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「魔法才能ゼロの俺、身代わりに女装して王女になったら、国一番の聖女(ヤンデレ)に溺愛されて逃げられないんだが!?」  作者: 黒澤カール


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第7章 初めての魔法実習、偽装工作の限界

決闘の興奮も冷めやらぬまま、アルスを待ち受けていたのは、この学院において避けては通れない最難関の行事  「魔法実習」だった。


聖ロザリオ魔法学院の講堂は、天井が高く、四方の壁には歴代の賢者たちの肖像画が飾られている。

中央には魔力を増幅させるための巨大なクリスタルが鎮座し、その周囲を生徒たちが取り囲んでいた。


「本日の実習は、基本属性の放出。そして、自身の魔力を『形』として定義する、具現化の基礎を行います」


教壇に立つのは、冷徹な老魔導師のバルカス教授。

彼は、教え子たちがどれほど高貴な身分であろうと、魔法の才能がない者には容赦のない言葉を浴びせることで有名だった。

アルスは、冷や汗で脇の下を湿らせていた。


(まずい。これまではハッタリと体術で乗り切ってきたが、今回は『純粋な魔力の放出』だ。魔力ゼロの俺に、何を出せっていうんだ……)


ポケットの中の「幻影の首飾り」を指先で弄る。

しかし、このアーティファクトはあくまで「見た目の派手さ」を演出するものだ。放出される魔力の「質量」や「熱量」までは偽装できない。


「アル様、顔色が優れませんわ。もしや、あのような老いぼれ教授に魔力を見せるのが、騎士の矜持に障りますか?」


隣で心配そうに覗き込んでくるのは、もはやアルスの影の如く付き従っているセラだ。

セラの背後には、今日も今日とて「半径百メートルの男子禁制結界」が薄く張られており、周囲の男子生徒たちは結界のきわで、不自然に押し込められるように実習を受けていた。


「い、いえ。少し……体調が優れないだけで。今日は、見学でもいいかと思っているのですが……」

「いけませんわ、アル様。貴女の秘められた高潔な魔力を、私以外の者にも(少しだけ)知らしめる絶好の機会です。さあ、堂々と!」


セラの瞳は期待に満ち溢れている。

(無理だって。期待すればするほど、バレた時の爆発が大きくなるんだって!)


第一の試練:魔力測定の残酷


「では、エルフレデ王女殿下。前へ」


バルカス教授の冷たい声が響く。

生徒たちの視線が一斉にアルスに集中した。


「殿下は、エリュシオン王家の正統なる後継者。その魔力、さぞや輝かしいものでしょう。この測定石に、貴女の魔力を注ぎなさい」


差し出されたのは、真っ黒な黒曜石の塊だった。これは注ぎ込まれた魔力の属性によって色が変わり、その輝きの強さで魔力量を測定するものだ。


(終わった……。これに触れて、色が一つも変わらなかったら、その瞬間に『無能』が確定する。それどころか、魔法が使えるはずのエルフレデ王女ではないことがバレる……!)


アルスは震える指先で、測定石に手を伸ばした。

その時だった。


「――アル様」


背後で、セラが小さく呪文を唱える気配がした。

彼女は、アルスの肩にそっと手を置いたのだ。


「私の騎士様に、不浄な石など触れさせません。私が……少しだけ『お手伝い』をいたしますわ」

(えっ?)


次の瞬間、アルスの全身に、かつてないほどの衝撃が走った。

それは熱く、激しく、それでいてどこか心地よい、膨大な光の濁流。セラの「守護の契約」を通じて、彼女の魔力がアルスの体内に逆流してきたのだ。


魔力回路を持たないはずのアルスの肉体が、セラの無尽蔵な魔力の「導管」と化す。


「ふ、ぐっ……!?」

アルスが測定石に触れた瞬間――。

ドォォォォォォン!!

測定石が、眩い黄金の光を放って爆発した。


いや、爆発したのは石だけではない。

実習室の天井まで突き抜けるような光の柱が立ち昇り、バルカス教授の髭を焦がし、周囲の肖像画がすべて「聖なる輝き」によって真っ白に塗りつぶされた。


「な、なんという光……! 属性を判別する暇もない、純粋な『光』の質量だと!?」

バルカス教授が腰を抜かし、眼鏡を落とす。

生徒たちは目を焼かれ、その場に膝をついた。


「……オホ、オホホホ……。少し、力が入ってしまいましたわ」


アルスは、煙を上げている自分の右手を必死に隠しながら、王女らしい(?)高笑いを浮かべた。

内心では、セラの魔力の凄まじさに、腕が千切れそうなほどの激痛を感じていたのだが。


第二の試練:具現化の「奇跡」


測定石の破壊という前代未聞の事態に、教室内は騒然となった。

しかし、バルカス教授は執念深く、次の課題を提示した。


「……素晴らしい、殿下。流石は王家の血筋。では、その魔力を制御してみせなさい。自身の守護を司る『形』をイメージし、魔力で具現化するのです」


具現化。それは本人の深層心理や、最も信頼する「力」が形となって現れる魔法だ。

普通は、小さな盾や、使い魔、あるいは剣の形になる。

(イメージしろ、アルス。俺が一番信頼しているもの。俺を守ってくれるもの……)


アルスは目を閉じ、必死にイメージを練り上げた。


彼が一番信頼しているのは、やはり「剣」だ。己を裏切らない鋼。だが、ここで剣を出せば、再び「騎士の魂」というセラの勘違いを加速させてしまう。


(もっと淑やかなもの。王女らしいもの。例えば、百合の花とか、王冠とか)

だが、再びセラの「過剰バフ」が牙を剥いた。


「アル様、もっと強く! もっと激しくイメージしてください! 貴女の『愛』を、私への『騎士誓ナイト・オブ・オナ』を形にするのです!」


セラの魔力が、アルスの背中からさらに供給される。


それはもはや供給というレベルではない。セラの深層心理が、アルスのイメージを塗りつぶし、上書きしていく「侵食」だった。


「うおおおおおお……じゃなかった、はああああああっ!!」


アルスが天に向かって手を掲げた瞬間。

講堂の空気そのものが凍りついた。


魔力によって具現化されたのは、繊細な百合でも、高貴な王冠でもなかった。

それは、全長十メートルを超える、純白の翼を持つ「武装天使ヴァルキリー」だった。

その天使は、アルスの顔立ちをどこか模しており、しかし手には巨大なセラの杖にそっくりな光の剣を携えていた。


「て、天使降臨……!? 具現化魔法の域を超えている! これは……『神格召喚』の域ではないか!」


バルカス教授はもはや驚きを通り越し、拝み始めた。

他の女子生徒たちも、そのあまりの神々しさに涙を流し、アルスの名前を叫んでいる。


「アル様……! ああ、なんて美しい。貴女の具現化した姿が、セラを守るための天使だなんて……! 貴女の心の中には、これほどまでに私が大きく存在しているのですね!」


セラは、自分のイメージが多分に含まれていることなど露知らず、アルスの「重すぎる愛(という名の勘違い)」に咽び泣き、その場でアルスに抱きついた。


偽装工作の限界、そして


「(これ、いつか絶対に死ぬ)」


具現化した天使が、講堂の天井を物理的に破壊していくのを見上げながら、アルスは確信した。


セラの魔力はあまりにも強大すぎて、隠蔽魔法ハッタリの制御を簡単に突き抜けてしまう。

今は「奇跡」として称賛されているが、これがいずれ「制御不能の暴走」として捉えられれば、アルスの正体どころか、彼自身の肉体が魔力の過負荷で崩壊しかねない。

実習が終わった後、ボロボロになった講堂の修繕費(王家請求)の伝票を見つめながら、アルスはセラの塔の私室でぐったりと横たわっていた。


「アル様、お疲れですか? さあ、私の魔力で全身をマッサージして差し上げますわ」


「……いえ、セラ様。今日はもう、魔力は十分です。お腹いっぱいです……」


「まあ、控えめな騎士様だこと。……でも、今日分かりました。アル様の魔力の根源は、私との『絆』にある。私が貴女を思えば思うほど、貴女は強くなる。これぞ、真の運命ではありませんか?」


セラは、アルスの額にそっと唇を寄せた。


その瞬間、アルスの「幻影の首飾り」が、過剰な聖属性魔力に耐えきれず、パキリと小さな音を立てて小さな亀裂を入れた。

(……壊れた?)

アーティファクトの破損。


それは、アルスの「女装(性別偽装)」を支える魔法的根拠が、少しずつ崩れ始めていることを意味していた。


そしてこの「首飾りの故障」が、思わぬ場所でアルスの「男の証」を露出させてしまう、絶体絶命の危機へと繋がっていくのだが、、、


「ねえ、アル様。明日は二人で、湖へピクニックに行きませんか? 水辺なら、もっと清浄な魔力の交換ができますわ」


「……(湖……露出……水着……)。謹んで、お断りさせていただきます!」


アルスの叫びは、夜の「聖女の塔」に虚しく響き渡るのだった。


つづく


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