表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
「魔法才能ゼロの俺、身代わりに女装して王女になったら、国一番の聖女(ヤンデレ)に溺愛されて逃げられないんだが!?」  作者: 黒澤カール


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

9/9

第9章 隣国の刺客、美しき影武者を狙う

聖ロザリオ魔法学院に夜の帳が下りる。

日中の喧騒が嘘のように静まり返った「聖女の塔」の周囲には、セラの強力な結界が幾重にも張り巡らされていた。しかし、その鉄壁の守りにも、わずかな「隙」が生じることがある。


それは、セラがアルスのために「夜食の特製聖水スープ」を調理すべく、意識の数パーセントをキッチン(魔導加熱炉)に割いた、その瞬間だった。


闇からの侵入者


アルスは、セラの自室のバルコニーで一人、夜風に当たっていた。

咄嗟についた「暗殺者出身の影武者」という嘘。

それが皮肉にも、彼の五感をかつてないほど鋭敏にさせていた。

(……風が止まった?)

不自然な静寂。


アルスは、ドレスの裾を翻して振り返る。そこには、月光を遮るように立つ「影」があった。

黒い装束に身を包み、顔を布で覆った二人組。

その手には、魔力を吸い取り無効化する特殊な合金「沈黙の鋼」で作られた短剣が握られている。


「……見つけたぞ。エリュシオンの王女、エルフレデ」


低く、枯れた声。隣国・ガルバニア帝国が放った、対魔導師用の暗殺者「からす」の一族。

彼らは、王女が替え玉であるという噂を確認し、もし真実ならその場で抹殺、本物であれば誘拐するために送り込まれたスペシャリストだった。


「待て。貴様……。その構え、ただの王女ではないな」


暗殺者の一人が、アルスの立ち姿を見て息を呑む。

アルスは、セラから「騎士様」と呼ばれ続けたことで、無意識に重心を落とし、いつでも抜剣できる体勢を取っていた。

たとえ今、手にしているのが剣ではなく、お土産でもらった「観賞用の扇子」だったとしても。


「……セラ様を呼ぶまでもないわ。ここで仕留める」


アルスは、女装(王女)としての高音を保ちつつ、中身は完全に「戦士」へと切り替わった。


ドレスで舞う、死の輪舞


「魔法を使う暇など与えん!」


暗殺者が、影から溶け出すような速さで肉薄する。

通常、魔導師であれば、この距離まで詰められた時点で詰みだ。

だが、アルスは「魔法が使えないからこそ、肉体を極限まで鍛えた男」である。


「(コルセットが邪魔だが……やるしかない!)」


アルスは、扇子を広げると同時に、相手の短剣の軌道をわずかに逸らした。

キンッ! という金属音が響く。扇子の骨には、アルスが密かに仕込んでおいた強化鋼が使われていた。


「なにっ!? 扇子で『沈黙の鋼』を受け止めたのか!?」

「驚くのは早くてよ」


アルスは、ドレスの長い裾を華麗に回した。

その遠心力を利用し、スカートの中に隠し持っていた「重り付きの鎖」を蹴り出す。

シュルルッ! と闇を裂く音がし、鎖は暗殺者の足首に正確に絡みついた。


「ぐわああっ!」


暗殺者が地面に叩きつけられる。

もう一人の暗殺者が、背後から音もなく飛びかかる。

アルスは地面に手をつき、アクロバティックな後方宙返りを見せた。

フリルとレースが月夜に舞い、まるで巨大な花が咲いたかのような美しさ。

だが、その花弁の隙間から放たれたのは、容赦のない「裏拳」だった。

ドゴォッ!


「がはっ……!? こ、こいつ……本当に女か!? この拳の重さ……まるで岩石だぞ!」


暗殺者は、鼻から血を流しながら後ずさった。

彼らが聞いていたエルフレデ王女は、繊細で壊れそうなほど美しい少女のはず。

だが、目の前の存在は、見た目こそ絶世の美女だが、その中身は野生の魔獣に近い。


「……正体を見極めるなど、三百年早くてよ」


アルスは、ドレスの胸元を少し整え(パットがズレるのを防ぐためでもある)、冷徹な笑みを浮かべた。

ここで負けるわけにはいかない。

もし捕まれば、自分の性別がバレ、王国のスキャンダルになり、そして何より――。

(……せっかく信じてくれたセラ様の、あの顔を裏切ることになる!)

その想いが、アルスの動きをさらに加速させた。


聖女、帰還


戦いが佳境に入ったその時。

背後の扉が、凄まじい魔力によって吹き飛んだ。


「私の騎士様に、誰が触れて良いと言いましたか?」


氷点下の声。

そこには、手に「聖水のスープ」が入ったカップを持ちながら、瞳にドス黒い殺意を宿したセラが立っていた。


「セ、セラ様……!」

「アル様、下がっていてください。……不浄なカラス共。私の愛する人の夜の時間を汚した罪、万死に値します」


セラの怒りは、物理的な熱量となって部屋を満たした。


暗殺者たちは、その圧倒的な威圧感に、戦う前から戦意を喪失した。


「ま、待て! 我々は――」

「聞きません」


セラが指をパチンと鳴らした。

瞬間、暗殺者たちの足元から「聖なる拘束ホーリー・バインド」の光が噴き出し、彼らをミイラのようにグルグル巻きにして吊り上げた。

もはや抵抗の余地はない。


「……アル様、お怪我はありませんか!? ああ、ドレスが少し汚れて……! 私が不甲斐ないばかりに、このような野蛮な者たちを侵入させてしまうなんて!」


セラはスープをテーブルに置くと、半泣きでアルスに駆け寄り、その全身をベタベタと触って確認し始めた。

「大丈夫です、セラ様。……見ての通り、返り討ちにしましたから」

「……ええ。見事な戦いぶりでしたわ、アル様。影から見ておりましたが、あの流麗な体術……まさに、闇を切り裂く一輪の薔薇。……やはり、貴女は『影の騎士』として、修羅場を越えてきたお方なのですね」


セラの瞳に、再び「陶酔」の光が戻る。

彼女にとって、この襲撃はアルスの「正体(暗殺者出身設定)」を裏付ける、動かぬ証拠となってしまった。


捕らえた暗殺者たちは、セラの「尋問魔法(精神を直接光で洗う拷問に近い何か)」によって、ガルバニア帝国の計画をすべて吐き出させられた。


「アル様。どうやら隣国は、貴女が『本物』かどうかを疑っているようです。そして、今回の失敗を受けて、次はもっと強力な、魔法を無効化する特殊工作員を送り込んでくるでしょう」


セラは、アルスの手を強く握りしめた。


「ですが、安心してください。私が貴女を離しません。貴女が誰であろうと、たとえ王女でなかろうと……。私の魂が選んだのは、目の前にいる貴女なのですから」


セラの言葉は、アルスの胸を深く抉った。

(……たとえ、王女でなかろうと。……もし俺が、女でもなかったら、彼女は同じことを言ってくれるだろうか)

アルスは、月明かりの下で眠る暗殺者たちの残骸を見つめながら、自分の正体を明かす勇気が、さらに失われていくのを感じていた。

嘘は、守るべきものが増えるほど、重く、苦しくなっていく。

一方、暗殺者の持っていた所持品の中から、アルスは見覚えのある紋章を見つけた。

それは、自分の実家である「アルベルト男爵家」に縁のある、古い金貨だった。


「(……なぜ、親父の領地の金貨を、隣国の刺客が持っているんだ?)」


物語は、エリュシオン王国の根幹を揺るがす陰謀へと足を踏み入れようとしていた。


つづく


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ