9日目 日常
チュートリアルは全て終わった。この先は何をしろとも指示はない。つまり、自由にこのパルワールドを探索しろという事になる。
ネムラム4人部隊の火力があれば大抵の困難は乗り越えられるに違いない、男はそう考えタワー近くの青い剣に向かって歩み去って行った。
ちなみに"青い剣" とは古代のテクノロジーがふんだんに使われたワープ装置のようなものだ。
大きさは5、6mはあるのではないだろうか。
巨大な大剣が台座に突き刺さっており、それに触れることで各地の大剣へ飛んだり、もしくは拠点にも移動できたりする。
いわゆるファストトラベルというやつだ。
男の視界が歪み、軽い頭痛の後、気付けば拠点にいた。
拠点に残してきたパルたちはいつもと変わらず労働に励んでいる。
ピンクの猫が男の足元へ寄ってきてなにやら甘えた仕草を見せるが、男は首根っこを掴んで採掘場へと投げ飛ばした。
猫は見事な着地を見せ、ふたたび仕事へと戻る。
──ここ最近、どうにもサボる連中が増えてきたな
ストレス解消のための温泉は設置してあるのだが、位置が悪いのだろうか。
拠点の端という場所が良くないのかもしれない。
そう考えた男は温泉を破壊し、拠点の中央にドンと置くことにした。
見栄えはよくないが一気に4つ、正方形に設置する。
温泉は一度に一匹しか入浴できないため、一つだとパルたちのストレスを解消しきれない場合があるのだ。
この様に、男はパルたちの労働環境を整える為に素材集めを苦としない。
しかし、決してホワイトなオーナーというわけでもなかった。
パルたちを鋭い目で見回し、鬱病を患っていると思しきペンギンを発見した。ペンギンはなぜか伐採場の木の上に昇り、そのまま降りられなくなって飢えて精神不安定になってしまったのだ。
このパルワールドでは時としてこのように奇怪な事故が発生する。
一つため息をついた男は走り寄ってペンギンを抱え上げ、パルボックスの中にぶちこんでしまった。
「病気のまま働かれると能率が落ちるからな。少し休んでていいぞ。もう二度と表に出す事はないが……」
男の冷徹な発言に、その場にいたパルたちは震えあがる。
製薬コストは非常に高いのだ。十把ひとからげのパルに使用するには余りにもったいなさすぎた。彼にとってパルは単なる替えの利く労働力でしかない。
そして男はそのままたき火に近づき、大量のベリーを焼き始めた。焼きベリーは生のままより腹持ちが良く、味も良い。
たき火がパチパチと音を立てながら、焼きベリーの香ばしくもどこか甘い匂いが拠点に広がる。
「もう少し拠点が大きくなればもっとマシなものを食わせてやれるのだが……」
粗食でもパルたちは文句を言ったりしないが、粗食だと餌箱との往復が多くなり、能率が下がってしまう。
また食事によるストレス解消も見込めず、これもまた良くない。
結局の所、パルたちを十全に使い倒す為にはそれなりの労働環境を整えてやる必要があるのだ。
──その辺は人間もパルも変わらないな
男はそんな事を思いながら、焼きベリーを一つ口に入れた。