窟に響いた。


レオンたちが振り返る。


そこには、黒い鎧を身につけた魔物が立っていた。


頭には大きな傷。


背中には巨大な翼。


そして、その手には巨大な黒い剣。


「.....何者だ?」


レオンが尋ねる。


魔物は静かに答えた。


「教える必要もない」


三人の冒険者が身構える。


その魔物は幼いゴブリンの前に立った。


「こいつに手を出すな」


レオンが剣を握り直す。


「こいつらはまだ何もしていない」


レオンが答える


「だがゴブリンである以上倒す他

ない!」


魔物がため息をつく。


「そうか、お前らもか」


魔物は一瞬だけ目を閉じーー


「今だ、お前ら!」


次の瞬間。


洞窟の外から、無数の足音が聞こえてきた。


ドドドドド.......


レオンたちが振り返る。


「な、なんだ....?」


洞窟の入口に、大量の魔物が集まっていた。


ゴブリン。


オーク。


狼型の魔獣。


そして一一巨大なドラゴン。


魔物は黒い剣を抜いた。


「少々時間を行使するか」

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