第12章 死人に口あり
終焉の谷――この国では、霊媒師が死者の声を聴く。
そして裁きは、“過去に何をしたか”ではなく、“死者が何を語るか”によって決まる。
「生者は嘘をつく。だが、死者は真実しか語らない」
この国の女王であり大霊媒、《黄泉の王女》エリュ・ノアはそう語った。
「それなら安心ですね」
レイは平然と微笑む。「僕には、死者に知られて困ることなどありませんから」
「……そうかしら? 死者の声は、あなたの“本当の名前”も、“過去の罪”も明らかにするわ」
エリュが指を鳴らすと、白装束の巫女が現れ、水晶をかざした。
──現れたのは、レイの前世。
現代の日本で詐欺を繰り返し、最期には死刑となった“佐久間零”の記録だった。
裁判記録、取り調べ、涙する被害者たち。
エリュは言った。「さあ、過去の自分に問うてみなさい。あなたは、救われるべき者なのかと」
*
水晶の中から、少年が現れた。レイのかつての被害者。
彼は言った。
『あんたは最低だ。家族を、人生を、金を全部壊した。謝っても戻らない。
でも……だから、俺は変わった。あんたが俺を底に落としたから、俺は這い上がった。
だから、あんたが今も“人を欺いて”何かを変えてるって聞いて――正直、嬉しいとも思ったよ』
エリュが驚く。
「これは……赦しか?」
レイは静かに言う。「違います。これは“利用”です。
人は、どんな悲劇にも意味を見出そうとする。だから僕は、その感情すら騙す」
「なんて人……!」
「でも、それが希望になるなら――“嘘でも、本物”でしょう?」
死者の声を“真実”と信じるこの国で、レイはその“真実”すら言葉で凌駕した。
エリュは膝をつき、そして頭を垂れる。
「敗北を認めます。あなたの嘘は、死すら欺いた」
*
レイは谷を去りながら、そっと独り言を呟く。
「生者も、死者も、“信じたがる”から騙される。
だから僕は……これからも、世界を騙し続けよう。
たとえ最後に自分自身すら欺くことになっても」
彼の歩みは、誰も知らぬ“第七の国”へと向かう。
そこは、国家なき世界。詐欺も信仰も契約も通じぬ、“混沌”そのもの。
だが、レイは笑っていた。
「混沌? 最高じゃないか。“概念”すら騙せる、理想の舞台だ」




