【連載版】「第二話」『別れさせ屋』の僕の計算式は、迷子の『復縁屋』に粉砕される。〜宮崎のポンコツ美少女は、僕の恋心だけを正確にハッキングしてくる〜
「……ふーん。桐沢、お前、目的地にたどり着くことすらできないわけだ」
律はあすかとの距離を詰め、見下ろすように冷たく笑った。
「な、なによ。バカにしてるんでしょ。どうせ私はGoogleマップがあっても逆方向に歩いちゃうわよ!」
「いや、逆だ。むしろ歓迎するよ」
「……は?」
律はスマホを取り出し、あすかの目の前でこれ見よがしに振ってみせた。
「これからは、お前がどこへ行くにも僕がルートを教えてやる。最短距離で、迷子にならずに『現場』まで連れて行ってやろう」
「え、ええっ? 急に優しく……」
「勘違いするな。僕の目の届かないところで、また偶然僕の邪魔をされるのが一番迷惑なんだ。だったら、僕の管理下でお前を歩かせた方がマシだ」
律の口角が、獲物を罠にかけた猟師のように吊り上がる。
律と別れ、一人になった途端、あすかの顔から「ポンコツ美少女」の仮面が剥がれ落ちる。
彼女は迷うことなく、最短ルートで裏路地を抜け、目的地のカフェへと歩き出した。その足取りに一切の迷いはない。
スマホに届いた律からのナビを横目で一瞥し、彼女は冷たく微笑む。
「……ほんと、扱いやすいわね。律」
彼女はスマホの地図アプリなんて開かない。
彼女がその目で見ているのは、律が必死に隠そうとしている「工作の全貌」だ。
「あんたが私をナビゲートしてるんじゃない。私が、あんたを私のゴールへ歩かせてるのよ」
律はどうしてもおちつくことができなかった
「なんでだ…俺はどうしてこんなにどきどきしているんだろう」
あの女が目の前にみえた瞬間からなぜか律はどきどきがとまらなかった
敵をみているのになんでこんなにどきどきするのだろうか…こんな非合理的なきもちはいらないそうおもった
その日は、いつも通りの退屈な朝になるはずだった。
校門の前で、律は次に仕掛ける「別れさせ工作」の手順を頭の中でシミュレーションしていた。
だが、その思考は、一人の少女がこちらに歩いてきた瞬間にすべてフリーズした。
風に揺れる制服のスカート。軽く跳ねるポニーテール。
そして、まっすぐに自分を見据えて、いたずらっぽく笑う瞳。
「――あ」
声にもならない声が漏れる。
律の精密な脳内コンピュータが、初めて「計算不能」の文字で埋め尽くされた。
彼女が隣を通り過ぎるまでの、わずか1秒。
その1秒で、律は悟ってしまった。
自分がこれからどれだけ緻密なパズルを組み立てても、この少女という「不確定要素」にだけは、一生勝てないだろうということを。
律は朝、洗面所の鏡の前で30分間戦っていた。
「……別にあいつに会うからじゃない。あくまで『工作員』として、隙のない外見を維持するのは基本中の基本だ」
そう自分に言い聞かせながら、ワックスの量を 0.1グラム単位で調整する。
昨日の「これでよし」と言った時の自分の顔を思い出し、耳まで赤くなるのを冷水で冷やす。
結果。
律が校門をくぐったのは、1限目のチャイムが鳴り響いた5分後だった。
「……桐沢。お前、遅刻なんて珍しいな」
廊下で立たされていると、後ろから聞き覚えのある、鈴が鳴るような声。
振り返ると、そこにはなぜか同じく遅刻してきたあすかが、ニヤニヤしながら立っていた。
「……うるさい。計算外のトラブルがあっただけだ」
「ふーん? その『トラブル』、ワックスのつけすぎって名前だったりする?」
律の心臓が、本日100回目の「計算外」の音を立てた。
静まり返った放課後の教室(または指導室)。
律とあすかは、横に並んで原稿用紙に向かっていた。
律は、まるで国家機密の報告書でも書くような、凄まじい筆致で「遅刻の反省と今後の対策」を論理的に書き進める。
だが、隣のあすかは、ペンを回しながら律の原稿を覗き込んできた。
「律くん、反省文まで『パズル』みたいに完璧だね」
「……黙って書け。お前のせいで僕の完璧な出席記録が汚れたんだ」
「私のせい? 私、律くんの家の前まで行って『早く出てきてー』って魔法でもかけたっけ?」
あすかの言葉に、律のペンが止まる。
(……まさか、鏡の前で前髪をいじっていたのがバレているのか?)
律が冷や汗を流していると、あすかが自分の原稿用紙をスッと差し出してきた。
そこには反省の言葉ではなく、律の似顔絵(しかも、ちょっと前髪を気にしてる顔)が落書きされていた。
「ねえ、律くん。反省文、私のもちょっとくらい書いてよ」
「……ふざけるな。自分のは自分で書け」
「えー、いいじゃん。……これ、二人の『共同作業』だよ?」
「二人は並んで反省文を書いていた。律はこの沈黙を利用し、あすかの視線誘導を計算。自分の『完璧な横顔』を意識させることで、彼女の心拍数を 10% 上昇させる工作を開始する……!」
律(心の声):
(来い……! 僕のこの鋭い眼差しに、あすか、お前が赤面する瞬間を予測済みだ!)
あすか:
「ねえ律くん、鼻の頭にペンのインクついてるよ。ぷぷっw」
律:
「(致命傷)……っ!!」
反省文を教卓に置いて、二人で並んで帰る廊下。
律は「ふん、これでペナルティは解消だ」といつものクールな仮面を被り直す。
だが、隣を歩くあすかが、ふと足を止めて律の顔をじっと見つめる。
「……なんだ。僕の顔にまだインクがついているのか?」
律が不機嫌そうに問い返すと、あすかはいたずらっぽく、でも少しだけ優しく微笑んだ。
「ううん。……律くんって、意外とかわいいとこあるんだねw」
律:「(心臓停止)………………っっ!!!」
律の脳内コンピュータがオーバーヒートを起こす。「かわいい」という単語は、彼の辞書では「弱点」と同義。それを一目惚れしている相手から、この至近距離で、あんな笑顔で投げかけられるなんて――。
律は真っ赤な顔で歩を速める。
「……意味不明だ。お前の脳内構造を一度精査してやりたい」
律が自分の部屋で、タブレット(またはノート)に向かって真剣な顔をしている。
画面には、あすかとの心理戦の記録……という名の、**「あすか攻略メモ」**がびっしり。
そこに、デリカシーの欠片もない妹がノックもせずにガチャリ。
妹:「お兄ちゃん、お母さんがご飯だって……って、何その顔。キモ」
律:「(音速で画面を隠す)……っ! 何でもない、出て行けと言ったはずだ!」
妹:「えー、何? また変な『工作』の計画? ……あ、今チラッと見えた。『あすか・意外と可愛いと言われた時の対策案』……?」
律:「(心肺停止)……それは、調査資料だ」
妹:「ふーん。調査資料のために、朝30分も前髪いじって遅刻したんだ。……お兄ちゃん、それ『恋』って言うんだよ? 知ってた?」
妹:「お兄ちゃん、それ絶対『あすかさん』のこと好きだよね?」
律:「……バカか。これは、彼女を**『精神的に屈服させるための高度な心理実験』**だ。遅刻したのは、その実験の『導入部』として、あえて僕の隙を見せて彼女を油断させるため。前髪を整えたのは、光の反射率を利用して彼女の視覚情報を混乱させるためだ。恋愛感情など、1ミリも介在していない」
妹:「……はいはい。じゃあ、その『実験対象』からLINEきたら、なんでそんなに手が震えてるわけ?」
律:「これは……武者震いだ! 獲物が罠にかかった喜びで、指先が一時的に痙攣しているだけだ!」
妹:「……兄ちゃんキモい。早くご飯食べにきなよ」
律はベッドにダイブし、スマホの画面を凝視していた。
通知:【あすか:今日の反省文、お疲れ様! 明日の放課後、空いてる?】
「――ッ!!」
律の心臓がうるさい。放課後? 二人きりでか? それとも工作の邪魔をするという宣告か?




