死に戻り悪役令嬢に仕えることになった処刑人の話
「サミル、今日の処刑はお前がやれ。高貴な姫だそうだ。一瞬で終わらせろよ」
「はい、父上」
俺はサミル、処刑人の総代ミルドの息子だ。
今日、王子殿下の元婚約者が処刑される。
何でも贅沢をして国勢を傾け。あまつさえ、心が清らかな男爵家出身の聖女様を嫉妬のあまりイジメ抜いた極悪人だそうだ。
公爵家も見放し新たに聖女様が公爵家の養子に入るそうだ。
だが、俺には関係ない。
法を執行するだけだ。
王城前広間に大勢の見物人が集まる中、殿下と新たな婚約者になる聖女様の前で刑を執行する。
「ご令嬢、さあ、首をここに置いて下さい」
「・・・・・」
腕輪をつけられた令嬢を処刑台に案内する。ドレスはボロボロだが気品はある。
泣き叫ばない。珍しい。
貴族特有の長い髪でうなじが隠れないように手で体に触れないように黒髪を調整をした。
【執行!】
俺は剣を振り上げたが・・・・
「おい、どうした!早く首を斬らないか?ミミリーをイジメ抜いた女だ。首切りでも温情だ。甘いくらいだ」
「殿下、怖いですわ。あたし、ミシュリーヌ様が生きていると思うと・・・」
どうしても、振り下ろせない。
殿下や聖女様と側近を見ると・・・死相が見える。
それに対して、公爵令嬢には死相が見えない。
俺は人の生き死にが見える。
処刑人の中でたまに現れるらしい。
爺ちゃんがそうだった。
爺ちゃんが、『あやつ、死ぬぞ』とつぶやくと、どんなに元気そうな人でも3日以内に死んだ。病気、事故と死因は様々だ。
俺にもその能力が受け継がれたが、『サミル・・・この能力は決して話してはならないぞ』と言いつけられてきた。周りは気味が悪いと爺ちゃんは嫌われたそうだ。
親父にも黙っていた。
だから分かる。
公爵令嬢は死なない。
何故だ?とてつもない大災害が起きるのか?原因は彼女か?
「早くやらんか!」
殿下は苛立っている。
「もう、いいわ。マークス、処刑人はミシュリーヌ様に欲情しているのよ。騎士団でやって!」
「分かったぜ!」
若い騎士達がゾロゾロ上がって来た。
俺は説得を試みた。
「話を聞いて下さい。この令嬢は危険です!死なないんです。皆さんが死ぬのです。一度、鑑定士にみてもらって下さい!」
「はあ、訳分からない」
話を聞いてくれない。
だから、俺は。
「うわ。こいつ、反抗する気だ!剣を構えている!」
「ふん。処刑人なんぞ動かない的を斬っているだけだ」
「やっちまえ」
騎士達と戦った。5人だ。
奴らの訓練された剣術に勝てる気がしないが・・
「うわ!」
「血が、血が!」
彼らは人を殺したことがない。その一日の長で俺は何とか勝てた。
5人の騎士は床に倒れた。二人は殺した。
「はあ、はあ、はあ、どうか、話を聞いて下さい。この女は危険なのです!」
すると、殿下の傍らにいた聖女・・・いや、女が叫んだ。俺にはどうしても聖女に見えなくなった。
「アシュ、魔道で殺して!」
「分かったよ。やっぱり剣よりも魔道だね!魔法杖がないけど、処刑人なんて・・・ウギャー!」
魔道師に剣を投げた。
詠唱前だから何とか倒せた。
そして、公爵令嬢を解放しようと拘束具を解こうとしたら・・・
「グフッ!」
弓で射られた。
胸を矢が貫通している。
俺は床に倒れた・・・・
意識が薄れる。そうか、俺の能力は自分の死期は分からない。
見上げたら、公爵令嬢と目があった。そのエメラルドグリーンの瞳に俺が写っている。
綺麗だな。そうか、彼女は冤罪か?
俺の能力は魂が見えるのだ。死ぬ間際になってはっきりと見えた。聖女様は真っ黒だ。
公爵令嬢は光輝いている・・・・
この記憶を最後に意識がなくなった。
・・・・・・・・・
「・・・・と、このような夢を見たの。貴方は力尽きたけど最後まで戦ってくれたわ。だから、サミル、側近になりなさい」
「・・・ミシュリーヌ様?ご冗談を・・・」
「冗談ではないわ。本気よ」
俺はサミル、処刑人総代ミルドの息子だ。今日、ロマス公爵令嬢ミシュリーヌ様がわざわざ訪ねて来られた。
ミシュリーヌ様は政変を制したお方だ。
元婚約者の王子、その聖女を騙る愛人の男爵令嬢、騎士団長の子息、王宮魔道師の子息が王宮のパーティーで断罪を行ったが、弁舌と証拠を出して返り討ちにしたそうだ。
新たな側近になりたくて貴族たちは躍起になっている。
何故俺に?親父も戸惑いを隠せない。
「そうね。子爵の爵位をあげるわ」
「私は貴族学園に行っておりませんが・・」
「大丈夫よ。貴方たち一族は家庭教師をつけているのでしょう。医学を始め教育レベルは高度だと調べはついているのよ」
「ええ、まあ、そうですが・・・」
しかし、俺は即断した。
「お断りします」
「何故かしら?」
「はい、夢の話でしょう?この話で褒賞を受けたのなら、夢で私がミシュリーヌ様に乱暴を働いたらそれが理由で処刑されても文句は言えないことになります」
ミシュリーヌ様はしばらく考えた後。
「ミルド殿、人払いをお願いしますわ」
「・・・はい」
親父達を退室させた。この場にはミシュリーヌ様とメイドが二人と俺だけになった。
いや、メイドの1人はカゲだ。見覚えがある。ミシュリーヌ様の貞操が守られているか報告するのだな。
ミシュリーヌ様は俺に近づきこう告げた。
「貴方、死が見えるでしょう?そして、私は死に戻りよ」
何故、俺がミシュリーヌ様を助ける行動を取ったか説明をしてくれた。
だが、俺は反論した。死に戻りなんて不確定なもので人生が決まってたまるか?との思いもあった。
「それは憐憫でも愛情でもなく、ただ、危機を覚えたからでしょう?よしんばあの場で助かっても死ぬよりも酷い生活を送る未来があったかもしれませんよ」
「分かっているわ。私は女神様に会ったの。この世は不確定よ。この現世もその不確定な世界の一つよ。だけど、貴方だけは例外、確実に他人の未来が分かる。貴重なのよ」
「意味が分かりません」
「とにかく、側近になりなさい。でないと死期が分かることバラすわよ」
「はい」
なるしかなかった。
その後、処刑人の最後の仕事をした。元王太子と元男爵令嬢、貴公子達の処刑を行った。
元男爵令嬢は聖女を騙った罪で重罪だ。
子を産めない体にして孤島に島流しだ。修道院ではない。荒くれ男たちだらけの現場に回される。
「おい、ミシュリーヌ!やり直そう。ミミリーとは別れるから!」
「な、ないよ。殿下が聖女を名乗れと言ったのよ!」
「俺は殿下の命令に従っただけだ!」
「う、ううう、グスン、グスン」
処刑は王宮の裏庭でひっそり行われた。
王子殿下は毒杯を賜ったがどうしても飲まない。
だから鼻をつまんで飲ませた。
これで病死扱いだ。
元男爵令嬢は死なない程度に腹を刺す。
「ねえ、処刑人さん。助けてよ!奥さんになってあげるから!処刑人の妻でいいわ。ほら、この体を好きにできるのよ。考え直してミシュリーヌ様に懇願して!ギャアアー」
麻酔魔法をかけずに執行した。
これで記録から抹消される。
騎士団長の子息とご学友、合わせて5人は訓練中に事故死。
王宮魔道師の子息は実験中に爆裂魔法に巻き込まれた。
になる。それぞれ首を斬った。
その後、俺は側近になり。処刑人を辞めた。
妻も紹介された。処刑人一族は嫁取りに苦労する。
王国各地の処刑人同士で結婚をするが、血が濃くなる弊害がある。
一般の平民女性でも多額の結納金を渡してやっとだ。しかもいろいろな条件をつけられる。家業に係わらせない。豪邸を用意しろなど・・・
しかし、紹介してくれた令嬢は違った。開明派だ。
「サミル様の一族の仕事は国家にとってなくてはならない職業ですわ。刑罰がなくては王国の維持できませんわ」
彼女の一族は没落した子爵家だ。辛うじて爵位は保持していた。
俺が養子に入り爵位を継ぐことになった。
処刑人出身と蔑まれながらも王宮勤めを続ける。
それから五年の月日が流れた。
王太子妃になられたミシュリーヌ様は男児を出産された。
「貴方、夫婦ともに養育係になりなさい」
「え、何故でございますか?」
普通、ご実家に頼るが、一切、ご実家に頼る形跡はない。
そりゃそうだ。ご実家で実の父から虐待を受けていたのだ・・・公爵家は没落の真っ最中だ。
「王子には開明派に育てて欲しいの。そして、サミルのように黙々と職務に忠実だけども、いざとなったら、法律や慣習を超えて行動できる人物に育てて欲しいわ」
「無理です。それに買いかぶりすぎです。それテロリストの素養もあるじゃないですか?」
「頼んだわ。もうね。開明派でなければ他国の商人から投資を呼び込めないわ。貴族の意思でひっくり返る世の中は終わりよ。法治国家を目指すわ。
だけどそれだけでは足りない。足りない何かを貴方は持っているのよ。自信を持ちなさい」
何だかな。俺たち夫婦は爺やと婆やになってしまうのか?
妻は乳母となり。俺は養育係。
王子には俺の実家の処刑人一族、カゲ、や清掃人ギルドに屠殺ギルド、卑しい仕事とされる仕事を視察、時には体験をさせて・・・これぐらいしか出来ない。
「爺、分からないよ。民はか弱くて無知だから導かなければならない存在ではなかったのか?」
「殿下、私は30でございます・・民は力がございます。その力を良い方向に生かすのが国王の仕事でございましょう」
その後、殿下が学園を卒業し18歳になられた頃、大規模な民の反乱が起きた。
場所はゲール男爵の領地、あの男爵令嬢の家門だ。一つだけ先の政変に関係ないとして残された家だ。暴政で民が蜂起したらしい。
「ミリアン、貴方が裁定しなさい」
王妃殿下になられたミシュリーヌ様は我らが殿下に裁定を託された。
「・・母上、民は窮乏により乱を起しましたが、カゲからの報告だと婦女子を犯し。商会を襲っています。暴徒として王国軍を派遣するべきです。ゲール男爵も廃位の後、処刑です」
「反乱軍は開明派である貴方を讃え頼っているそうだけど」
「それでもです」
「そう、それでいいわ」
ミシュリーヌ様は俺を見てニッコリ微笑んだ。
これで良かったのか定かではないが、殿下を見守って行こうと思う。
最後までお読み頂き有難うございました。




