導き手の「無言の圧力」
ウロボロスの潜伏先は、パニックに陥っていた。
悠斗のメモ(『なんでこんなに売れないんだろう』)を発見したスパイが、恐怖で震えている。
「間違いない…『売れない』とは、我々の計画が『実行する価値すらない』という嘲笑だ…」
「計画を変更できないか? ヤツは我々の思考を読んでいる!」
そこへ、アリアの部隊による妨害工作が完了する。
潜伏先のドアの前に、彼らが毒物混入を計画していた「缶コーヒー」(の空き缶)が、警告のように転がされた。
(アリア側からの「お前たちの計画は把握済みだ」という無言の警告である)
「ひぃっ…! すでに先回りされている! ここもバレている!」
彼らは「導き手は思考を読み、全てを先回りする」と確信。計画を放棄し、蜘蛛の子を散らすように逃走した。
◇
アリアの拠点。
「ウロボロス、逃走」
「対象の缶コーヒー、安全な別ルートでの再流通を確保」
部下からの報告に、アリアは静かに頷いた。
(導き手は、一切手出しすることなく、ただ『棚を空にし』『メモを捨てる』だけで、災厄を退けた。そして私に『安全な流通を再開せよ』と指示された…)
彼女は、自分が導き手の「無言の指示」に応えられたことに、深い感動を覚えていた。
◇
その頃、コンビニのバックヤード。
悠斗は、目の前の光景にうんざりしていた。
アリアが(裏で)再発注した「あの缶コーヒー」が、段ボールで山積みになっている。
「うわ、最悪…。なんでこんなに発注したんだ、店長。あの売れない棚、補充するの超面倒くさいのに…」
彼は、激増した業務にうんざりしながら、しぶしぶ品出しを始めた。
シフトが終わり、悠斗は無気力にレジに立っていた。
そこに、客としてアリアが(いつものように)訪れる。
アリアはレジで商品(いつもの水)を差し出す。
悠斗が会計を済ませた、その瞬間。
アリアは、こみ上げる感謝を抑えきれず、悠斗に対し、その場(レジカウンター越し)で深々(90度)とお辞儀をした。
「あなた様の無言の指示に、心より感謝申し上げます」
「………」
悠斗は、お釣りを渡そうとした手のまま固まった。
(え…? この人、ポイントカードか何かの話してる…?)
「……え、何かしましたけ?」
アリアは、悠斗の素の返答に(勝手に)感動していた。
(あぁ、導き手にとって、今回もまた『何もしていない』に等しい些事なのだ…!)
悠斗は「(やっぱ変な客だ…)」とだけ思った。




